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第三章 ランク戦開催

20話 スーパーなスキル

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「お前…勝屋か?」


ーーーまずい…バレたか!?


イノチはその問いかけを聞いて、鼓動が大きくなるのを感じた。

この世界での容姿は、元の世界とほぼ一緒だ。
タケルの言うとおり、ここは現実と変わらないのだから、元の容姿でいることには、なんの疑問もない。

まぁ、チュートリアルでアバター設定がない時点で、これがゲームか否かについて、疑問を持つべきだったと反省したことは伏せておく。

話が少しそれたが、結局は言いたかったことは、元の世界と顔が一緒なので、知り合いがいれば自然とわかるということである。

イノチはアカニシのことを声で思い出していたが、本当に確信したのはその顔を見てからだった。

アカニシにとってもそれは同じこと。
イノチの顔を見た時、彼の瞳に疑いの色が灯ったのはそれが理由である。

しかし、彼はまだ、目の前に立つ男が『勝屋イノチ』であるかどうか、確信はしていない。


「…勝屋?誰だ、それは?」


イノチはとぼけた口調でアカニシを見る。


「てめぇの事だ…お前は『勝屋イノチ』じゃないのかって聞いてんだよぉ!!…ハァハァ。」


イノチの態度にイラ立ちを隠さないアカニシ。
イノチはそんな彼に対して、飄々と答える。


「俺を誰かと勘違いしていないか?俺の名は『カチヤイノチ』とかいうダサい名前じゃない。親からもらったちゃんとした名前がある。だが、ここでそれを言うほど、俺もバカではないよ。お前たちは国側の人間なのだろう?」


イノチの言葉に、アカニシは混乱していた。

目の前にいるのは確かに『勝屋イノチ』であるはずだ。
他人の空似の可能性もあるが、ここまで同じ顔の人間は絶対にいない。

だが、そうであるならば、本来あるべきものがないのはおかしいのだ。

アカニシの視線が、自分の頭の上を一瞥したことにイノチは気づく。
そして、自分の正体が彼にバレていないことを悟った。


「…お前…プレイヤーじゃないのか?」

「…プレイヤー?なんだ、それ?」

「何者なんだよ…てめぇは…!!」


イラ立ちを隠せないアカニシを見て、イノチは小さく笑みをこぼすと、質問を始めた。


「雑談はここまでだな。お前たちのことを聞かせてもらうぞ。わかっていると思うが、彼女は俺ほど寛大じゃない。」


イノチに指差され、そう言われたエレナは少し不満げだ。


「聞いたことには正直に答えろよ。誤魔化したり、こちらが疑問に思えば…わかるな。」

「…くっ…」


アカニシは、バツが悪そうだったが、答える気はなさそうに無言を貫いていた。

その様子を見て、イノチは最悪の場合も想定する。

そう、最悪の場合、彼のことを…

そこまで考えて、イノチは心の中で頭を振った。

それはダメだ。
いくら彼に恨みがあっても、それは絶対にダメなのだ。

イノチは切り替えて、口を開く。


「…まずは、お前たちの組織について、詳しく教えてもらおう。」


しかし、そう告げたその時だった。


「BOSSっ!!!」

「…ん…ぐわぁ!!」


フレデリカが突然、ものすごい勢いでイノチの腕を引っ張った。

スローモーションで映し出される視界。

後ろに向かってよろけるイノチの代わりに、盾を構えたアレックスが前に出た。
エレナもその横で、刃がボロボロになったダガーを構えて、臨戦態勢に入っているのが見えた。

次の瞬間、アカニシとアレックスの間に、巨大な水柱が勢いよく立ち上がる。


「なっ…なんだ!?」

「敵襲よ!!」


アレックスの盾越しに叫ぶエレナ。
彼女が見据える先に、イノチも視線を向ける。

音を立てて立ち上がる水柱を挟み、アカニシの前に立つ鎧の男。

数種類の青を基調とした鎧を、頭から全身に身にまとい、黄金に光る三叉の矛を手に持つ姿は、"海の戦士"という言葉がよく似合っている。


「うちの副団長たちがお世話になったようで。」


鎧の中からは爽やかな声が聞こえてきたが、鎧と水柱の音のせいで、少しこもっている。


「あんた…何者よ!?」


エレナがキッと睨みつける。
しかし、男は気にする様子もなく、飄々と答えた。


「俺?俺は『創血の牙』サザナミの支部長セイドだ!よろしく!」


日本の指を、自分の額からこちらに向かってピッと動かして挨拶するセイド。


エレナはその態度にイラッとした。
しかし、セイドは構わず、あたりを見回しながら話し続ける。


「あらら…壊滅だな、こりゃ!ハーデもメテルもやられちゃって。副団長、ここは一旦引く方向でいいっすか?」


こくりとうなずいたアカニシ。
それを確認したセイドは、待ってましたとばかりに両手を広げた。

すると、広間の様々な場所から水が勢いよく湧き出して、倒れているハーデやメテル、他の仲間たちの体を持ち上げ始めたのだ。


「なっ…!?」

「うわぁ~♪すごいねぇ♪」


エレナは驚き、アレックスは喜び、フレデリカはその魔法をジッと見据えている。

その水は、セイドの命令に従って、倒れた仲間たちを広間のさまざまな隙間から運び出していく。

ほとんどの者を運び出すまでに、そう時間はかからなかった。

唖然とするエレナとイノチ。
セイドは二人に向かって、兜の下で笑いながら声をかける。


「ほんじゃ、まぁ、さいならと言うことで!!」

「…ちっ!逃すわけないでしょ!!」


その言葉にハッとしたエレナは、逃すまいとダガーを構えて飛びかかるが…


「無理無理!」


目の前の水柱は厚く、エレナの攻撃は全く通らなかった。
ただ遊ぶようにバシャバシャと水を切るエレナをよそに、セイドはイノチに視線を向ける。


「君…レジスタンスの一員?」

「だったら、なんだ?」

「ふ~ん…なら、また会うだろうなぁ!その時は、よろしく頼むぜ!」


再び、二本指で挨拶するセイド。

足元からフワッと現れた水に乗り、セイドとアカニシは壊れた壁の向こうへと向かい出す。

その時、アカニシが大きく叫び声を上げた。


「お前が何者にせよ、この俺をコケにしたことは絶対に許さねぇぞ!!そこの女も含めて…この借りは絶対に返すから、その時まで首を洗って待っとけ!!!」


そのまま二人の姿は見えなくなったが、アカニシの声は壊れた壁の先の暗闇の中で、最後までこだましていた。

全ての水は消えたが、イノチは立ちすくんだまま、その暗闇を見つめている。


「くそぉっ!!」


その目の前では、エレナが悔しそうに地面を踏みつけた。


「エレナ、仕方ないよ。みんなが無事なだけ良しとしよう。」

「わかってる!わかってるけど…あの野郎ぉぉぉ、もっと殴っときゃよかったわ!!」

「…何をそんなに怒ってんだよ。あいつになんかされたのか?」


少しあきれたように言うイノチに対して、エレナは自分の体を指差して、怒った顔を向ける。


「これよ、これ!あたしの服!!この旅行のためにせっかく新調したのに…こんなボロボロに…」

(えぇ~!怒ってるのは服のこと?!ってか、新調したって言っても、俺の金じゃん…)

「エレナ、そう気を落とさなくても大丈夫ですわ!」


内心であきれるイノチの横から、フレデリカがエレナに声をかける。


「大丈夫って…何がよ。あたし、これしか持ってないのに…」

「まず、その問題を抱えるのは、あなただけではありませんわ。わたくしの服を見なさい。」


確かにフレデリカの服もボロボロだった。
どんな戦い方をしたらこうなるのか、イノチは二人の服を見て疑問に思う。

しかし、そんなイノチをよそに、フレデリカは話を続ける。


「そして、それを解決できる人物をわたくしは知っています。」

「…服を直せる奴がいるってこと?無理よ、そんなの。あたしはこれが気に入ってたの!これを元通りに戻せる奴なんかいるわけないじゃない。」

「フフフ…甘いですわ!」


人差し指を横に振りながら、舌を鳴らすフレデリカ。
その視線は自然とイノチへと向く。


「そんなスーパーなスキルを持つ人物!それはこの人ですわ!!」

「おっ…おい、フレデリカ。なんで俺なんだ?いったいどういう…」

「そうか!!」


イノチの言葉を遮って、エレナが何かに気づく。


「「ハンドコントローラー!!」」

「お前ら…俺は便利屋じゃねぇんだぞ…」


声を合わせて喜び合っている二人を見て、イノチは心底あきれ返っていた。
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