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第三章 ランク戦開催

13話 宴の始まり

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翌朝。

朝日がまだ登らぬ街には、白いモヤがかかっており、港も船の出入りはなく、静かさが漂っている。

イノチたちは、まだ薄暗い港沿いの道を歩き、目的の倉庫を目指していた。


「ふわぁぁぁ~」

「早く寝ようって言ったのはBOSSなのに、いったいいつまで起きてたわけ?」


大きなあくびをするイノチに、エレナが愚痴をこぼす。


(お前のいびきがうるさくて、ほとんど寝られなかったんだっつーの!!)


心の中で悪態をつきつつ、再びあくびをおさえるイノチに、あれが声をかけた。


「BOSS♪夜更かしは体に悪いんだよ♪次からは気をつけてね♪」

「う…うん。ごめん…」


素直に謝ったイノチを見て、エレナは不満げに鼻を鳴らした。


「倉庫が見えてきましたですわ。BOSSもそのだらしない顔を、早く直しなさいな!」

「…へ~い。」


なぜあの騒音を聞いて、フレデリカもアレックスも平気で寝られるのだろうか。
普通、あんないびきや歯ぎしりを聞いたら、眠れるはずなんかないのに…

まったく意に介していない二人を見て、納得がいかない様子のイノチは、ため息をつくと両手で頬をパンッと叩いた。


倉庫の前に着くと、見たことのある女性が立っている。


「お待ちしておりました。」


スタンは丁寧に会釈をすると、自分についてくるようにイノチたちへ促して、倉庫の中へと入っていく。


「場所はここじゃないんですか?」

「ここは中継ポイントです。今からいくつか同じようなポイントを移動して、集会場所へ向かいます。」

「なるほど、バレないように入念な対策をしてるんですね。」

「我々の目的を考えれば、念には念を入れないと…」


振り向かずに答えるスタンの言葉に、イノチはうなずいた。


倉庫の奥に進むと、スタンは布がかけられてい積荷の前に立った。

そして、何かを探すように隙間の奥の方へと手を伸ばすと、どこかでガコンッと音がする。

再び歩き出したスタンに続くと、誰にも気付かれないような倉庫の端に、小さな扉が開いていた。


「ここを進むとゲートがあります。それを通り抜けると次のポイントです?」

「ゲートって…?」

「簡単に言うと、別の遠くの場所へ移動できる扉です。」

「それって、どこでもド…コッ…コホン。」

「どうかされましたか?」

「いえ…そんな技術がこの世界にあるんですね。」


スタンは少し訝しげな表情を浮かべたが、気にすることなく先へと進んでいった。


(あぶねぇ…ついツッコミを入れるとこだった。俺には相手が『プレイヤー』かわからないからな。いくら今から仲間になる人たちとはいえ、言葉には気をつけないと…)


冷や汗をかきつつ、スタンの後に続いていくと、ドアと同じくらいの大きさの金縁の鏡のようなものが姿を現した。


「こちらです。」


スタンの前に立つそれは、イノチが想像したものとはかけ離れた代物であり、鏡の部分が水面のように静かに揺らめいている。


「私の後について来て下さい。」


スタンはそう告げると、そのまま中へと入り込んだ。


「おもしろそう♪僕、先に行く♪」

「おっ…おい!アレックス!」


イノチは呼び止めたが、アレックスは飛び込んで行った。
トプンッと表面が揺らいだかと思えば、再び静止する。


「なら、次はあたしが行くわ。フレデリカはBOSSを頼むわね。」

「了解ですわ。」


うなずくフレデリカに見送られ、エレナもアレックスに続く。


「さて、BOSS。いきますですわ。」

「お…おう。」


フレデリカに腕を掴まれ、ゲートを通り抜ける。

不思議な感覚だ。
水がまとわりつくような…そんな感覚にとらわれていると、すぐに暗い空間が現れる。


「BOSS、フレデリカ。こっちよ!」


少し離れた位置から、エレナが声をかけてくる。
手を招く彼女の方は進むと、たくさんの積荷が積み上げられたところにでた。

おそらく、先ほどと同じような倉庫の中だろうか。

イノチがそんなことを考えていると呼び声が聞こえ、振り向くと、スタンと一緒にいるアレックスがこっちを見て手招いている。

その後ろには、さっきと同様に扉が開いている。


「次のポイントへ向かいます。」


そう告げて先を進むスタンの後に、イノチたちは続いた。





いくつかのポイントを経由した後、イノチたちはスタンに案内され、石造りの地下道のような場所へと出てきた。


「この先に集会の会場があります。」


スタンはそう言った先を見ると、小さく明かりのようなものが見えた。

地下道も全て暗闇という訳ではなく、一定の間隔でロウソクが置かれていて、足元を照らしている。

無言で歩き始めるスタンに続くイノチたち。


「今日はどれくらいの人が集まるんですか?」


イノチの問いかけに、スタンはチラリと視線だけを向ける。


「200名ほどでしょうか…今日は各都市に潜伏する同胞たちの幹部クラスが集まりますので。」

「けっこう多いんですね!全体ではどれくらいいるんです?」

「全体では…5,000名ほどですね。この国は都市が10ありますが、それらに同胞たちが分散し、潜伏しています。」

「なるほど。確かに一箇所に集まるより、分散したほうが隠れやすいか…全員が集まる時はどうするんですか?」

「その時は、最後の時でしょう…」


スタンはそれ以上語らなかった。

"最後の時"とは決起する時だ。
どんな形でそれが為されるかは、今はわからない。

おそらくスタンはそう言いたいのだろう。

イノチは少し考えて、集会前に聞いておきたいいくつかの事柄を思い出す。


「じゃあ…」


スタンに顔を向け、再び質問を投げかけようとしたその時、それは起こった。


ズドォォォォォンッ!!!


進む方向から大きな爆発音と地響きが聞こえる。

ロウソクの火が小さく揺らいだかと思えば、突風がイノチたちに襲いかかってきたのだ。


「なっ…なんだぁ!?」


全てのロウソクが消え、暗闇に包まれる中で、イノチが声を上げた。

その瞬間、駆け出すスタン。


「おっ…おい!スタンさん!!」

「おそらくは、敵襲です!ここの場所がバレたんです!イノチさんたちは逃げてください!!」


声をかけるイノチに、走りながら振り向いてそう告げるスタンは、砂埃が巻き上がる先へと走っていく。

スタンの背中を見つめながら、イノチはどうすべきか考えようとしたが…

自分の中で、すでに答えは出ていた。

彼らを助ける。


「みんな、準備はいいか?」

「あったりまえよ!!」

「もちろんですわ!」

「うふふ♪バトル、バトル♪」


声をかけられたエレナたちは、待ってましたとばかりに、楽しげに声をそろえる。


「まずは状況把握!その後は、スタンさんの仲間をできる限り救出する!」

「「「YES Sir!!!」」」


ハンドコントローラーを発動するイノチを残して、エレナたち三人は、スタンの後を追った。





突然の奇襲に、反抗勢力の者たちが混乱する中、何人ものプレイヤーたちが彼らに襲いかかっていく。


「逃げる奴は捕まえろ!全員確保だ!捕まえて、洗いざらい吐かせるからな!」


ひげ面でガタイのいい男、ハーデが大きな声で指示を出す。その横には長髪長身の男、メテルが後ろで手を組んで立っている。


「お前たちも続け…はぁ、臭い場所だ。レジスタンスとはまさにゴキブリか、ネズミと同じだな。」

「ガハハハ!言うじゃねぇか、メテル!」


ハーデに合わせて部下に指示を出したメタルは、鼻をおさえてそうつぶやいた。


「嫌なのですよ…こんな汚い場所に来るのは。あなたと違って、私は繊細なのですから。」

「お前の場合は、繊細じゃなくて潔癖だろうが…」


そんなやりとりをしている二人の元に、一人の部下がやってくる。


「反抗する奴らがいます。なかなかのやり手でして、生捕りは難しそうですが…」

「ほう…そんな奴がいるのか?プレイヤーでもないのにやるじゃねぇか。」

「面倒くさいですね…早く帰りたいと言うのに。」

「なら、俺が相手してやるか?」


ハーデがそう笑って前に出ようとする。

しかし…


「逆らう奴は殺せ!!団長はああは言ったが、全部捕まえる必要はねぇ!!」


二人の後ろから、赤と黒のツートンカラーの髪をした赤い鎧の男が現れた。


「副団長さまよ、いいのか?」


ハーデの問いかけに、ニヤリと笑うアカニシ。
特徴的な犬歯を光らせ、ペロリと舌なめずりをすると、再び声を上げた。


「構わねぇ!!さぁ、宴の時間だぜ!!」
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