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第三章 ランク戦開催
3話 替え玉とレイピア
しおりを挟む場面はジパンへと戻る。
ここは『タカハ』の街。
ジパン国の西部に位置し、グルメの街として知られている。
その街のはずれにこじんまりと構える店…いや、店というよりも、屋台という方が正しいだろう。
そして、暖簾の裏に見える背中が二つ。
「ズッ…ズズズーッ!」
「ズズッ…ズズズズズーッ!!」
「はぁぁぁ~おいしい!!まさか、こんなものがこの世界で食べられるなんて…!」
「だよね。僕も見つけた時は驚いて、つい食べちゃったからね!」
「ヤバすぎ!大将、替え玉!!」
「あっ、僕も!」
「あいよ!替え玉2つね!!」
屋台の大将はニカッと笑うと、新しい麺の束を2つ、泡立つお湯に放り込む。
「ところで、プレイヤーを仲間にするために『タカハ』に来たのはいいけど、計画とかあるの?」
タケルにそう問われ、ミコトは顔を暗くする。
「それなんだけどね…イノチくんが…」
『タケルは頼れる奴だから、大丈夫!!』
「だって…」
「ハハハ…イノチくんらしいというか…」
苦笑いするタケルを見て、ミコトはさらに顔を暗くした。
今回、タカハの街に来たのは、開催されるランク戦に備えるため。多くのプレイヤーを仲間に引き込み、他国から攻め入ってくるだろう他のプレイヤーたちを迎え撃つためなのだが…
「この街にいるプレイヤーのみんなを仲間にするのに、一人一人声をかけてもいいんだけど、それじゃ間に合わないかもしれないし…」
「確かにね…ここタカハには50弱のプレイヤーがいるらしい。サリーに事前に調べてもらったからほとんど間違いないと思う。」
「サリーさん、すごい!でも、この国にいるプレイヤーって100人くらいなんだよね?半分がこの街にいるんだ。」
感嘆と疑問を投げかけるミコトに、タケルは楽しそうに口を開く。
「この街は、グルメの街なんだよ。このメーランも然り、他の食べ物も美味しくて、一度食べたら病みつきになるプレイヤーが多くてね。ここにいるプレイヤーは、ほとんどがその味を知ってしまった人たちさ。」
「確かに…このメーランだけでもそれはわかるね。だけど名前のセンスが…ねぇ。」
ミコトの言葉にタケルは苦笑いする。
そう話をしていると、大将が二人に向き直り、二つのお皿を目の前に置いた。
「へい!替え玉2つね!」
「やった!待ってましたぁ!」
「さきにこれ、食べちゃおう。」
嬉しそうに頬を紅くするミコトを見て、タケルはそう言うと、自分も目の前の器に替え玉を放り込んだ。
・
「ふわぁ~!美味しかったねぇ!」
満足気にお腹をさするミコトと、その後ろをゆっくりと歩くタケル。
二人は遅めの夕食を終えて、拠点とする宿屋へ帰る途中である。
「うん!そうだね!あとは帰って今後の作戦を練らなくちゃね!」
「だけど、私たちこの街に来たばかりだし、なんだって情報が少ないから、作戦の立てようもないんじゃない?」
ミコトは振り返ると、疑問をタケルへと投げかける。
しかし、タケルはその問いを待ってましたとばかりに、ニヤリと笑みを浮かべた。
「そこは問題ないよ。宿に戻る頃にはけっこうな情報が集まってるはずさ。」
「えっ?そうなの?それはなん…っ!?」
タケルの言葉に驚くミコト。
聞き返そうとした瞬間、突然タケルが目の前に来て自分の口をふさいだことに、さらに驚いた。
一瞬、タケルと視線が合う。
まるで『静かに』とでも言うような視線に、ミコトは小さくうなずいた。
ゆっくりと視線を暗闇へと向けて、タケルは誰もいない場所に話しかける。
「いるんだろ?隠れてないで出てこいよ!」
すると、まるで闇から出てきたように、するりとある人物が姿を現した。
あいにく、真っ黒なフード付きのロングコートを着ていて、性別や顔など、重要な情報は確認できない。
「僕たちに何か用かい?」
「…」
タケルの言葉に無言のまま、そのフードは背中から剣を取り出した。
針のように細く鋭い剣身と、華やかな曲線が特徴的な柄(ヒルト)。その柄の先端には紫に輝く宝石が一つ、取り付けられている。
デザインは一般的なレイピアのように煌びやかな装飾はなく、どちらかというとレイピアを小型化させた『スモールソード』のようにシンプルなものだ。
「ゼンさんは…まだでないで。」
そうつぶやいたタケルは、ミコトを自分の後ろに下げさせると、腰にかけていた剣を抜く。
タケルの剣は日本刀。
美しい曲線を描くそれは、蒼い光を妖艶に光り輝かせている。
相手にその切っ先を向け、タケルが口を開く。
「その剣、かっこいいね。どこの国のだい?」
「…」
フードは相変わらず答えることなく、自分が持つレイピアを顔の正面に持ち上げ、反対の手を後ろの腰に置く。
その瞬間だった。
ヒュンッ
風を切る音と共に、レイピアがタケルの胸めがけて襲いかかる。
(くっ…後ろにはミコトがいる。こいつ、避けれないことをわかって…ちっ!!)
キンッ
金属の乾いた音が鳴り響く。
タケルは少し腰を落として、一直線に伸びてくるレイピアを高速の居合いで下から上にはじいたのだ。
軌道が変わり、タケルの頭上を抜けていくレイピア。
タケルも、日本刀を振り抜いたばかりで反撃はできないが、それは相手も同じことだと…次の手をどうするか考えようとする。
が、フードの身体が不自然にその場で止まった。
そして、かがんでいたタケルに顔を向けると、拳を放ってきたのである。
「なっ!!」
鞘に置いていた手をとっさに離す。
ズシリと重い拳を、かろうじて受け止めたタケルに、ミコトが声をかけた。
「タケルくん!!」
ミコトが持っていたエターナル・サンライズを掲げる。
が、タケルは声を上げてミコトを制止した。
「ミコト!大丈夫だ!!」
「えっ!?」
戸惑うミコトをよそに、タケルが再び日本刀を走らせるが、フードはタンッと地面を蹴って、ひらりと宙を舞う。
空を切るタケルの攻撃をよそに、フードは距離をとって着地すると、再びレイピアを顔の前に構えるフード。
それに対して、タケルも居合いの構えをとる。
空気がピリッとなるのを感じたミコト。
今まで体験したことのない緊張感が襲いかかり、動くことができない。
冷や汗を流すミコトをよそに、見えない気をぶつけ合うタケルとフードの人物。
その間を夜風が静かに過ぎ去り、二人の髪や服を揺らす。
そして、その風がぴたりと止んだ瞬間、二人が同時に駆け出した。
金属の当たる音だけが、聞こえてくる。
全く見えない攻防に、ミコトはただ息を飲むだけである。
鳴り響く金属音の中、タケルは一瞬をついて間合いを詰めると、鍔で競り合いながらフードに向かって口を開いた。
「目的はなんだ!?黙ってるばっかりか?」
「…」
相手が一向に口を開かないことにイラ立ち、タケルが力を込めて日本刀を振り抜くが、フードは素早い動きでそれをかわすと、再び距離をとる。
そして、満足したようにレイピアを収めたのだ。
フードに隠れて視線はわからないが、ジッとタケルを見据えていたフードは最後にニカッと笑うと、そのまま闇夜に姿を消していった。
「タケルくん!大丈夫!?」
「あぁ…」
駆け寄ってきたミコトに応じつつ、奴が消えた闇を、タケルはジッと見据えていたのだった。
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