上 下
122 / 290
第二章 始まる争い

57話 真の目的?

しおりを挟む

「なんなのよ、今の…」

「おっ…おじいちゃんが、ロキくんに雷落としてたね…♪」


エレナたちは唖然としてその老人を見ていた。
老人の気が収まったことで、馬たちも落ち着きを取り戻し、今はその歩をゆっくりと進めている。


「話が逸れてしまったな、すまんすまん。」


両手をパンパンとはたいて、老人は笑いながらそうつぶやく。

その横では、ロキが大きなたんこぶを作って、うつ伏せで大の字になっている。

そのたんこぶからは、シューッと湯気が上がり、熱量を感じさせるほどだ。


「そいつ…だっ…大丈夫か?」

「大丈夫じゃ!こんなんで死ぬたまでもないからのぉ。ほっとけばすぐ起きる。それよりも話の続きじゃ…」


老人は再び地図を指す。


「ランク戦は各国で行われる。プレイヤー同士だけで争い合うのが基本ではあるのだが…最近、各国で不穏な動きがあるでな。」

「不穏な動き…?」


老人は、ひげをさすりながらうなずいた。


「国とプレイヤーが手を組んで、国盗りを目論見始めとるんじゃ。」

「国とプレイヤーが手を組む?でも、ジパンの王様からはそんな話されなかったぞ!」

「それが問題なんだよ…痛てて。」


頭をさすりながらロキが起きてきた。


「じいさん、ちょっとは手加減しろよな。」

「お主は口の悪さをなおさんか。」


老人は、フンっと鼻を鳴らす。


「また喧嘩しないでくれよ!馬たちが怖がってる!」

「はいはいっと。えっと、他の国ではね、プレイヤーたちが国の中枢に入り込んでいるんだ。王やその側近たちをそそのかして、他国に攻め込ませようとしてるわけさ。だけど、ここジパンではそんな動きはない…」

「…?それはなんで?」

「理由は簡単さ。一つ目は、ジパンは最近まで国を統一するために現王が奮闘していたからね。今は外のことより、国を安定させることに意識が向いている。二つ目に、ジパンを拠点に選ぶプレイヤーは少ないから、君たちみたいに国と関係を持つ者はほとんどいない。」

「さっきも言ったが、本来ランク戦とはプレイヤー同士が争うだけのものだが、国を巻き込むことで自分たちに有利に事を進めようとしとる奴らがいるのじゃ。」

「それに、ジパン国以外はみな安定した国だからね。世界のハブとなっているこのジパンを、欲しがる国の連中もいるというわけさ。」

「なるほどな…この国は世界の中心、そして、貿易の中心でもある。それを手にすれば、全ての主導権を握れるってわけか。そして、プレイヤーが国と連携していないから、1番に攻める格好の標的ってわけだ。」

「そういや、あのキンシャって奴は、ジプトのプレイヤーだったぜ。帰るとかなんとか言ってたからな。」

「てことは、偵察ってことかな。」

「それだけじゃないな。奴はあの財務庁長官とつるんでいた。あわよくば、こっそり乗っ取ろうとしてたんじゃないのか?」


考えを巡らせるイノチとゲンサイを見て、ロキも老人も顔を見合わせると、ニヤリと笑い合う。


「やっぱり君たちは気が合いそうだね!」

「見込んだ通りじゃな。」

「あ"ぁ"っ!?いきなり何言ってやがる!」

「そうだ!誰がこんな奴と気なんか合うかよ!」


声を上げ、否定し合う二人を見て、さらに笑い合うロキと老人。


「それだけ仲が良ければ少しは安心だ。君たちは今から仲間なんだからね!」

「はぁ…それなんだけどさ。結局、なんでこいつと組まなきゃならないんだ?今の話からするに、こいつと組んでジパンの国を守れってことなのか?」

「まぁ、それもあるが…ランク戦が始まるからといって、国同士の戦争がいきなり始まるわけではないだろうな。」


そのとぼけた態度に、イノチはこれまでのイラ立ちを爆発させた。まるで溜め込んでいた想いを全てぶつけるように。


「じゃあ、何のために…!そもそもだけど、あんたらなんなんだよ!突然現れて、正体も明かさずに好き勝手言いやがって!!」


老人とロキは、明らかにイラ立っているイノチを見て、顔を見合わせた。


「こんな世界に俺を引きこんだのもあんたらなんだろ!?ウンエイの奴もそうだけど、大事なことは何一つ言わないじゃないか!!それなのにあれやれこれやれって…いったいなんなんだ!!」

「それはじゃな…」

「こんな…死んだら終わりなんて世界に連れてこられて、訳もわからずモンスターと戦わされて!!あんたたちの目的はなんなんだ!!」

「まぁまぁ、イノチくん落ち着いてよ。」

「落ち着いてられるか!!あんたらの正体を教えろよ!別に俺にはこの国がどうなろうが関係ない!この国が攻め入られて困るのはあんたらなんだろ?なら交換条件だ!あんたらの正体と目的を教えろ!!」


そこまで言い切って、肩で息をしながら二人を睨むイノチ。ロキと老人もそうだが、エレナたちも驚いてイノチを見ている。


「ハハ、なかなか言うじゃねぇか。」


ゲンサイだけは、それを面白そうに見ている。
そんな中で、自分を睨むイノチに老人が口を開いた。


「お主のその疑問はもっともじゃな…わかった、いいじゃろ。我々の正体と目的を教えよう。」

「じいさん、いいのか?」

「あぁ…彼が望んでおるからな。」


老人は体をイノチに向ける。
そして被っていたフードを外して、まっすぐとイノチを見る。


「…あれ?あんたの顔、どこかで…」

「フォッフォッフォッ、そうかもしれんな。わしとロキはこの世界を管理する者、すなわち、この世界の神の使いなのじゃ。君らと接触した理由は、この世界の乱れを防ぐこと。他国に入り込むプレイヤーをそそのかす邪神たちを倒すことじゃ。」

「かっ…神の使いだって!?邪神を倒す…?」

「さよう…そして、ウンエイという女性は我らの部下じゃ。わしの指示で、先にお主に接触してもらったというわけじゃ。」


イノチは驚きで言葉が出なかった。

確かにタケルからこの世界の真実を聞いた時、そういった存在がいるのかもしれないと考えたこともあった。

こんな異世界に自分を引き込んだ元凶が、もしかしたらいるはずだと。

しかし、それは想像の域を逸することはなく、まさか本当にいるなんて思ってもいなかったのだ。


「…なら。この世界に俺らプレイヤーが引き込まれている理由は?」

「さっきも言ったが、邪神らはプレイヤーを利用して、この世界を荒らそうとしておる。しかし、この世界の者たちはプレイヤーには勝てん。プレイヤーに対抗できるのはプレイヤーしかおらんのじゃ。だから、君たちの世界から勇士を募り、奴らに対抗しようと考えたのじゃ。」

「勇士を募りって…ほとんど拉致みたいなもんじゃないか。あんなVR機みたいなもんを勝手に送りつけてきて。」

「急を要したのでな。それについては謝る。」

「だけど、それならなんで最初のチュートリアルで、ジパン国以外にも選べたんだ?この国しか選べないようにすればもっとプレイヤーが集まるんじゃ…」

(よく気づく子じゃな…)


老人はすまなさそうにひげをさすり、イノチの問いに答える。


「それに関しては、我が主人である神が設定していてな。我らではどうすることもできないんじゃ。だから、ジパン国を選んでくれたプレイヤーたちに、こうしてサポートをしておるわけじゃよ。お主、ウンエイから受け取ったじゃろ?」


それを聞いてイノチは思い出した。
ウンエイから受け取った『Z』の文字が刻まれた丸い球。
『ハンドコントローラー』の強化素材であると言われたそのアイテムのことを。


「まだ試しとらんじゃろ?どうじゃ、試してみんか?」


老人はニカッと笑うと、イノチへそう促してきたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...