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第二章 始まる争い

41話 トウトの街

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夜の訪れとともに、街にはポツポツと明かりがつき始める。
昼とは違う独特の喧騒が、街を支配し始めていく。

とある酒場では、仲間とともに酒を酌み交わす人々が、楽しげな声を上げている。

そんな喧騒に紛れ、隅のテーブルでひそひそと話す二人組がいた。両者とも深々とフードを被っていて、顔をうかがうことはできない。

そのうちの一人が、口を開く。


「…で、どうだった?」

「だめだな…厳重に警備されてて、俺らじゃ忍び込むのは不可能だ。」


そう言いながら、もう片方の男は首を横に振った。


「そうか…どうする?」


問いかけられた男は、無言でグラスに手をかけ、入っていたエールを一気に飲み干す。
そして、グラスを置くと静かに口を開く。


「…あまり頼りたくはなかったが、もう彼に助けを頼むしか方法はないと思う。いろいろ考えてみたけど、俺らが頼れるのは彼しかいない…」

「確かにな…でも、こんなこと受けてくれるかな?」

「それは…わからん。」


問われた男は、悩ましげな表情を口元に浮かべたが、何かを決心し、再び口を開いた。


「だが、考えても仕方がない…行動しよう。でないと、このままじゃ、頭が死んじまう。」

「そうだな…なら、さっそく行動開始だ!いったん仲間のところに戻ろう。」


二人はうなずき合うと、店主に声をかける。


「ガムルの親父!お代はここに置いておくぜ!」


声の先にいた熊のような大男が、無言で手をあげて返事をしたのを確認すると、二人は店を後にする。


「お頭、ぜったい助けますからね!」


二人の男は、街の暗闇に消えていった。





「すっげぇ!これがこの国の中心都市か!!」


肩から腰ほどまでのローブを羽織り、フードをおろしたイノチは歓喜の声を上げる。


「すごぉぉぉい♪僕らの拠点とは違って、大きな建物がたくさんあるね♪」

「アレックスもこの街は初めてか?」

「うん♪僕、今まで村から出たことなかったから、こんな大きな街に来たのは初めてだよ♪うわぁ、あれはなんだろう♪♪♪」


目を輝かせながら、キョロキョロとしているアレックスを見て、イノチはほんわかと心穏やかな気持ちになった。

現在、イノチはジパン国の首都『トウト』に来ている。

イノチたちが拠点とする『イセ』や、タケルたちがいる『イズモ』から東に10日ほど進んだ場所に位置し、ジパン国における政治、経済、文化などの中枢を担う中心都市。

国王であるホニン=パンジャが直接治めている、いわば国王のお膝元である都市だ。


「二人とも、はしゃぐのはいいけど目立ちすぎないでよ。ここに来た目的を忘れないで。」

「あっ!エレナさん♪おかえりなさい♪良い宿見つかりましたか?」

「そうね!アレックスも喜ぶ、とぉぉぉっても良い宿が見つかったわよ!」

「ほんと?!やったぁぁぁ♪」


いつもの気の強さはどこへやら…
アレックスの喜びように、エレナは腕を組んで偉そうな態度を取りつつも、頬を赤らめて嬉しそうにしている。


「エレナ、良い宿はいいんだけどさ…そこって、一泊いくらするんだ?」

「…え?そんなの知らないわよ。とりあえず気に入った宿に入って、"ぷれみあむ"だったかしら…その部屋を2部屋、押さえてきたわ!」

「はぁっ!?ちょっと待て!もしかしてもう予約したのか?金額も確認せずに!?しかもお前…"プレミアム"って!下から…いや!上から何番目のランクなんだよ!」

「上から何番目…?なに言ってんのよ、もちろん1番上のやつにしたわよ!」

「……っ!??」


驚き、エレナに反論しようとしたイノチだったが、アレックスの喜ぶ顔を見て、その口を閉じた。

アレックスのいる前でエレナと言い合うのはよそう…

そう思ったのだ。
大きなため息をつくと、イノチは喜び合う二人に声をかける。


「もういいや…たまの旅行ってことで大目に見る!幸い、アキルドさんから『ダリア』の報酬は、たんまりもらってるからな…」

「そうよ、BOSS!固いことは言わずに楽しみましょう!」

「そうだよ♪BOSS♪楽しもうよぉ♪」

「エレナ…1番最初の言葉、ブーメランな。」


アレックスの可愛らしさにほっこりしつつ、イノチは再び、大きくため息をついた。


「で、この後はどうする訳?」

「いったん、トヌスの部下に会って状況を説明してもらうよ。今日の予定はそれだけだ。明日、シャシイさんに面会を申し込んであるから、そこで交渉する手はずだな。」

「じゃあ、早く待ち合わせ場所にいきましょう!」

「そうだな!えっと、確かこの辺りの酒場って言ってたけど…」

「酒場の名前は?」

「ガムルの沈黙亭」

「なにその趣味悪い名前!ったく、そんなとこを選ぶなんて…まっ、しかたないか。野盗のセンスなんてそんなもんね。」


エレナがブツブツと文句を垂れていると、アレックスが声を上げる。


「あっ♪BOSS、あれじゃない?あの銀色の看板♪」


アレックスの示す方に目を向けると、確かに『ガムルの沈黙亭』と書かれた銀の看板が古びた建物からぶら下がっている。

建物はレンガ造り。
ところどころひび割れており、年季を感じさせるその装いに、イノチは胸を躍らせた。

異世界料理…
思い返せば、この世界に来てから、あまり異世界らしい料理は食べていない。
食事は基本、メイが作ってくれたし、『イセ』の街で振る舞われる料理は、どちらかといえば日本食に近い料理が多かったからだ。

街に出れば、いくつかそれらしい酒場はあったのだが、今まで入る機会もなく、異世界ならではの料理というものは口にしてこなかった。

この機会にぜひ、異世界を感じられる料理を食べたい。
イノチはそう考えていたのである。


「約束の時間までもう少しあるし…とりあえず腹も減ったから、酒場に入って飯でも食って待っとこうぜ!」

「確かにお腹は減ったわね…今日は朝ご飯も満足に食べれてないし。」

「僕もお腹ペコペコだよぉ♪」

「よし!なら、さっそく向かおう!」

「「おぉ~!」」


一同は目的の酒場へと足を運んだ。


西部劇に出てくるようなスイングドアを開き、三人は酒場の中へと足を踏み入れる。

昼時も過ぎたためか、店の中には数人の客がいるだけで、閑散としているようだ。
トヌスの部下も、やはりまだ来ていないようである。


「たしか…店主に話しかけて、『ランチを人数分』って注文すればいいんだったよな。」


そう言って店内を見回し、店主の姿を探すイノチ。
すると、どこからか視線を感じることに気がついたのだ。

その視線の方へと顔を向ければ、奥のカウンターで腕を組み、大きめのナイフを持って、こちらをじっと睨みつけている男がいる。


(こっ…怖っ!!めっちゃ睨まれてる!!)


ビビるイノチをよそに、その男はあごで合図を送ってきたのであった。
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