上 下
95 / 290
第二章 始まる争い

30話 近づく脅威

しおりを挟む

「やっとここまで来たわね。」

「よかったぁ、この魔法が役に立って。」

「この階層を抜ければ、あと5階で最下層ですわ。」


通路を歩きながら話すミコトたちは45階層へ到達していた。
イノチたちと同じ階層へとたどり着いたのだ。

ミコトの支援魔法『誘導』の性能はとても有能で、モンスターには会えど、ここまで迷うことなくダンジョンを突き進んでくることができた。

ミコトもランクを『85』まで上げ、イノチと同ランクとなっている。

ちなみ余談ではあるが、イノチは初めから皆とはぐれてしまい、一人で戦える状況ではなかったため、ランクはダンジョン潜入時の『85』のままである。


「わぁぁぁ、この通路...ものすごくボロボロだね!」


通路を曲がったところで、その状況を見てミコトは驚いた。
ボロボロに崩れ果てた通路。
まるで大きなモンスターがここで暴れたかのように、地面や壁、天井までもが崩れているのだ。


「これは損傷がかなり激しいですわ。この状況、もしかするとここで...」

「えぇ、BOSSたちと『ウィングヘッド』が戦った跡でしょうね。」


えぐられた地面の一部を確認していたエレナは、立ち上がってそう告げる。


「しかし、おかしいですわ。ウォタさまの攻撃の跡がまったくありませんですわ。」

「フレデリカさん、そんなことまでわかるの?」

「一応は竜種の末裔ですから、それくらいは見分けることはできますわ。魔力の残滓が少し残っていますが、すべて風魔法の残滓ですわ。」

「...なにがあったのかしらね。まぁ、あたしたちが生きてるってことはBOSSは無事なのでしょうけど...」


三人は立ちすくみ、その状況を見据えていた。
すると...聞き覚えのある咆哮が遠くから聞こえてくる。


「グォォォォォォ!!」

「「「......!!」」」

「いまのは『ウィングヘッド』の声だよね?」

「そうみたい...この階にいるようね。」


ミコトは少し怖いのか、震えた声で二人に話しかける。
フレデリカは少し何かを考えているようだ。


「...推測ですが、『ウィングヘッド』がここにいるということは、BOSSたちもこの階にいるのではないでしょうか。」

「確かにその可能性は高いわね。ミコト!その魔法でBOSSのところまで行けるかしら?」

「うっ...うん!やってみるね!」


ミコトはそう言うと、支援魔法『誘導』の目的地設定を変更し始める。


「エレナ…最悪、BOSSたちと合流する前に奴と遭遇する可能性がありますわ。」

「えぇ。わかってる。その時は優先的にミコトを…」


二人がうなずき合うと、ミコトが魔法の設定を終えて声をかけてきた。


「できたよ!たぶん、うまくいくと思うけど…」

「よし!では、みんな気を引き締めて行きましょう。」


エレナの言葉に、ミコトとフレデリカは真剣な眼差しでうなずいた。





「イノチ、どうだ?」

「ん…んんん~順調!と言いたいところだけど、書き直すのにやっぱり時間がかかりそうだな。」

「そうか…」

「すまんな...」


カタカタとキーボードを打ちながら、問いかけに答えるイノチを見て、ウォタはため息を漏らす。
その様子を岩の上に横になったゼンも、申し訳なさそうに見ている。


「やはり難しいのか?」

「いや…コード自体はけっこう簡単に読めるから大丈夫なんだけど、いろんなとこにバグみたいなものが発生してて、ひとつひとつを直すのに時間がかかってるって感じかな。加えて、ゼンさんのステータス向上だろ…あいつが来る前にせめてゼンさんだけでも終わらせたいなぁ。」

「どれくらいかかりそうなんだ?」

「20分ってとこかな...」

「わかった...お前はゼンの『呪い』の解呪に集中せい。」


そういってどこかへ行こうとするウォタをイノチは引き止める。


「おい!どこに行くんだよ。」

「......」

「おいって!どうしたんだよ、ウォタ...!って、まさか...!?」


何かを察したイノチに振り返り、ウォタは口を開いた。


「お主の考えているとおりだ...あやつめ、気づくのが早い。こちらに向かってきているようだから、我が足止めしてくる。」

「なっ...なに言ってんだよ!お前だって呪わんだぞ!力もろくに出せないくせに戦えるわけないだろ!?」

「そうかもしれないが、ゼンの解呪はお主にしかできない。今、戦えるのは我だけだ。」

「......」


ウォタの正論にイノチは反論できずにいる。

そんなイノチを見て、ウォタは小さく笑って振り向き、再び進み出す。
イノチは歯を鳴らして声を上げた。


「『ウィングヘッド』はどれくらいでここに来るんだ!?」

「わからんが、最速で10分ほどか…」

「じゅっ...10分...!っく、どうやって食い止めるつもりなんだ?」

「”おとり”になって逃げまわるつもりだ。」

「”おとり”って...お前、そんな無茶な...」

「奴と会敵するまでに約5分、残りの15分を我が”おとり”となり逃げ回れば、ゼンの解呪が終わるであろう。そしたら助けに来い。よいな。」

「...待て、ウォタ!!」

「くどいぞ!!」


しつこく引き止めようとするイノチに対して、ウォタも苛立ちを見せる。
しかし、イノチは引き下がることなく、条件をひとつ提示する。


「10分だ...ゼンさんの解呪とステータス向上に10分くれ。それで全部終わらせるから...お前は奴のもとへ行かずにここで待ってろ!」

「...本当に10分で終わるんだな?」

「あぁ...」

「...わかった、10分待つ。しかし、10分を過ぎたら我は奴のもとへ行くからな。」


ウォタはそういうと、近くの岩に登って目をつむる。


「本当に半分の時間でできるのか...?」


ゼンの問いかけにイノチは大きく息を吐きだすと、威勢よく啖呵をきった。


「ゼンさん、まかせとけ!『Dual Lazy(デュアルレイジー:二刀の怠け者)』の本気を見せてやんよ!!!」





こちらに憎悪の臭いがする。
憎い相手の存在は、どこにいてもわかるものだ。


憎い...
弱かった自分が憎い...
自分をこんな姿にした奴らが憎い...
殺してやる...ぐちゃぐちゃにしてやる...そして、なるんだ...

成体に...竜種本来の姿に...
再び大空を飛ぶのだ...強い自分を取り戻すのだ...

殺してやる...殺してやる...殺してやる...殺す...殺す...

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


「グォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」


大きな咆哮がかなり近くで聞こえた。
すでに『ウィングヘッド』はすぐ近くまで来ているようだ。


「イノチ、まだか!?奴は予想より早いぞ!!!」

「わかってるって!!約束の10分まで、あと2分あるだろぉぉぉ!!!」

「しかし...もう来るぞ!!!」


ウォタは目の前で大量の汗を流し、必死にキーボードを叩きつけるイノチに声を上げる。

こめかみに浮き出た血管と、血走り、充血した目がその必死さを物語っているが、『ウィングヘッド』もそれを見て「頑張ってるから待つよ」なんてことは絶対に言ってはくれない。


「イノチ!!!来たぞ!!」


ウォタの声と同時に、通路の奥から姿を現す『ウィングヘッド』。
触手を今まで以上に大きく振り回し、地響きを立ててこちらに向かって来ている。

イノチは横目でそれを確認しながら、キーボードを打つ手を急がせるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...