10 / 290
第一章 アクセルオンライン
9話 カクテイエンシュツ
しおりを挟む「…カクテイエンシュツ?」
聞き慣れない言葉に、エレナは首を傾げている。イノチは画面を見ながらその問いに答えた。
「確定演出ってのは、高レアリティが必ず出るんだ…おそらくだけど、この白い球が『R』以上のキャラかアイテムに変化するじゃないかな…?」
「…なるほどね。でも、なんで瓦を積み上げてるのかしら…どうやって白球が金以上に変化するの?」
「さぁ…瓦を積んでるってことは、これを割るんだろうけど…普通の演出はもっとかっこよかったり、美しさを重視してることが多いんだけどね。」
そんな話をしていると、男性は瓦を積み上げ終わったようで、それらの前に仁王立ちしている。
意識を集中させるように、目をつむり、ゆっくりと深い呼吸を繰り返すと、画面が静かに暗転した。
「しかしこの演出…ちょっと長いな…」
イノチは長いムービーに文句をこぼす。
画面では少しの間だけ『NOW LOADING』の表示が左下に現れると、すぐに消えて明るくなった。
仁王立ちする白髪白ひげの男性が再び現れ、つむっていた目をカッと開く。そして、かけ声と共に右手でつくった手刀を、目の前に積んだ瓦へと振り下ろした。
一枚、二枚、三枚と積み上げられた瓦が、手刀により一気に叩き割られ、彼のその右手は白い球へと到達する。
次の瞬間、白球にヒビが走った。
そして、画面は再び暗転したかと思うと、男性が腰に手を当てこちらに向かってピースしている。
見れば、白球はなんと虹玉に変化していたのである。
「おおお!まさかの虹玉とは…!!」
イノチが感嘆の声を上げると、男性がそれぞれの球をひとつずつ持ち上げて、雷を落とす演出が始まった。
「げぇ…またこのムービーかよ!スキップだ、スキップ!!」
「BOSSはせっかちね…そんなんじゃ女の子にモテないわよ。」
画面を連打しているイノチに、エレナがそう告げるが、イノチはお構いなしといったように話をすり替える。
「…たぶん、どっかに設定画面があるはずだな。今後、ガチャの演出は全スキップにしておこう。」
エレナはそんなイノチを見て、ため息をつく。そして、再び画面を覗き込むと、初心者応援ガチャは結果は次の通りであった。
『強化薬』
『ロングソード(N)』
『強化薬(武器)』
『強化薬(武器)』
『木の杖(N)』
『ポーション』
『ポーション』
『疾風のブーツ(R)』
『希少石(SR)』
『ハンドコントローラー(SR)』
「ハンド…コントローラー?なにこれ…」
エレナは虹玉の結果を見て首を傾げている。
「どれどれ?あーこれか…これは手に取り付けてパソコンとかゲームとかを遠隔で操作する道具だな。しかし…俺はそれよりもこっちが…」
イノチはその前に出たレアリティSRの『希少石』に目を向けた。
「消費アイテムでSRって、けっこう貴重だぞ!」
「そうなの?」
「だって一回使ったら無くなるんだぜ?ずっと手元に残る武器や防具と違って、こういうアイテムは、何かしら良いことに使えるんだよ。」
「ふ~ん…」
エレナは画面に映るその黒い石をジッと見つめる。
「とりあえず、『疾風のブーツ(R)』はエレナが装備してね。」
「…っ!いいの!」
「うん…だって、今後またあんなモンスターが出てくることを考えると、エレナには強くなっておいてもらわないと…」
「ありがとう!!」
よほど嬉しいのか、満面の笑みを向けてくるエレナに少しドギマギしながら、イノチは顔は合わせずにポリポリと顔をかいて頷く。
喜んでいるエレナをよそに、ガチャを終了させて画面を閉じると、今度は例の黒い端末を取り出した。
「…さてと。今度こそアイテムボックスの確認だな。さっき手に入れたアイテムを含めて、詳細も確認したいし…」
そう言いながら、イノチはホーム画面を覗き込んだ。
「アイテムボックス…アイテム…あった!『希少石』はっと……………」
「…BOSS?また震えてるけど、どうしたの?」
急に動きを止め、肩を震わせるイノチを訝しげに思い、エレナは近づいて端末を覗き込む。そこに表示されている内容を見て、エレナは再び驚愕した。
『希少石:URが確定するガチャ専用アイテム』
「BOSS…?まさかと思うけど…」
恐る恐るエレナが確認すると、予想していた通り、振り向いたイノチの目は星マークどころか、ピンクに染まるハートマークとなっていた。
◆
「あいつ何なんだよ!!なんで『希少石』を引き当てられるんだ!?排出率0.00001%の超レアアイテムだぞ!?」
「…だめだ…俺、めまいがしてきたよ。」
イノチのガチャ結果を受けて、運営側は大騒ぎである。
「…上にどう説明したらいいんだ。」
「俺らクビかもしれないな…」
「縁起でもないこと言うな!!」
無数の画面の前で言い争いをする彼らの後ろから、再び静かに声が聞こえてきた。
「慌てなくとも大丈夫ですよ。」
「じょっ…上官殿…」
「彼のことは私から上に伝えております。どうやら稀有な存在として、大変興味を持たれたようで…放っておけとのことです。」
「そうですか…」
彼らは、救われたというように大きく息を吐く。そんな彼らをよそに、上官と呼ばれた女性は画面に映るイノチに目を向ける。
(フフフ…その調子でお願いしたいわね。)
彼女はそう言うと、安堵する運営陣に優しい笑みを振りまいて帰っていった。
「やはりあの方はお優しい方だ。」
彼らはそう互いに肯定し合うと、それぞれの仕事に戻っていった。
◆
エレナはA3用紙ほどの大きさの紙を目の前に持ち、それを横にしたり、縦に戻したりしながら、何やら難しい顔を浮かべている。
「ハァ…BOSS、これどう見たらいいのかしら?」
大きくため息をついたエレナは、イノチに声をかけた。
しかし、イノチはというと…
むすっとした顔で頬杖をつき、切り株の上に座っている。その頬には、真っ赤な手形がついていた。
「…もう、いい加減に機嫌を直してよ。そもそもBOSSが正気を失うのがいけないんじゃない。」
先ほど『希少石』の件で、実は一悶着あったらしい。
UR確定と聞いたイノチのガチャ欲が暴走して、エレナがそれを制したのだ。
「…たたく必要ないだろ…ったくよ…痛てぇ…」
真っ赤に腫れ上がった頬をやさしく撫でながら、イノチは口をこぼす。
「…だってあんだけ興奮してて、呼んでも引っ張っても、何してもびくともしないんだもん…ついイラっとして手が出ちゃったのよ!」
エレナは本当に申し訳ないと思っているのだろう。気まずい表情で、手に持った用紙をイノチに手渡す。
イノチはぶつぶつとぼやきながら、それを受け取って眺めてみた。
アイテムボックスに入っていた『マップ』というアイテム。
なんとも大雑把というか…右上と左下に街のような絵が描かれ、真ん中には赤い小さな矢印がある。
矢印の近くには、湖らしきものも伺える。
「なんだよこれ…まぁファンタジーの世界じゃ、地図の精度なんてこんなもんかね…」
そう呟きながら、湖の絵を指でタッチしてみた。すると、縮尺が変わって、湖が拡大表示されることにイノチは気づいた。
「…マジかよこれ…ただの地図じゃなくて、スマホとかで見れるマップみたいに縮尺を変えられるのか…」
「…え?どういうことよ…」
疑問に思ったエレナも、イノチの横に座って地図を眺めている。
イノチは試しに、人差し指と親指を開いたり閉じたりしてみた。すると、その指の動きに合わせて、マップが拡大と縮小を繰り返したのだ。
「すっ…すごいわね。どういう原理なのかしら…」
「わからん…けど、かなり有能な地図ということはわかった。」
横で目を丸くするエレナとは裏腹に、イノチは心に高揚を感じていた。
見た目はただの紙なのに…薄っぺらい紙なのに…手に持ったそれは、ものすごく最先端な道具だったのである。
「よぉし!とりあえずはこれを使って、街を目指そうかね!!」
「賛成!!あたしはとりあえず、お風呂に入りたいわ!!」
二人はそう言うと、大きな声で掛け声を合わせ、気勢をそろえるのであった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる