3 / 290
第一章 アクセルオンライン
2話 ようこそアクセルオンラインへ
しおりを挟むベッドの上にVR機を置いたまま、イノチは小一時間ほどスマホと格闘していた。
「ん~やっぱり見当たらないなぁ…」
目の前にあるVR機について、ネットでいろいろ検索してみたが、情報は皆無だった。
イノチは諦めたようにスマホをテーブルへ置き、再び目の前のヘッドセットへと目を向ける。
「まぁしかし…ちょっとつけてみてもいいかな。」
やはりと言うか…好奇心が勝ってしまう。
イノチは手を伸ばし、VR機を持ち上げると、それをぐるりと見回してみる。特別、他のVR機と違うというわけでもなさそうだ。
しかし、ひとつ気になることはある。
「…これ、そういやヘッドセットしかないな…コントローラーも入ってなかったし、イヤーピースとかもないぞ…」
音はどこから出るのか、操作はどうやってするのかよくわからない。再度確認するように、VR機が入っていた箱を手に取り、中を見てみる。
すると、底の方に綺麗に折りたたまれた紙を見つけた。それをおもむろに取り出して、丁寧に開いていく。
「…説明書か?」
その紙にはVR機の図が描かれ、所々に説明が書かれていた。裏を見てみると制作会社の欄に『ゴッズプレイ.inc』と記載がある。
「変な名前の会社だな…聞いたことないし。」
疑問を浮かべつつも、再び表を向けて説明に目を通すと、ハード機の名前が目についた。
「フルダイブ体感型VRゲーム機…バ…バシ…なんて読むんだ…これ?」
ハード機の名前は見たことのない言語で記載されていて、読むことができなかった。イノチは訝しげな表情を浮かべつつ、説明書の他の部分に目を通していく。
「なになに…本機はフルダイブ体感型VR機です。使用方法は簡単で…ヘッドセットを頭に取り付け、ベッドなどに横になり、キーコード《リンクオン》と発すれば起動します…ふむ。」
そこまで読むと、VR機に一度目を向ける。真っ白なヘッドセットを一瞥し、再び説明書を読んでいく。
「現在プレイできるソフトは…次世代型MMORPG 《アクセルオンライン》で異世界を舞台とした大規模多人数参加型のオンラインゲームです。本機を起動すると自動でダウンロードされます…か。なんか面白そうじゃん!」
イノチはそう言うと、説明書を下に置き、ヘッドセットを取り上げる。真っ白な機体の一部に【Z】と記されていたが、特に気にも留めずそれを被り、そのままベッドに横になる。
取り付けたのはいいが、何も起動していないため、案の定、目の前には暗闇が広がっている。
「…えっと…なんだっけ?リンク…リンクオン…だったか。」
説明書の内容を思い出しながら、イノチはキーコードを口にした。
すると、それに反応するように機械音が聞こえ始める。視界の先がゆっくりと明るくなっていき、『welcome to Ba……』という文字が立体的に浮かび上がった。
「バ……へようこそ…やっぱり読めないな。」
自分の語彙力の問題か、はたまた製作者のこだわりなのか、ゲーム機の名前と同じで最後の単語は読めなかった。
そんなことを考えている内に視界は暗転し、今度はどこからともなく音楽が聞こえてくる。
「…あれ?音が聞こえる…イヤーピースとかないのに、どんな原理なんだ?骨伝導とかかな…」
疑問に思うイノチをよそに、聞いたことのあるクラシックのような音色がゆっくり流れ、その音楽に合わせるように再び視界が明るくなる。
少し眩しさを感じつつも、徐々に鮮明に広がっていく光景に、イノチは感嘆の声をあげた。
真っ白な空間。
左右上下…全方位を見渡しても、全てが白く、空と地上の境はまるでわからない。
そもそも白すぎて空すらあるのかわからないほどである。
辺りを見回しつつ、目の前にある受付台のような物に視線を向けると、そこには眼鏡をかけ、頭に輪っかを乗せた人物が座り、何やら書類に目を通しているようだった。
「…てん…し…?」
イノチは無意識に言葉をこぼした。
受付台に座っている人物は、胸から下は見えないが、頭の輪っかと金色の髪が特徴的だったためか、イノチの頭の中で『てんし』という単語が連想されたのだ。
さらに驚くのは、その天使の動きが本当にリアルなことだ。
手や体の動きはもちろん、目の動きなど全ての動きが本物にしか見えない。リアル過ぎて、本当にゲームの中なのかと思ってしまうほどだ。
その動きに目が離せないでいると、天使の方が自分を見ているイノチに気づいた。
彼?はアッと驚いた表情を浮かべると、見ていた書類を急いで片付け始める。そして、受付台の上をきれいに整えると、イノチに向かって声をかけてきた。
「ようこそ!アクセルオンラインの世界へ!!」
そう言いながら、笑顔を顔いっぱいに広げて両手を上げている天使に、少し胡散臭さを感じつつ、イノチはその言葉に反応する。
「…えっと、あなたは…?」
「私はアリエルと申します。アクセルオンラインにログインしていただいたプレイヤーへ、最初のご説明をさせていただく、いわば案内役のような者です。さっそくですが、まずは初期登録をお願いしますね。」
アリエルと名乗る天使は、かけている眼鏡を右手で整えながらそう言うと、手元に用意していた一枚の用紙を取り上げ、イノチの方へと放り投げた。
しかし、それは床に落ちることなく、まるでその天使に操られているかのように、フワフワとイノチの方へ飛んできて、目の前で止まったのだ。
イノチは現実世界では絶対に経験できないことに、興奮の色を隠せずにいた。
「すっ…すっげぇ!!どうやったの??マジでこれ、どうなってんだ?!」
鼻息を荒くして、目の前に浮かぶ用紙を突っついたり、指でなぞったりしているイノチに対して、アリエルはクスッと笑って声をかける。
「ここは現実世界とは異なる世界ですからね…今みたいなことなんかより、もっと凄い事がこの先あなたを待ち受けていますよ。」
「…もっと凄いこと…」
その言葉を聞いて手が止まったイノチは、生唾をゴクリと飲み込んだ。
それを見たアリエルは、再び小さく笑い、改めて述べる。
「ですので、まずは初期登録をお願いします。詳しい話はそれからしましょう。」
イノチは、コクコクと頭を振ってその言葉に応じることにする。目の前に浮かんでいる用紙の内容に目を向けると、それに併せてアリエルが話し始める。
「まずはプレイヤーネームです。20文字以内であれば、どんな名前でも使用できます。どうなさいますか?」
イノチは少し考える素振りを見せたが、すぐに口を開いた。
「やっぱりこれだな。…えっと"イノチ"で…片仮名で"イノチ"でお願いします。」
このプレイヤーネーム…まぁ本名なのだが、今までどんなソシャゲでも使ってきたネームであるため、もはやこれ以外のネームは違和感すら感じてしまうのだ。
「"イノチ"ですね…え~と…」
アリエルは何やら本を開いて、目線でなぞるように調べていたが、少しするとイノチの方に向き直る。
「問題ないですね。そのネームは使用可能です。では、あなたのプレイヤーネームを"イノチ"で登録します。」
アリエルがそう告げると、目の前に浮かぶ用紙の一番上にあるプレイヤーネームの欄に"イノチ"と記されていく。
用紙にネームが記され終わると、二つ目の欄にカーソルが移動する。そして、それを確認したかのように、アリエルが話し出した。
「次は基本職を選んでいただくのですが…その前にチュートリアルにて、基本のシステムを説明しますね。」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる