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「サムル様…カロンを巻き込むのは卑怯ですよ…」

「もう時間がないからね。なりふり構っていられないよ。使える手は使わせてもらう。僕はどうしても君が欲しいからね。」


アロンが怒りのこもった声を上げるけど、サムル様はそんなアロンを笑顔でかわす。



「だからアローン。君の能力を買って、僕は君を人材が薄くなった侯爵位に推薦したい。そして、私と共に国を作っていってほしい。」

サムル様はアローンに向かって一枚の紙をチラつかせる。

「なっ…」

「君にはそれだけの価値があるとおもっている。」
「僕は…貴族になるつもりはありません。」
「それはどうして?」
「どうしてって…」

私を抱きしめるアロンの力が迷いからか緩まる。
言葉を詰まらせるアロンに対してサムル様はフッと何か意味深な顔をする。


「じゃあ…いろいろと手続きは面倒だけど公爵になる?君なら大丈「なんでですか?…お断りします」

即答するアロンにサムル様はクスクスと笑い始める。

「…君は爵位を受け取るべきだよ。アローン…君が爵位を拒むのは実家のハウル商会が、代々爵位を受けず、平民の商家として成功をなしたからだろう?同じようにしないと認められないとでも思っているのかな?」

「……」

「言わせてもらうけど、外商を中心とするハウル商会と君が作ったロン商会は全く異なる商会だ。君の商会で扱うものは今までこの国になかったもので高価なものばかり。新しい物好きな貴族達も興味本位で手を出すとは思うけども、品物そのものは貴族よりも普通に生活をしている平民に需要があるものばかりだ。

現在、私と共に計画している民衆向けのクリーンボックスを銅貨一枚で誰でも使えるコインランドリーや、購入した食品をその場でホットボックスで温められるコンビーニ。食材を扱う店にクールボックスを貸し出すレンタル業。それらを幅広く展開するためにも爵位を持っていれば有意になるはずだ。」

「…それは…」

アロンが戸惑いを見せる。
そんなアロンを見てサムル様は少し考えるように視線を私に移す。


「これは言いたくなかったけど、カロリーナさんの為にも爵位はあった方がいいよ。これは企みなく親切心から言わせてもらう。

カロリーナさんは伯爵家の立派な貴族令嬢。しかも、つい最近まで妃教育を行なってきた。アローンと共になり平民となったらその苦労は計り知れないよ。周りと考え方も生活形態も異なるんだから。」


アロンは抱きしめながら私を見つめると少し悩んだ顔をする。
私はそんなアロンの腕をグッと掴む。

私のせいでアロンを苦しめてる?


「アロン。私は…」

「なにより、君が求めれば爵位をあげるついでにハウルの名を捨てて新たな家名をあげられる。そうしたら君はより自由になるんじゃない?いい提案だと思うよ。」


“私は大丈夫だよ”
そう伝えようとするより先にサムル様が勝ち誇った顔で言った。


そのサムル様の言葉にアロンはバッと反応する。
そして、何かを決意したかの様に深くため息をつく。


「…私の唯一の計画の失敗は貴方の本当の姿を見極められてなかった所ですかね…爵位を頂くのは私にとっては大きな利がありそうですね…負けましたよ。殿下」


そう言ってアロンは再び私から離れるとサムル様の前まで行って膝をついて頭を下げる。


「サムル殿下…私アローン・ハウル。殿下の提案をありがたく承りたいと存じます」

「やっと落ちてくれたね。」

サムル様は嬉しそうにフゥーと長く息を吐く。


「爵位を頂きそれに準じた働きは約束いたします。ですが、私は根っからの商人です。なので、殿下の側近となる事はできません。」

「……っ」

アロンは下げた頭を上げながら不敵な笑みを浮かべてサムル様に言う。
サムル様はその言葉を聞いて一気に怪訝な表情になる。


「ただ…僕が殿下の側近になる事は難しいですが、殿下が望むのであればこのロン商会。全勢力を持って殿下の為に動きましょう。側近よりその方が殿下もよろしいのでは?我商会の実力は…見ての通りですので。」

アロンの提案にサムル様は目を見開く。

「また、ローライはロン商会に入って力を発揮して頂きます。先程一度断られているのですから執念に勧誘するのはやめてくださいね」

その言葉を聞いたサムル様はククククッと笑い始める。


「お前はただでは落ちないな…確かにそれは魅力的な提案だ。それでいい。いや、それがいい。」

サムル様はそう言ってアロンと握手をかわした。


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