46 / 92
44.
しおりを挟む
自身の中にある甘い誘惑に負けないようにグッと拳に力を入れる。
アロンの気持ちは分かった。
“嬉しい”
でも、だからといって私がマルク様の婚約者である事は変わらない。
“苦しい”
現実は残酷だ。
だから…自分からアロンの気持ちを聞いたくせに…
アロンのその言葉に対して私は昔の様に答える事はできない。
黙っている私に、アロンは少し悲しげな表情を見せる。
そんな表情をみても、私は何もできない。
何かする資格すらない…
周りのみんなもそんな私の気持ちを感じてか、何もいわない。
沈黙が続く…
沈黙が…辛い。
「…そ、そういえば…さっきからアロンが言っている計画って?」
私が沈黙に耐えられなくなって…沈黙を破るために思いついたまま聞くと、アロンは「あぁ…」と言って私の隣から立ち上がる。
「そうだよね。それを話さなきゃね。うん。じゃあ順を追って話すよ。」
「えぇ」
「僕とカロンを引き離した原因。それは何?」
私達を引き離した原因…
「…ハウル商会とミスドナ伯爵家が婚姻を結ぶのは国に問題が生じるから?」
「そう。僕達は子供でその問題に対して何も為す術がなかった。だから両親達にも申し訳が立たなくて、辛くて…自然と離れていった」
「そうね…」
「でも、僕は考えたんだ。僕が自立して力を付けてハウル家を出ればカロンを迎えに行けると…」
「っっ何を言って…アロンはハウル商会の後継じゃっっ」
私が思わず声を上げると、アロンは私の唇に人差し指を立てて黙らせる。
「ハウル商会の後継は僕だけじゃない。姉さんがいる。姉さんもかなりのやり手だし、夫であるロッテも優秀な商人。そして、2人の間にはまたその後を継げる息子もいる。何の問題も無い。姉さんにも了承を得た。姉さんは僕とカロンの事を応援してくれていたからね」
「でも、おじさまは…」
「父は…まぁ…いい顔はしないよね。だからこそ父の力を一切借りずに父も認めさせるだけの力が必要だった。」
アロンは数歩進んで立ち止まると、ぐっと拳を握る。
「僕にできる事は幼い頃から父の近くで学んだ商人としての知識。でも、ただの商人ではハウル商会を越える事なんてできない。父を認めさせられない。
だから、どうしたらいいのか色々考えたよ。街に出て何か手立てを作るために情報を集め、闇雲に人脈も作っていった。そして、そんな時、街でマリコに会ったんだ。」
「マリコ…先生に?」
「ああ。マリコは、街の中で冷蔵庫が欲しいとか電子レンジが何で無いんだって意味不明な事を騒いでいた。」
れいぞうこ?
でんしれんじ?
マリコ先生を見るとニコリと笑って、私に向かって手を振る。
「その頃のマリコは上手く変装をしていて転移者とはわからなかったが、近づいて色々話を聞いた。異世界のマリコの話は興味深かったし、商売になると直感で感じた。でも、現時点この世には無い物ばかりで…正直マリコが理想とする物を作成するには金銭的にも技術的にも難航したよ」
「それで…?」
「融資をしてくれるだろう人に近づいて人脈を作り、技術者も国中を回って探した。そして、そんな中でココットにも出会った。」
「エリーさんに…」
「最悪な出会いだったわよ。正直逃げ回ったわよ」
「…」
「ココットは僕達平民が通う中等科でトップの成績を取り続けたIQ150超えの天才でちょっとした有名人だった。そして、マリコの言っている事を少し聞いただけで何の躊躇いもなく理解した。」
「えっ?」
転移者の言っている事を躊躇なく?
「あー…うん。私、実は転生者なんですよ。マリコ先生と同じ世界の同じ時代を生きていたの。
その当時から頭だけは良くてねー。一度見た事、覚えた事は忘れないの。だから前世でも今世でも色々な知識だけは豊富に持っているのよ。でも、色々面倒だから転生者だと言う事は周りにバレない様に上手く誤魔化していたんだけど…よりによってアローンにバレちゃって、目つけられて…今に至るんです。
あっ…この事を知っているのはここにいる人だけなので内密にお願いしますね」
「えぇっっ!!??」
エリーさんが転生者?
そんな…物語の中の様な話。本当にあるんですね…
アロンの気持ちは分かった。
“嬉しい”
でも、だからといって私がマルク様の婚約者である事は変わらない。
“苦しい”
現実は残酷だ。
だから…自分からアロンの気持ちを聞いたくせに…
アロンのその言葉に対して私は昔の様に答える事はできない。
黙っている私に、アロンは少し悲しげな表情を見せる。
そんな表情をみても、私は何もできない。
何かする資格すらない…
周りのみんなもそんな私の気持ちを感じてか、何もいわない。
沈黙が続く…
沈黙が…辛い。
「…そ、そういえば…さっきからアロンが言っている計画って?」
私が沈黙に耐えられなくなって…沈黙を破るために思いついたまま聞くと、アロンは「あぁ…」と言って私の隣から立ち上がる。
「そうだよね。それを話さなきゃね。うん。じゃあ順を追って話すよ。」
「えぇ」
「僕とカロンを引き離した原因。それは何?」
私達を引き離した原因…
「…ハウル商会とミスドナ伯爵家が婚姻を結ぶのは国に問題が生じるから?」
「そう。僕達は子供でその問題に対して何も為す術がなかった。だから両親達にも申し訳が立たなくて、辛くて…自然と離れていった」
「そうね…」
「でも、僕は考えたんだ。僕が自立して力を付けてハウル家を出ればカロンを迎えに行けると…」
「っっ何を言って…アロンはハウル商会の後継じゃっっ」
私が思わず声を上げると、アロンは私の唇に人差し指を立てて黙らせる。
「ハウル商会の後継は僕だけじゃない。姉さんがいる。姉さんもかなりのやり手だし、夫であるロッテも優秀な商人。そして、2人の間にはまたその後を継げる息子もいる。何の問題も無い。姉さんにも了承を得た。姉さんは僕とカロンの事を応援してくれていたからね」
「でも、おじさまは…」
「父は…まぁ…いい顔はしないよね。だからこそ父の力を一切借りずに父も認めさせるだけの力が必要だった。」
アロンは数歩進んで立ち止まると、ぐっと拳を握る。
「僕にできる事は幼い頃から父の近くで学んだ商人としての知識。でも、ただの商人ではハウル商会を越える事なんてできない。父を認めさせられない。
だから、どうしたらいいのか色々考えたよ。街に出て何か手立てを作るために情報を集め、闇雲に人脈も作っていった。そして、そんな時、街でマリコに会ったんだ。」
「マリコ…先生に?」
「ああ。マリコは、街の中で冷蔵庫が欲しいとか電子レンジが何で無いんだって意味不明な事を騒いでいた。」
れいぞうこ?
でんしれんじ?
マリコ先生を見るとニコリと笑って、私に向かって手を振る。
「その頃のマリコは上手く変装をしていて転移者とはわからなかったが、近づいて色々話を聞いた。異世界のマリコの話は興味深かったし、商売になると直感で感じた。でも、現時点この世には無い物ばかりで…正直マリコが理想とする物を作成するには金銭的にも技術的にも難航したよ」
「それで…?」
「融資をしてくれるだろう人に近づいて人脈を作り、技術者も国中を回って探した。そして、そんな中でココットにも出会った。」
「エリーさんに…」
「最悪な出会いだったわよ。正直逃げ回ったわよ」
「…」
「ココットは僕達平民が通う中等科でトップの成績を取り続けたIQ150超えの天才でちょっとした有名人だった。そして、マリコの言っている事を少し聞いただけで何の躊躇いもなく理解した。」
「えっ?」
転移者の言っている事を躊躇なく?
「あー…うん。私、実は転生者なんですよ。マリコ先生と同じ世界の同じ時代を生きていたの。
その当時から頭だけは良くてねー。一度見た事、覚えた事は忘れないの。だから前世でも今世でも色々な知識だけは豊富に持っているのよ。でも、色々面倒だから転生者だと言う事は周りにバレない様に上手く誤魔化していたんだけど…よりによってアローンにバレちゃって、目つけられて…今に至るんです。
あっ…この事を知っているのはここにいる人だけなので内密にお願いしますね」
「えぇっっ!!??」
エリーさんが転生者?
そんな…物語の中の様な話。本当にあるんですね…
1
お気に入りに追加
3,425
あなたにおすすめの小説
無能と呼ばれ、婚約破棄されたのでこの国を出ていこうと思います
由香
恋愛
家族に無能と呼ばれ、しまいには妹に婚約者をとられ、婚約破棄された…
私はその時、決意した。
もう我慢できないので国を出ていこうと思います!
━━実は無能ではなく、国にとっては欠かせない存在だったノエル
ノエルを失った国はこれから一体どうなっていくのでしょう…
少し変更しました。
婚約破棄?ああ、どうぞご自由に。
柚木ゆきこ
恋愛
公爵家子息により急に始まる婚約破棄宣言。その宣言を突きつけた令嬢は婚約者ではなく、なんと別人だった。そんなちぐはぐな婚約破棄宣言を経て、最終的に全てを手に入れたのは誰なのか‥‥
*ざまぁは少なめ。それでもよければどうぞ!
婚約破棄ですか? ありがとうございます
安奈
ファンタジー
サイラス・トートン公爵と婚約していた侯爵令嬢のアリッサ・メールバークは、突然、婚約破棄を言われてしまった。
「お前は天才なので、一緒に居ると私が霞んでしまう。お前とは今日限りで婚約破棄だ!」
「左様でございますか。残念ですが、仕方ありません……」
アリッサは彼の婚約破棄を受け入れるのだった。強制的ではあったが……。
その後、フリーになった彼女は何人もの貴族から求愛されることになる。元々、アリッサは非常にモテていたのだが、サイラスとの婚約が決まっていた為に周囲が遠慮していただけだった。
また、サイラス自体も彼女への愛を再認識して迫ってくるが……。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。
銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」
私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。
「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」
とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。
なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。
え?どのくらいあるかって?
──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。
とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。
しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。
将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。
どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。
私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?
あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。
◆◆◆◆◆◆◆◆
需要が有れば続きます。
真実の愛に婚約破棄を叫ぶ王太子より更に凄い事を言い出した真実の愛の相手
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式が終わると突然王太子が婚約破棄を叫んだ。
反論する婚約者の侯爵令嬢。
そんな侯爵令嬢から王太子を守ろうと、自分が悪いと言い出す王太子の真実の愛のお相手の男爵令嬢は、さらにとんでもない事を口にする。
そこへ………
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。
◇なろうにも上げてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる