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なんか心配だって

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 食堂で待って居るとタルドレムが入室した。文月を見た途端駆け寄ってくる。タルドレムは文月の両手を取ると、じっと見つめてきた。

「大丈夫か?」
「う、うん?大丈夫だよ?」

 ドレスの効果はバツグンだ。
 タルドレムの過剰とも思えるいきなりの気遣いに文月は若干引き気味である。

「そうか、なら良いんだが無理はするなよ?」
「うん、ありがと無理しないようにするよ」
「あぁ、そうしてくれ」

 両手を下から支えたままタルドレムは少し屈み目線の高さをぴったり合わせた。
 ど真ん中の真っ正面。
 じんわりと文月の頬が色付いてゆく。

「あの、ホント、大丈夫だから……」

 何故か視線を外すことが出来なくて見つめ合ったまま文月は固まってしまう。
 文月はタルドレムの緑の瞳に魅入ってしまう。
 タルドレムも文月の黒く輝く瞳に魅入られていた。

「た、タルドレム?」
「なんだ?」
「あの、その、えっと。……瞳の色、綺麗だね」
「フミツキの瞳も美しい。吸い込まれそうだ、いつまでも見ていられる」
「うっ、ありがとう」

 二人がお互いの瞳を見つめ合っていると、おほんおほんと言う咳払いのマネが聞こえた。

「タルドレムの目の色はお母さん譲りなのよー」

 二人がハッとして顔を向けると王と王妃が入室していた。

「タルドレム、体調の優れない伴侶をあまり立たせたままにするものではないぞ」
「そうよー、そうよー」
「そうですね、おっしゃる通りです。フミツキの美しさに見惚れていて失念してしまいました」
「致し方無い理由ではあるが、気がついたのであれば早く対応しろ」
「そうよー、そうよー」
「はい。フミツキすまなかったな席に着いてくれ」
「あぅあぅ」

 文月は手を取られ腰に手を添えられ席までエスコートされる。タルドレム自ら椅子を引き文月を座らせた。とてもスムーズな一連の流れである。
 褒め殺されそうになっていた文月はのぼせ上り、されるがままだ。

「フミツキちゃん、無理はしないでいいのよー?」
「うむ、食事は部屋に運ばせることも可能だ。遠慮なく言うが良い」
「ありがとうございます。けど、その、病気って訳じゃないので大丈夫、です」
「んー?あっそっか、タルドレムのせいねー」

 同じ女性であるジクドリア王妃は文月が生理である事にすぐに思い至った。
 だが決してタルドレムのせいではない、文月の性のせいだ。

「なに?タルドレムの責なのか。貴様なにをした?」

 理解が及ばないマドリニア王はギロリとタルドレムを睨む。睨まれたタルドレムは本気で焦る。

「母上っ、心当たりがありません」
「心当たりが無いのが問題なのよー」
「フミツキっ本当に俺のせいか?!」

 焦ったタルドレムは文月に助けを求めてしまう。なにせマドリニア王からの圧力が半端無いのだ。

「いえあの王様、違います。タルドレムのせいじゃありません。あの僕の……体調のせいです」
「庇う事はないぞ」
「いえ、その、あの、ホントにタルドレムのせいじゃないです」
「あなた、あなた、ほらー察してあげてー」
「ん?ん?」

 ジクドリア王妃に言われマドリニア王は眉を寄せる。

「フミツキちゃんにあってー、私に無いものなーんだ?」

 明るい口調でジクドリア王妃はクイズを口にする。

「……、……。なるほど」

 ようやくマドリニア王も文月が生理である事に思い至ったらしい。

「タルドレムのせいだな」
「な?!」
「でしょー」

 一人だけ理解が及ばないタルドレムは益々困惑する。だがマドリニア王からの圧力が消えて尚のこと訳がわからない。
 リグロルがタルドレムに近づき、こそっと一言だけ耳打ちした。

「……確かに俺の責任だ」
「そんな責任感じないでっ!」
「来月は俺が来ないようにさせる」
「ぴぃっ!いいよ!いいよ!そんな事しなくて!」
「遠慮はするな」
「してないっ!」

 同席中の全員に生理中である事が知られてしまった。なんてなんてなんて恥ずかしいんだろう。
 このドレスを着ている原因が知られたら「生理中でーす」と周囲に喧伝をしているのと同義という事実に今更ながら思い至った。
 もう絶対このドレス着ないっ。
 心中で硬い決心をした文月であった。
 しかし、それでもすぐに着替えるわけにもいかず文月は頬を染めて楚々と食事を進めた。
 周囲から慈愛の目線が注がれるのがなおの事、文月の恥じらいに拍車をかけた。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「脱ぐ、今すぐ脱ぎます」
「かしこまりました」

 自室に戻った途端、文月は脱衣宣言しリグロルはそれに応じた。

「うーあんなに恥ずかしいとは思わなかったー」

 下着姿になった文月はベットに飛び込みクッションに顔を埋めた。
 お尻をフリフリして恥ずかしがる。

「そうですね、生理中である事を知られるのはちょっと恥ずかしいですね」
「ちょっとじゃ無かったよー」
「皆様フミツキ様の事を慮っての事ですから」
「うー分かってる、分かってはいるんだけど」

 それはそれ、これはこれ、というヤツだ。
 食事の最後のお茶も文月だけ痛み止めの薬草茶だった。誰が命じたわけでもなく頼んだわけでもないのに、当たり前のように出された。
 ぷしゅーと頭から湯気を出しながらも文月はそれを頂いたのである。

「うー、早くおわんないかなー」
「お体が冷えますよ」

 そう言ってリグロルは文月の動いている腰に懐炉を置いてあげる。

「んぁ、……」

 心地良くて文月の口から吐息が漏れた。

「ぁう、気持ちいい……」

 このお姿をタルドレム様にも是非見て頂きたい。その後の進展が色々と捗る事間違い無しですね。
 そう思いながらリグロルは文月に毛布を掛けてあげる。

「あうー、あうー、早く終われー」
「こればかりはご辛抱ください」
「うにゅー、うにゅー」

 妙ちきりんな呻き声をあげながら文月は毛布の中で丸くなった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

「昼間寝過ぎたからあんまり眠たくならないなー。お腹もまだ痛いし……」

 毛布からちょっとだけ顔を出し文月はもぞもぞする。

「そうですね、無聊を慰めるのに音楽等はいかがですか?」
「え?音楽あるの?」
「ございます。とは言ってもフミツキ様にとっては聴き慣れない旋律になるかとは思いますが」
「構わないよ。聴かせて」
「かしこまりました、ただいま準備いたします」

 そう言ってリグロルは衣装室に入って小箱を持ち、戻ってきた。
 枕元のサイドチェストに置くと中からハープを取り出した。
 文月の知っているハープは成人女性が抱えるようにして演奏するような大きさだ。それと比べると目の前にあるハープはミニチュアである。

「ちっちゃいね」
「そうですね、けれども魔道具の一種なので綺麗な音色を出しますよ」
「え?魔法の道具なの?」
「はい、この様にして使います」

 リグロルはミニチュアハープの弦を1本指先で摘んで離した。
 ポーンと言う耳心地のよい音が鳴り、その音を基音としてメロディを奏で始めた。

 ♪~♫~

「ふわぁ~、素敵……」

 文月は起き上がりベットの上で女の子座り。懐炉を抱えたままキラキラした瞳でそのハープを見つめて音楽に聴き入った。
 ハープはしばらく鳴っていたが、1曲が終わったようで静かになる。

「これ僕にも鳴らせる?」

 期待を込めた目で文月はリグロルに問いかけた。

「勿論です。わずかだけ指先に魔力を込めて弦を爪弾いてください」
「こうかな?」

 言われた通りに文月は弦を1本鳴らした。

 ♬~🎶~

 リグロルが鳴らした時とは違う楽曲をハープは演奏しだす。

「わぁ、楽しいっ」

 文月は嬉しくなって座ったままベットの上でぴょこぴょこ体を揺する。

「私もあまり耳にしたことがない曲調ですね」
「ん?ハープが覚えている曲が鳴るんじゃないの?」
「これは鳴らした人の魔力や気分によって曲が変わるんです。ですので同じ曲が鳴る事は稀だと思いますよ」
「一期一会の曲なんだね」
「そうなります」
「んじゃ大事に聴かないと」
「はい傾聴いたしましょう」
「あっ……」
「どうされました?」
「体揺らしてたら……もれちゃった」
「当て布を新しくいたしましょう」

 恥じらいながらリグロルに手伝ってもらい文月はトイレで当て布を替える。
 戻ってきた時には演奏は終わっていた。
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