上 下
2 / 2

なんでおまえがここにいるんだあ!嫁

しおりを挟む
 わしは今絶望に打ちひしがれている。
 前世がウソなくらい今世はモッテモッテだからだ。
 わしを見ては老若男女問わず見惚れて、ため息をつく。
 爽快な気分も少しはあるが、問題なのは求愛してくるのは
 ほぼ100パーセント男しかおらんことだな。

 いくらなんでもこの意識のまま男と結婚はない!
 前世からそういう性癖ならばよかったが、まったくそれはない!
 やっぱ精神が男だから、感情が否定してしまうな。
 まずその男のフェロモンが嫌だな。
 油きった手も、口も顔がごついのも、、、まあ何もかも嫌なんだな。

 やっぱおばはんでもまだうちの女中頭40歳くらいならまだいい。
 たとえ美青年でも美少年でもだめだ!男の匂いがいかん!

 前世からわしは女遊びなど一切しないまじめな男だったのだ。
 まあ家のローンとかあってできなかったと言うのもある。
 景気の良い時に組んだローンの高さに挑み続けた生涯と言えるだろう。
 ふうーいやそんなことよりも。

 もてないくん30年のわしが、お見合いで一目で惚れたのが嫁だった。
 そこそこ美人で、明るくてノー天気なところがツボだった。
  嫁には最初うざがられたが、三顧の礼を尽くして嫁に来てもらったのだ。

  ストーカーではないが、今思えば危なかったな。いい思い出だ。
 
 男は嫌なんじゃーと言うことで、だから女に走ることはないけどな。
 美人じゃーFカップーとか思ってもそれはそれ令嬢だからわし。

 しかし運命とはえぐいのな。男に生まれたら、これだけの美貌なら
 モテまくってカサノバとか光源氏とか、前世でもてなかった分正反対の生き方ができたのでは?
 なーんて思ってしまうのはわがままだろうか?

 ま、とにかく、禿頭のおっさんの幻の顔とおっさんの心で
 男と結婚とか、あまりに非道!
 もうなんか死にたい気分なんだが、、、

 そんなこんなで適齢期になってしまったので、親に勝手に決められてしまった。
 この世界での適齢期とは14歳からで、わしは15歳でなんでばっちりだ。

 今世の両親とは前世とまったく違った生活スタイルで、わしは乳母やら教育係の召使に育てられ、
 食事の時以外にはあまり交流はない。
 それがこの世界の貴族の普通の暮らしらしかった。
 だから、いきなり母親に呼び出された時は良からぬ予感がしたのだが。

 わしの家は一応名門らしいのでわりとでかい家を持っている。
 サラリーマン50年ローン完済したわが家の小ささから比べると
 なんだか虚しくなるような大きさだな、比較しても仕方ないのだが。

 いちいち親の部屋まで広い通路を通って行く、夜は通路が怖いぞー
 まあ室内にトイレがあるからいいんだが。
 なぜかトイレ事情はこの文明下にしてましな方だ。
 下水も紙もあるので昔の和式トイレを洋風にしました的な感じではある。
 そして各家族の部屋には寝室と応接間と衣装部屋があるのだ。
 わしのローンの家がこのわしの私室より狭いのはなんともいえんのだが。
 
 白いドアを開けると椅子に座るまだ20代後半くらいの美女がいた。
 この女性がわしの母親なのだ。
 白金の髪に青い瞳に白い肌、あまりの美人さにおっさんの心がくらくらする。
 別にマザコンではない。

「お母様およびでしょうか?」
 一応わしも令嬢のはしくれなので、血と涙の修行の末に、令嬢スキルがあがり、優雅な礼もできたりする。
「アンジェリーカ、わたくしの美しくかわいい天使、今日のそのドレスはお前の瞳に良く似合ってよ」
「お母様のお召し物の方が素敵ですわ、朝露に濡れる薔薇のようでお似合いですわ」
 ・・・・・・・・・・
 なんとも言えない歯の浮くようなセリフは別にわが家がナルシスト家系なわけではない。
 これもまた社交界を生き抜くための血を吐くような特訓なのだ。
 母親曰く、社交界とは言葉の刃で戦う修羅の戦場のごとしなのだ。
 怖すぎるだろう社交界。

「あなたに素晴らしいお話をいただいたのよ」
 母親がにっこり笑って、わしを断頭台におくるセリフを吐いた。
「あなたのいいなずけがきまりました」

 ついに来てしまった、、
 侯爵の跡取り息子と婚約の運びになってしまった。
「侯爵家のあととりは、すごい美男子だし、美男美女でおめでたい」
 家族や親せきからもお祝いが届き屋敷の者も大喜びだ。
 お見合い肖像画を見たら、本当に美男なんだが、所詮男だ。
 ニューハーフならまだしも、男でしかないじゃないか!
 まあ、わしは令嬢なんだから、相手が令嬢でないのは分かってはいるんだが

 そんなこんなでもんもんとしてたら、
 わしの元気のないのをいぶかって両親が親戚の女子を呼んだらしい。
 励まして欲しいと言うことだろうな。
 いままでわしは前世記憶持ちなんで、周囲の貴族女子とはあまりお友達になれなかった。

 女学校もあるにはあったが、わしの両親はそこへは何故か入れたがらないので、若いぴちぴちの女子はメイドの下働きを見かけるくらいしかなかったのだ。
 ベテランのメイドはおばちゃんばかりなのでな。
 今は同性なんだがぴちぴちの女子と言うだけでわしは興奮してしまった。

 最近は舞踏会にいやいや連れ出され、女子には遠巻きに見られて近づけず。
 男からは気持ち悪いキッスを手の甲にされる拷問を受けていて本当に憂鬱だったのでうれしい。
(手袋してるからと言って気持ちわるさにはかわらないぞ)

 親戚の男爵令嬢であり魔導師と言うことで高名な、エカテリーナ嬢が我が家に遊びにくることとなった。
 親戚の割には会ったことはない。
 なんでも天才的な素質の持ち主で、子供のころから活躍してたようだ。
 この世界にはファンタジーな世界なので魔法を使える人はいるが
 あまりに数が限られるので引く手あまたで忙しいのだ。
 しかし、わしの身近では魔道を使う人がいなかったので、
 すごく興味があるな、前世の手品師に興奮したものだが、今回は種なしハンドパワーなんだからな。

 婚約者の件は頭の隅っこに追いやって、美人魔導師令嬢をわくわく待っていた。

 「おつきになられました」
 メイド頭がサンルームに連れて来た少女を見てわしは愕然とした。

 女性なのにパンツルックで白いマントを羽織り、白いベレー帽をかぶっていた。

 手には意匠をこらしたステッキが握られて、魔女っ娘的な雰囲気をかもしだしているのだが、、
 このかわいらしい、、服の
 このかわいらしい恰好の少女の顔には
 二重写しのようなおばちゃんの顔がかぶさっていたのだ。
 それはなつかしい優しげな女性の、、

 「あなた、、、」
 その女性はわしのことをそう呼んだ、、
 間違いない。

 「美代子!おまえだったのか」
 この世界でまたおまえに巡り合えたのか美代子!
 などとわしは感傷にふけってたのだが、、

 やはり元おばちゃんは強かった、感傷もくそもなく。
 前世の嫁は豪快に爆笑した。
 「ド、、ドレスとあなた、、、すごい」

 失礼すぎる!
 「すごいとはなんだー!」
 つい令嬢らしからぬ叫びを上げるのだった。
 
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

ツクヨミ
2023.11.30 ツクヨミ

感想失礼します!
普段は読まないカテゴリーの小説でしたが、一個一個反応が面白くてすんなり読んでしまいました(^^)

解除
蒼あかり
2022.07.22 蒼あかり

面白かったです。
段々BLになりそうな雰囲気を醸しつつ、前世での奥様登場でそれは阻止されるのかな?と思いきやここで終わりにする辺り、なにプレイ?
大分前の作品のようですが、もう書かれないんですか?
今後の作品も期待しています。

松平悠里
2022.07.23 松平悠里

ありがとうございます。自分の中でラストが見えると満足するという、どうしょうもない奴なんです。
あと、仕事で疲れてかけなく、皆様は仕事しながら、家事しながらの方もいるので、本当に自分なさけないです。
読んでいただいてありがとうございました。

解除
カヨワイさつき
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。