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7話
しおりを挟む「わかりましたから、離してくださいっ……」
少し強く掴まれていたので、痛くなってきて俺はその手を振り離そうしたのがやはり無駄になってしまった。
「おっと、乱暴だな」
「痛いんです……」
「え、そんなにか?そこまで力入れてないぞ……」
「これでですか?おかしいですよ」
「ふぅん、そう」
彼はそっけなく答えるとぱっと手を離した。
「詫びに飲み物でも入れてやるよ、何がいい?」
「いや、そんなのいいです……」
「遠慮なんていらねぇから。おい、山野!なんかこいつが飲めそうなのあるか?」
「はい、確認してきます!」
陸兎さんは問われた途端に走り出した。
「麦茶と緑茶、くらいですが……どうしましょうか?」
部屋の奥から陸兎さんの声が聞こえた。
「少なくてごめんな。どっちがいい?」
寿人さんは頭を掻きながら俺に聞いた。
「大丈夫です。お言葉に甘えて……じゃあ緑茶で」
「了解。山野、聞こえたか?」
「緑茶でしたよね、組長はどちらか飲みますか?」
「俺も同じのでいいよ」
彼はそう答えると、部屋に目立つように置いてある高そうな机の方に歩いて行った。
「じゃあ、奏君そこの椅子にでも座っといて」
「はい……ありがとうございます」
俺は近くの並んだ数個の椅子に腰を掛けた。
少しすると、陸兎さんが二人分の緑茶を持って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
目の前に置かれた大きめのテーブルにガラスのコップを笑顔で置かれた。
「ありがとうございます……」
俺は出されたコップを手に取り、お辞儀をした。
緊張していて喉が乾いていたのもあって、俺は直ぐに緑茶を口にした。
「美味しい……」
「そう?普通の緑茶だよ」
陸兎さんは苦笑いしながらそう言った。
「いや、それでいいんです。怖かったので少し落ち着けました」
「だよね……いきなり連れてきたりなんかしてごめんね」
「あの、これから俺どうなるんでしょうか」
不安で声を震わせながら呟くと、寿人さんが話した。
「大丈夫、痛いことはしねぇよ。まぁ、今日は遅いから帰ってもいいし」
「本当ですか、ありがとうございます!」
俺はそれを聞けただけで嬉しくて声を上げてしまった。
「元気だね~」
くすくす笑いながら彼は緑茶を啜っている。
俺は安心したまま出された緑茶を飲んでいたのだが、何故か睡魔が襲ってきた。
「あの、陸兎さん……俺……なんか眠くなって……」
ふぁあと欠伸をしながら一番近くにいた彼に助けを求めた。
「あれ、どうしたの?もう寝る時間?」
彼は笑いながら俺を見ている。
寿人さんも少しニヤニヤしているような気がする。
だが、俺はその理由が分からないままに眠りについてしまったのだ。
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