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9.セントラムの食事事情

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「この状態が普通じゃないとおっしゃいましたが、あなたたちはどのようにしてセントラムへ帰るのですか?」

お父さんが尋ねる。
なんだかんだで誘拐犯の心配をしているんだから、お父さんは優しすぎる。

「いや、もともと今回はマリコを探すかヒカルを連れて行くのが目的だったから、マリコを探す場合はこちらの世界に滞在するつもりではいたのだ。
後日、こちらが合図を送ればまたゲートが開く。
その際にセントラムに帰れるから問題はない。」

その後、ヤジールとキタロスは夕飯をぺろりと平らげた。

「セントラムの人たちって、どんなものを食べるの?」

興味本位で聞いてみた。
外国の人の食の好みとも違うだろうし……。

「私たちは基本的には何も食べない。
聖力さえあれば食べなくても生きていけるし、お腹がすくといったこともないな。」

誰よりも豚のしょうが焼きを食べていたキタロスが言っても、説得力がない。

「まあ、お腹がすくことはないが、なんとなく口に何か入れたい時なんかに食べ物を食べるな。
食べ物は飲み込んだ後、消化されるのではなく、栄養のみを体内に取り込み消失する。
ただ、地球は聖力が少ないから、こちらにいる間は食べないと身体がもたない。」

ヤジールが補足してくれる。
食べ物も消失するんだ。
便利な身体だな。

「お口が寂しいっていう感覚はあるんだね。」

ヤジールは「うむ」と頷き、話しを続ける。

「セントラムで食を必要とするのは聖女のみとなるから、聖女の口に会う食事が、その時のセントラムの食べ物事情に直結するのだ。
だから、最近はもっぱら地球の食べ物を食べていた。
私はよく『飴ちゃん』を舐めていたな。
甘いだけでなく、すっぱいものもあって興味深い。」

え、この金髪碧眼のイケオジ、今「飴ちゃん」って言わなかった?

「飴ちゃん、マリコさんがよく配っていたのではないですか?」

お父さんがうれしそうに問う。

「うむ。
どこに入れているのか、ローブの下からいろいろな種類の飴ちゃんを取り出しては、皆に配っていた。
なぜ分かるのだ?」

「マリコさんのお母さんがよく飴ちゃんを配る人で……。
僕もよくもらっていました。
家にはいつもいろいろな種類の飴ちゃんが常備されていたんですよ。」

お母さんは大阪の出身だ。
おばあちゃんは私が生まれる前に亡くなっていて会ったことがないが、どうやら典型的な「大阪のおばちゃん」だったらしい。

「じゃあ、飴ちゃんでも舐めながら、今後のプランを組み立てましょうか?」

お父さんはそう言うと椅子から立ち上がり、大量に飴が入ったクッキー缶と様々な地図を持ってきた。
ヤジールとキタロスは自分好みの飴を選ぶと口に放り込み、地図の中からちょっと古い道路地図を選び、眺め始めた。
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