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Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革

90.リナ・ロベルティ

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ルドヴィクやリーリウムが怪しんでいるとは露ほども思っていないリナ・ロベルティは、意外にも真面目に授業へ出席し、昼休みと放課後には研究棟へ通うという、優等生のような生活を送っていた。
もっとも、授業はヒマつぶしのために、研究棟へは学園長を脅すため、というのが真の理由であった。

「何のために、おじさんを学園長にしたと思ってるの?
あのじいさんの弟子から研究資料を取り上げるのに、どれだけの時間を費やすんだよ?」

リナは、制服の上からいつものフードを目深にかぶり、学園長室にあるの一番座り心地の良い大きな椅子に腰かけ、声を荒げていた。

「それが、マギア教授はずっと留守をしていて……。
研究室に忍び込もうにも、扉がマギア教授本人でないと開かない魔道具でロックされているため、我々では解除できないのです……。」

本当に困っているというそぶりを見せながら、現学園長であるダーシー侯爵は、リナに平身低頭して謝り続ける。

「教授一人従わせることもできないなら、おじさんを学園長にしておく理由がないんだけど?」

「わかってはいるのですが、実は、最近国王から学園長選出について何度も呼び出されていまして……。
どうやらわたくしを罷免して、新たな学園長を立てるつもりのようです。
学園内でも王太子とその婚約者の公爵令嬢が中心となって、前学園長派の教授たちをまとめていて、そちらの対応で手いっぱいなのです。」

「ふん! 本当に使えない!
私が動くからもういいよ。
おじさんはせいぜい、今の地位を守り抜くことだね。」

苛立ちを隠せないリナは、フードを取ってそれを小さなバッグに押し込むと、乱暴に扉を開けて学園長の部屋から退出した。

(あのおじさんを学園長に据えたのは、この国の学びを止めるためだったのに……。
前学園長派が、まだそんなに力を残していたんだ……。)

闇の魔法使いの気配を消し、留学生のリナとして廊下を歩くと、やはりすれ違う人々は彼女の顔に見惚れる。
話しかけられれば笑顔で対応し、礼儀正しく気さくな令嬢を演じていた。
ただ、時々リナのチャームが効かない相手もいる。
王子たちと護衛騎士たち、そして研究棟のマシューとカイルだ。
先ほども、カイルとすれ違ったが、挨拶をするだけですんなりと自分の研究室へ戻っていった。

(不思議なこともあるもんだな……。)

リナはマギア教授の研究室の前に到着すると、扉をコンコンとノックをした。
中から声は聞こえない。
マギア教授が在室なら魅了して操ってしまえば良かったのだが、留守であればやはり忍び込むほかない。
そっとドアノブに手を掛ける。

「マギア教授なら留守だよ。」

背後から突如声をかけられ、リナは口から心臓が飛び出すかと思うくらい吃驚する。
後ろを振り向くと、独特の気配を漂わせた少女が立っていた。
この気配は、リナも知っていた。

「ごきげんよう。ウェスペル家のご令嬢ですね?」

リナはフレエシアの顔を見据え、丁寧にあいさつをした。

「うん。フレエシア・ウェスペルです。
あなたは、リナ・ロベルティ嬢だよね?
最近噂になっている“麗しの君”。
マギア教授に何か用だった?」

いつの間にか恥ずかしい二つ名がつけられていたことを知ったリナは、少し動揺した。
しかし、それを顔には出さず、フレエシアににっこり微笑みかける。

「はい、魔道具のことで少し相談があったのですが……。
教授がいつお戻りになるか、ご存知ですか?」

リナは適当に嘘をついて、マギア教授について尋ねる。
フレエシアがどう対応するのかも、確認したかった。

「う~ん。最近はあんまり学園には来ていないんだ。
私は時々お会いするけど、何か伝えようか?」

「いえ、また出直します。」

「そう。じゃあ、マギア教授に君が会いに来ていたことだけ、伝えておくね。」

「ありがとうございます、フレエシア様。
それでは、失礼いたします。」

「うん。またね。」

フレエシアは笑顔でリナを見送る。

(ウェスペル家の次女にも、チャームが効かない……!)

リナは振り返り、まだ手を振り続けているフレエシアを一瞬見つめ、手を振り返してまた歩き始めた。
チャームが効かない原理は良く分からない。
他のウェスペル家の娘たちにも会ってみなくてはいけないことだけは、明確だった。

(元々、アイリに勝ち目はなかったみたいね……。)

リナは、何も知らないアイリをかわいそうだと思いつつも、これ以上彼女に手を貸すことはないだろうと考えていた。
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