81 / 141
Lesson.4 ヒロイン封じと学園改革
81.フランツ・フィールディング教授
しおりを挟む
マギア教授を中心とした闇の魔法使いの捜索部隊は、これといった手掛かりを掴めずにいた。
唯一の接点であるアイリへの聞き取りや尋問は、最終手段としている。
なるべく、こちらが探しているということを相手には知らせたくはなかったからだ。
マギア教授が、最初に闇の魔法使いに出会ったのは20年ほど前。
祖父の墓参りに行くと、彼女が祖父の墓石に向かって手を合わせていた。
そして、墓石をそっと撫でるとフードを被り、その瞬間、ふっと消えた。
マギア教授がこれまで出会った魔法使いは、祖父と彼女の二人しかいない。
この国から魔法使いがいなくなってから100年が経つと言われていたが、それは魔法使いが活躍していた時代からというのが正確だった。
魔法使いたちは、その頃から徐々に力を失い、使えていた魔法が使えなくなっていったという。
そして、その数も急激に減っていった。
本当に最後の魔法使いだったと思われる祖父は、水の魔法使いだったが、指先から水が出せるくらいの生活魔法しか使えなかった。
もしかすると、彼女も祖父のようにかろうじて魔力が残っていた魔法使いかとも思ったが、姿を消せる魔法は上位のものだったはずだし、そもそも彼女はまだ少女のようだったから、完全に魔法の力が衰えてから生まれているはずだ。
謎の魔法使いである彼女は、常にマギア教授の心に引っかかっている、そんな存在だった。
研究生時代に、師匠であるフランツ・フィールディング教授に彼女の話をしてみたことがあった。
もしかすると、フィールディング教授ならば、何か知っているかもしれないと思ったからだった。
すると、フィールディング教授は思わぬ返答をした。
「その子は闇の魔法使いかもしれん。」
その時初めて、独自に「魔法が使えなくなった原因」と「闇の魔法使い」について秘密の研究をしていることを打ち明けてくれたのだった。
マギア教授は、フレエシアとディナルドを伴って、そのフィールディング教授の自宅を訪れていた。
そこは貴族街と庶民の下町の間にあり、金持ちの商店主や物好きな貴族の隠居たちが居を構える不思議なエリアで、高貴さと雑多さが入り混じっている。
フィールディング教授は、学園を引退する時にその一角に一人暮らし用の自宅を建てたのだった。
そして伯爵でありながら、実質はすでに隠居を決め込んでおり、今は貴族街に住む長男が家門を取り仕切っている。
「やあ、いらっしゃい。
テオドール君、久しぶりだね。」
フィールディング教授が自ら玄関まで出てきて、三人を歓迎してくれた。
そして、そのまま応接間へと案内をし、メイドにお茶を用意するように指示を出す。
まだ引退するには惜しいのではないかと思われるほど、かくしゃくとした老人だった。
「師匠、こちらはフレエシア・ウェスペル公女、それでこちらはディナルド・ルーナノワ公子です。」
「ほう、両公爵家のご令嬢とご子息とは。
フランツ・フィールディングと申します。
今日は我が家へようこそいらっしゃいました。」
若輩者の二人に対しても、丁寧にあいさつをするフィールディング教授に、フレエシアとディナルドもそれぞれ自己紹介をする。
お茶を持ってきたメイドが下がると、マギア教授は今の状況をすべてフィールディング教授に伝えた。
「資料が消失してしまい、実証できないのは分かっているのですが、師匠の研究成果をもう一度私たちに教えてもらえないでしょうか?」
「うん、状況は分かった。ちょっと待っていて。」
フィールディング教授はソファから立ち上がると、応接間から出ていき、そして大量の書類を抱えて戻ってきた。
ディナルドが慌てて手伝いをする。
「実はやっぱり諦めきれなくて、少しずつ研究を進めていたんだよ。」
フィールディング教授はそう言うと、にかっと笑顔を見せた。
唯一の接点であるアイリへの聞き取りや尋問は、最終手段としている。
なるべく、こちらが探しているということを相手には知らせたくはなかったからだ。
マギア教授が、最初に闇の魔法使いに出会ったのは20年ほど前。
祖父の墓参りに行くと、彼女が祖父の墓石に向かって手を合わせていた。
そして、墓石をそっと撫でるとフードを被り、その瞬間、ふっと消えた。
マギア教授がこれまで出会った魔法使いは、祖父と彼女の二人しかいない。
この国から魔法使いがいなくなってから100年が経つと言われていたが、それは魔法使いが活躍していた時代からというのが正確だった。
魔法使いたちは、その頃から徐々に力を失い、使えていた魔法が使えなくなっていったという。
そして、その数も急激に減っていった。
本当に最後の魔法使いだったと思われる祖父は、水の魔法使いだったが、指先から水が出せるくらいの生活魔法しか使えなかった。
もしかすると、彼女も祖父のようにかろうじて魔力が残っていた魔法使いかとも思ったが、姿を消せる魔法は上位のものだったはずだし、そもそも彼女はまだ少女のようだったから、完全に魔法の力が衰えてから生まれているはずだ。
謎の魔法使いである彼女は、常にマギア教授の心に引っかかっている、そんな存在だった。
研究生時代に、師匠であるフランツ・フィールディング教授に彼女の話をしてみたことがあった。
もしかすると、フィールディング教授ならば、何か知っているかもしれないと思ったからだった。
すると、フィールディング教授は思わぬ返答をした。
「その子は闇の魔法使いかもしれん。」
その時初めて、独自に「魔法が使えなくなった原因」と「闇の魔法使い」について秘密の研究をしていることを打ち明けてくれたのだった。
マギア教授は、フレエシアとディナルドを伴って、そのフィールディング教授の自宅を訪れていた。
そこは貴族街と庶民の下町の間にあり、金持ちの商店主や物好きな貴族の隠居たちが居を構える不思議なエリアで、高貴さと雑多さが入り混じっている。
フィールディング教授は、学園を引退する時にその一角に一人暮らし用の自宅を建てたのだった。
そして伯爵でありながら、実質はすでに隠居を決め込んでおり、今は貴族街に住む長男が家門を取り仕切っている。
「やあ、いらっしゃい。
テオドール君、久しぶりだね。」
フィールディング教授が自ら玄関まで出てきて、三人を歓迎してくれた。
そして、そのまま応接間へと案内をし、メイドにお茶を用意するように指示を出す。
まだ引退するには惜しいのではないかと思われるほど、かくしゃくとした老人だった。
「師匠、こちらはフレエシア・ウェスペル公女、それでこちらはディナルド・ルーナノワ公子です。」
「ほう、両公爵家のご令嬢とご子息とは。
フランツ・フィールディングと申します。
今日は我が家へようこそいらっしゃいました。」
若輩者の二人に対しても、丁寧にあいさつをするフィールディング教授に、フレエシアとディナルドもそれぞれ自己紹介をする。
お茶を持ってきたメイドが下がると、マギア教授は今の状況をすべてフィールディング教授に伝えた。
「資料が消失してしまい、実証できないのは分かっているのですが、師匠の研究成果をもう一度私たちに教えてもらえないでしょうか?」
「うん、状況は分かった。ちょっと待っていて。」
フィールディング教授はソファから立ち上がると、応接間から出ていき、そして大量の書類を抱えて戻ってきた。
ディナルドが慌てて手伝いをする。
「実はやっぱり諦めきれなくて、少しずつ研究を進めていたんだよ。」
フィールディング教授はそう言うと、にかっと笑顔を見せた。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる