上 下
22 / 141
Lesson.3 学園生活の始まりが、悪役令嬢の始まり

22.フレエシアとディナルド

しおりを挟む
次の日、フレエシアはいつもよりも早めに学園へ登校すると、自分の研究室がある研究棟とは正反対に位置する鍛錬所へ赴いた。
そこでは、親友のディナルドが毎朝一人で剣の鍛錬をしている。

ウェスペル家と対をなす公爵家の次男であるディナルド・ルーナノワは、フレエシアと同じ16歳。
小さなころからフレエシアと共に行動し、学園へも共に入学した。
幼馴染の二人は、いつも一緒にいるのが当たり前になっている。

「おはよう。」

フレエシアの声で剣の素振りを止めたディナルドは、「おう」と挨拶を返した。
フレエシアから冷たいジュースを受け取ると、一気に飲み干す。

「ちょっとそこで待ってろ」と言われ、フレエシアはベンチに腰掛ける。
座りながらぼんやりとディナルドを待っていると、中庭の方から枯れ葉が風に吹かれて飛んできて、フレエシアの足元にふわりと落ちる。
そろそろ秋も終わると、枯れ葉が告げているようだった。

着替えを済ませたディナルドが、フレエシアの横にどかっと座る。

「どうした? 朝からわざわざこんなとこまで来て。」

「ディナルドは、殿下方が来年度から学園に入学してくることを知ってる?」

「ああ、兄上に聞いたよ。
お前の妹たちも一緒に入学するんだろ?」

「そうなんだ。だけど、一つ心配なことがあって……。」

ディナルドには日記帳のことは伏せて、リーリウムが視察で出会ったアイリのこと、
もしかするとその子が編入してくるかもしれないことを話した。

「その子の殿下に対する態度が無垢……というかあからさますぎて、リーリウムが心配をしているんだ。
殿下にも危害が及ぶかもしれないし、ディナルドに話しておこうと思って。」

宰相を歴任し“知”を武器とするウェスペル家に対して、ルーナノワ家は代々王国の軍事部門を担い騎士団を統括している。
ディナルドも学園を卒業すると同時に近衛騎士団へ入隊し、ゆくゆくは団長になることが約束されていた。

「そうか。そんな小娘一人で何ができるかわからんが、気にしておこう。」

「うん。ありがとう。」

「それより、楽しみだな。妹。」

「うん。いっしょに学園へ通える日が来るなんて思ってもなかった。」

フレエシアは公爵令嬢としては変わり者だったため、同年代の友人はディナルドくらいしかいない。
下位貴族の子女ばかりの学園では、憧れられはしても、友だちはついにできなかった。
その姿を隣で見ていたディナルドは、妹たちとの学園生活を誰よりもフレエシアが楽しみにしていると分かっていたのだ。

(妹たちとの学園生活を邪魔させるわけにはいかないな。)

隣のフレエシアの横顔を見つめながら、ディナルドはそんなことを考えていた。

「じゃあ、私はこれでいくよ。
実は午後からリーリウムが研究室にくるから、少し片づけておかなきゃいけないんだ。」

「そうか。リーリウムが来るまでに片づけ終わるとも思えないけど、まあがんばれよ。」

「うーん。がんばってみる。」

フレエシアはディナルドのおでこにそっと口づけをして、ベンチから立ち上がる。

「じゃあ。」

「おう。」

短い別れの言葉をかけあって、それぞれの用事を済ませるためにその場を離れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

処理中です...