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その後②非力な助っ人

7話 優しい彼氏

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「おい!!ハヤト!!お前……いい加減にしろよ!!!」

 私のすぐ後ろで拳を震わせて叫んでいたのは、この場にいないはずのシュロットだった。会場中の視線を引き付け、呆気にとられる私を越えてハヤトの目の前まで行き、彼に向って怒鳴りつける。

「……君は、シュロット君じゃないか。どうし……」
「全部、知ってるんだよ!!お、お前、代表スピーチなんて立派な事しておいて、裏ではオリビアを支配してるんだろ!!彼女をい、いたぶって、楽しいか!!」

 緊張すると言葉がつっかえる癖のあるシュロットの声が、ホールの壁に反射して響く。ぽかんと見ていた生徒たちも、支配という言葉にざわめきだす。よそ行きの柔らかな表情を彼に向けていたハヤトの顔が、一瞬にして真顔になる。私はそれを見て、全ての終わりを悟った。

「……何?どういう事かな……」

 ハヤトはダンスをやめて女の子の手を離し、シュロットに近付く。また笑顔を作っているが、今度は目が笑っていない。シュロット、お願い、それ以上喋らないで。

「とぼけるな!!ずっと前から、オリビアにお前の事聞いてたんだよ!もう我慢ならねぇ、ここでお前の悪事を暴いてやる!!」

 私の願いは彼に届かない。シュロットは勇気を振り絞り、私のヒーローになるためにハヤトに全てを明かしてしまった。上手くいっていたかもしれない私の作戦は崩れ、代わりに最悪のシナリオが見えた。

 ハヤトは私を横目で見た。何が言いたいのかよく分かる。全身の血の気が引いていく。私を数秒見て、にこっと微笑んだ後、シュロットに向き直る。

「シュロット君、落ち着いて。誤解だよ。オリビアって、ちょっと思い込みが激しいところがあるんだ。僕に嫉妬すると、ありもしない事を言い出す……君にも迷惑かけたみたいだね」
「えっ……そうなの?オリビア」

 そんな訳ないじゃない!!だけど私は答えられない。どう答えても助かる道が見えなかった。戸惑うシュロットに、ハヤトは続ける。

「でも、オリビアの虚言癖の対応もここまでくると大変だから……ちょっと3人で話し合おうよ。外、出て」

 ハヤトは踊っていた子を放置して、シュロットを会場の外へ出るよう促した。私も足取り重く彼の後に続こうとして、ハヤトに腕を引かれる。

「その前に、オリビア。嘘をつく程寂しい思いをさせちゃっていたんだね。彼女と踊る約束をした事、知ってたんだね。あんまりそういうの気にしないと思って。他の子と踊っちゃって、ごめんね」

 そして、足がすくむ私を抱き寄せ、顎をそっと掴んで上を向かせると、大勢の生徒の前でキスをした。音楽が鳴り響いているというのに、誰も踊れない中で。彼は優しく私を包みこむが、その大きな腕が監獄のように感じる。

「………ね、ねぇ、私は?」

 先ほどまでハヤトにエスコートされていた美女は、無視を続けるハヤトに気を悪くしてどこかへ行ってしまった。それでも私への愛情を周囲に見せつける事で自分の立場を守ろうとしているのか、彼は怯える私を離さない。いつも人前では私に冷たく接するハヤトが、唇を離すと今まで見た中で一番優しく微笑み、私の耳元で低く、ゆっくりと囁いた。

「オリビアのドレス姿、凄く綺麗だよ。もう二度と誰にも見せたくないぐらい……………」

 そしてうやうやしく私の手を取り、堂々と背筋を伸ばし、優雅に会場の外へと連れ出す。重い扉を閉めるその瞬間まで、ハヤトは優しく紳士的な恋人を演じきった。







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