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第一章 一念発起
5話 足りない彼女らしさ
しおりを挟む「オリビア!これも可愛くない!?ねぇこれどうだろう、ヴィランヌ」
「ダメ。杖ポケットが…」
「?ちゃんとついてるじゃん」
(……もう、何でもいいわよ…)
これで3店舗目だ。ヴィランヌたちは次から次へと洋服や小物を持ってきては、オリビアの体に合わせていく。その度にこれでいい、と答えても、彼女たちなりのこだわりがあるのかなかなか決まらない。
流行りものに疎いオリビアはブラウスの色がボルドーだのバーガンディだのと言われても、もはや区別がつかない。
(1回帰って、ノートにまとめてもいいかしら…)
「ハヤト君って、何色が好きなんだろう?せっかくだから好みのにしたいよね」
ヴィランヌの友人の1人が尋ねてきた。
「ハヤトの好きな色?なんだろ、前に私服見た時は、白…」
しかし、オリビアが答えるより早く、ヴィランヌが口を開いた。
「黒。あの人は黒がいいって」
「?ハヤトに聞いた事があるの?」
オリビアの疑問にヴィランヌは答えない。なるほど!と納得した友人2人と共に黒色のワンピースを探しに店の奥へ行ってしまった。
「あれ?事前に聞いてくれてたのかな…でもハヤトは今、ゴブリン退治に行ってるはずだし…」
少しずつ会話に入れなくなっていく。いつの間にか自分そっちのけで服選びに勤しむ3人に、疎外感を覚える。これなら一緒に買いに来る必要は無かったのでは無いか?
3人の会話もよく分からない。暇を持て余して店内の商品を見渡していると、思い出が蘇る────私服といえば、ハヤトには無理矢理ピンクのワンピースを着せられた事があったっけ…
(そういえば妖精のコスプレまでさせられた事もある…)
恋人らしい外出がまだであるだけで、それ以外は積極的なハヤトによって半ば強制的に関係を進められてしまっているなんて、とてもじゃないけどあの3人には言えない。
(きっと、ヴィランヌたちにはアレもまだって思われてるんだろうな……ハヤトがド変態って知ったら驚くわね)
オリビアは内心で苦笑しながら、店内の隅っこで静かにしていた。
***
1階の商品を見尽くした3人はやがて階段を上り、店舗の2階へと消えていった。オリビアは自分も追いかけるべきか迷い、しばらく1階をうろつく。
当の本人を経由しないで服を選び始めた3人であるが、さすがに人任せにし過ぎるのも良くないと思ったオリビアは、2階へ上がり、自分の好みを主張してみる事にした。紺色のシンプルなTシャツを手に取り、肩を寄せ合う3人へと近寄る。
「あの、私、こういうの好きかも…」
ヴィランヌらは服が並ぶ棚の向こうで、ワンピースがかかったハンガーを1着ずつ確認しながら端へ寄せつつ、ひそひそと会話をしている。彼女たちに声をかけながら歩いていたオリビアは、その内容がはっきりと聞こえた数メートル手前で足を止めた。
「ヴィランヌ、あんなに怒ってたのにどうしてオリビアに協力しようとか言い出したの?しばくんじゃなかったの?」
「そうだよ。あんなに目立つ事して見せつけておいて、デートもまだとか…。私らの事バカにしてるのかな」
(…え)
綺麗に畳まれた服が積み重なる棚の隙間から、わずかに3人の表情が見えた。両脇からヴィランヌに疑問をぶつける2人は、心底不思議そうな顔をしている。
「もういいって2人とも。その話は終わったじゃん」
ヴィランヌは微笑み、黒いワンピースを何着か手に取り、見比べながら答えた。しかし2人は納得がいかないのか、早口で捲し立てた。
「ヴィランヌってさ、男を立てられる子じゃん。見た目は派手だけど、結構尽くす子っていうか。私らはもういいけど、ハヤト君みたいな天才を支えてあげられるのはヴィランヌの方だと思うんだけど」
「そうそう。オリビアはさ、支えもしないで追い越そうとしてるよね。めんどくさい彼女だよね」
(………)
聞こえていたはずの店内のBGMが遠くなり、不思議なほど鮮明に彼女たちの会話が耳に入ってきた。
「ハヤト君、あんなに才能があって将来も安定してそうなんだから、彼女として一歩引いて、応援してあげるぐらいの方が嬉しいはずだよ」
「うーん…まぁ、実は私もそう思ったりもしたんだよね。私なら、彼を男として立ててあげられるなって。さっきの食堂でもさ、ゴブリン退治に着いていくとか言ってたけど。どう考えても足手まといじゃん?私だったら作ったお菓子でも持たせて、彼女らしく応援するんだけどって…でも仕方ないね、ハヤト君もだいぶ盲目みたいだし。でも大丈夫。2人がそう思ってくれてるなら」
ヴィランヌは服のタグを眺めながら、そう返した。
「珍しいよね、ヴィランヌが諦めるの…」
そこで3人が会話をやめ、別の通路へ移動するのが見えたため、オリビアは慌てて離れた。
(やっぱり怒ってた…でも確かに、私に可愛げは無いわよね…)
ゆっくり階段を降りていく。
学年2位のオリビアと、1位のハヤト。紙のテストだけでなく、魔力も彼に敵わない。この順位は、彼が転校して来た時からいつまでも変わらない。
彼を彼女として応援するどころか、デートの誘いを断り、ひたすら図書館にこもる日々。そこまでして勉強に力を注がなければ、オリビアは彼を超える事はおろか、成績を維持する事も出来ない。
誰もが認める才能を持つハヤトは、先生にさえ頼られる。しかし、自分には何が足りないのか?日々努力し続けて確かに結果を出してはいるのに、周囲の期待の眼差しは常に彼にばかり注がれる。
(私はハヤトが活躍する時、嬉しいって思う前に、いいなって気持ちの方が強くなる…それってやっぱり、ハヤトはいい気しないのかな…)
オリビアはヴィランヌたちの会話が聞こえなくなるまで距離を取って、欲しくもないエナメル素材のバッグなどを眺めながら、店内をあてもなくグルグルと歩き続けた。
***
「お待たせー!はい、これプレゼント!」
3人は満足そうな笑顔で戻ってきた。紙袋の大きさから察するに、全身コーディネートをしてくれたらしい。結局何を買ったのかは分からないが、長きに渡るショッピングもようやく終わりを迎え、オリビアはホッと胸を撫で下ろす。
「本当にいいの?なんだか申し訳ないわ…」
「いいって!これでデート、楽しんで来てね!」
明るく笑う3人。先程の会話の真意は分からない。そして今回のショッピングであまり自分の意見が取り入れられた様子も無いが、オリビアはお礼を言ってありがたく受け取った。店の外にベンチを見つけて、4人でひと息つく。
「オリビア、もうすぐ夏休みだし、魔法マーケットフェスティバルもあるでしょ?それ誘ってみたら?」
「な…なにそれ。気になる…!」
オリビアが思わず食いつくと、ヴィランヌは親切に教えてくれた。普段は遠く離れた場所に点在する、魔法に関するあらゆる道具や薬品等を販売している専門店が一同に集まり、店を構えるというものだ。色々とショーもあるらしい。今年から開催されるそのイベントは、多くの魔法使いや研究者たちが足を運ぶ、いわば大きなお祭りのようなものだという。
「あちこちにチラシが貼ってあったけど。気付かなかったの?」
「ええ…それなら、楽しそう…頑張って誘ってみようかな」
「いいね!オリビア、ファイト!」
ヴィランヌたちに応援され、オリビアは笑顔で帰路に着いた。初めは怖かったし、不思議な言動も多いが、いい人たちでは無いか。きっと不満はありつつも、ハヤトとの関係を認めてくれたのであろう。3人の優しさが沁みる。
ホウキの柄にぶら下げた紙袋を見て、飛びながら作戦を立てる。魔法マーケットフェスティバルへ行こう、2人で。
(今度、さりげなく誘ってみよう。勉強中に、さりげなく、まるで今思いついたかのように。でも、その前に……………)
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