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セカンドエピソード ~魔界戦争~
56.反撃作戦、始動
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かくしてその少し後のことである。
破られた窓の始末を終えた使用人が帰っていく中、ヴァックスたちは再び謁見の間へ呼び出しを受けた。
たいして休めてもいないのだが、いよいよとも言えるこの状況では仕方が無いとバンバスも腰を上げて。
室内に入ると、ゼインファードはやはりいつものように玉座にどっかりと座り、足を組んで頬杖をついていた。しかしその表情は心なしか浮かないようにも見える。
「っと、これで全員か。さてそれじゃあ今から俺とゼノ、その他大勢の幹部どもによる発案の作戦を展開するぜ」
ゼインファードがいきなり本題を切り出す。そこへゼノが一歩前へ出た。
「作戦の内容は私から説明しよう。つまり、鳥魔界を叩くのは今しかないと判断し本日大規模な強襲作戦を展開する。エアを捕らえ我々が交渉に応じなかったことで連中に生まれた僅かな隙を突くためだ」
「その通り。ヤツらは俺たちを潰す為に魔力障壁の周囲をぐるっと囲むように展開している大部隊を一気に攻め込ませるはずだ。そこで、手薄になっている本丸を逆に攻めるという事だな」
言っていることは理解できるが、しかしそれは事実上、この宮殿を含むここら一帯の都市を放棄する、ということである。その捨て身とも言える攻撃ならば、確かに勝機は生まれるかもしれない。
だが、都市部には住人が山ほどといるのだ。
「そこら辺に関しては問題はねえよ……転移魔法の応用で集団退避させるさ。まあその為には魔力障壁に注いでる分の魔力を使わなきゃならんがな。放棄すると決めた以上は今更障壁なんて要らねえだろ」
「……これで決めきれなかった場合は、帰る場所も失って完全に敗北、というわけか」
バンバスが口を開いた。その不安は誰もが抱いているところのはずである。
「その通りだ、賢いなァバンバス君。俺達は無謀とも言えるこの作戦を必ずしや成功させなけりゃならないんだ、理解が早くて助かるね」
「実際問題、拠点は必要だろう。それはどうする」
「拠点なんぞいくらでも用意できるさ。まあ何にせよ、とりあえず大きく二つの部隊に分けるぜ。ゼノ!」
「ハッ」
この妖魔には部隊が15あるらしく、そのうちの8をゼノが受け持ち、7をゼインファードが受け持つという事だった。だが、ゼインファードは妖魔に魔力を供給し続けなければならないという部分もあり戦闘には参加出来ないため事実上の隊長はロージュとなる。
「二つ、質問させて貰おうか、ゼインファード王」
「なんだね、バンバス君」
「一つ、俺達はどうなるのかということ。二つ、四天王にはもう一人いるだろう……あのアズという男だ。これほどの大規模作戦に参加させないというのはどういう事なんだ?」
もう随分姿を見ていない、四天王のアズ。彼が今どこで何をしているのかを知る人物はゼインファード以外にはいないのだ。
なにしろ特命であるからとゼインファードも口を開いて言及しようとしない。ゼノでさえそれについては何も知らないというのだ。
「順番に答えよう、お前達地球人組は二つに分ける。バンバス、ティムはゼノの部隊へ。ヴァックス君、お前は俺の部隊だ」
そして二つ目。
「アズのヤツは今回の作戦の要と言ってもいい。だからこそお前達にも教えられない事だ、いいな?」
それだけであった。
ゼノが以前から気にしていて何度か聞こうと試みたようだが、しかしやはり同じような解答しか得られなかったという。それほどに重要任務、ということでゼノも納得しているようだ。
かたや、ロージュはというと、やはりどこか意気消沈しているところがある。
いつものようにハツラツとした感じではなく、沈んだ表情さえ見せるのはエアの事だろう。
この作戦が始動し向かったとしてもエアはもう助けられないだろう、という事が彼にとっては堪えているようだ。
無論、それを気にしているのはロージュだけではない。ゼノも、他の妖魔の幹部達も、全員なのだ。
「……作戦始動だ、各自用意し半刻の間に出撃用意を済ませろ!……思うことがある奴も大勢だとは思う。それをヤツらを蹴散らす力に変えろ!必ずしや成功させる、それが唯一だ!」
そうして宮殿内、及び都市部は一斉に動きを見せた。まずは転移魔法で住人を避難させた後にゼノ率いる第一部隊を転移。最後にゼインファードの第二部隊を転移、という流れのようだ。
しかし、その間は乱戦必至である。転移魔法を発動させるために必要な魔力を魔力障壁を解除することでまかなうということで、それはつまり障壁の周囲を取り囲んでいる敵の大部隊を招き入れるようなものだからである。
「いいか、何としても持ちこたえろ!半刻も耐えれば全員転移できる、いいな、半刻だ!」
その後すぐに、魔力障壁は解除された。が、予想に反し敵の部隊はすぐに攻め込んでは来なかった。
恐らくは妖魔側の動きを警戒してか、未だ障壁があるかのようにその動きをじっと止め待機している。
「これはこれで好都合だぜ、住人達を転移する!」
と、ゼインファードが立ち上がり空に片手をかざすと辺り一帯に、というよりも魔力障壁とほとんど同じ範囲だけ魔力が充実し始めた。
さらに直後、地面に淡く光る魔法の紋章が浮かび上がる。とてつもなく大規模である。
少し時間を置いて、ゼインファードの全身にも魔力が満ち、一瞬で辺りを満たしていた魔力と地面の紋章は消えた。
成功である。
「ゼインファード王、少しお休みになられては?」
「ゼノ、お前は俺の身を案じる前に敵さんがいつ仕掛けてきても良いように待機してろ!それにだ……俺を誰だと思ってんだ?」
すぐにゼインファードがまた片手を空にかざす。徐々にあたりに満ちていく魔力。しかし、今度はさっきのように一瞬とは行かず若干の時間を要した。
「さて……ここからが時間のかかるところだぜ……!お前らそろそろ来るはずだ、死にたくなきゃしっかり守れよ!」
鳥魔の大部隊が、動き出す……。
破られた窓の始末を終えた使用人が帰っていく中、ヴァックスたちは再び謁見の間へ呼び出しを受けた。
たいして休めてもいないのだが、いよいよとも言えるこの状況では仕方が無いとバンバスも腰を上げて。
室内に入ると、ゼインファードはやはりいつものように玉座にどっかりと座り、足を組んで頬杖をついていた。しかしその表情は心なしか浮かないようにも見える。
「っと、これで全員か。さてそれじゃあ今から俺とゼノ、その他大勢の幹部どもによる発案の作戦を展開するぜ」
ゼインファードがいきなり本題を切り出す。そこへゼノが一歩前へ出た。
「作戦の内容は私から説明しよう。つまり、鳥魔界を叩くのは今しかないと判断し本日大規模な強襲作戦を展開する。エアを捕らえ我々が交渉に応じなかったことで連中に生まれた僅かな隙を突くためだ」
「その通り。ヤツらは俺たちを潰す為に魔力障壁の周囲をぐるっと囲むように展開している大部隊を一気に攻め込ませるはずだ。そこで、手薄になっている本丸を逆に攻めるという事だな」
言っていることは理解できるが、しかしそれは事実上、この宮殿を含むここら一帯の都市を放棄する、ということである。その捨て身とも言える攻撃ならば、確かに勝機は生まれるかもしれない。
だが、都市部には住人が山ほどといるのだ。
「そこら辺に関しては問題はねえよ……転移魔法の応用で集団退避させるさ。まあその為には魔力障壁に注いでる分の魔力を使わなきゃならんがな。放棄すると決めた以上は今更障壁なんて要らねえだろ」
「……これで決めきれなかった場合は、帰る場所も失って完全に敗北、というわけか」
バンバスが口を開いた。その不安は誰もが抱いているところのはずである。
「その通りだ、賢いなァバンバス君。俺達は無謀とも言えるこの作戦を必ずしや成功させなけりゃならないんだ、理解が早くて助かるね」
「実際問題、拠点は必要だろう。それはどうする」
「拠点なんぞいくらでも用意できるさ。まあ何にせよ、とりあえず大きく二つの部隊に分けるぜ。ゼノ!」
「ハッ」
この妖魔には部隊が15あるらしく、そのうちの8をゼノが受け持ち、7をゼインファードが受け持つという事だった。だが、ゼインファードは妖魔に魔力を供給し続けなければならないという部分もあり戦闘には参加出来ないため事実上の隊長はロージュとなる。
「二つ、質問させて貰おうか、ゼインファード王」
「なんだね、バンバス君」
「一つ、俺達はどうなるのかということ。二つ、四天王にはもう一人いるだろう……あのアズという男だ。これほどの大規模作戦に参加させないというのはどういう事なんだ?」
もう随分姿を見ていない、四天王のアズ。彼が今どこで何をしているのかを知る人物はゼインファード以外にはいないのだ。
なにしろ特命であるからとゼインファードも口を開いて言及しようとしない。ゼノでさえそれについては何も知らないというのだ。
「順番に答えよう、お前達地球人組は二つに分ける。バンバス、ティムはゼノの部隊へ。ヴァックス君、お前は俺の部隊だ」
そして二つ目。
「アズのヤツは今回の作戦の要と言ってもいい。だからこそお前達にも教えられない事だ、いいな?」
それだけであった。
ゼノが以前から気にしていて何度か聞こうと試みたようだが、しかしやはり同じような解答しか得られなかったという。それほどに重要任務、ということでゼノも納得しているようだ。
かたや、ロージュはというと、やはりどこか意気消沈しているところがある。
いつものようにハツラツとした感じではなく、沈んだ表情さえ見せるのはエアの事だろう。
この作戦が始動し向かったとしてもエアはもう助けられないだろう、という事が彼にとっては堪えているようだ。
無論、それを気にしているのはロージュだけではない。ゼノも、他の妖魔の幹部達も、全員なのだ。
「……作戦始動だ、各自用意し半刻の間に出撃用意を済ませろ!……思うことがある奴も大勢だとは思う。それをヤツらを蹴散らす力に変えろ!必ずしや成功させる、それが唯一だ!」
そうして宮殿内、及び都市部は一斉に動きを見せた。まずは転移魔法で住人を避難させた後にゼノ率いる第一部隊を転移。最後にゼインファードの第二部隊を転移、という流れのようだ。
しかし、その間は乱戦必至である。転移魔法を発動させるために必要な魔力を魔力障壁を解除することでまかなうということで、それはつまり障壁の周囲を取り囲んでいる敵の大部隊を招き入れるようなものだからである。
「いいか、何としても持ちこたえろ!半刻も耐えれば全員転移できる、いいな、半刻だ!」
その後すぐに、魔力障壁は解除された。が、予想に反し敵の部隊はすぐに攻め込んでは来なかった。
恐らくは妖魔側の動きを警戒してか、未だ障壁があるかのようにその動きをじっと止め待機している。
「これはこれで好都合だぜ、住人達を転移する!」
と、ゼインファードが立ち上がり空に片手をかざすと辺り一帯に、というよりも魔力障壁とほとんど同じ範囲だけ魔力が充実し始めた。
さらに直後、地面に淡く光る魔法の紋章が浮かび上がる。とてつもなく大規模である。
少し時間を置いて、ゼインファードの全身にも魔力が満ち、一瞬で辺りを満たしていた魔力と地面の紋章は消えた。
成功である。
「ゼインファード王、少しお休みになられては?」
「ゼノ、お前は俺の身を案じる前に敵さんがいつ仕掛けてきても良いように待機してろ!それにだ……俺を誰だと思ってんだ?」
すぐにゼインファードがまた片手を空にかざす。徐々にあたりに満ちていく魔力。しかし、今度はさっきのように一瞬とは行かず若干の時間を要した。
「さて……ここからが時間のかかるところだぜ……!お前らそろそろ来るはずだ、死にたくなきゃしっかり守れよ!」
鳥魔の大部隊が、動き出す……。
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