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ファーストエピソード

番外編.大型連休 終結

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「くそっ!なんでこんな壁を素手で殴らなくちゃあならねえんだよ!」

「素手と言ってもエネルギーをまとわせてるんだから平気だろ?文句言ってないで掘る掘る」

ヴァンは素手で、ティムは銃弾で、バンバスは刀の鞘で。それぞれエネルギーを使って廃坑の壁を掘削していた。とは言っても作業効率はすこぶる悪く、無限に続くとも思えるその作業はヴァンを苛立たせ、ティムを疲弊させ、バンバスを不機嫌にするには十分であった。

「……全くもって無駄な行為じゃないか?こんな事で見つかるんなら昔の人間がとうに見つけているだろうに」

一時間ほど掘り進めたあたりでバンバスが口を開いた。それまで黙々と、と言うよりは言葉を発するのも面倒だといった感じだったのだが、一切口を開かずに作業に徹していたのだ。

「あーもうつかれたっつうの…!ティム、おまえどうすんだよこんなかったるいこと引き受けてよ…」

バンバスでさえ精神的にも肉体的にも疲労しているのだから、ヴァンなどはもっと疲労していた。

第一、この状況を招いたティムでさえもが疲れ切っていた。

「まあ、確かになあ……これ以上やっても無駄かもなぁ…」

ヴァンは結論の出る前に座り込んでいる。バンバスも座り込んではいないが、作業をやめてその場に立ち尽くしてしまっている。エネルギーを使っていることと、硬い壁に攻撃し続けるという不毛な行為の連続で、彼らの体力とメンタルはヘトヘトになっていたのだ。

「もう諦めようか…俺も疲れちまったしさ…悪かったよヴァン、バンバス…」

「…まあいいけどよ」

ヴァンが何気なく拳を壁に叩きつける。

「それじゃあ戻るぞ。あの女に事情を説明して、ここから出るぞ」

バンバスとティムがさっさと歩き始めるのに対し、ヴァンだけが座ったままだった。

「おーいヴァン、早く帰ろうぜー」

「ああ、悪ぃ…今行くわ」

重い腰を上げて歩き出そうとしたその時。ゴゴゴ…と坑道が揺れ始めた。

天井が崩れそうで、かといって地面も揺れているので走れない。壁も割れ出しそうだ。

「バカスカ掘り進めてたのがマズかったか!?」

おそらく原因はそれだろう。掘削用の工具を持っていないので力任せに、というかエネルギー任せに掘っていたのが坑道に影響を与えていたようだった。

ばら、ばらと天井から小さい石が落ちて来ている。

「やべえぜ、無理にでも走るしか…」

その瞬間。

ドガアアア、と天井が崩れティムとバンバスの二人と、ヴァンの間を遮るようにして大量の土砂が積み上がった。まるで初めからそこにあった壁のように。

と同時に、ようやく揺れも収まっていた。だが、物理的に二人と一人に分断されてしまった。

「おーいヴァン!!無事かーー!!」

大声を上げて安否を確認するが、声が届いていないのか?それとも…。

「返事しろッ!!ヴァーーーン!!!」







「ってえ……散々だぜ…なんなんだよまったく…」

間一髪であった。もし地面の揺れを無視して走り出していたなら、この土砂に巻き込まれ下敷きになっていただろう。しかしながら、相当の量が崩れて壁になったらしくブチ抜けそうにもない。それにまたエネルギーで無理やり強行突破しようとすれば、揺れが発生して崩れてくるかもしれない。

「にしても、今の揺れでもっと奥に進めるようにはなったな…あんま気は進まねえけど先に行くしかねえか…」

わずかながら人一人が歩いて通れるくらいの隙間ができていた。

その隙間を体を縮めてなんとか歩いて行く。

「くっ…狭え…服が汚れる、つーか擦り切れる!最悪だ全部あの女のせいだ!戻ったらブッ飛ばしてやる!」

そんな減らず口もほどほどに、なんとか奥へ奥へと進んで行くと、やがて開けたところへ出た。なんとも信じがたいことだったが、だだっ広い空間が目の前に広がっていたのだ。

「…すげえ広いな、まるで人が作ったみてえだ」

そこでティムの話を思い出し、ここが最深部で道中は人工的に埋められたのではないか、などという無駄な想像を働かせたことで、急に恐怖感がヴァンを襲った。

ここから出られるのか、という不安。

全くもって確証がない話で、無理やりあの崩れてできた土砂の壁をブチ抜けば出られるだろうが命の保証ができない。坑道を出る前にまた崩れでもしたら、今度も無事でいられるかはわからない。

「………とにかく先に行くしかねえか」

「もしかしたら、出口があったり……」

は、全然しなかった。

出口どころか、その開けた場所からそう歩かない距離のところで行き止まった。それにつけても奇妙なのは、この空間である。自然に出来たにしては綺麗なドーム型になっていて、作為的なものを感じる。さらにここだけが埋まらずに形を残しているというのも不自然であった。

「…出口があるかどうかはわからねえが、ここは安全って事か」

根気よく壁を掘り進めて行ったら、いつか辿り着けるかもしれない。餓死するのが先のような気もするが。

「とりあえず戻るか……ティムたちがなんとかしてくれてるかも、……ん?」

さっきの狭い道に戻ろうとして振り返ったその時。

来た時は背中側になっていたのでまったく気がつかなかった。だが今はハッキリと見える。壁に埋まっている、輝くもの。それがなんなのか、もっと言えばドインライト鉱石なのか?ということはわからなかったが、仮にそうじゃないとしても、これも何らかの役にはたつだろう。少しの生活の足しにくらいはなるはずだ。

「…しゃーねえな、持って行ってやるか…」

見えるぶんだけでもそれなりに数がある。掘ってみればもっと出てくるかもしれないが、とりあえず見えているものだけを持ち帰ることにした。

その鉱石は壁に半分、もしくはほとんど埋まっていたが、わりと採掘はしやすかった。掴んでエネルギーを利用し引っこ抜く、という無理やりな方法でどんどん持ち帰る数を増やしていく。

手にとって改めて見てみると、確かに綺麗で、そして強度も申し分ない。ようはエネルギーをまとわせた手で掴んで力任せに引っ張っているのに、傷もつかず壊れることもなくその形を保ち続けている。

「これ、マジでドインライト鉱石なんじゃねえか?まあ俺が生きてここから出られるかはわからねえけど」

あらかた採掘しきったところでヴァンは切り上げ、狭い道へと戻った。手がジンジンするが、袋にいっぱいのドインライト鉱石、と思われるものを持っているのだ。この程度のことは大したことではないとヴァンは突き進んだ。

そうして、再び。崩れた土砂の壁と対面する。エネルギーを使ってブチ抜くのは簡単だが、二度目の崩落を招く事になりかねない。慎重に動かなければ次は本当に命を落としかねないのだ。

「参ったぜ……すうう……おおーーーい!!ティム!!バンバス!!いるかーーー!!」

大声を上げてみても返事はない。まああれから一時間は経っている、ここから離れたのかもしれない。

「やれやれ、もうこうなりゃ崩れるとか何だとか言ってらんねえな。もうそこに二人ともいねえかもしんねえし、ここで黙ってても仕方ねえ」

ふう、と一息ついて両手にエネルギーを込める。どれほどの厚みの土砂の壁なのかはわからないが、そこまでは厚くないだろう。本気でブチ抜こうとすれば、この程度の土砂の壁くらいはフッ飛ばせるはずだ。

「ブチかまして通れるようになったら、すぐに走らねえと…」

「行くぜ…!うおおおおおりゃあ!!!」

ドッダァアン!!

爆弾でも爆発したかのようなその轟音と、弾け飛ぶ土砂の壁。効果はてきめんであったようで、割とあっさりと道は開けた。

「いよっし、走るぜ…ってあれ??」

ヴァンの視界に入ったのは、土砂まみれになっているティムとバンバスの二人だった。

まさかまだそこにいるとは思わなかったので、一瞬理解できなかったが、それは間違いなく二人。

「お前、覚悟は出来ているんだろうな…!!」

「ゲホッゲホッ…!ぺっ、ぺっ」

「い、いや悪い…まさかまだそこにいるとは思ってなくて…」

その時。やはり、というか、案の定。

ゴゴゴ……ドドド……という不安を掻き立てる音と、坑道の揺れが発生した。それもさっきのものよりもずっと大きく、全体が揺れているような感覚。

「っとやべえぜ!!走れ!!」

土砂まみれの二人を連れ走るヴァン。だが、この二人がまだここにいたということは。

「なによこれ!アンタたち何したのよ!!」

足をくじいて動けなくなっている、あの女性もいた。

「ええいクソッ!てめえなんてホントは見捨てて走りてえが仕方ねえ!ジッとしてろ!」

勢いよくその女性を軽々と担ぎ上げ、大工が木材でも持つかのように肩に乗せると再び走った。なにせ後ろの方でもう崩落が始まっているのだ、生き埋めになってしまう。

「いやあああぁぁぁあああぁぁ」

「うるっせえんだよてめえ!暴れんな走りにくい、捨てるぞ!」

「うっぷ…きぼちわるく…おえ」

「てっ、てめえ!吐くんじゃねえ!仕方ねえだろ急いでんだからよ!よせやめろ!本当に捨てるぞこのアマッ!」







結論から言うと、三人、いや四人は無事に脱出した。と言うのも、ぎりぎりのところでエネルギーを足から一気に解放してブーストしたのが間に合い、生き埋めになるのは免れた。

「……完全にのびちまってるぞ、この女」

「街のホテルまで連れて行ってあげようか、ここに置いておくわけにもいかないし」

そんなこんなで、再びヴァンが女性を担ぎ(もう急いで無いんだから背中でおんぶしてあげなよというティムに渋々言うことを聞いておんぶだが)、街まで降りた。人一人背負って歩く山道などなんの修行なんだと文句をつけていたヴァンだったが、道中の草や木に彼女がぶつからないように注意していたのは彼なりの優しさだろう。

そうこうして二時間。ようやく山を降りた頃にはすっかり真夜中だが、なんとか無事に生還した。

「さて、今から受け入れてくれるホテルなんてあんのかよ?」

「いや、無いだろうな…てか俺たちも高速電車、次のやつ逃したら朝まで待たないとならないし」

だからと言って捨てて帰るわけにもいかないだろうと、三人がとった行動は。

「よっと…これでよし、うまくいれろよ、ティム」

「わかってるよ、たしかこう…」

「この下手くそが。変われ、俺がやる」







翌日の朝。彼女は不思議な目覚めを体験した。

目を覚まして広がっていた光景が、今まで見たこともないものだったのがまず一つ。さらにもう一つは、坑道からあの男に抱えられて脱出するところで記憶が途切れているのだが、なぜか小さい…テント?のようなものの中で自分は寝っ転がっているのだ。

「…なによこれは」

ジーッとテントのファスナーを開けて外へ出る。

「ったくようやく起きやがったかこの女。じゃ、行くか」

「おはよう、よく寝れたみたいだね。テントなんて張ったことないからうまく出来たか不安だったけど」

「結局張ったのはティム、お前じゃなく俺だろう。危なっかしくて任せられんわ」

そこにはテントの周りを固めている男三人の姿があった。

目の下にクマを作って。

「あ、アンタたち…」

「うるせえこのボケ。てめえのおかげで眠たくって仕方ねえぜまったく…それと、これ。くれてやるから家宝にしろよ」

そう言ってヴァンが手渡したのは、鉱石の詰まった袋だった。結局これがドインライト鉱石なのかはわからないが。

「こ、これは?」

「奥で見つけたモンだ。それがドインライト鉱石ってヤツなのか?」

袋を開けて一つ、鉱石を取り出してみる。その輝きは朝陽に照らされ、より一層増していた。

「こ……これよ…ドインライト鉱石…これ…」

なんだが目をうるうるとさせ始めたのを見て、早々にヴァンは立ち上がり駅のホームへ向かった。

「ちょ、ちょっと、どうしたら…お礼は…」

「多分、あの様子だといらないと思うよ。それは自由に使ってね。それじゃあ、俺たち行くから」

ティムがフォローして、その場を立ち去った。ほとんど定刻通りの高速電車に乗り、一度も振り返ることなく。

「……散々なキャンプだったぜ。バンバス、二度と俺をキャンプになんて誘うなよ」

「フン、俺だってこんなのはもう御免だな。第一、キャンプらしいことなど何もしていない!次はどこに行くか…」

「お前話聞いてたか?!」

そうなこんなで、彼らの大型連休は幕を降ろす事となる。この時の女性がこの後どうなるのかはわからないが、三人は不思議な満足感を胸にリオスへと帰るのだ。

彼らは再び、闘いの中へと身を投じることになる。

「次はねえっつってんだろ!やめろ計画を練るな!」









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