10 / 18
10
しおりを挟む(どうしてこんなことに……!)
エイデンは落ち着きなく部屋中をぐるぐると歩き回っていた。胸がざわついて、どうにもじっとしていられないのだ。
今日、ルーン伯爵家の面々がロードリー伯爵家へとやってくる。エイデンとサンドラの婚約のことについて話し合いがしたいとのことだ。
父に手紙を送ってもらったらなんとかなるかと思ったが、そんな甘い話ではないらしい。
もちろん、話し合いがそう悪くない方向に向かう可能性もある。しかし、先日のサンドラの様子を考えると、昔のように丸め込むことは難しいだろう。
少し前までは、サンドラはエイデンの言うことならなんでも聞き入れてくれる優しい女の子だったのに……。
そこで、コンコンとドアがノックされる音が響き、すぐに扉が開けられる。そこに立っていたのは母のエイミーだった。
「母上……」
「エイデン、もうすぐサンドラが来る時間よ。ちゃんと出迎えてあげなさい」
「……はい」
エイデンは暗い顔で頷く。
すると、そんなエイデンの顔を覗き込んだ母はくすくすと小さく笑った。
「そんな心配しなくても大丈夫よ。あなたたちは小さな頃から仲良しだったでしょ? サンドラもきっと結婚が近づいてマリッジブルーになってるのね」
「そうだといいんですが……」
どちらかというとブルーではなく、ハイになっているような気がした。あれもマチルダ・ナトルの影響なのだろうか。
エイデンはバラの花束を抱えて、両親とともにルーン伯爵家の来訪を待った。
そして、馬車の音が聞こえてきたタイミングで外に出て、ルーン伯爵家の面々を出迎えた。
「お久しぶりです、ルーン伯爵。今日はうちのバカ息子のせいでご足労をおかけして申し訳ない」
「いえいえ、構いませんよ。こちらもお話ししたいことがあったので」
「ステラ、今日はごめんなさいね。エイデンが意地になっておかしなことを言ってしまったみたいで……この子も悪気があったわけじゃないのよ。サンドラが急に綺麗になって驚いたみたいで」
「そうなの……」
お互いの両親が先に話しているが、いつもよりサンドラの両親の態度が素っ気ない気がした。
嫌な予感を覚えつつエイデンがサンドラを見ると、彼女は従兄弟のユーリスの隣で優雅に微笑んでいる。
「サ、サンドラ」
「ご機嫌よう」
サンドラは先日と同じく派手な装いだった。髪は後ろで結い上げられてはいるが、複雑に編み込まれていて、綺麗な髪飾りもついている。ドレスも今までの淡い色の物とは違う赤のドレスで、もちろん化粧はばっちりだ。
エイデンの顔が引きつる。
綺麗だが、似合っているが、こんなサンドラは好きじゃない。
しかし、サンドラは前よりも朗らかな表情をしていて、それがいっそうエイデンの鼻につく。
「……先日はすまなかった。これ……」
苛立ちを押し殺して、抱えていた花束をサンドラに差し出す。
サンドラは一瞬迷うような素振りを見せてから、花束を受け取った。そして、にっこりと笑って言う。
「あら、もうすぐ婚約者でもなんでもなくなる女に花をくれるなんて、随分優しいのね。私の気持ちは変わってないけど、花は貰っておくわ。花に罪はないもの」
サンドラの言葉に、その場の空気が凍りついた。エイデンの両親は驚いたように言葉を失っていたが、サンドラの両親は先ほどと同じく冷ややかな表情をしたままだった。
そこに、若い男の朗らかな声が響く。
「まあまあ。立ち話もなんですから、中で座って話しましょうよ。大切な話ですからね」
ユーリスがそう言って、サンドラの腰に手を回す。いくら義兄になる存在といえどその馴れ馴れしさにエイデンは不快感を覚えたが、サンドラは拒むことなくユーリスの腕を受け入れていた。むしろ、どこか気恥ずかしそうに頬を赤く染めている。
(……サンドラ?)
エイデンが唖然としているうちに、皆屋敷の中へと入っていった。
馬車に残る従者に花束を預けたサンドラも、ゆったりとした足取りでエイデンの横を通り過ぎていく。その隣には、やはりぴたりとユーリスが寄り添っていた。
51
お気に入りに追加
2,917
あなたにおすすめの小説
振られたあとに優しくされても困ります
菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
たとえこの想いが届かなくても
白雲八鈴
恋愛
恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。
王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。
*いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。
*主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)
好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。
はるきりょう
恋愛
オリビアは自分にできる一番の笑顔をジェイムズに見せる。それは本当の気持ちだった。強がりと言われればそうかもしれないけれど。でもオリビアは心から思うのだ。
好きな人が幸せであることが一番幸せだと。
「……そう。…君はこれからどうするの?」
「お伝えし忘れておりました。私、婚約者候補となりましたの。皇太子殿下の」
大好きな婚約者の幸せを願い、身を引いたオリビアが皇太子殿下の婚約者候補となり、新たな恋をする話。
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
やり直し令嬢は本当にやり直す
お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる