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「ボク、これ見たことあるかも……」
「え!?」
ルーカス様が魔法具を覗き込んで告げたその言葉に、ナテュール様だけではなく他の面々も目を見開く。
それを横目に、ルーカス様はこめかみを指で解すように押しながら、唸るようにして「確か祖母が一度付けていたような……」と、記憶をひねり出す。
テーブルの上に置かれた古の魔法具は相変わらず不気味なほど赤い。
「ルーカス様のお祖母様が……そうなるとエドワーズ公爵家に伝わっているものなのでしょうか?」
しかし、公爵家の遺物ならばもっと厳重な管理がされているはずなのに、と指を顎に添えると、慌てたよう「あ、ううん!そっちじゃなくて、」とルーカス様が首を振った。
「ボクの母方のおばあちゃんが、なんだけど……」
と、気まずそうに頬を描くルーカス様。
それに「は!?」とナテュール様が声を上げた。
「どういうことだ!?これはエドワーズ公爵夫人が隠し持っていたんだぞ!?」
その言葉にルーカス様も「え!?」と驚愕に目を見開く。
そう、これはエドワーズ公爵夫人が隠し持っていたもの。しかし、持ち主であるルーカス様の祖母が死に順当に行けば今持っているべきなのはルーカス様の母親であるはず。
気に入らない女の持ち物を夫人が無理やり取り上げた?
いや、それならばあんな隠しスペースにわざわざ大事に包んでしまい込む必要は無い。
(……日当たりも造りもいい、離れ……)
忍び込んだあの時に見たルーカス様の母親が暮らす離れ。それを最初に見た時にふと頭をよぎった疑念が、気のせいではないとその頭をもたげた。
「……すみません、少し席を外します。」
と、一言告げ、ルーカス様が名目上拘束されている部屋から退室する。
そして少し進んだ所で廊下の壁を軽く4回、決まったリズムで叩けば、天井裏にいた気配が近くに降りてきた。
「……エドワーズ公爵夫人とルーカス・エドワーズの実母がお互いに連絡を試みる可能性があります。至急2人の監視の強化を。」
そう静かに言葉を吐けば、コンッと壁を叩く返答があり、壁の向こう側にいた気配が遠のいていく。
今のが正真正銘の暗部を担う『王家の陰』だ。
僕の独学で学んだものとはわけが違い、その足音の無さや気配の消し方は別格だ。ちなみに呼び出し方は王家の陰独特のもの、というわけではなく、ギルドで使われる呼び出し暗号のリズムだ。流石はエリート集団。通じてよかった。
それにしても何故ラファエル理事長達は僕がこんなエリート部隊にいると勘違いしたのだろうか?
(って、今はそんなことどうでもいい。早く戻らなければ。)
そう思いくるりと踵を返した所で、ニヤニヤと笑うニコラ教官と目が合った。
「……え、ちょっと何その顔。しわっしわな顔してるけど。」
「……いえ、貴方の気配を無意識に気にせずにいた自分の気の抜けように自己嫌悪が……」
「自己嫌悪でその顔になるの???」
困惑するニコラ教官をそのままに片手で顔を覆って長く深く息を吐く。
落ち着け、落ち着け。ナテュール様の従者たる僕が完璧でなくてどうする。
「それにしても、今ので自分は『陰』ではありませんってのは無理があるんじゃないのかい?」
と、再度ニヤニヤとした顔を向けてきたニコラ教官に今度は違う意味で息を吐く。
「……僕は暗殺者という職業柄、気配に敏い故に彼らの存在に気がついただけですよ。」
ついでだからパシッたんですと告げ、僕は袖口に隠していた暗器をニコラ教官に見せつけるように取り出し、その手のひらで回した。
「僕の暗殺術は独学です。彼らのような訓練を受けたことはありませんし、彼らのような飛び抜けた諜報能力があるわけでもありません。一緒にする方が失礼ですよ。」
恐らく彼らは幼い頃から厳しい訓練をひたすらに耐えてきた人間だ。耐えなければ他に行き場はなく、生きる道もない。
ただただ国のためにそうあれと育て造られた人たちだ。
僕のようなナテュール様をお守りしたい一心でなんとかやってきただけの人間と同じにしてはいけない。
「……君ってさぁ……」
そんな僕の言葉にニコラ教官はどこか呆れたような目を向けた。
「顔の割に自己肯定感低いよね?」
「喧嘩売ってます??」
なんだ顔の割にって。
顔関係ないだろ。
「人の顔が細目で胡散臭いからって言っていいことと悪いことがあると思います。」
「うん、私そこまで言ってないよね??」
自覚あったんだ~なんてニコニコと言うニコラ教官にピキリと青筋が立つ。
このまま手のひらにある暗器を投げつけてやろうかと思った時「ところでロイ君。」とニコラ教官が言葉を投げた。
「君は今回の真相、どうみているんだい?」
「……ニコラ教官と同じ見解かと。」
そう僕が返せば、ニコラ教官は何も言わずにただその眉尻を僅かに下げた。
それは無言の肯定だ。
「エドワーズ公爵夫人とルーカス様の実母は共犯関係でしょう。」
その言葉にニコラ教官は目を伏せて「嫌になっちゃうよねぇ。貴族ってやつはさ。」と、言葉を吐いた。
**後書き**
裏話。ロイが猫を被った「私」ではなくちょこちょこ「僕」という一人称を使っているのは信頼によって気が抜けてきている証拠。本人も無自覚。
「え!?」
ルーカス様が魔法具を覗き込んで告げたその言葉に、ナテュール様だけではなく他の面々も目を見開く。
それを横目に、ルーカス様はこめかみを指で解すように押しながら、唸るようにして「確か祖母が一度付けていたような……」と、記憶をひねり出す。
テーブルの上に置かれた古の魔法具は相変わらず不気味なほど赤い。
「ルーカス様のお祖母様が……そうなるとエドワーズ公爵家に伝わっているものなのでしょうか?」
しかし、公爵家の遺物ならばもっと厳重な管理がされているはずなのに、と指を顎に添えると、慌てたよう「あ、ううん!そっちじゃなくて、」とルーカス様が首を振った。
「ボクの母方のおばあちゃんが、なんだけど……」
と、気まずそうに頬を描くルーカス様。
それに「は!?」とナテュール様が声を上げた。
「どういうことだ!?これはエドワーズ公爵夫人が隠し持っていたんだぞ!?」
その言葉にルーカス様も「え!?」と驚愕に目を見開く。
そう、これはエドワーズ公爵夫人が隠し持っていたもの。しかし、持ち主であるルーカス様の祖母が死に順当に行けば今持っているべきなのはルーカス様の母親であるはず。
気に入らない女の持ち物を夫人が無理やり取り上げた?
いや、それならばあんな隠しスペースにわざわざ大事に包んでしまい込む必要は無い。
(……日当たりも造りもいい、離れ……)
忍び込んだあの時に見たルーカス様の母親が暮らす離れ。それを最初に見た時にふと頭をよぎった疑念が、気のせいではないとその頭をもたげた。
「……すみません、少し席を外します。」
と、一言告げ、ルーカス様が名目上拘束されている部屋から退室する。
そして少し進んだ所で廊下の壁を軽く4回、決まったリズムで叩けば、天井裏にいた気配が近くに降りてきた。
「……エドワーズ公爵夫人とルーカス・エドワーズの実母がお互いに連絡を試みる可能性があります。至急2人の監視の強化を。」
そう静かに言葉を吐けば、コンッと壁を叩く返答があり、壁の向こう側にいた気配が遠のいていく。
今のが正真正銘の暗部を担う『王家の陰』だ。
僕の独学で学んだものとはわけが違い、その足音の無さや気配の消し方は別格だ。ちなみに呼び出し方は王家の陰独特のもの、というわけではなく、ギルドで使われる呼び出し暗号のリズムだ。流石はエリート集団。通じてよかった。
それにしても何故ラファエル理事長達は僕がこんなエリート部隊にいると勘違いしたのだろうか?
(って、今はそんなことどうでもいい。早く戻らなければ。)
そう思いくるりと踵を返した所で、ニヤニヤと笑うニコラ教官と目が合った。
「……え、ちょっと何その顔。しわっしわな顔してるけど。」
「……いえ、貴方の気配を無意識に気にせずにいた自分の気の抜けように自己嫌悪が……」
「自己嫌悪でその顔になるの???」
困惑するニコラ教官をそのままに片手で顔を覆って長く深く息を吐く。
落ち着け、落ち着け。ナテュール様の従者たる僕が完璧でなくてどうする。
「それにしても、今ので自分は『陰』ではありませんってのは無理があるんじゃないのかい?」
と、再度ニヤニヤとした顔を向けてきたニコラ教官に今度は違う意味で息を吐く。
「……僕は暗殺者という職業柄、気配に敏い故に彼らの存在に気がついただけですよ。」
ついでだからパシッたんですと告げ、僕は袖口に隠していた暗器をニコラ教官に見せつけるように取り出し、その手のひらで回した。
「僕の暗殺術は独学です。彼らのような訓練を受けたことはありませんし、彼らのような飛び抜けた諜報能力があるわけでもありません。一緒にする方が失礼ですよ。」
恐らく彼らは幼い頃から厳しい訓練をひたすらに耐えてきた人間だ。耐えなければ他に行き場はなく、生きる道もない。
ただただ国のためにそうあれと育て造られた人たちだ。
僕のようなナテュール様をお守りしたい一心でなんとかやってきただけの人間と同じにしてはいけない。
「……君ってさぁ……」
そんな僕の言葉にニコラ教官はどこか呆れたような目を向けた。
「顔の割に自己肯定感低いよね?」
「喧嘩売ってます??」
なんだ顔の割にって。
顔関係ないだろ。
「人の顔が細目で胡散臭いからって言っていいことと悪いことがあると思います。」
「うん、私そこまで言ってないよね??」
自覚あったんだ~なんてニコニコと言うニコラ教官にピキリと青筋が立つ。
このまま手のひらにある暗器を投げつけてやろうかと思った時「ところでロイ君。」とニコラ教官が言葉を投げた。
「君は今回の真相、どうみているんだい?」
「……ニコラ教官と同じ見解かと。」
そう僕が返せば、ニコラ教官は何も言わずにただその眉尻を僅かに下げた。
それは無言の肯定だ。
「エドワーズ公爵夫人とルーカス様の実母は共犯関係でしょう。」
その言葉にニコラ教官は目を伏せて「嫌になっちゃうよねぇ。貴族ってやつはさ。」と、言葉を吐いた。
**後書き**
裏話。ロイが猫を被った「私」ではなくちょこちょこ「僕」という一人称を使っているのは信頼によって気が抜けてきている証拠。本人も無自覚。
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