25 / 50
25(イザック視点)
しおりを挟む
【注意書き】
わりとしっかりとした流血の描写あります。
イザック視点というよりはイザックメインの第三者視点です。
****
イザック・ベルナールは苛立っていた。
それを全身で表すように、ドカドカと足を鳴らして廊下を進む。
原因は言わずもがな、あのいけ好かないロイ・プリーストとかいう神殿からの回し者だ。
元々、イザックは神殿が嫌いだった。神や信仰の名のもとに金を貪り、回復ポーションを盾に弱者をいたぶる。神官こそ欲に溺れ、市民を金づるとしか思っていないクソ野郎共の集まり。
イザックの父は優れた冒険者だったのに、過去に神殿への奉納金を値下げするように頼んだ事があったというだけで、大怪我をおった日、回復ポーションを貰うことが出来なかった。
そのため、父は怪我を完全に治すことは出来ず、前線から退くこととなったのだ。
そんな神殿の「プリースト」を名乗るやつがクラスメイトにいると言うだけでも腹が立つのに、なんとそいつは対立しているはずの王族の従者にまでなっている。
それがあの忌み嫌われた第7王子だとしても、何か企んでいることは間違いない。
常にこちらを見下すように笑い、口を開けば嫌味ばかり。
(だからこそ、俺が正義の鉄槌を下すはずだったのに……!)
自分なら勝てると思っていた。
同年代の人間に、剣で負けるなんて思ってもいなかった。
それなのに、入学してひと月以上経ってようやく始まった剣術の授業で、自分はあのロイ・プリーストに負けた。
(いや、負けてなんか……アイツがいきなり剣を叩き落として奪ったんだ……!勝負を始める前に……!卑怯者め!)
フンッと鼻を鳴らして廊下を進めば、イザックの形相に驚いた生徒たちはそそくさと道を空ける。
しかし、イザックには周りの生徒の反応など目に入っておらず、そのままずんずん廊下を進んでいく。
(そうさ!神殿のやつなんか皆卑怯者だ!食堂でも俺の事を馬鹿にしやがって!)
他の生徒をパシリにしていた所を指摘したら窓から逃げた卑怯者。
かと思えばしばらく経って平然と戻ってきて、食事を取り始めたのだ。
相変わらずニコニコと気味の悪い、こちらを見下すような笑みを貼り付けて、イザックの方なんて見向きもせずに食事を平らげた。
どう考えてもこちらをバカにしているとしか思えない。
「ねぇ、君。このままロイ・プリーストの好きになんてさせたくないよね?」
不意にそんな台詞が聞こえて、イザックは足を止めた。
声のした方へと首をひねれば、隣の平民クラスの少年が、ぽつんとそこに立っていた。
気づけば、随分と校舎の奥に来てしまったようで、周りに他の生徒は見当たらない。
「僕も気に入らないんだ!ねぇ、このまま好き勝手になんてさせたくないでしょう?」
ロイ・プリーストのような気味の悪い貼り付けた笑みではなく、朗らかな微笑みに、イザックは肩の力を抜いて「当然だ。」と答えた。
「だよね!じゃあ同じ目的同士、協力し合おうよ!」
と、パッと花を咲かすように笑うその生徒に、「……いや、協力って……まずお前は何ができるんだ。俺のように剣になれた人間じゃないだろ。 」と問う。
彼の体躯は明らかに細く、筋肉がない。身長だってあのロイ・プリーストよりも10cm以上小さいだろう。そんなやつが、あの卑怯者に勝てるとは思えない。
「いやいやいや、侮ることなかれ!僕にはとっておきの作戦があるんだよ!」
なんて言って手でおいでおいでとイザックを招いたその生徒。
イザックは「なんなんだこいつ」と思いながらも、招かれる手に従い、内緒話をするため生徒に耳を向ける形で少し屈んだ。
その瞬間だった。
「……は?」
首に走る冷たい衝動。直後にカッと皮膚が熱くなり、視界に赤い水が弾けた。
「な、何を……!?」
首を斬られた、と理解した時にはもう遅い。手で抑えようともドクドクと波打つ鼓動に合わせて指の隙間から血が吹き出す。
「あぁ、ごめんね?僕の作戦じゃなくて、僕達の作戦だったよ。」
あの朗らかな笑顔のまま、こてりと首を傾げて何でもないようにそう告げる生徒。
そんな生徒にイザックは得体の知れない恐怖を感じ、後ずさろうとするが、血の抜けた体はカクンッと地面に膝を着いた。
ボタボタと落ちる血が見る見るうちに水溜まりを作り上げる。
「安心しなよ。君の死はちゃぁんと、ロイ・プリーストの失脚に使われるから。じゃあ、ばいばぁい!」
霞む視界の中、血まみれのナイフをユラユラ振る、その生徒は明らかに狂気じみていた。
(くそ……!なんで俺が……!)
殺されることへの腹立たしさ。
やりたい事への未練。
何も成せないことへの虚しさ。
そして、家族のこと。
地面に血を撒き散らして倒れ伏せたイザックの心にはそれらの感情や思い出がグルグルと巡る。
次第に視界は何も映さなくなり、頭はぼんやりとして指先のひとつも動かせない。
(……ああ、俺……死ぬのか……)
「……おや、これは困りましたね。」
虫の声ひとつ、拾わなくなったイザックの耳に、大嫌いなロイ・プリーストの声が聞こえた気がした。
わりとしっかりとした流血の描写あります。
イザック視点というよりはイザックメインの第三者視点です。
****
イザック・ベルナールは苛立っていた。
それを全身で表すように、ドカドカと足を鳴らして廊下を進む。
原因は言わずもがな、あのいけ好かないロイ・プリーストとかいう神殿からの回し者だ。
元々、イザックは神殿が嫌いだった。神や信仰の名のもとに金を貪り、回復ポーションを盾に弱者をいたぶる。神官こそ欲に溺れ、市民を金づるとしか思っていないクソ野郎共の集まり。
イザックの父は優れた冒険者だったのに、過去に神殿への奉納金を値下げするように頼んだ事があったというだけで、大怪我をおった日、回復ポーションを貰うことが出来なかった。
そのため、父は怪我を完全に治すことは出来ず、前線から退くこととなったのだ。
そんな神殿の「プリースト」を名乗るやつがクラスメイトにいると言うだけでも腹が立つのに、なんとそいつは対立しているはずの王族の従者にまでなっている。
それがあの忌み嫌われた第7王子だとしても、何か企んでいることは間違いない。
常にこちらを見下すように笑い、口を開けば嫌味ばかり。
(だからこそ、俺が正義の鉄槌を下すはずだったのに……!)
自分なら勝てると思っていた。
同年代の人間に、剣で負けるなんて思ってもいなかった。
それなのに、入学してひと月以上経ってようやく始まった剣術の授業で、自分はあのロイ・プリーストに負けた。
(いや、負けてなんか……アイツがいきなり剣を叩き落として奪ったんだ……!勝負を始める前に……!卑怯者め!)
フンッと鼻を鳴らして廊下を進めば、イザックの形相に驚いた生徒たちはそそくさと道を空ける。
しかし、イザックには周りの生徒の反応など目に入っておらず、そのままずんずん廊下を進んでいく。
(そうさ!神殿のやつなんか皆卑怯者だ!食堂でも俺の事を馬鹿にしやがって!)
他の生徒をパシリにしていた所を指摘したら窓から逃げた卑怯者。
かと思えばしばらく経って平然と戻ってきて、食事を取り始めたのだ。
相変わらずニコニコと気味の悪い、こちらを見下すような笑みを貼り付けて、イザックの方なんて見向きもせずに食事を平らげた。
どう考えてもこちらをバカにしているとしか思えない。
「ねぇ、君。このままロイ・プリーストの好きになんてさせたくないよね?」
不意にそんな台詞が聞こえて、イザックは足を止めた。
声のした方へと首をひねれば、隣の平民クラスの少年が、ぽつんとそこに立っていた。
気づけば、随分と校舎の奥に来てしまったようで、周りに他の生徒は見当たらない。
「僕も気に入らないんだ!ねぇ、このまま好き勝手になんてさせたくないでしょう?」
ロイ・プリーストのような気味の悪い貼り付けた笑みではなく、朗らかな微笑みに、イザックは肩の力を抜いて「当然だ。」と答えた。
「だよね!じゃあ同じ目的同士、協力し合おうよ!」
と、パッと花を咲かすように笑うその生徒に、「……いや、協力って……まずお前は何ができるんだ。俺のように剣になれた人間じゃないだろ。 」と問う。
彼の体躯は明らかに細く、筋肉がない。身長だってあのロイ・プリーストよりも10cm以上小さいだろう。そんなやつが、あの卑怯者に勝てるとは思えない。
「いやいやいや、侮ることなかれ!僕にはとっておきの作戦があるんだよ!」
なんて言って手でおいでおいでとイザックを招いたその生徒。
イザックは「なんなんだこいつ」と思いながらも、招かれる手に従い、内緒話をするため生徒に耳を向ける形で少し屈んだ。
その瞬間だった。
「……は?」
首に走る冷たい衝動。直後にカッと皮膚が熱くなり、視界に赤い水が弾けた。
「な、何を……!?」
首を斬られた、と理解した時にはもう遅い。手で抑えようともドクドクと波打つ鼓動に合わせて指の隙間から血が吹き出す。
「あぁ、ごめんね?僕の作戦じゃなくて、僕達の作戦だったよ。」
あの朗らかな笑顔のまま、こてりと首を傾げて何でもないようにそう告げる生徒。
そんな生徒にイザックは得体の知れない恐怖を感じ、後ずさろうとするが、血の抜けた体はカクンッと地面に膝を着いた。
ボタボタと落ちる血が見る見るうちに水溜まりを作り上げる。
「安心しなよ。君の死はちゃぁんと、ロイ・プリーストの失脚に使われるから。じゃあ、ばいばぁい!」
霞む視界の中、血まみれのナイフをユラユラ振る、その生徒は明らかに狂気じみていた。
(くそ……!なんで俺が……!)
殺されることへの腹立たしさ。
やりたい事への未練。
何も成せないことへの虚しさ。
そして、家族のこと。
地面に血を撒き散らして倒れ伏せたイザックの心にはそれらの感情や思い出がグルグルと巡る。
次第に視界は何も映さなくなり、頭はぼんやりとして指先のひとつも動かせない。
(……ああ、俺……死ぬのか……)
「……おや、これは困りましたね。」
虫の声ひとつ、拾わなくなったイザックの耳に、大嫌いなロイ・プリーストの声が聞こえた気がした。
10
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる