上司と部下の恋愛事情

朔弥

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番外編

Xmas

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「なんで今日は平日なんだろうな···」
 パソコンの画面を見据えながら城戸は不服そうに呟いた。
 金曜日の21時ともなると、オフィスに残って仕事をしている社員の人数はぐっと減るが、今日は12月24日。Xmasイブという事もあり、いつも以上に残業している社員は少ない。
「いーよな~··松永先輩は今ごろ婚約者の人と甘~い時間ッスかねえ」
 ため息混じりに城戸は呟いた。
 先程からずっとこの調子でブツブツ言っている。城戸の前のデスクで作業していた真尋はいい加減にしろよ、とディスプレイの横から顔を覗かせた。
「城戸!愚痴ってないで仕事、進めろよ。お前が松永さんにクリスマスに彼女を待たせるのは良くないッス!って言って松永さんの分の仕事も引き受けたんだろうが」
 婚約者として認められて初めて過ごすXmasだ。松永が早く帰れるように、何時も世話になっているからと城戸が仕事を引き受けると言ったのだが、「早坂も彼女いないし大丈夫だよな!」と巻き添えを食ってしまった。



 俺も海里とXmas過ごしたかったんだけどな···



 軽くため息を吐きながら、海里との関係を公に出来ない以上、Xmasは恋人のいない寂しい独身男性である自分に断る理由など思いつく筈もなく二つ返事で引き受け今に至る。
 恋人である海里はといえば、仕事を早目に切り上げ先に帰宅していた。毎年の事だが、社に残っていると海里に好意を持つ女子社員から飲みに誘われる為、この日だけは残業をせず気づけば姿を消しているのが恒例となっていた。
 随分と前に海里から『会社を出る前にメールして』とメールが届いていたが、未だにもうすぐ帰れそうだと送れる目処めどは立っていない。
「だってさ~··イルミネーションと恋人で溢れた街ん中なんて歩きたくねぇじゃん···」
 俺は終電ギリギリに帰る!とすさんだ表情で城戸はキーボードを叩く。
「······終電」
 マジか···と、真尋は落胆の色を見せた。





 ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇





「じゃあな、早坂お疲れ~」
「あ、ああ···お疲れ···」
 会社ビルの入口で城戸は仕事をやり切った爽やかな笑みを浮かべながら帰路につく彼を真尋は引き攣った笑顔で見送った。
 真尋はスマホを取り出し画面を開く。
 結局23時をまわってしまった。街中のイルミネーションもほとんど消灯されてしまっている時刻だ。
 真尋は『これから帰る』とメッセージを送った。
 すると、すぐに海里から返信が届く。
「······え?」
 メッセージを見た真尋は、そこに書かれているメッセージが間違いではないだろうか、と思わず見返した。


『いつもの駐車場で待ってる』


 定時を少し過ぎた頃には退社していた筈だ。それから何時間経っていると···。
 真尋は地下駐車場に向かって駆け出した。
 エレベーターが地下へ向かう速度さえ遅く感じられもどかしい。
 エレベーターが地下駐車場の階につき、扉が開ききる前に真尋は走り出し、いつも海里が車を停めている場所へと向かった。
 とっくに帰っていてない筈の場所に見慣れた車がある。
 運転席のドアが空き、海里が降り姿を現した。
「海里!な···んで···まさか、ずっとここで待ってたのか?」
 駐車場でずっとエンジンをかけているわけにはいかない。コートを着ているとはいえ、車内でじっと待つには寒かった筈だ。
「ちゃんと温かい飲み物、飲んでいたから大丈夫だよ」
 と、海里はなんでもないように笑みを浮かべる。
「それより真尋、車に乗って」
「うん···」
 促されるまま助手席に乗り込んだ。


 自宅とは違う道を走っている事に気づいた真尋は、運転する海里の横顔をチラリと盗み見る。
 その視線に気づいた海里は、
「少しだけつきあって」
 と、言っただけでどこへ向かっているとも言わずに車を走らせた。


「着いたよ」
 海里に言われ、真尋は車を降り周囲を見渡した。
 郊外から少し離れた場所にある憩いの広場の駐車場だ。
「真尋、こっち···」
 手を繋がれ、広場の中へと入っていくと、噴水の周囲の木々は淡いグリーンの光で装飾され、ライトアップされた噴水の中央に浮かび上がるツリーはスカイブルーの光を纏い冬の寒い夜空に映えて見えた。
「この時間までライトアップされてるのって、近くだとここしかなくて···少し遠いけど、真尋とイルミネーションを見ながらデートしたかったから」
 わざわざ調べて連れてきてくれたのか···と、真尋は隣に立つ海里を見つめた。
「ごめん···もう少し早く仕事、切り上げれば良かった···」
「城戸が珍しく気をまわしていたからなあ···松永の分を二人で請け負っていたんだろ?」
 仕方ないよ、と海里は笑みを浮かべた。
「でも······」
 まだ申し訳なさそうな顔をしている真尋に海里は苦笑しながら、繋いでいた手を放し腰にまわすと自分の方へと引き寄せるように抱き締めた。
「せっかくXmasにデートしているんだから、ごめんじゃなくて···ありがとうがいいな···」
「海里······」
 真尋は海里の腕の中に収まったまま、自分もそっと海里の背に腕をまわした。
 何時もだったら、「こんな所で抱き締めるな!誰かに見られたらどうするんだよ」と照れながらも怒りだしているのに···と意外な真尋の反応に少し驚いた表情かおで腕の中の真尋を見つめる。
 そんな海里の視線に気づいた真尋は、少しむっとねた顔をしながら、
「誰も気にしてないみたいだから···」
 と、ぼそっと呟いた。
 海里達の他にもXmasの雰囲気を味わおうとちらほら恋人達の姿はあるが、皆自分達の世界に入り込んでいる。
 だから···と、真尋は恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、
「今日だけは···隠さずに海里と恋人でいたい···」
 と、海里の瞳真っ直ぐ見つめながら気持ちを伝えた。
「真尋···」
 幸せそうな笑みを浮かべた海浬は抱き締める手に力を込め、真尋の唇に口づけた。
 冷たい冬の空気に触れていた唇はひんやりとしているが、舌を差し入れた口腔内は熱く求めるように真尋は積極的に舌を絡めてきた。
「ん···ふうっ···っう···」
 甘い吐息ごと奪うように深く唇を重ねる。
「真尋···好きだよ···一緒にXmasを過ごせて嬉しい···」
 唇を離しながら海浬は囁いた。
 真尋もこくりと小さく頷く。
「ね···海浬、帰ったら···今日は朝まで一緒に···」
 誘うような視線で海里に投げかけた。
 冷たい澄んだ空気の中、躰は海浬を欲して熱を帯び始めていた。
 海里は甘い笑みを浮かべると、真尋の耳元に唇を寄せ囁く。



 ああ···

 朝まで離さない ───···





───────────────────



 メリー・クリスマス!
 皆様、素敵なXmasを···

                         (2022.12.24)


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