上司と部下の恋愛事情

朔弥

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狙われた真尋

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 真尋のアパートの近くの路肩に車を停めた海里は、車内から部屋のドアを見つめた。
「おい、俺は車を近くの駐車場に停めてくるから、お前は先に行け!部屋は何処だ?」
「2階だ。205」
 怜司に言われ、海里は車のキーを手渡すと部屋の番号を伝えながら車を降りた。

 階段を駆け上がりながら、部屋の合鍵くらい預かっておけば良かったと悔やむ。


 鍵をかけないでいてくれるといいが···


 海里はドアの前で部屋の番号を確認すると、ドアのレバーハンドルに手をかけた。勢いよく引くと、鍵はかけられておらずドアを開ける事が出来た。


「──── っ!!」
 家の中を見た海里の目に飛び込んできた光景は、玄関先の廊下の床に後ろ手に縛られ三浦に組み敷かれている真尋の姿だった。
 ワイシャツのボタンは全て外され、乱れたシャツの間から白い肌が露わになっている。三浦に左手で肩を床に抑えつけられ、もう片方の手は前を寛がせ真尋の半身に伸ばされていた。
 突然の訪問者に驚きドアの方を振り返った三浦と視線が合う。
 海里は三浦のスーツの襟首を掴むと力いっぱい後ろに引き、真尋から引き離した。
 狭い玄関の壁に背中を打ちつけた三浦は小さく呻き声を洩らす。
「痛っ···な··んで元宮課長が···」
 今すぐにでも殴り倒したい衝動を抑え、海里は自分のスーツの上着を脱ぐと真尋に近寄り躰にかけた。そして背中へと手を伸ばし、縛られている手の戒めを解く。
「大丈夫か?」
 そっと声をかけると、真尋は起き上がり海里の胸に顔を埋めた。海里の腕をシャツを握った真尋の手が微かに震えている。
「···もう大丈夫だから」
 小さく頷いた真尋の背中に手を回し、そっと抱きしめた。


「おい、お前の部下は無事か!?」
 遅れて怜司がドアを開け入ってきた。
 怜司は二人の姿を確認すると三浦に近き、座り込んでいる彼の胸倉を掴んだ。
「本間先輩まで···?」
 真尋に駆け寄った海里を見た三浦は、てっきり彼が真尋の付き合っている恋人かと思ったが、怜司まで現れどうなっているのかと二人を交互に見た。
 そんな三浦の表情に気づいた怜司は、こいつにあの二人が恋人だと知られれば、またつきまとわれる隙を作りかねないな、と考える。
 立ち回りの上手い海里ならともかく、恋人の方はつけこまれそうだ。
「お前のスマホに隠し撮りのような写真を見かけて俺が海里に頼んで電話かけてもらったんだよ」
 部下を心配した上司がかけたんだと強調するように怜司は言い、更に言葉を続けた。
「電話の途中で争うような音が聞こえてきたから慌てて駆けつけてみれば···お前、辞めた笹原にも同じ事をしたのか!?」
「···あの電話···もう切れたと思ったのに繋がってたのか···」
 ははっ、と三浦は乾いた笑いを洩らした。
「もう少し慎重に迫ればよかったな···笹原の時は邪魔が入らなかったのにね···残念」
 少しも悪びれる様子のない三浦に怜司は握りしめた拳が怒りで震える。
下衆げす野郎が···」
 絞り出すような声で怜司は呟いた。
「俺はどうせクビだろ?真尋を襲って懲戒解雇でもいいけど···男に襲われたなんて会社に居づらくなるんじゃないの?」
 三浦の言葉に真尋は顔を伏せたまま、躰がビクッと震える。
「何が言いたい···」
 不快な視線で怜司は三浦を睨みつける。
「黙って会社辞めるからさ、自主退職にしてよ。真尋にも二度と近づかないって約束するから」
「お前の言葉を信じろ···とでも?」
 それまで黙っていた海里が感情のない冷たい瞳を向けながら三浦に言った。
 その冷たさに、三浦はそれまで浮べていた薄っぺらい笑みが消える。
「お、俺だって仕事につけなきゃ生活出来ないんだから守るよ!」
 三浦の提案に乗るのはしゃくだが、懲戒免職ともなれば、理由を詮索する者もいるだろう。そうなれば被害者であっても面白可笑しく噂にされるのは真尋だ。
「······。怜司、後は任せる」
 海里の迫力に呑まれていた怜司は海里に声をかけられ、
「お、おう。三浦に退職届けを書かせて、人事部に報告しとくよ。まあ···急に田舎の両親の面倒をないといけなくなったとでも言えばいいだろ···」
 と、少しぎこちなく言った。
 次に三浦が視界に入ろうものなら殺しかねない···そんな殺伐とした空気をまとわりつかせている海里が怜司は少し心配になる。


 ···恋人が目の前で襲われていたんだ

 当たり前か···


 だが、優しく真尋を抱きしめている彼の腕を見て、流石に無茶はしないかと思い直した。


 
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