上司と部下の恋愛事情

朔弥

文字の大きさ
上 下
2 / 81
回想

しおりを挟む
 酔って潤んだ瞳で真尋はその男を上目遣いに見つめた。
 会社の同僚と飲みに行って酔う度に、彼らにはその辺の女性より色っぽい顔をするなよな ──··と、冗談混じりに言われていた事を思い出し、真尋は悪戯心に誘うような視線を送る。
 その男は、


 ─── 酔っているのか?


 と少し戸惑いの声で聞いてきた。それはそうだろう。女性から誘われるならともかく、野郎に声をかけられたのだから。だが、男は特に嫌な顔もせず、隣にいてくれた。


 ──── 俺さぁ···失恋しちゃったんだよね


 真尋は独り言のように話し始めた。
 幼馴染みに恋をしていた事。相手が男で報われない恋である為、その想いは一生告げずにいようとしていた事。でも、そいつが結婚すると聞いた途端に、悲しくて···どうしようもない想いに押し潰されそうな事を ──··。
 全てを吐き出してしまいたかった。
 それと同時に、全てがどうでも良くなってしまった。誰でもいいから、淡い初恋の想いごと壊して欲しかった。
 真尋はグラスに残っていたブランデーを一気に煽ると、男に笑みを浮かべながら囁いた。


 ──── なぁ···男に興味ある?

 あったら···抱いてみねぇ? ────



 その相手が自分の職場の上司とも気づかず。いや、気づけない程、泥酔していた。
 男は良いとも嫌だとも言わず、ただ


 ─── 店、出ようか


 とだけ言い、真尋を店から連れ出した。
 腕を掴まれ歩いている間、男は終始無言だった。
 どれくらい歩いたか分からないが、マンションの前で男の足が止まった。


 ─── やめるなら今のうちだけど、どうする?


 男の問いに真尋は、何も考えずただ快楽に溺れたい···だから、そっちは好きに俺の躰を扱いえばいい、そう告げた。酷い扱いを受けたとしても、それは構わなかった。
 男は、分かったと軽く溜め息を吐きながら答えると、マンションのエントランスに入るとオートロックを外し、こっちだ、と真尋をエレベーターへ案内する。
 彼の溜め息が半ば自暴自棄になっている真尋の言葉に呆れて吐かれたものなのか、変な奴に絡まれてしまった事なのかは分からなかったが、後戻りをするつもりはなかった。


 祐也に恋い焦がれていたとはいえ、28歳の歳になるまで何も経験がない訳ではなかった。
 祐也への想いを断ち切るために、言い寄ってきた他の男と付き合ってみた事があった。だが、祐也への想いを強くしただけで長くは続かなかった。
 それからは誰とも付き合った事はない。


 エレベーターが男の家の階で止まると、彼は先に降り家の玄関の鍵を開け、真尋を招き入れた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(本編完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

薔薇の棘と誇りの花〜婚約破棄から始まる私の華麗なる逆転劇〜

 (笑)
恋愛
リュシア・エヴァンスは、婚約破棄を機に自らを変えることを決意し、領地を発展させながら内面と外見の両方で大きく成長していく。彼女の努力と知性は多くの人々に支持され、やがて新たな愛と幸せを見つける物語。自分の力で運命を切り開くリュシアの姿が描かれる、ざまあ展開とロマンスが織り交ざった物語です。

完結【BL】紅き月の宴~Ωの悪役令息は、αの騎士に愛される。

梅花
BL
俺、アーデルハイド伯爵家次男のルーカス・アーデルハイドは悪役令息だった。 悪役令息と気付いたのは、断罪前々日の夜に激しい頭痛に襲われ倒れた後。 目を覚ました俺はこの世界が妹がプレイしていたBL18禁ゲーム『紅き月の宴』の世界に良く似ていると思い出したのだ。 この世界には男性しかいない。それを分ける性別であるα、β、Ωがあり、Ωが子供を孕む。 何処かで聞いた設定だ。 貴族社会では大半をαとβが占める中で、ルーカスは貴族には希なΩでそのせいか王子の婚約者になったのだ。 だが、ある日その王子からゲームの通り婚約破棄をされてしまう。

我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!

真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。 そこで目撃してしまったのだ。 婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。 よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!  長くなって来たので長編に変更しました。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...