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本編

82.貧民達が建てた家屋

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 一方その頃、白豚王子に視点を移す。

 獣人達が温泉に入っている間に、僕は獣人達をもてなす気持ちで、収穫祭で振舞う御馳走を大量に作っていた。

「ふぅ、これだけ作れば十分かな」

 僕は女性達の手も借りて、昨年の収穫祭にも増して豪勢な料理の数々を作り、少しでも華やかに見えるようにと飾り付けも工夫してみた。

「うんうん、食材は一般的な物ばかりだけど、中々豪華な出来栄えになったんじゃないかな。我ながら上出来♪」

 僕が料理を並べ終わった頃、チョコミントとチョコチップが会場の手伝いに来てくれる。

「ラズベリー、こっちも手伝いに来たぞー」
「おぉ、去年にも増して大量の御馳走だな。それに随分と豪華な飾り付けだ」
「みんなに喜んでもらえるように張り切ってみたよ。なかなかの出来栄えでしょう? ふふん♪」

 得意気に僕が鼻を鳴らすと、親子は綺麗に飾り付けられた御馳走を見て、うんうんと頷いてくれる。

「そうだな、こんな御馳走ならきっと喜んでくれるだろうな」
「あぁ、俺も早く食べたいくらいだしな……じゅるり……」
「摘まみ食いしちゃ駄目だからね。……人数が多いから、会場広げてテーブルとイス追加するの手伝って。あと、家屋の方はどうかな?」

 会場の準備をお願いしつつ、僕は頼んでいた家屋の建築状況を訊いてみる。
 中央広場に難民達を迎えに行っている間に、魔法の使える貧民達には家屋の準備をお願いしていたのだ。

「空きの草原を更地にして長屋を多めに建ててきたぞ。寝具は有るだけ集めてみて、取りあえずは足りるだろう。中に入れる家具なんかはこれからだが、数も多いから追々といった所だな」
「そうなんだ、ありがとう。それにしても、もう建て終わったなんて早いね。流石、土魔法の得意なおじさんは頼もしいな。あっという間に建てちゃうんだから」
「いやいや、俺だけじゃなくチョコミントや他の奴等も手伝ってくれたからな。前に作った経験も活かせて効率良くできたな」

 難民達の為に魔法の使える貧民達が能力を駆使して製作したのが、石造りで丈夫な長屋形式の集合住宅だ。
 風魔法で草木を一掃して、水魔法で水路を作り、土魔法で家屋を建てて、火魔法で焼固めて強化する、このような工程で建築されている。

 まだ樹木も育っていなかった頃、家を建てる材木も暖を取る薪も不足していた時期に、前世の記憶から閃いた案を元に試行錯誤してできたのが、この床暖設備完備の集合住宅なのだ。
 床下に水路が通っていて、寒冷期と温暖期で通す水源を変えて温度調節をしている。
 冬は温泉のお湯で温かく、夏は泉の水で涼しい、年中快適に過ごせてしまう画期的な家屋だ。

 この世界にも四季があり、アイス・ランド王国の冬は格段に寒さが厳しい。
 貧民街では厳しい冬を越えられずに命を落とす者が多くいたそうだが、冬前に床暖の集合住宅を建てられた事で、それ以降、貧民達は凍える事も飢える事もなくなり、誰一人として命を落とす事なく冬を越せるようになった。

 そんな経験をしていたからこそ、貧民達は難民達の為に安心して住める家屋を逸早く建てていたのだ。
 難民達の為に積極的に協力してくれる貧民達に、僕は嬉しくなり笑みが零れる。

(早いうちに家屋と寝床がなんとかなりそうで良かった。まだ家具は揃ってないけど、ほんのり温かい床に柔らかい敷物を敷けば、温かい寝床にはなるよね。木製の家具なんかは前と同じく貧民達と手作りすればいいから、あとは……)

 僕が思案していると、一人の大男が駆けてやって来る。

「おーい、温泉上がったから、そろそろ到着するぞ。収穫祭の準備はどうだ?」
「うん、大丈夫、準備万端だよ。それじゃぁ、僕は引っ込んで……こっそり、覗いてるね」

 その場所から離れて行こうとする僕の手を、チョコミントが掴んで止める。

「本当にいいのか? 今からでも誤解を解いて、一緒に収穫祭に参加しないか?」
「折角の収穫祭なのにな、ラズベリーがいないのはな……」
「そうだな、そっくりさんだって言い張ってしまえば……」
「いや、僕はいいよ。誤解を解けるか自信ないし、僕がいると落ち着いて楽しめないと思うから。……でも、獣人達がご飯食べてくれるところ見たいから、こっそり覗いてるけどね!」

 僕の意志が固い様子を見て、親子と大男は残念そうな顔をするが、これは仕方ない事なのだ。
 そして、収穫祭に参加もしないのに、獣人達を覗き見る僕の行動も、これまた仕方ない事なのだ。

(だって、可愛い動物がご飯食べてる姿って、可愛くて最高に癒やされるじゃないか! ケモケモ・モフモフの獣人達がご飯食べてる姿なんて、絶対に見たいに決まってるんだから!! そして、見たら平常心でいられる自信などない!!!)

 僕は興奮して奇行に走らない自信がまるでない――ので、これは致し方ない事なのである。

 誤解をどうにかしても、鼻息荒く間近でガン見されていたら、獣人達は落ち着いて食べられないだろうと思い、僕はじっくりと獣人達を観察する為に、その場所から離れていったのである。


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