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本編

78.難民達の前に現れた大男達

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 地響くような轟音を響かせてやって来たのは、筋骨隆々の大男の大群だった。
 大男達は中央広場の前に到着すると、走っていた足を止めて辺りを見回す。

 ガトー王子を背に庇い身構えていた御供達が、大男達を警戒して話す。

「なんだ、あの大男達は? 魔法使いにもあんな鍛えられた体躯の者がいるのか……」
「騎士団でも衛兵団でもないようですが、どこかの貴族の私兵でしょうか?」

 大男達は難民達の姿を視認すると、難民達の方へと歩みを進め近付いていく。

「まさか、力尽くで難民達に何かするつもりじゃないだろうな!?」
「ガトー殿下、難民達を保護しましょう! 私達が名乗り出れば下手な事はできない筈です!!」
「否、待てお前達」

 今にも飛び出さんばかりの御供達を、ガトー王子は静止した。

「何故、止めるのですか?」
「何をされるか分からないのですよ?」

 静止された御供達が困惑して問い、ガトー王子は答える。

「あの者達は大丈夫だ。様子を見よう……」

 悪感情の機微に聡いガトー王子には、大男達から難民達に対しての悪感情の一切が感じられなかったのだ。
 そして、ガトー王子の視線の先には、遠く離れた物影からチラチラと覗き、様子を伺っている丸々とした人影があった。



 突如、足音を轟かせて押し寄せて来た大男の大群に難民達は飛び上がるほど驚き、お互いの身体に抱き付いて竦み上がった。
 逆光になり表情の見えない大男達の巨体が歩み寄って来れば、巨体の影が伸びて難民達の顔に暗い影が掛かっていく。
 難民達は戦々恐々として、ぷるぷると震え、うるうると涙ぐむ。

 ついに間近まで来ると、大男は巨体を屈めて目の前にいる難民に手を伸ばした。
 難民は大男の大きな手に怯え、咄嗟に身構えて小さな悲鳴を上げる。

「ひぃ!」

 暫し難民は身構えていたが、予想していたような衝撃はなかった。

「………………?」

 不審に思いそろりと見ると、大男の手は難民の目の前に突き出されていた。
 そして、そのてのひらには瑞々しく美味しそうな果物が乗せられていたのだ。

「俺達が育てた果物だ。食べてみてくれ」
「…………ふぇ?」

 大男に嬉々とした明るい声で話しかけられて、難民は呆気にとられ気の抜けた声が漏れる。
 混乱する難民が大男の顔を見上げると、近付いて屈んだ事で大男の表情が良く見えるようになっていた。

「…………ふぉ!」

 筋骨隆々の体躯に見合う精悍な顔立ちは小麦色に焼けていて白い歯がよく映える。
 そんな大男の屈託のない弾けるような満面の笑みが眩しくて、難民は間の抜けた声を漏らした。
 難民が目をしょぼしょぼとさせていると、優しく手を取られ持っていた果実を手渡される。

「さっき収穫したばかりの採れたてだ。美味いぞ」

 手の中にある美味しそうな果実を見つめ、難民はごくりと生唾を呑み込む。
 おずおずと果実に歯を立てて齧れば、口の中いっぱいに瑞々しい果実の風味が広がっていき、全身に染み渡っていく感覚に身体が震える。

「……お、美味しい……」

 気付けばそう呟き、難民は無我夢中で果物を頬張り食べていた。
 夢中になって食べる難民を見て、大男達は嬉しそうに微笑んで言う。

「うんうん、美味いと言ってもらえると、やっぱり嬉しいな」
「こんな旨そうに食べて貰えるのなら、丹精込めて育てた甲斐があるというものだ」
「さぁさぁ、沢山あるからもっといっぱい食べてくれ」

 他にも沢山あるぞと言って、大男達は採れたての果実や野菜などを惜しみなく難民達に与えていった。

 手にしていた果実を食べ終えた難民は一息吐き、恐る恐る大男達に問う。

「……あ、あの、貴方達は、どなたなのですか? ……先程の貴族の方に関係する方なのでしょうか? ……」

 大男達はその問いに首をかしげ、お互いの顔を見合わせてから答える。

「俺達はどなたと言う程の者ではないが、あえて言うなら貧民街の住人だな」
「……貧民街の? ……貴方達がですか? ……」

 難民達はその返答に驚き、大男達の姿をまじまじと見つめた。

 貧民街と言うくらいなのだから、そこで暮らす住人は貧困に苦しむ貧民だと想像したのだが、目の前にいる大男達はそんな困窮した生活を送っている様には見えない。
 健康的に日焼けした張艶のある肌、発達し過ぎなくらいの筋肉盛々な巨体、元気溌溂といった明るい表情、それらには困窮している面影など微塵も無いのだ。

 続いて、大男達は自分や貧民街の事を説明し始める。

「そうだ、貧民街の住人で『人でなし』と揶揄される事も多いな。魔法使いの思想の『魔法が使えない者は人にあらず』から『人でなし』と呼ばれるんだ。俺達のような者は大概が排斥されて、貧民街に追いやられて暮らしているからな」
「だけどな、貧民街なんて呼ばれているが、今の貧民街は住みやすくて良い所だぞ。特に奥地は田畑が広がっていて、緑豊かで空気は綺麗だし、食料も豊富で食うに困らないし、癒しの温泉なんかもあるんだ。俺達は何の不自由も無く暮らしているぞ」
「もしも行く宛がないなら、貧民街に来て一緒に暮らさないか? 豊作だったから、このくらいの人数が増えた所で全く問題はないぞ。今年は食べきれない程の大豊作だったからな」
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