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本編
74.視察に向かう黒狼王子
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ガトー王子一行が難民達の待機する王都の中央広場に到着すると、広場を囲うように難民達を見物する人集りができていた。
全身を覆うローブで身を隠していたガトー王子達は、人集りに紛れながら周囲の様子を伺う。
難民達を見ると、薄汚れて酷く痩せこけた老人と子供達が身を寄せ合い、見物人に怯えるようにして身体を竦ませていた。
見物人を見れば、難民の獣人達への不信や不満からなのか、辛辣な言葉や視線が目立ち、魔法を使えない者に対しての侮蔑や嘲笑がまざまざと感じられた。
その有様を見て、ガトー王子達は表情を暗くし小声で話す。
「……難民が歓迎されるとは思っていませんでしたが、ここまで邪険に扱われてしまうとは……やはり、選民思想の強い魔法使いには我々獣人は受け入れ難いのか……」
「アイス・ランド国王が難民の受け入れを承諾していたとしても、受入先がこの状態では難民達が不憫でなりません……どうにかならないものでしょうか……」
「そうだな……」
難民達の怯える姿を目にして、ガトー王子達がどうしてやるべきかと思案していると、難民達の前に一人の男が姿を現す。
「遠路遥々、隣国から救いを求めやって来られた難民の諸君、ごきげんよう」
声高らかに現れたのは、派手な衣装や宝飾品を身に着けた如何にも成金といった風貌の貴族の男だった。
貴族は従者を伴い難民達の前までやって来ると、芝居がかった台詞と身振りで能書きを垂れ始める。
「……なんだ、あの派手な男は?」
「どうやら貴族のようですね。難民達の受入先に申し出ているようですが……大丈夫なのでしょうか?」
「あの芝居じみた話し方からして、どうにも胡散臭い。腹に一物抱えていてもおかしくなさそうだが……」
貴族が長々と自慢話をしていたかと思えば、連れていた従者達に合図を出す。
従者達は抱えていた荷物を広げ、難民達の前に何かを設置していく。
「今回は先んじて難民の諸君の飢えを少しでも癒せればと思い、差し入れをご用意しました」
難民達の目の前に広げられたのは、それは見事な色取り取りの美しい砂糖菓子の数々だった。
砂糖菓子の芸術的なまでの美しさに、見物人達はどよめき、感嘆の溜息を吐く。
「自慢の専属菓子職人が作った我が領の名物でもある最高級品の砂糖菓子です。難民の諸君、今しばらくお待ち頂いている間、どうぞ召し上って下さい」
風がそよぎ、砂糖菓子の甘い匂いが香った――
「!!?」
――その瞬間、ガトー王子の身体が強張り、禍々しい暗黒のオーラが滲みだす。
ガトー王子の徒ならぬ怒気に気付いた御共達が、慌ててガトー王子を止めようと縋り付く。
「……で、殿下!? 突然どうされたのですか? 落ち着いてください!」
「ガトー殿下、漏れている気を抑えて下さい! こんな所で騒ぎを起こしては一大事です!!」
「これが、落ち着いてなどいられるか――」
砂糖菓子から香る独特な甘い匂いに、ガトー王子は覚えがあったのだ。
「――あれは毒だ」
それは、臭覚の優れている獣人種であり、更に自らがそれを摂取した経験があったからこそ分かる――毒性を含む、魔鉱石の匂いだったのだ。
ショコラ・ランド王国の王族は毒の耐性を身に付ける為に少量の毒を摂取する習慣があり、ガトー王子もまたそれに倣っていた。
そして以前、アイス・ランド王国から取引が持ち掛けられていた魔鉱石について、効能と毒素の危険性について検証がされていた。
その際、配下の者達を人体実験に使う事を厭ったガトー王子は、自らの身体を差し出し人体実験をしたのである。
その結果、魔鉱石の毒素は蓄積されていく一方で耐性を持てるものではない事が分かり、微弱な魔力を蓄積していく事と引き換えに身体は蝕まれ機能が低下していく事が判明したのだ。
そんな危険な代物を、疲弊し心身共に衰弱している難民達になど与えれば、難民達はたちまち魔鉱石の毒に蝕まれて、その命が危ぶまれてしまう。
だからこそ、ガトー王子は激怒し怒気が溢れ、禍々しい暗黒のオーラが身体から滲み出ていたのだ。
そうとは知らず、御供達はガトー王子を抑えようと必死に縋り付き言う。
「お待ちください、ガトー殿下! 今、獣化してはこの場が大混乱になってしまいます! 混乱の騒動で怪我人が出ては大事です! どうか、落ち着いてください!!」
「王国の使者が乱闘騒ぎなど起こしては同盟国間の亀裂になりかねません! 支援が断たれるのは非常に不味いです! この場はどうか、押さえてください!!」
「……くっ……離せ! あんな代物を与えようなどと、許せるものか」
必死に宥め止めようとしている御共達を、ガトー王子は払い除けようと足掻く。
その間にも、貴族は小さな獣人の子供に砂糖菓子を与えようと差し出す。
「さぁさぁ、遠慮は要らない。どうぞ召し上がれ」
ガトー王子が御供達を払い除け、駆け出そうとした――その時だった。
ぱくり、もぐもぐもぐもく、ごっくん。
突然、現れた何者かによって獣人の子供に差し出されていた砂糖菓子は奪い取られ、頬張られ、咀嚼され、嚥下された。
「!?」
驚愕の余り静止したガトー王子は言葉も出ず、そこに現れた人物を刮目する。
ガトー王子はその人物の姿に見覚えがあった。
淡紅の癖のある髪、雪のように白い肌、少し尖った耳先、丸々と肥え太った体型。
そこに現れたのは、アイス・ランド王国の第一王子。
フランボワーズ・アイス・クリーム、その人だったのだ。
全身を覆うローブで身を隠していたガトー王子達は、人集りに紛れながら周囲の様子を伺う。
難民達を見ると、薄汚れて酷く痩せこけた老人と子供達が身を寄せ合い、見物人に怯えるようにして身体を竦ませていた。
見物人を見れば、難民の獣人達への不信や不満からなのか、辛辣な言葉や視線が目立ち、魔法を使えない者に対しての侮蔑や嘲笑がまざまざと感じられた。
その有様を見て、ガトー王子達は表情を暗くし小声で話す。
「……難民が歓迎されるとは思っていませんでしたが、ここまで邪険に扱われてしまうとは……やはり、選民思想の強い魔法使いには我々獣人は受け入れ難いのか……」
「アイス・ランド国王が難民の受け入れを承諾していたとしても、受入先がこの状態では難民達が不憫でなりません……どうにかならないものでしょうか……」
「そうだな……」
難民達の怯える姿を目にして、ガトー王子達がどうしてやるべきかと思案していると、難民達の前に一人の男が姿を現す。
「遠路遥々、隣国から救いを求めやって来られた難民の諸君、ごきげんよう」
声高らかに現れたのは、派手な衣装や宝飾品を身に着けた如何にも成金といった風貌の貴族の男だった。
貴族は従者を伴い難民達の前までやって来ると、芝居がかった台詞と身振りで能書きを垂れ始める。
「……なんだ、あの派手な男は?」
「どうやら貴族のようですね。難民達の受入先に申し出ているようですが……大丈夫なのでしょうか?」
「あの芝居じみた話し方からして、どうにも胡散臭い。腹に一物抱えていてもおかしくなさそうだが……」
貴族が長々と自慢話をしていたかと思えば、連れていた従者達に合図を出す。
従者達は抱えていた荷物を広げ、難民達の前に何かを設置していく。
「今回は先んじて難民の諸君の飢えを少しでも癒せればと思い、差し入れをご用意しました」
難民達の目の前に広げられたのは、それは見事な色取り取りの美しい砂糖菓子の数々だった。
砂糖菓子の芸術的なまでの美しさに、見物人達はどよめき、感嘆の溜息を吐く。
「自慢の専属菓子職人が作った我が領の名物でもある最高級品の砂糖菓子です。難民の諸君、今しばらくお待ち頂いている間、どうぞ召し上って下さい」
風がそよぎ、砂糖菓子の甘い匂いが香った――
「!!?」
――その瞬間、ガトー王子の身体が強張り、禍々しい暗黒のオーラが滲みだす。
ガトー王子の徒ならぬ怒気に気付いた御共達が、慌ててガトー王子を止めようと縋り付く。
「……で、殿下!? 突然どうされたのですか? 落ち着いてください!」
「ガトー殿下、漏れている気を抑えて下さい! こんな所で騒ぎを起こしては一大事です!!」
「これが、落ち着いてなどいられるか――」
砂糖菓子から香る独特な甘い匂いに、ガトー王子は覚えがあったのだ。
「――あれは毒だ」
それは、臭覚の優れている獣人種であり、更に自らがそれを摂取した経験があったからこそ分かる――毒性を含む、魔鉱石の匂いだったのだ。
ショコラ・ランド王国の王族は毒の耐性を身に付ける為に少量の毒を摂取する習慣があり、ガトー王子もまたそれに倣っていた。
そして以前、アイス・ランド王国から取引が持ち掛けられていた魔鉱石について、効能と毒素の危険性について検証がされていた。
その際、配下の者達を人体実験に使う事を厭ったガトー王子は、自らの身体を差し出し人体実験をしたのである。
その結果、魔鉱石の毒素は蓄積されていく一方で耐性を持てるものではない事が分かり、微弱な魔力を蓄積していく事と引き換えに身体は蝕まれ機能が低下していく事が判明したのだ。
そんな危険な代物を、疲弊し心身共に衰弱している難民達になど与えれば、難民達はたちまち魔鉱石の毒に蝕まれて、その命が危ぶまれてしまう。
だからこそ、ガトー王子は激怒し怒気が溢れ、禍々しい暗黒のオーラが身体から滲み出ていたのだ。
そうとは知らず、御供達はガトー王子を抑えようと必死に縋り付き言う。
「お待ちください、ガトー殿下! 今、獣化してはこの場が大混乱になってしまいます! 混乱の騒動で怪我人が出ては大事です! どうか、落ち着いてください!!」
「王国の使者が乱闘騒ぎなど起こしては同盟国間の亀裂になりかねません! 支援が断たれるのは非常に不味いです! この場はどうか、押さえてください!!」
「……くっ……離せ! あんな代物を与えようなどと、許せるものか」
必死に宥め止めようとしている御共達を、ガトー王子は払い除けようと足掻く。
その間にも、貴族は小さな獣人の子供に砂糖菓子を与えようと差し出す。
「さぁさぁ、遠慮は要らない。どうぞ召し上がれ」
ガトー王子が御供達を払い除け、駆け出そうとした――その時だった。
ぱくり、もぐもぐもぐもく、ごっくん。
突然、現れた何者かによって獣人の子供に差し出されていた砂糖菓子は奪い取られ、頬張られ、咀嚼され、嚥下された。
「!?」
驚愕の余り静止したガトー王子は言葉も出ず、そこに現れた人物を刮目する。
ガトー王子はその人物の姿に見覚えがあった。
淡紅の癖のある髪、雪のように白い肌、少し尖った耳先、丸々と肥え太った体型。
そこに現れたのは、アイス・ランド王国の第一王子。
フランボワーズ・アイス・クリーム、その人だったのだ。
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