上 下
40 / 127
本編

38.バニラ王子からの差し入れ

しおりを挟む
 翌日、訓練場に現れた白豚王子に騎士団長は用意していた訓練用の木剣を手渡した。

「この道はやさしいものではありません。道は険しく厳しいものです。ですが、怠らず精進し続ければ、それは必ず貴方の力になり、貴方を救います。だから、決して諦めてはなりません! 邁進あるのみ!!」
「……は、はい! ……」

 強面の騎士団長の真剣な表情に驚いたのか、白豚王子はぷるぷると震えて、木剣を強く強く握り締めていた。
 騎士団長の厳しい指導にも、白豚王子は投げ出す事もなく、一生懸命に取り組んでいた。

「そうそう、なかなか筋が良い。体幹はしっかりしているようだ」

 厳しい騎士団長が珍しく褒めても、白豚王子はニコリとも笑う事なく、終始、緊張した面持ちで真剣に取り組んでいた。

「……ま、まだ、できます! もっと、教えて下さい!! ……」

 その様子に、騎士団員達は本当に白豚王子は成長し、心を入れ替え変わろうとしているのだと、感心し見直した。
 そんな白豚王子の姿を騎士団員達は微笑ましく見守り、いつもよりも和やかな雰囲気で訓練は行われた。

「よし、本日の訓練はここまで!! 各自休憩!」

 騎士団長の号令と共に、厳しい訓練が終わり休憩に入る。
 騎士団員達が一息付いていると、騎士団長の前に人影が現れた。


「訓練、お疲れ様です。ベルガモット団長」


 そこに現れたのは、バニラ王子と宰相の姿だった。

「……これは、バニラ殿下と宰相殿。このようななりで失礼致しました……」
「あ、いえいえ、そのまま楽にしていてください! 休憩中ですし……」

 崩していた様相を正そうとする騎士団長をバニラ王子が止める。

「ならば、失礼して………ご要件はおありですか?」
「はい、いつもお世話になっている騎士団の皆さんに、何かお礼がしたいと思いまして……宰相殿に相談させて頂いて、差し入れを用意したんです。休憩中に皆さんに食べてもらおうと思いまして……」

 そう言って、バニラ王子は騎士団長や団員達に天使のような微笑みを向ける。
 敬愛する王族の天使のような王子に労われて、喜ばない臣下がいる筈がない。

「それは、至極幸福な事です。お心遣い感謝します」
「喜んで頂けると僕も嬉しいです。部屋に用意しているので、案内しますね」

 騎士団長は団員達を呼び集め、バニラ王子に連れ立って歩こうとして、ふと白豚王子がいない事に気が付く。

「……第一王子の姿が見当たらないな……どちらに行かれた?」
「第一王子がこちらにいらしたんですか?」
「なっ! 第一王子が!?」

 騎士団長の言葉にバニラ王子は不思議そうに訊き返し、宰相は酷く驚いた様子でいた。

「えぇ、本日から剣術の訓練に参加されているんです。これが、予想以上に筋が良いようで……」
「おお、そうなのですか? 剣術の才能が有るとは素晴らしいですね!」
「あの第一王子が剣術を? 更に才が有る? ご冗談を……」

 皆が辺りをキョロキョロと見回して探すが、白豚王子の姿は見当たらなかった。

「……訓練が終了してから姿が見えないようなので、離宮に帰られたのでしょう」
「そうですか、ご一緒したかったのですが、残念です……」
「第一王子などいない方が良いのです! 何かと問題を起こしますからな!!」
「そこまで、警戒する必要はありませんよ。第一王子は己を改め、変わろうと努力しているのですから」
「そうなのですね、ならば僕も応援したいです! これからはもっと、ご一緒できれば良いのですが……」

 バニラ王子は騎士団と話しながら、チラッと宰相の方を伺い見る。
 宰相は白豚王子の事を鼻で笑い、バニラ王子に言い聞かせた。

「……はっ……まさか、そんな訳がありませんな……きっと、何か良からぬ事でも企んでいるに違いありません……バニラ殿下、騙されてはなりません!」

 そんな話をしながら、騎士団員を引き連れたバニラ王子一行は部屋の前に到着する。
 そして、部屋の扉を開けた。


「…………第一王子? …………」


 その先には、白豚王子の姿があった。


 ◆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉
BL
目を覚ますと目の前には俺を心配そうに見つめる彼の姿。 既視感を感じる彼の姿に俺は”小説”の中に出てくる主人公 ”ヴィンセント”だと判明。 そしてまさかの俺がヴィンセントを虐め残酷に殺される兄だと?! 次々と訪れる沢山の試練を前にどうにか弟に殺されないルートを必死に進む。 だがそんな俺の前に大きな壁が! このままでは原作通り殺されてしまう。 どうにかして乗り越えなければ! 妙に執着してくる”弟”と死なないように奮闘する”兄”の少し甘い物語___ ヤンデレ執着な弟×クールで鈍感な兄 ※固定CP ※投稿不定期 ※初めの方はヤンデレ要素少なめ

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良
BL
主人公――子爵家三男ノエル・フィニアンは、不慮の事故をきっかけに生前大好きだったBLゲームの世界に転生してしまう。 舞台は、高等学園。夢だった、美男子らの恋愛模様を壁となって見つめる日々。 そんなある日、推し――エヴァン第二王子の破局シーンに立ち会う。 次々に展開される名シーンに感極まっていたノエルだったが、偶然推しの裏の顔を知ってしまい――? 「さて。知ってしまったからには、俺に協力してもらおう」 ずっと壁(モブ)でいたかったノエルは、突然ゲーム内で勃発する色恋沙汰に巻き込まれてしまう!? □ ・感想があると作者が喜びやすいです ・お気に入り登録お願いします!

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

【完結】役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ

鏑木 うりこ
BL
僕は王宮で能無しの役立たずと全員から疎まれていた。そしてとうとう大失敗をやらかす。 「カイ!お前とは婚約破棄だ!二度と顔を出すんじゃない!」  ビクビクと小さくなる僕に手を差し伸べてくれたのは隣の隣の国の王子様だった。 「では、私がいただいても?」  僕はどうしたら良いんだろう?え?僕は一体?!  役立たずの僕がとても可愛がられています!  BLですが、R指定がありません! 色々緩いです。 1万字程度の短編です。若干のざまぁ要素がありますが、令嬢ものではございせん。 本編は完結済みです。 小話も完結致しました。  土日のお供になれば嬉しいです(*'▽'*)  小話の方もこれで完結となります。お読みいただき誠にありがとうございました! アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会で小話を書いています。 お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354

処理中です...