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本編
32.白豚王子の焼き付いた記憶
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国王は重々しく口を開き、僕に言い放った。
「……ああ、そうか……余が死の淵に立つ今、王位継承権を寄こせとでも言いに来たか? ……」
最早、僕はそんな事はどうでも良かった。
国王が生きていてくれてる姿をこの目で見たかったのだ。
僕は父である国王がどうか健在であってくれと、願っていただけだった。
「……はははっ……出来損ないの分際で王座を狙っていたとは……身の程知らずも甚だしい……立太子は第二王子にさせる……お前にこの王国を継がせる気など毛頭無い……お前は正当な王子ではないのだからな……」
僕は父と思っていた国王に正当な子ではないとはっきり断言された。
僕が唯一信じていた国王は、僕を我が子とは思っていなかったのだ。
「……お前もようやく、成人を迎えたのだな……ならばもう、お前を庇護下に置く必要も無い…………早く出て行くが良い……この城から、早々に出て行け……」
そして、唯一与えられていた居場所まで奪われようとしていた。
国王は僕から全てを取り上げようとしていたのだ。
僕は今まで国王の何を妄信していたのか、何もかもが分からなくなった。
(――その時、僕が感じていたのは途方もない絶望感だった。僕は誰からも必要とされる事はない、認められる事はないのだと――)
「……あの女と同じだ……お前もあの女と同じなのだ……余とは相容れぬ存在でしかない……お前など…………もう、その顔も見たくない……早々に立ち去れ……何処へでも消えて失せろ……」
国王は僕の顔を一瞥すると、やつれていても尚も美しいその顔を酷く歪ませた。
醜い僕を見るのがもう耐えられないと言わんばかりに、顔を背け目を覆った。
最初からそうだったのだ。
国王は一度も僕自身を見ようとなどしていなかった。
妾妃が捨てて行った子として飼われていただけで、もう用済みになったからと捨てようとしているのだ。
僕はそんな国王の姿を見て、抑えられない憎悪の感情が溢れた。
そして、寝室の壁に飾られていた短剣が視界に入る。
「……何をしている? ……早く消えろ、と………………」
気が付くと、僕は国王の胸に短剣を突き刺していた。
僕が驚いて短剣を引き抜くと、国王の胸から真っ赤な血が溢れた。
「…………なっ…………フラ……ボワ……ズ………………」
国王は刺された胸を押さえながら血を吐き、最後に僕の名前を口にした。
国王に名前を呼ばれたのは、これが初めてだったかもしれない。
辺り一面を真紅に染めて、国王は倒れ呆気なく絶命した。
それが、何だか可笑しくて僕は狂ったように笑った。
「……ふ……ふふふ……ふふ……ふははっははは、ははははは、あははははは――」
王位を簒奪するのが、こんなに簡単で呆気ないものだったなんて、可笑しくて愉快で仕方がなかった。
それなのに、僕の目からは何故か不快な涙が溢れて止まらなかった。
それからの事はよく覚えていない。
ただ、破壊衝動のままに国家転覆を謀り、王国中を混沌の渦に陥れてやった。
(――何もかも、国王が築いてきたもの全てを、壊さないと気が済まなかったのだ――)
その後、僕は数々の大罪を弟に暴かれ捕らえられた。
そして、王国中の大衆の面前で火刑に処されるのだ。
弟が十字架に磔にされた僕に告げる。
「罪を悔い改め懺悔するのなら、これが最後の機会です……フランボワーズ……」
「……ふふふ……僕は何一つ悔やむ事など無い……思う存分、この王国を引っ搔き回してやったんだからな……お前たちの苦渋に歪む顔を見るのが、僕は愉快で堪らなかった……」
(――弟は正義で、僕は巨悪だ。僕は最後まで悪で有らねばならないんだ――)
「……特に最後まで僕を信じようとしていたお前が、騙されていたと知った時のあの顔……今思い出しても腹がよじれるぞ……あはははは、あーははははは、ははははは、あははははは――」
僕は狂ったように笑い続けた。
国王を、父を刺し殺した時と同じように。
十字架に火が放たれ、大衆の憎悪と嫌悪の眼差しを浴びながら、僕の身体は焼かれていく。
皆そうやって僕をその目に焼き付けろ、その心に刻み付ければいい、そう思った。
やっと終われる、やっと壊してくれる。
この耐え難い飢餓感も、孤独感も、絶望感も、罪悪感ですらも、何もかも全てが終わるんだ。
〖そこには、冷たく凍る氷の結晶が静かに佇んでいた〗
(――ああ、身体が焼ける――熱い、熱い、熱い――)
〖氷の結晶に大きなひび割れが入る〗
(――痛い、苦しい、辛い――熱い、熱い、熱い――)
〖ひび割れが次々と入っていく〗
(――虚しい、寂しい、悲しい――熱い、熱い、熱い――)
〖ひび割れて徐々に砕け散っていく〗
(――熱い、熱い、熱い――)
〖氷の結晶は粉々に砕け散った〗
〖砕け散った欠片が仄かに光りを放つ〗
(――嫌だ、嫌だ、嫌だ――こんなの嫌だ! こんな終わり方は嫌だ!!)
僕は必死に叫んだ――――……
◆
「……ああ、そうか……余が死の淵に立つ今、王位継承権を寄こせとでも言いに来たか? ……」
最早、僕はそんな事はどうでも良かった。
国王が生きていてくれてる姿をこの目で見たかったのだ。
僕は父である国王がどうか健在であってくれと、願っていただけだった。
「……はははっ……出来損ないの分際で王座を狙っていたとは……身の程知らずも甚だしい……立太子は第二王子にさせる……お前にこの王国を継がせる気など毛頭無い……お前は正当な王子ではないのだからな……」
僕は父と思っていた国王に正当な子ではないとはっきり断言された。
僕が唯一信じていた国王は、僕を我が子とは思っていなかったのだ。
「……お前もようやく、成人を迎えたのだな……ならばもう、お前を庇護下に置く必要も無い…………早く出て行くが良い……この城から、早々に出て行け……」
そして、唯一与えられていた居場所まで奪われようとしていた。
国王は僕から全てを取り上げようとしていたのだ。
僕は今まで国王の何を妄信していたのか、何もかもが分からなくなった。
(――その時、僕が感じていたのは途方もない絶望感だった。僕は誰からも必要とされる事はない、認められる事はないのだと――)
「……あの女と同じだ……お前もあの女と同じなのだ……余とは相容れぬ存在でしかない……お前など…………もう、その顔も見たくない……早々に立ち去れ……何処へでも消えて失せろ……」
国王は僕の顔を一瞥すると、やつれていても尚も美しいその顔を酷く歪ませた。
醜い僕を見るのがもう耐えられないと言わんばかりに、顔を背け目を覆った。
最初からそうだったのだ。
国王は一度も僕自身を見ようとなどしていなかった。
妾妃が捨てて行った子として飼われていただけで、もう用済みになったからと捨てようとしているのだ。
僕はそんな国王の姿を見て、抑えられない憎悪の感情が溢れた。
そして、寝室の壁に飾られていた短剣が視界に入る。
「……何をしている? ……早く消えろ、と………………」
気が付くと、僕は国王の胸に短剣を突き刺していた。
僕が驚いて短剣を引き抜くと、国王の胸から真っ赤な血が溢れた。
「…………なっ…………フラ……ボワ……ズ………………」
国王は刺された胸を押さえながら血を吐き、最後に僕の名前を口にした。
国王に名前を呼ばれたのは、これが初めてだったかもしれない。
辺り一面を真紅に染めて、国王は倒れ呆気なく絶命した。
それが、何だか可笑しくて僕は狂ったように笑った。
「……ふ……ふふふ……ふふ……ふははっははは、ははははは、あははははは――」
王位を簒奪するのが、こんなに簡単で呆気ないものだったなんて、可笑しくて愉快で仕方がなかった。
それなのに、僕の目からは何故か不快な涙が溢れて止まらなかった。
それからの事はよく覚えていない。
ただ、破壊衝動のままに国家転覆を謀り、王国中を混沌の渦に陥れてやった。
(――何もかも、国王が築いてきたもの全てを、壊さないと気が済まなかったのだ――)
その後、僕は数々の大罪を弟に暴かれ捕らえられた。
そして、王国中の大衆の面前で火刑に処されるのだ。
弟が十字架に磔にされた僕に告げる。
「罪を悔い改め懺悔するのなら、これが最後の機会です……フランボワーズ……」
「……ふふふ……僕は何一つ悔やむ事など無い……思う存分、この王国を引っ搔き回してやったんだからな……お前たちの苦渋に歪む顔を見るのが、僕は愉快で堪らなかった……」
(――弟は正義で、僕は巨悪だ。僕は最後まで悪で有らねばならないんだ――)
「……特に最後まで僕を信じようとしていたお前が、騙されていたと知った時のあの顔……今思い出しても腹がよじれるぞ……あはははは、あーははははは、ははははは、あははははは――」
僕は狂ったように笑い続けた。
国王を、父を刺し殺した時と同じように。
十字架に火が放たれ、大衆の憎悪と嫌悪の眼差しを浴びながら、僕の身体は焼かれていく。
皆そうやって僕をその目に焼き付けろ、その心に刻み付ければいい、そう思った。
やっと終われる、やっと壊してくれる。
この耐え難い飢餓感も、孤独感も、絶望感も、罪悪感ですらも、何もかも全てが終わるんだ。
〖そこには、冷たく凍る氷の結晶が静かに佇んでいた〗
(――ああ、身体が焼ける――熱い、熱い、熱い――)
〖氷の結晶に大きなひび割れが入る〗
(――痛い、苦しい、辛い――熱い、熱い、熱い――)
〖ひび割れが次々と入っていく〗
(――虚しい、寂しい、悲しい――熱い、熱い、熱い――)
〖ひび割れて徐々に砕け散っていく〗
(――熱い、熱い、熱い――)
〖氷の結晶は粉々に砕け散った〗
〖砕け散った欠片が仄かに光りを放つ〗
(――嫌だ、嫌だ、嫌だ――こんなの嫌だ! こんな終わり方は嫌だ!!)
僕は必死に叫んだ――――……
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