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第4章

災害警報発令中 14

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「…うむ」
 何か考え事をしていたごんちゃんは席を立った。そして、同じようにモニターをみて唖然としている数名に言った。
「ちょっと席を外す、その間は副町長の指令に任せる」
『は、はい』
 ごんちゃんは席を立つと、洋館へと向かった。


 茂は放心状態で二人の行動を見守ると、コントロールルームの椅子に力無く座った。
 何という事をやってのけたんだ、溺れた二人を助けて、町までも──おそらくもうすぐ戻ってくるだろう。
 お風呂に毛布に暖かいご飯を用意してあげよう。
 ご褒美に好きな物買ってあげなきゃな…

「ふう」

 茂は椅子から立つと、コントロールルームを出て風呂場へと向かった。


 こてん、力を出し切ったさくらはももの腕の中に寄りかかった。
 すーすーすー…小さな寝息を立てて寝ている。
 さくらは涙が溢れた。
 この小さな体の力の全てを使って、二人の命を救ったのだ。
「さくら、頑張ったね」
 自らも体力のほぼ全てを使い切っていたが、さくらの体をしっかりと抱きしめて立ち上がると、その場から消えた。


 野川の上流で、冷静になった二人の警察官はパトカーを降りると驚いた。

『川の水が消えている! 』

「おまわりさん、そんな事よりこっち」
 ボンネットの上からどんとの叫びが響く。それに気がつく警察官。
「どうして君たちはそんなところに…」
 警察官の一人が言った。
「そんな事より教授が目を覚まさないんです」
 そう言うとボンネットから降りた。
「どれ…」
 一人の警察官がボンネットで横たわっている教授に近寄った。
「大丈夫息はある水も飲んでいない、気を失ってるだけだ。病院に搬送しよう」
 警察官は二人して教授を下ろすと、パトカーの後部座席に乗せた。そして立ち竦むどんとに言った。
「君は、この男性の息子さん? 」
「いえ、なんていうか、友達です」
「なるほど、どこに住んでいるんですか? 」
「小料理屋蘭の息子、土門富久です。みんなにはどんとって呼ばれています」
「避難警報で住民は全て避難したのに、なぜここに…」
「教授が気になって…来てみたら、そんな事より早く病院へ! 」
「そうだな、行こう! 君はどうする」
「大丈夫です、パティオに戻ります」
「じゃあ、後で話を伺いに行くかもしれません、よろしくお願いします」
「は、はい」
 と、パトカーはエンジンをかけた。そして、土手の道を走り去った。
 どんとは教授が生きている事にホッとすると、パティオに向かって歩き出した。

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