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第3章

鬼王神社の夏祭り 16(祭り当日)

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 中道商店街アーケード街を御神輿が練り歩く。

 先導はくねくね軽妙な踊りで、ぎっしり集まった観客にちょっかいをだしているごんちゃんのひょっとこと茂のオカメだ。少し間を空けて御神輿がついてくる。
 そいや! そいや! そいや!…
 手が足が腹が、白、黒、黄色の皮膚に包まれた筋肉が揺れ動く。
 先導のボブは、担ぎ棒の先端を後ろ向きに抑え、振り返りつつ御神輿の方向を調整する。
 御神輿は80名もの力で推されるのだ、半端なく体力のいるパートだ。
「せいや、せいや」
 黒い皮膚に覆われた、全身の筋肉は緊張しっぱなしだが、しなやかさは失っていない。

 ──バシャ! バシャ!

 所々に置かれた桶から、柄杓で担ぎ手に水がかけられる。
 揺れる御神輿。
 ほとばしる汗。
 そいや! そいや! そいや!…
 男たちの心意気が弾ける。
 女性の担ぎ手が、楽しそうにかつぎ棒を揺らす姿もちらほら見える。
 乗り台の上で、しっかりと掴み棒を握りしめ、扇子を右へ左へ仰ぐもも。笑顔ながらも引き締まった表情は人々を引きつける。
「そいや、そいや、そいや」
 ももの甲高い声が響いて重なる。
 蘭さんが店の前で声をかける。
「もも、さくらー、格好いいぞ、後でジュース飲みにおいで! 」
「サンキュー蘭さん、そいや、そいや」
 嬉しそうなもも。
「きゃーきゃーきゃー」
 ニコニコ顔の後ろのさくらは、まだ幼稚園年長組、落ちないように必死だ。
 それでも鬼王の赤文字の入った扇子を振り続ける。

 と、御神輿の前を子猫が横切ろうとしている。
 御神輿の上からは、周囲の状況がよく見える。周りの観衆も、担ぎ手も熱狂して誰も気がつかない。

 …あ、危ない! ももは思った。

 そいや! そいや!
 男たちの足袋が上下する。
 ザシュッ、ザシュッ!
 アーケードの通路が擦れる。
 おどおどしながらも向こうへ行きたい子猫──前足を出した。
 …潰される!
 ももは咄嗟に念を込める。
 シュッ!
 子猫は姿を消されると、一瞬で反対側の路地へと移動した。
 ふにゃー…弱々しい鳴き声をあげると、不思議そうに路地を歩いていった。
 …ほっ!
「そいや、そいや、そいや、そいや」
 嬉しそうに扇子を振り回すもも。

 ピィーひゃらら、とん、とん、とととん、ピィーぴゃらぴゃらら…
 ジリジリ力強く進む御神輿の後ろを、お囃子隊の軽トラックがゆっくりついていく。
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