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第3章

鬼王神社の夏祭り 5

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 盗っ人三人衆、いやいやテキ屋三人衆が町役場の中に入ると一階のエントランスホールにテーブルを並べて、役場の担当者が待っていた。
「何屋さん? 」担当者が聞く。
「へい、カラメル焼きです」親分がいう。
「はい、じゃあここに必要事項を記入して、どなたかくじを引いてください」
「へぃ」
 親分が申し込み書類に記入して提出すると、担当者は会場レイアウト図を見せる。
「これが鳥居、ここが石畳みの参道ね100メートルくらいあって、鎮守の森の入り口」
「へい」
「右手の広場が盆踊り会場、左手の広場が出し物と憩いのスペース、両方の広場の外端を取り囲むように店を並べます。書いてあるように右手のA1からA30と左手のB1からB30までがそれぞれの区画です」
 レイアウト図の各区間は『済』の赤文字が書かれていて、残っているのは、A20とB1だけだった。
「残っているのはA20とB1ですね、いいですか? 」
「へぇいいです」
「じゃあこれ」
 担当者が穴のあいたボックスを出すと、親分は穴の中に手を入れて、三角くじを一つとって担当者に手渡す。
 担当者は三角くじの封を切ると中を開ける。
「B1ですね、左の広場の仮設トイレの前、食べ物屋さんにはちょっと不向きだけど、最後の二ヶ所だからしょうがないですね。でも鎮守の森の入り口のすぐ横だ、人通りはいいですよ。搬入時間や車の置き場など、注意事項は諸々書類に記入してありますので目を通しておいて下さい、不明な点は役場にご連絡下さい。じゃあ食中毒にくれぐれも気をつけて注意事項を守って営業して下さい」
 と、役場の階段を『鬼王きおう睦会むつみかい』の揃いの半被はっぴを着て足袋を履き、裸に白褌しろふんどし姿の屈強な男たちが十数名降りてきて、エントランスホールを横切った。
 全員が全員腹筋シックスパックで、身体中バッキバキに鍛えられている。
 頭には捻り鉢巻。
 異様な光景に唖然とするテキ屋三人衆。
「えっと、なんですかこの人たち…」
 二がビビリながら聞いた。
「鬼王神社の神輿部隊の一部ですよ、役場の有志。ああ今から、トレーニングの時間だ」
「トレーニング…」
「鬼王神社の神輿は重たいからね、体を鍛えるのも公用ですわ」
「役場の有志って、しょ、職員さんたちですかぁ? 」
「そう、うちこんなのばっか…」

 ──役場の職員たちは、ほぼ全員が影の氏子衆の一員でもある。

 一行はエントランスホールに隣接した多目的ルームに入っていくと、腕立て伏せや腹筋、スクワットなど体を鍛え始めた。
 ホールの奥にはトレーニングマシーンも各種置いてあり、警備員のいる夜間出入口と隣接しているので、登録さえすれば町民ならいつでも利用できるようになっている。

 ──そいや、そいや、そいや…体を鍛えながら発する掛け声は揃っている。

「親分、この町どうなってんすか? 」
 二が聞いた。

「し、知らん…」

そいや、そいや、そいや…そいや、そいや、そいや…

 掛け声はエントランスホールに響き渡った。
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