68 / 70
第七章
7-3
しおりを挟む
初めて彼を見たとき、真っ先に思い浮かんだ言葉は『孤独』だった。
城の最上階の窓から、ひっそりと外の景色を眺める金髪赤眼の少年。悪魔の目と称されるその真紅の瞳は、しかし冷たさよりも哀しみを多く纏っているようで、フィルは一瞬にして彼の持つ孤独に引き込まれた。
ゴミの詰まった袋を片手にぼけっと頭上を見上げていると、やがて背後から怒鳴るような声が聞こえてきた。
「おいペニンダ! 何ボケッとしてやがる! さっさとそれを捨てて戻ってこい!」
振り返ると、いかめしい顔をした同期のディオが立っていた。
同じ役職、同じ年齢でもペニンダの扱いは格下だ。エーナ、ディオ、ペニンダ――生物学に基づく格付けが浸透するこの社会で、ペニンダに対し強く当たる人間は、意外にもエーナよりディオの方が多い。
フィルの源父や随父がいい例だ。フィルが何かしら失敗をやらかしたとき、血相を変えて怒鳴りつけてくるのはいつもディオである随父だった。これだからペニンダはとか、本当に俺たちの息子なのかとか、随父の言葉や態度にはいつだってペニンダへの蔑視が含まれていた。
その点、エーナである源父は落ち着いていた。怒鳴ったり殴ったり、そんなのとは一切無縁の人だった。
もっともそれは、フィルの源父に限ったことではない。生命の源とも称されるエーナは、そもそもの性質として加害性や攻撃性が希薄なのだ。無駄な争いを好まず、何よりも平和を重んじる。
エーナが唯一牙を向く対象は、その平和に背かんとする人間だ。何よりも平和を重要視しているからこそ、その平和を脅かす存在は徹底的に排除する。
仮にどれだけディオから格下のように扱われようと、だから結局のところ、フィルが最も畏敬の念を払っているのはエーナだった。
「……すみません。すぐにやります」
しかし、依然としてペニンダが底辺である事実に変わりはなく、フィルは同期のディオに対し、遜って頭を下げた。
チッと舌打ちを飛ばして同期が去っていったのを見届けるなり、もう一度頭上へと視線をやる。どうやらあちらにも横槍が入ったようで、金髪赤眼の少年は側近と思しき人物に声をかけられて、窓の前から立ち去るところだった。
自分も仕事に戻らないと、と顔を下ろしかけたそのとき――ふと、少年の目線がこちらを向く。
「……」
わずか三秒にも満たない、流し見たところに偶然フィルがいただけのような一瞬の出来事だった。しかしその一瞬が、フィルの心を惹き付けて離さなかった。
美しいブロンドの髪に、深い真紅の瞳。彼こそ、この国の次期国王と噂される――
城の最上階の窓から、ひっそりと外の景色を眺める金髪赤眼の少年。悪魔の目と称されるその真紅の瞳は、しかし冷たさよりも哀しみを多く纏っているようで、フィルは一瞬にして彼の持つ孤独に引き込まれた。
ゴミの詰まった袋を片手にぼけっと頭上を見上げていると、やがて背後から怒鳴るような声が聞こえてきた。
「おいペニンダ! 何ボケッとしてやがる! さっさとそれを捨てて戻ってこい!」
振り返ると、いかめしい顔をした同期のディオが立っていた。
同じ役職、同じ年齢でもペニンダの扱いは格下だ。エーナ、ディオ、ペニンダ――生物学に基づく格付けが浸透するこの社会で、ペニンダに対し強く当たる人間は、意外にもエーナよりディオの方が多い。
フィルの源父や随父がいい例だ。フィルが何かしら失敗をやらかしたとき、血相を変えて怒鳴りつけてくるのはいつもディオである随父だった。これだからペニンダはとか、本当に俺たちの息子なのかとか、随父の言葉や態度にはいつだってペニンダへの蔑視が含まれていた。
その点、エーナである源父は落ち着いていた。怒鳴ったり殴ったり、そんなのとは一切無縁の人だった。
もっともそれは、フィルの源父に限ったことではない。生命の源とも称されるエーナは、そもそもの性質として加害性や攻撃性が希薄なのだ。無駄な争いを好まず、何よりも平和を重んじる。
エーナが唯一牙を向く対象は、その平和に背かんとする人間だ。何よりも平和を重要視しているからこそ、その平和を脅かす存在は徹底的に排除する。
仮にどれだけディオから格下のように扱われようと、だから結局のところ、フィルが最も畏敬の念を払っているのはエーナだった。
「……すみません。すぐにやります」
しかし、依然としてペニンダが底辺である事実に変わりはなく、フィルは同期のディオに対し、遜って頭を下げた。
チッと舌打ちを飛ばして同期が去っていったのを見届けるなり、もう一度頭上へと視線をやる。どうやらあちらにも横槍が入ったようで、金髪赤眼の少年は側近と思しき人物に声をかけられて、窓の前から立ち去るところだった。
自分も仕事に戻らないと、と顔を下ろしかけたそのとき――ふと、少年の目線がこちらを向く。
「……」
わずか三秒にも満たない、流し見たところに偶然フィルがいただけのような一瞬の出来事だった。しかしその一瞬が、フィルの心を惹き付けて離さなかった。
美しいブロンドの髪に、深い真紅の瞳。彼こそ、この国の次期国王と噂される――
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる