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第七章

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 太陽の下、片や怪我人にもかかわらずわちゃわちゃと揉み合う二人が羨ましい。フィルはもう長らく、こんな明るい日差しを受けながらリースと顔を合わせていなかった。リースと話すときはいつもベッドの上で、仄暗い月の光だけが漂っている。

「――おい、フィル。フィル」

 耳元で名を呼ぶ声に、しばらく経ってから気がついた。はっとして振り返ると、いつの間にか口喧嘩を止めていたらしい二人と目が合う。

「あ、すみません。日差しが気持ちよくて、ついぼうっとしてしまいました」

 瞬時に思いついた言い訳に、クラウスが顔を顰める。

「らしくねえな。毎晩遅くまで起きてリース様に会ってるから、寝不足なんじゃねえのか?」

 図星だった。冬は日の入りが早いため、その分、朝が早くなる。ここのところ一日五時間も眠れていない日が続いており、フィルは慢性的な寝不足だった。

「……お気遣い感謝します。しかし、幸いにも私はペニンダですので。体だけは丈夫にできています。お気になさらないでください」

 作り笑いを浮かべて答えたフィルに、ウォーレンとクラウスは微妙な表情を浮かべる。
 しかし、仮にどれだけ寝不足になろうと、リースに会わずして一日を終えるなんてありえないのだ。むしろフィルは、その一日三十分のためだけに日々努力しているともいえる。

「その、フィル……」
「はい」

 目を合わせるなり、ウォーレンはうっと口ごもった。数秒、物言いたげにフィルを見つめた後、俯いてぽそりと口にする。

「……いや、何でもない。あまり無理はするなよ。俺に手伝えることがあったら言え」

 その態度にかすかな違和感を覚えたものの、深く考えることなくフィルは礼を言った。前後して数メートル先から、アイルの叫ぶ声が聞こえてくる。

「フィルー! 見て見てー! 僕、お馬さんに乗れるようになったよー!」

 騎乗してぶんぶんとこちらに手を振るアイルの姿に、思わずふっと笑みが漏れた。立ち上がり、服についた芝をぽんぽんと手で払い落とすと、笑顔でアイルのそばへと歩み寄る。

「さすがですね、アイル様。乗馬の才能があるのかもしれません」

 執事馬鹿なことを言いつつも、そろそろ昼食の時間であることを伝えてこの場はお開きとする。手を貸してと頼んでくるアイルを抱っこして、すとんと地面に降ろしてやった。

「フィル、ありがとー! ニッキーもフランツもありがとー!」

 執事にも馬にも馬丁にも礼を言うアイルは、リースの弟だけあって欠片も驕り高ぶるような態度が見られない。性格は違えど根っこの潔白さは変わらないようで、そんなアイルを見ることが、唯一フィルの癒やしとなっていた。
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