上 下
59 / 70
第六章

6-3

しおりを挟む
「フィル、アイルを慰めてくれてありがとう」

 深夜二時、リースは目を覚ますなり、案の定そんな言葉を口にした。フィルがアイルを意図的に抱きしめたことも、そばにいて支え続けると口にしたことも、全部わかっていての感謝の言葉だ。

「とんでもございません、坊ちゃま。もとはといえば、私の不注意によって招いてしまった事態ですので……」
「それは気にしなくてもいいと言っただろう。大体、机の下に人が隠れているなんて気づかなくて当然だ」

 それはまあ、その通りだ。アーロンに事情を説明している際、机の下からしくしくと啜り泣く声が聞こえてきたときには冗談でなく心臓が飛び出すかと思った。場所は選んで話したつもりだったのだが、予想外にイタズラ好きのアイルが机の下でかくれんぼをしていたのだ。

「しかしまあ、俺も人のことは言えないな」
「え?」
「アイルが言っていた王配の話だが……あれもその昔、俺がイタズラのつもりで国王の部屋のカーテンの中に隠れていた際に聞いてしまったことなんだ。きっとアイルはその言葉を、今の今までずっと気にしていたんだろうな」

 ――坊ちゃまが、イタズラ……?

 食いつくところはそこではないのだろうが、リースのそんな姿はとても想像できずフィルは首を傾げた。察したのだろう、リースがふっと鼻を鳴らして笑う。

「フィルには想像がつかないだろうな。何せ俺がイタズラをしたのは、人生でその一度きりだったから」
「一度、きり……」
「その一度で、運悪くアイルの話を聞いてしまったからな。……その場に自分がいない前提で話される内容を盗み聞くことの恐ろしさを、嫌というほど思い知った」

 なるほどと、フィルは思った。要するにリースは、その一回を期にイタズラという行為そのものにトラウマを抱いてしまったということだ。
 であればもしかすると、アイルも今後は下手に隠れて人を驚かせてやろうなんて思わなくなったかもしれない。イタズラは確かに手を焼かされるが、何もそんな痛い目を見て学習してほしいわけではない。

「……だが、アイルの解釈には一部誤解があるみたいだ。王配は何も、アイルの存在を否定するつもりであんな発言をしたわけじゃない」
「……と、言いますと?」
「あの時期、国王はまだアイルの死産から立ち直ることができず、毎日のように自分を責めていた。しかし現実問題、双子の出産は父体にかなりの負荷がかかるうえ、下手をすれば父子ともに亡くなってしまう可能性だってある。王配は子どもを諦めて中絶するべきだと訴えたが、国王は自分の命に変えてでも双子揃ってこの世に送り出してあげたいと言って妊娠を続行した」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...