上 下
14 / 70
第二章

2-6

しおりを挟む
「坊ちゃま……!」

 フィルは手に持っていた服をタンスに戻し、慌ててリースの寝室を出た。数メートルほど先、生尻をぷりぷりと振りながら駆け回るリースを発見して衝撃に目を見開く。

「わーい! はだかんぼだーい!」

 きゃっきゃとはしゃぎながら曲がり角を曲がる直前、銀色のワゴンを押すシモンが姿を現した。
 ちょうどリースの部屋の食器を片付けに向かっているところだったのだろう。既のところで衝突は免れたものの、シモンは真っ裸のリースを見て驚きの声を上げる。

「わ、リ、リース様っ⁉」
「お待ちください坊ちゃま! 坊ちゃま!」

 フィルはすかさずシモンのそばを通り抜け、リースを追いかけた。今は悠長に訳を説明している余裕はない。
 曲がり角を曲がると、すでにリースの姿は見えなくなっていた。部屋数も多くだだっ広い館内で、追いかけっこ兼かくれんぼなんて冗談じゃない。

「坊ちゃま! どこにおられるのです、リース坊ちゃま!」

 声を張り上げながら、フィルは館中を探して回る。ふと、目についた厨房の扉が半開きになっていることに気がついて、そちらへと足を向けた。

「坊ちゃま! 坊ちゃま、ここにおられるのですか!」

 ざっと辺りを見回すが、それらしき人物の影はない。しかし、シモンに限って厨房の扉を開けっ放しにするなんてことはないはずだ。

 ――すでに別の場所へ移動したのか……?

 思いつつも、そろりそろりと厨房の中を探索する。奥の調理台の足元へと視線を向けたとき、ぷりぷりと揺れる桃尻に気づいて目を眇めた。
 ……頭隠して尻隠さずとはよく言ったものだ。どうやらリースは、蹲って調理台の裏で息を潜めているらしい。
 バレたらまた逃げられかねないと、フィルは足音を殺してそうっとお尻へと歩み寄る。あとほんの少しといったところで、唐突にリースがばっと身を起こした。

「ばぁーっ!」

 頬の横で大きく手のひらを広げて驚かされて、フィルは思わず尻餅をつきかける。

「な、何……っ」

 その隙に、リースはまたぱたぱたと厨房を走り去ってしまった。

 ――猪口才……っ!

「坊ちゃま! お待ちください坊ちゃま! そのような格好で走り回られては危険です! 今すぐ部屋にお戻りください!」

 必死に訴えかけるフィルを無視して、リースはきゃっきゃと館内を駆け回る。二階の階段を登った先、リースの進行方向でウォーレンとクラウスが立ち話をしているのに気がついてフィルは目を瞠った。

「ウォーレン、坊ちゃまを捕まえてください! クラウスは今すぐ目を瞑って!」

 呼びかけたフィルに、ウォーレンとクラウスが揃ってこちらを向く。裸で駆け寄ってくるリースの存在に気づいて、同時にぎょっと目を見開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...