世界の最果て

畦道伊椀

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世界の最果て

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「世界の最果て」
ソースはインターネットだけど、昔の人は世界が球《たま》じゃなくて、真っ平らに出来ているって信じていたらしい。

真っ平らな世界の最果ては滝になっていて、その滝に堕ちると今度は巨大な亀がいる。

亀は永遠の命を得ていて、滝から落ちる水で水浴びをしながら、人間の何億倍もの時間をずっと1人で生き続ける。例えば人類が滅んだ後も、ずっと。

さて、昔の人はそんな風に世界を考えていたらしいけど、僕たち21世紀の人間には、そんなおとぎ話は通用しない。

人類の歩みは大地に始まって海へと続き、空を超えて宇宙まで広がった。タブレットを開けばいつでもどこでもインターネットに繋がって、どんな人とでも繋がれる。

戦争ばかりの昔より、今の方がはるかに豊かで素晴らしいけど、世界からフシギがなくなっていくのは、やっぱりどこかちょっぴり寂しい。


そんなことをブログに書きながら、僕は窓から外を見た。

空を走るジャンボジェットは、雲海《うんかい》の上を走り続ける。

雲間からは外の街の様子が見えて、僕はその絶景をたまに写真に取りながら、時折SNSのタイムラインに載せいく。

「飛行機には今まで何度も乗ってきたけど、世界一周は今回が初めてだ。今ままでは人づてに世界が丸いってことを聞いてきたけど、今回初めて自分の目でそれを知ることになるんだね。」

僕は若き小学生経営者で、世界を変えるようなコンテンツを生み出すことが将来の夢だ。今回はその第一歩となる商談のためアフリカに向かっているところで、アフリカの貧困問題の解決を目指しながら、どうやって世界を動かす仕組みを作っていくかをクリエイティビティと話し合う。この仕事に限らず、僕のやっていることは大小様々な困難がいつもつきまとうけど、その苦労を乗り越えられた先にはいつも素晴らしい景色が待っている。いつまでもその景色を見続けられる若々しい人間であることが僕の夢であり、僕の人生の密かなミッションだと思っている。

「プー、プー、こちら機長からの連絡です。間も無く、世界の最果てに到着します。ご経験のある方はそのご経験の通りに、初めての方はウサギさんに会うまではキャビンアテンダントの指示に従って下さい。」

ん?何だろう。今のアナウンス?そんなのリーフレットには乗ってなかったけどなあ。おいおい勘弁してくれよ。乗客への秘密のサプライズなんてされたら、大事な商談に遅れちゃうよ。


そんなことをキャビンアテンダントにアサーティブしたけど、どうしても指示に従って欲しいそうだ。何とかっていう法律の文面を見せられて、事前に同意もしてるんだって。

まあ、じゃあ仕方ないか。契約を守るのは、ビジネスマンの最低限のマナーだしね。


「全員揃ったか?」
飛行機を降りたところには、全長2メートルを越える二足歩行の臼歯しかないウサギが立っていた。ウサギは人間そっくりの、人間より大きくて分厚い白い手のひらをしていて、その手には作り物だろうか、ひとの腕のようなものを持っていて、チュッパチャプスのように口に咥えていた。空はウサギの目のように赤く、アスファルトのように硬い地面は、凝固した血のような色をしている。
「はい、全員集まりました!これが全員の個人情報になります!どうぞ、ご覧ください!ウサギさん!」
「ああ、敬語はいいって。それに呼び捨てでいいし。そんなうやうやしく書類渡されても、こっちが受け取り辛いだけだから。まあ、どっちでもいいけど。」

クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ

片膝立ちから腕を伸ばして、伏せた頭よりも書類の位置が高くなるようしている機長から乗客全員の個人情報を受け取ったウサギは、比較的長い時間をかけてじっくりとその中身を確認すると、
「西園寺星鳴《さいおんじせいめい》ってどいつ?」
と機長に聞いた。

「この子供が西園寺星鳴《さいおんじせいめい》です。」
僕の背後にいたさっきのキャビンアテンダントが僕の背中に両手を添えながら仕事柄の満面の笑みでウサギに報告する。

「ああ、そうか。見た目は普通なんだな。にしてもお前凄い名前してるな。これ、もちろん本名だよな。」

「はい、もちろんでございます。」
キャビンアテンダントが僕の代わりに答えた。

「すげー名前してんな。やっぱ金持ちなの?住んでるところもすげーよく聞くところだし。」

クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ

(早くこたえろ。)
「は、はいっ!お陰さまで、お金だけはたくさん稼がせて頂いています!」


「おー、ほんとだ。お前の名前でググったら出てきたよ。 すげー。世界一稼いでる小学生なのか。え、なにこれからの将来のビジョンとかドリームとかミッションみたいやつってあんの?」
「え、あ、いや。特には。」
「そういうの持っといたほうがいいらしいよ?じゃないと一発屋で終わっちゃうかもしれないんだって。」
「あ、アドバイスありがとうございます。今度から持つように心がけます。」
「うん。俺が言ってるならともかく世界中で成功したやつみんなが言ってるから。そうしたほうがいいんだろうね。成功するにはきっと。」

クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ

「はいっ!そうさせていただきます!」
「おっ、素直だねえ。だから成功できたんだろうね。あ、そうだ。君、あれ見てくれく?」

クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ

ウサギが馬鹿でかい親指で示した先では、2匹のウサギがうすときねで何かを交互についていた。さっきから鳴り止まない、まるで音を立てながらガムを噛んでいるような音は、そのうすのなかから聞こえてきていたのだ。

「あんなかを覗けば、世界がどうやってできているか知ることが出来るよ。覗いたら、ほとんど確実に不幸になるけど、間違いなく世界を変えるような、人類史に名を刻むヒーローになれる。つーかあれを覗かない限り、世界を変えられないように世界はできてる。君、ホームページ見たけど、世界を変えてみたいんだろ?」

クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ


クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ


クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ


クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ

「あ、いや・・・大丈夫です。」
「まあ、そっちのほうがいいよね。世界を変えるとか、そういうのは客寄せで言ってるのが一番だ。別に見れなかったからといって何か悪いことをしたわけじゃないんだし。じゃあ、ここで見たことはこれを見てない人には言っちゃダメね。言ったら殺しにいくから。SNSとかで呟《つぶや》いてもダメ。住所とかも押さえてあるし、各国政府や大企業とかとも繋がってるから住所変えたってダメだよ?今やワンクリックで一発でわかるから。じゃあ、そういうわけで解散。」

それが僕とウサギさんの初めての出会いだった。

それからも何度もウサギさんと会う機会はあって、その頃にはもう僕は世界を変えたようなコンテンツを生み出したいけど、ちゃん付けで呼ばれるほど親しくなっていたウサギさんがうすの中身を覗くことを勧めてくることは、あれ以来二度となかったし、僕の方からも言わなかった。

クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ
クッチャ    クッチャ   クッチャ   クッチャ







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