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私が8歳の頃にお父さんがコーヒーのお店を作るぞ!お前も将来働け!と笑いながら頭を撫でた事を今でも覚えてる

せっかくだから夢は大きくという考えでお父さんは王都にお店を出すからと田舎街から引っ越す事を知らされたのは3日前
お母さんは知っていたみたいで、ふふふと笑いながら支度しなさいと言われた日は一生根に持ってやると思った

近所に住む人達との別れはあっという間だった、唯一の友達にはお別れも言えなかったけど
なんでも突然決める父に振り回されるのは今更だけど本当に勘弁して欲しいと思いながら王都へと引きずられしばらくは泣き暮らしてたのは懐かしい思い出

それから15年後にお母さんとラブラブ旅行がしたいから店はよろしくなと言われた日は面接先から君じゃ駄目だねぇと言われた30回目の記念日でもある

それから3年、お父さんのお陰と言いたくはないけどお陰でコーヒーを作るのは慣れていたからお昼から暮れにかけて1人で営業している

お父さんは夜にお酒も売っていたけど、私1人でお昼から夜中までやれる体力はないからコーヒーで日々を賄っている

常連も多いけど新規の人も多い王都では割と儲かってる今この頃
それもこれも3階建ての家兼コーヒー屋且つ家賃は払わなくていいからだ
お父さんはかなり儲けたらしく支払いを終えこれからかかるであろうざっとした金を私に置いて出て行ったから気ままにやれている

とにかく父のお陰なのかせいなのか分からないけど今は王都の路地裏からもう1つ裏に店と住宅街が立ち並ぶ場所でコーヒーを作っている

接客は向いていないと思うけどなんとなくぎこちない笑顔が作れてきたと思う、いや、思いたい

「おい」
「は、はい!いらっしゃいませ」

テイクアウトは外の窓口から言われるので店内に入って来た人は滞在するという意味でもある

「コーヒー」
「はい!100トピです、アイスかホッ」
「アイス」
「は、はい」

他のお店は種類があるみたいだけどお父さんの時から1つの豆しかない
選べるのはアイスかホットだけ

テイクアウトも店内もカップは変わらないからミスがなくていい

「お待たせしました」
「…」
「あの?」

受け取らないお客にどうしたんだろうと下を向いていた顔をあげると鬼が居た

鬼というか鬼人
王都ではそこまで珍しくはないけど昔住んでいた場所では珍しかった

青い髪に青い瞳、伸びてる角は白の鬼人は昔遊んでくれた友達によく似ている
私の茶色の髪も赤い目も綺麗だよって褒めてくれた人に

2つ上のお兄さんでみんなに優しくて困ってる人を見かけたら駆け寄るような人
こんな私とも遊んでくれた友達であり初恋の相手

「ノエルか?」
「へあっ!?」
「外せ」
「え?」

伸びてきた手が私のメガネを取った
と思ったら急いでかけ直したお客は

「レネお兄ちゃん?」
「あー…久しぶり」

どうやら本人だった
メガネを強引に外すところは変わらない

「ひ、久しぶりだね、会えると思わなかった」
「俺も………お前さ」

「1つくれ」

どうやらお客が来たらしい
レネお兄ちゃんの後ろにいつの間にか居る

「あ、アイスですかホット」
「アイス」
「は、はい、100トピです」

レネお兄ちゃんはちょっとだけ立ち止まってたけどすぐにお店から出て行った
もう少し話したかったのに

でもそうだよね
私と話す事なんかないもん

それにしてもレネお兄ちゃん口調が全然違うように感じた
もう少し柔らかい感じの
『ノエル、こっちだよ』
そうそうこんな感じ
いや、18年も経てば変わるか
そうだよね、レネお兄ちゃんもきっと結婚したりたくさん友達が居たりしてるよね

いやいや、いい思い出にしよう

でもでもあの再会ってどうなんだろう
気安く話しかけすぎたかもしれない
でもお固くするのも変だよね…

もう少しだけ話したかったなぁ

結局閉店までぐだぐだと考えながら1日が過ぎていった

「はぁ…」

レネお兄ちゃん逞しかったな
昔も大きかったけど今の方が大きい
もう1度会いに来てくれたりしないかな

カラン…とお店の扉が鳴ったので閉店時間だと口を開く

「す、すみません、もう」
「お前ここに住んでんの?」
「へ?」
「独り?旦那は?つうか親父さん達どこ」

お前って呼ばれたレネお兄ちゃんに
つうかって言った、つうかって
どこなの?じゃなくてどこで終わり

「おい」
「は、はい!」
「相変わらずボケッとしてんな」
「あ、えと、ごめんなさぃ…」

な、なんて聞かれたっけ
旦那?居ない居ない
居るわけないじゃん

「え、と、お父さんたちは3年前から水入らずで旅行に行ってて」
「気まぐれだな」

そうなんだよ
いつだって気まぐれなんだよ、どうしていつもそんな急なのって思ってる

「あー、旦那はいんのか」
「い、居ないよ!独り暮らししてる」
「ここで?」
「う、うん」
「ふーん…」

ふーんで会話終わっちゃった
どうしよう私もなにか聞かなきゃ駄目だよね
でも結婚してるとか恋人居るとか言われたら嫌だなぁ

いやいや!そんな事考えてどうするの!?
レネお兄ちゃんにはレネお兄ちゃんの人生が…!

「しばらく泊めてくんねぇ?」
「へ?」
「冒険者してんだけど金がねぇからしばらく泊めてくれ」

え?ここに?私が独り暮らししてるここに?
いいけど、全然いいけど
え?え?レネお兄ちゃんと2人きり?
ど、ど、ど、どうし…!

「おい」
「はい!」
「無理なのかよ」
「ううん!ううん!全然そんな事ないよ!いくらでも部屋は空いてるから好きに使って」
「いいのかよ」
「え?」
「なんでもねぇ、その裏?」
「あ、う、うん、えっと締め作業が終わるまで上がれないけどレネお兄ちゃんは」
「宿屋引き払ってくるからまたあとで」
「あ、うん、あ!待って!」
「…」

鍵がないと入れない
パタパタと上に登って合鍵を棚から出す
呼び鈴もないから気付けないんだよね
こんな事なら横着せずに頼めば良かった

レネお兄ちゃんご飯食べるのかな

「レネお兄ちゃんお待たせ」
「ああ」
「合鍵持ってって」
「…」
「あ、それと夜ご飯食べる?」
「食う」
「分かった、用意して待ってるね」
「…ああ」

スタスタとお店から出て行くレネお兄ちゃんの背中を見ながらまた話せたと喜んだのも束の間

「掃除!ベッド!ご飯の支度!」

お店を手早く閉めてご飯の準備?先にベッド?ていうかベッド余ってない!
お父さんたちのでいいのかな、今から買いに行っても間に合わないし!

「と、とりあえずご飯!」

レネお兄ちゃん豆が好きだったからお肉と豆を煮込むのとパンは、足りるかな?
とりあえず余ってるパンと、ああ、明日食材買いに行かなくちゃ
サラダを作って、掃除!レネお兄ちゃんの部屋ってどこになるんだろ
お父さんたちの部屋?でも3階はずっと掃除してないし私の部屋の横なら少し片付けたら空くけど、横って嫌じゃないかな?
ああ、でもベッドは3階!
いや、私がソファで寝て今日は我慢して私のベッドで寝てもらおう!
明日ベッド買って横の部屋に置けばなんとかなるかも
掃除しなくちゃ

もう、こんな事なら毎日ちゃんとしておけば良かった!
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