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第2章:北風とカナタのバジリスク退治!~アリスの場合~ 

第17話:ペルセウスと北風とバジリスク3~カナタとお買い物~

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「というわけで、こちらが魔道具屋マジカルバナナです」

 そう言ってアレクが、町の一角にあるちょっと変わった形の建物を指さす。
 尖がり過ぎてる赤い屋根と、杖がオーガの角替わりに刺さっている看板が特徴だ。

「なんでバナナ?」
「さあ?」

 カナタの質問を私がサラッと流しつつ中に入る。

「はい、いらっしゃい」

 そう言って声を掛けてきたのは、70を過ぎたであろう老婆だ。
 この国の平均寿命は65歳だから、高齢な方……と言いたいところだけど、魔導士の中には100を越えた人もいるから一概には言えない。
 単純に冒険者や、魔物のせいで若くして亡くなる人が多いだけだったりする。
 店内には所狭しと怪しげな色をした液体の入った瓶や、謎の植物を乾燥させたもの、怪しげな色をした液体の入った瓶、魔物や動物の身体の一部を乾燥させたもの、怪しげな色をした液体の入った瓶、怪しい粉が入った紙包み、怪しげな色をした液体の入った瓶、そして使い方の分からない道具が並んでいた。
 というか、商品と商品の間に必ずある色の違う液体の入った瓶の存在が凄く気になるんですけど?

「へえ、なかなか良い物が置いてあるな。これならあれが見つかるかも」
「あれ?」

 カナタが店内を見渡しながら頷く。

「あっ、カバチそこの棚立て付け悪くなってるから、不用意に触るな……って遅かったか」

 カバチが何故か興味を惹かれたのか、棚にあった木の棒を手に取った瞬間棚が傾いて商品のいくつかが転がり落ちる。

「おいっ!何をするんじゃ!それはただの木の棒じゃぞ?棚板を支えるのに突っ込んでただけじゃ」

 紛らわしいよ。
 ただの木の棒と言いながら、怪しげな文字が彫ってあるし。

「ごめんなさい」

 慌てて床に落ちた道具を拾い集めるカバチ。
 魔道具って高いんだからね?壊れてないと良いけど……

「壊したら弁償じゃからの!」

 そう言って老婆がカバチを睨み付ける。
 しかし、すぐにその間にスッと入り込むカナタ。

「ふふっ、わざわざ壊れた棚を怪しげな文字を彫った木の棒で支えておいてよく言いますね?それにそこの棚にあるのは元々殆ど価値の無いものばかりでしょ?」

 わざとか!
 これってあれじゃん!
 町でわざとぶつかって手荷物落としてガッシャーン。

「あーっ、なんたらの壺がー」

 ってのと同じ手口じゃん!
 詐欺じゃん!
 犯罪じゃん!

「ちっ、兄さんなかなかの目利きじゃの。結構それでも馬鹿にならん金を払う奴もおるんじゃがのう。フェッフェッ」
「ちなみに今まで何人の被害者が?」
「そこの坊やは兄さんのせいで助かったが、ここ10年で2人ほど泣きながら金を置いて行ったわい」

 少なっ!

「まあ、万引きしていく輩もおるから、そこの損失補填代わりに」
「それ、犯罪だから!」
「そうじゃよ!万引きは犯罪じゃよ?」
「そっちじゃない!」

 おばあさんの言葉に思わず突っ込みを入れたら、思いっきりとぼけられた。
 相変わらず食えないババアだ。

「それで、お兄さん方は何をお探しじゃ?」
「うーん、ちょっとバジリスクを退治しながら人探しをしないといけないからね。その対策になるようなものを探しに来たんだけど」
「石化を防ぐ道具か?」
「いや、それはもうあるからいいよ」
「ほうっ!ならばバジリスクを退治するための道具か?」
「まあ、そんなところ」

 はっ?カナタってば本気であの紙切れで石化を防ぐつもりだったの?
 ていうか石化を防げるなら、バジリスクなんてただのデカい蜥蜴じゃない。

「アリスはデカい蜥蜴に勝てるのか?」
「うっ……」

 どうやらまた顔に出てたらしい。
 というか、ジャイアントゲッコーって結構討伐難易度高かったよね。
 てか、あいつらの噛み付きを喰らうと、色々な病気に掛かるらしいし。

「まあ、そこは魔法でなんとか……」
「できそうにないから、取りあえずそこの薬品を貰おうか」
「フェッフェッ。なかなか面白いもんを選びなさるのう。そこのレッドスライム溶液なら確かにあの固い鱗も溶かせるじゃろう。じゃが、高いぞ?」

 レッドスライムって……たしか、強酸性な上に超高温の酸液を放つスライムだよね?
 というか、その薬品ってその溶液なの?青いよ?

「瓶込で金貨10枚ってところかのう?」
「まあそんなもんかな?で、そっちの液体も貰いたいんだけど?」
「金貨10枚?はっ?バカじゃないの?そんなの買って、今回の依頼で利益でるの?」
「そうだよカナタ!いくらバジリスク相手にするからって、最初からそれだけの金額使って大丈夫なのか?」

 私の意見に賛同するかのようにアレクも声を掛けるが、カナタは笑顔で頷く。

「大丈夫だって、なんてったって相手は貴族や商人だからね?必要経費は別で請求することになってるから。だから、領収書も書いてもらうから安心して」
 
 安心出来ないし。
 最近カナタの事を素直に信じられない自分が居る。
 いや、実力は信じる……いや、信じられないわ。
 良い意味で。
 だって、こいつF級の皮を被ったC級だからね?
 実力をかなり下に見せて隠してるからね?

「なら大丈夫か……」

 おいっ!
 アレクがまたも簡単に納得してるけど、うちの頭脳担当もっとしっかりしろ!

「へえ、中々の目利きかと思ってたけど、あんたかなりのやり手だね?もしかしてバジリスクスレイヤーとかかね?」
「いやそういう訳じゃないけどね。ちょっと知ってただけだよ」
「あんただけなら、そんなもんに頼らなくてもバジリスクくらいなんとか出来そうな気がするけどのう……」
「ははっ、買い被り過ぎですよ」

 ちょっとそこ!
 二人しか分からない会話をしないでくれるかな?

「レッドスライム溶液に、冷凍液の組み合わせか……ちょっと知ってたと言ったが、いままでこの組み合わせを買って行ったものはおらんからのう。というか、それ以前にピンポイントで必要なものを見つける眼力を持っておったら疑うわのう。大体はわしに要望を伝えてわしが見合ったものを持ってくるからのう。自力で商品を言い当てたのはお主を入れても3桁まで届かんぞ?」
「たまたま見た事があったんですよ」
「凄いたまたまがあったもんじゃのう」

 そう言ってジト目を向ける老婆。
 というか、魔法職の私ですらここにある道具や素材の半分……10分の1も理解出来てないってのに無職のカナタになんで分かるのかがすでに謎だし。
 やっぱりこいつC級冒険者だ。

「レッドスライム溶液?ってのがバジリスクの鱗を溶かすのはなんとなく今の話で分かったけど、冷凍液って何に使うの?」
「終わったー!」

 アレクがカナタに質問を投げかけるタイミングで、カバチが叫ぶ。
 どうやら片付けが終わったらしい。
 そしてちょっとバツが悪そうに一つの道具を手にこっちに近づいてくる。
 カナタがそっとカバチに耳打ちをする。

「お姉さんごめんなさい……これ壊れちゃった」

 カバチの言葉に老婆が思わず目を剥く。
 それからカナタの方に目をやる。

「はああああ?はぁ……ここまでやられちゃお手上げだわ」

 まあ、幼く純粋に見えるカバチにそんな見え透いたとはいえお世辞を言われたら、少しは寛容になるものかな?
 特に孫が居そうな老婆なら。

「いつから気付いてたの?」
「最初から?」

 ん?
 会話の流れがおかしい?
 気付いてた?

「もういいわ、その二つ合わせて金貨5枚でいいよ」
「何故に半額?しかも冷凍液っていくらなの?」

 突然の値引きに思わず声をあげてしまった。
 いくらカバチのお世辞とはいえ、そこまでの効果があるとは思えない。

「それが適正価格だからね。スライム溶液が金貨4枚、冷凍液が金貨1枚ってところかな?」
「まあ、その辺りならちゃんと利益も出る金額だよ。にしても参ったねー……ここにある道具を言い当てる人は確かに結構居たけど、私の変化まで見破ったのはキミが初めてだよ」

 老婆の姿で急に若々しい言葉で話してくるのは、かなりの違和感を感じるんですけど?
 まさか、カバチのお世辞で心まで若返ったとか?

「お姉さん私の言葉ちゃんと聞いてた?変化まで見破ったっていま言ったよね?」
「そうだよアリス!この人確かにそう言ってたよ」

 えっ?
 老婆の言葉に続いてアレクまでそんな事を言ってくる。
 というか、私の疑問また顔に出てました?

「本当に分かりやすいよねアリスって。カナタの言ってた共通表情スキルがあるんじゃない?」

 カバチまで馬鹿にしたような事を言ってくる。

「共通表情スキルとは上手い事言うね。ほらっ!これでも私がおばあちゃんに見える?」

 そう言って老婆が身に着けていたローブを脱ぐと急に若々しい姿になる。
 燃えるような赤い髪に、黒い瞳、出るとこ出てて引っ込むところが引っ込んでる羨ましい体つき。
 ちょっとそばかすが気になるけど、老婆が可愛らしい女の子に早変わりする。
 何気に胸元が大きく開いたVカットのチュニックから谷間を見せつけるようにしているのがあざとい。
 そんな老婆……今更老婆ってのも変だけど、少女をジトっとした目で見つめるカナタ。

「何よ!胸やお尻ばっかり見て!」
「やだカナタ!やらしい!」

 なんとカナタは彼女の胸やお尻をジッと見てたらしい。
 意外とムッツリなのね。
 ただ、欲情というよりは若干呆れたような目つきなのが気になるけど。

「クッ!」
「アッ!」

 とうとう視線に耐え切れなくなったのか少女が胸を両手で隠す。
 そして何故にアレクがガッカリしたような声を出す。

「フッ」

 そして何故にカナタは鼻で笑う。

「分かったわよ!二つ合わせて金貨4枚で良いわよ!もうこれ以上は勘弁して!」
「まあ、いっか」
「何故にさらに値引き!」

 二人のやり取りの意味がさっぱり分からない。

「でも領収書には金貨10枚って書いといてね?」
「ふふっ、あんたも悪よのう」
「お互い様だろ?それにそこの値札には青い液体が金貨12枚、白い液体が金貨4枚って書いてあるから金貨6枚も安く請求するんだから良心的だろ?」
「そしてさらに金貨6枚も安く買うあんたはなんなのよ!っていうか、請求出来るなら普通に買いなさいよ」

 もうついていけない……交渉は全てカナタに任せることにしよう。

「まな板って売って無い?」
「いい加減にしなさい!これでも本当に採算度外視なんだからね?こんだけの高額商品なのに、利益が私の今日の夕食分くらいしか無いんだから!」

 カナタに耳打ちされたカバチの言葉に、少女が顔を真っ赤にして怒鳴っている。
 そんな少女の胸を見ながらニヤニヤと笑うカナタ。
 あっ……察し。

「まあ、別に金に困ってるわけじゃないからさ。取りあえず金貨6枚ね」

 そう言ってこれまたいきなり手に持った袋から、金貨を取り出すカナタ。
 というか、だからその袋はどこにあったのよ?

「ちょっ、いきなり袋が出て来たわね。あんた魔道具コレクターとかじゃないわよね?」
「違うよ。たまたま持ってただけだよ」
「あんたのたまたまは軽いのよ!」

 少女に激しく同意する。
 いや、確かにカナタは飄々としながらも普通に考えるとありえない事が多すぎるよね?
 だから、最近は普通に考えないようにしてるけど初対面だとやっぱりこうなるよね?

「まあ、別に暇潰しで揶揄っただけだから、金貨1枚でこれを売ってあげるよ」

 そう言ってカナタが取り出したのは一本の丸い筒と、一枚の布、それから丸いガラスだ。

「何それ?」
「まあまあ、見てなって」

 そう言ってカナタが店の入り口の両脇に丸い筒を押し当てたあと、棚にあった瓶に丸い筒を押し当てると、その瓶をアレクに渡す。

「アレク、ちょっとその瓶持って店の外に出てみて?」
「えっ?それって泥棒……」
「大丈夫、俺達は店の中に居るから」
「何する気?」

 アレクとカナタのやり取りを胡散臭そうに眺める少女。
 そして渋々と言った様子でアレクが店の外に出ると大声で叫ぶ。

「あーーー!瓶が消えた!」
「そこ見てみ?」

 そう言ってカナタが指さした先には、先ほど瓶があった場所にアレクが持っていったはずの瓶が置いてあった。

「はっ?」
「えっ?」

 少女とハモる事は無かったけど、お互い可笑しな声をあげてしまった。

「この印鑑を付いた商品は、この布で綺麗に拭き取らないと店の外に持ち出せないようになる。ちなみに、この布以外では消せないからね?布の呼びも渡しておくよ」
「いやいやいや、なにそれ?そんな魔道具聞いた事無いんだけど?というか、この印鑑を押しただけで転移の魔法が付与されるの?」
「まあ、そんなとこ。と言ってもあまり大きすぎるものには使えないけど、ここにある商品くらいならなんとかなるし、大きすぎるものを盗って逃げられるような人居ないでしょ?」
「あんたなら出来そうだけどね」
「フフッ」

 少女の言葉に思わず同意してしまうが、カナタが笑って誤魔化しているのが肯定にしか思えない。

「で、このガラスは?」
「ああ、どこに押したか見えないと不便だろ?これを通してみると?」
「おお!確かに丸い魔法陣みたいなのが商品に付いてる!」

 少女がガラスを片手に先ほどの瓶を見てみると、どうやら印が見えたらしい。
 というかさ……なんでそんなもん持ってるのよあんた!

「ん?たまたま?」
「んなわけあるかい!」

 私の心の声に返事をしたカナタに思いっきり突っ込んでしまった。
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