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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~
第14話:メルスのダンジョン14階層2~薬草って凄い!~
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「で、ここに居るということは、お三方はボスに挑むつもりですね?」
僕達はいま、長椅子に腰かけて一息ついている。
目の前にのソファにはマルタさんと、エマさんが腰かけている。
レイドは可哀想に、カルロスさんに捕まっている。
「ですからね、こういったダンジョンというのは陽の光が当たらないから植物は育ちにくいんですよ……でも、苔やカビなんていうのも薬品の素材になりますし、こういったところを好む植物もいるんですよ? 例えば、ネクラ草というのは、見た目はとても華やかで凄く美しいですが、彼らは好んで生物の腐敗した死体を栄養にしててですね、陽の光が当たらない場所の方がより長く腐敗した死体が残る事が多いので……」
「はあ……」
レイドも真面目だな。
なんの役にも立たない情報なのに、ちゃんと相槌を打って返事までして。
しかも聞いてばかりじゃ悪いと思ってるのか
「そうなんですね。でも、ネクラ草なんて聞いた事無いのですが」
「はは、そんな名前じゃ売れないですからね。町ではスキミングフラワーとして売られてますから。なんでもイースタンの人がダンジョンから持ち帰って、そういった名前で売り出したところ……」
「えっ? それってそんな名前だったんですね。まあ、ダンジョンで取れた花なんて一般人には……」
泥沼だな。
申し訳ないと思っても、こういったタイプの人には決して質問をしてはいけない。
話を広げると、広げた分全ての話題を言い尽くさないと満足しないからね。
「ああ、俺達はボス戦の前に軽く食事を取ってた所だ」
「ここまで結構掛かったからね、でも、私としてはこういった保存食はもう結構なんですけどね」
マルタさんの言葉に、エマさんが辟易した様子で続ける。
そうなんだよなー……結局日帰りとかならサンドイッチとか、バスケットにちゃんとした食べ物を持ってきてそれなりに食事も楽しめるんだけど、そうしても日数がかかるものになると、干し肉や、干しブドウ、固いパンなどが主流になっちゃうんだよね。
僕も、一応今日の分は魚の一夜干しとパンに野菜とハムを挟んだサンドイッチを持ってきているが、明日以降は干し肉とパンでしのぐつもりだ。
水だけはどういうわけか、あちらこちらに水の沸く瓶が置いてあるから助かるけど。
湖の水を浄化して、瓶に貯めているのでは無いかと言われているが、本当にこういうのを最初に口にする人は英雄だよね。
僕なら絶対無理だけど。
ちなみに夏場とかは、朝食以外はそく干物類になるのは言うまでもない。
しかも、カバンの中身はほぼ水が占める事になる。
パーティに魔法使いが居れば水はなんとかなるけど、そもそもそういった人は少ないからね。
「確かに、あまり美味そうじゃないな」
カナタさんが二人が先ほど食べていた干し肉の残りを見て、ボソリとつぶやく。
「あまりじゃなくて、まったく美味しくないわよ。そりゃ駆け出しのころは肉ってだけでごちそうで、ほとんど干した果物や固いパンばかりだったから、これでも満足してたけどね……もう、ずっとこれと付き合ってきたら、冒険中は食事も作業みたいになっちゃって」
「確かにな……誰か美味しい保存食を作ってくれたらいいのに」
2人がプリプリ言っているが、このことに関しては僕も概ね同意です。
といっても、基本日帰り薬草採取ツアーしかしてこなかった僕には、干し肉だけでもそこまで苦でも無いんだけどね。
「ところで……カナタさん何を飲んでるんですか?」
エマさんの声に、ふとカナタさんを見るとコーヒーカップのようなもので何かを飲んでいる。
ていうか、聞くまでも無く珈琲だね。
珈琲の良い匂いが辺りに漂っている。
っていうか、なんで湯気が出てるんだろう?
普通の水筒に入れてたら、とっくに冷めてるはずなのに。
まさか……魔法瓶を持っているのか!
あの、入れた飲み物が2日間入れたままの状態を保ち続けるという、伝説の水筒……
「ん? ああ、珈琲ですよ。エマさんも飲みますか?」
カナタさんがそう言って手を差し出すと、いつのまにかそこにコーヒーカップが現れている。
ああそうだった……この人手品師だったんだ。
って、んなわけあるかー!
エマさんも、口をポカンと開けてその手に持たれたコーヒーカップに視線が釘付けだ。
そして、その横のマルタさんも。
「えっ? 飲みかけ? いや、カナタさんが飲んでたのは、そこにありますよね? はっ? どこから取り出されたんです?」
エマさんが、凄いアタフタしてて面白い……
僕は流石にちょっと慣れて来てたけど、初対面だとやっぱりこうなりますよね?
「ああ、カナタさんってたぶん冒険者やる前は、手品師だったんだと思いますよ。本人は語ってくれませんが……」
うん、この説明かなり無理があるけど、手品の一言で大体の世の中の謎は解決出来るからね。
これでいいのだ!
という訳にはいかないようで、エマさんはコーヒーカップを受け取ってマジマジと見つめている。
「手品でこんな事が出来る訳ないでしょ! なんで、同じパーティなのに知らないのよ!」
何故か僕が怒られた。
解せぬ。
「女性は紅茶の方が良かったかな?」
カナタさんがそう言って指を鳴らすと、エマさんのコーヒーカップに入ってた黒い液体がだんだんと薄い赤茶色に変わっていく。
紅茶って見た事無いんだよね?
あれって、貴族の人が飲むものでしょ?
すっごい良い匂いだけど、これが紅茶の匂いなのかな?
「えっ? 紅茶? はっ、変わった?」
もうエマさんの頭の中は色々なもんが、グルグルしてるんだろうね。
ついでとばかりにマルタさんにはマグカップを差し出すカナタさん。
確かにカナタさんが手を差し出す時には何も持ってないんだよね。
でも、相手の前にその手が差し出された時には手にマグカップが現れてる。
やばい、そりゃ金持ちだわ。
こんな手品が仕えたら、国王陛下に来賓で城に呼ばれて、舞踏会で余興の1つとして……いや、もうメインショーとして十分披露出来るレベルだわ。
でもって、国王に「見事であった。褒美を取らす」てな感じで、凄い物とかもらってそうだもんね。
「あっ、ああ、有難う……」
マルタさんも戸惑いながらマグカップを受け取ったようだが、流石直進のマルタと呼ばれるだけはある。
早々に考える事を止めて、普通に飲み始めてる。
「すっげーうめー! 魔法瓶ってのは温度は熱々に保てるけど、時間が経つと珈琲なんかは酸味が出てくるって聞いてたのに、まるで入れたてのほろ苦さだ」
「こ……確かに紅茶です……」
一方魔法職というのは、色々と不思議な事を不思議なままにしておけない性質の人が多いらしく、エマさんも例に漏らさず一生懸命味を確認したり、コーヒーカップの素材を確認したりしている。
というか、これまた高級そうな食器だなおい!
カナタさんとエマさんのコーヒーカップは同じものらしく、透き通るような白い磁器に色鮮やかな花柄が描かれている。
一方マルタさんの手にあるマグカップは、なんか見たことも無い文字が描かれている。
というか流石C級で、しかも話題の人。
紅茶飲んだことがある方にびっくりした。
「あのカナタさん……これ……魔法ですよね?」
エマさんがおずおずと聞いてくる。
先ほどまでは、先輩っぽい立ち振る舞いだったのに急に遠慮がちになったというか、目上の人に話しかけるような態度に変わっている。
「おいエン、カナタさんて手品師じゃなかったのか? 魔法使えるのか?」
「えっ? いや、それが本人からは冗談で魔王って言われただけで、何者か教えてくれないんですよね」
マルタさんが、エマさんの急な変わり様に驚いたのか、僕に話を振って来る。
といっても僕が知ってるのは、自称元魔王ってのと、ステータスが変動するってことくらいだ。
しかも、レベルは今の僕よりずっと低いんだけどね。
でも、絶対に勝てる気はしないけど。
「どうですかね? 魔法かもしれないですね……」
その後もエマさんがあれこれと質問をしているが、のらりくらりと躱し続けるカナタさん。
しまいにはとうとう……
「俺は異世界から召喚された勇者なんだが、これはナイショにしてくださいね」
何てことを言ってるし、エマさんはエマさんで
「なるほど……確かに……」
なんて呟いているし……
何がなるほどなんですか?
何が確かになんですか?
そんなのそこのおっさんの嘘に決まってるでしょ!
「エマさん騙されちゃ駄目です。彼、僕には俺は魔王だなんて言ってましたよ?」
と伝えると、エマさんが大きく頷く。
ほっ、どうやら冗談と分かって乗ってあげてただけか。
ちょっとエマさんを馬鹿にし過ぎてた……反省。
「魔王の方が、勇者よりしっくりきましたわ!」
きちゃ駄目だろ!
やっぱりバカだった!
「それじゃあ、俺達はそろそろ……」
そう言いかけたマルタさんが途中で言葉を止める。
その視線の先では……
「……という効果があってですね。面白い事にこのハルケア草というのは、乾燥させて粉にするとオネショに効くとされてて年配の方や女性の方もこっそり利用されてるのですよ。でも面白い事に、そのままの状態で汁を抽出するとしばらく尿が出なくなるらしくて、冒険者の方……特に女性の方に密かに売れてたりするんですよ。しかも一定時間を経過すると自然に尿が出るようになるらしくて、かといって止まらなくなるといった副作用も無いみたいで……」
「ハイ……ハイ……薬草ッテ凄イ……ハルケア草凄イ……」
レイドが頭から湯気を出しながら、焦点の合ってない目で一生懸命カルロスさんの話に頷いていた。
ちょっ! うちの子を洗脳しないで。
「あ……ああ、すまんな」
マルタさんがすぐにそこに行くと、カルロスさんの頭に拳骨を落とす。
それから、レイドの両肩を後ろからガッシリ掴むと……
「喝っ!」
気合を入れて、一瞬だけ全力で肩を押したようだ。
レイドがビクッとなる。
それから、目の焦点がやがて戻って来る。
「凄いな……気付けも出来るのか」
カナタさんが感心したように呟いているけど、そういう状況でしょうか?
呑気ですね。
「はっ! 私ったら、一体何を!」
レイドが当たりをキョロキョロしながら、不思議そうに首を傾げている。
「良いんだよ……何も、気にしなくて良いんだよ……何も無かったからね……」
今度はエマさんがレイドの肩を優しく抱き寄せて、柔らかい声で語り掛けている。
なんていうか、心が洗われるような不思議な声色だ。
「ほう、エマさんは言霊を使えるのか……本当に優秀なんだな」
うん、カナタさんには何かを期待しちゃ駄目だって事がよーく分かった。
「それに、あのカルロスって奴の話術も、結構興味深い……こんどじっくりと話をしてみるか」
はい、新たな被害者がターゲットロックオンされた模様。
繰り返す、新たな被害者にカナタ、ターゲットロックオン完了!
「それじゃお先に。コーヒーごっそさん」
「私も、美味しい紅茶と興味深い話が出来て嬉しかったです師匠!」
マルタさんが、カルロスさんを引きずりながら、そしてエマさんがレイドに飴ちゃんをあげて部屋から出て行った。
てか、エマさん師匠って誰?
ふう……今からマルタさん達がボスに挑むってことは、もう1時間くらいゆっくり出来そうだな。
そう思って、このダンジョンに入って初めての休憩に目を閉じって体を労わる。
僕達はいま、長椅子に腰かけて一息ついている。
目の前にのソファにはマルタさんと、エマさんが腰かけている。
レイドは可哀想に、カルロスさんに捕まっている。
「ですからね、こういったダンジョンというのは陽の光が当たらないから植物は育ちにくいんですよ……でも、苔やカビなんていうのも薬品の素材になりますし、こういったところを好む植物もいるんですよ? 例えば、ネクラ草というのは、見た目はとても華やかで凄く美しいですが、彼らは好んで生物の腐敗した死体を栄養にしててですね、陽の光が当たらない場所の方がより長く腐敗した死体が残る事が多いので……」
「はあ……」
レイドも真面目だな。
なんの役にも立たない情報なのに、ちゃんと相槌を打って返事までして。
しかも聞いてばかりじゃ悪いと思ってるのか
「そうなんですね。でも、ネクラ草なんて聞いた事無いのですが」
「はは、そんな名前じゃ売れないですからね。町ではスキミングフラワーとして売られてますから。なんでもイースタンの人がダンジョンから持ち帰って、そういった名前で売り出したところ……」
「えっ? それってそんな名前だったんですね。まあ、ダンジョンで取れた花なんて一般人には……」
泥沼だな。
申し訳ないと思っても、こういったタイプの人には決して質問をしてはいけない。
話を広げると、広げた分全ての話題を言い尽くさないと満足しないからね。
「ああ、俺達はボス戦の前に軽く食事を取ってた所だ」
「ここまで結構掛かったからね、でも、私としてはこういった保存食はもう結構なんですけどね」
マルタさんの言葉に、エマさんが辟易した様子で続ける。
そうなんだよなー……結局日帰りとかならサンドイッチとか、バスケットにちゃんとした食べ物を持ってきてそれなりに食事も楽しめるんだけど、そうしても日数がかかるものになると、干し肉や、干しブドウ、固いパンなどが主流になっちゃうんだよね。
僕も、一応今日の分は魚の一夜干しとパンに野菜とハムを挟んだサンドイッチを持ってきているが、明日以降は干し肉とパンでしのぐつもりだ。
水だけはどういうわけか、あちらこちらに水の沸く瓶が置いてあるから助かるけど。
湖の水を浄化して、瓶に貯めているのでは無いかと言われているが、本当にこういうのを最初に口にする人は英雄だよね。
僕なら絶対無理だけど。
ちなみに夏場とかは、朝食以外はそく干物類になるのは言うまでもない。
しかも、カバンの中身はほぼ水が占める事になる。
パーティに魔法使いが居れば水はなんとかなるけど、そもそもそういった人は少ないからね。
「確かに、あまり美味そうじゃないな」
カナタさんが二人が先ほど食べていた干し肉の残りを見て、ボソリとつぶやく。
「あまりじゃなくて、まったく美味しくないわよ。そりゃ駆け出しのころは肉ってだけでごちそうで、ほとんど干した果物や固いパンばかりだったから、これでも満足してたけどね……もう、ずっとこれと付き合ってきたら、冒険中は食事も作業みたいになっちゃって」
「確かにな……誰か美味しい保存食を作ってくれたらいいのに」
2人がプリプリ言っているが、このことに関しては僕も概ね同意です。
といっても、基本日帰り薬草採取ツアーしかしてこなかった僕には、干し肉だけでもそこまで苦でも無いんだけどね。
「ところで……カナタさん何を飲んでるんですか?」
エマさんの声に、ふとカナタさんを見るとコーヒーカップのようなもので何かを飲んでいる。
ていうか、聞くまでも無く珈琲だね。
珈琲の良い匂いが辺りに漂っている。
っていうか、なんで湯気が出てるんだろう?
普通の水筒に入れてたら、とっくに冷めてるはずなのに。
まさか……魔法瓶を持っているのか!
あの、入れた飲み物が2日間入れたままの状態を保ち続けるという、伝説の水筒……
「ん? ああ、珈琲ですよ。エマさんも飲みますか?」
カナタさんがそう言って手を差し出すと、いつのまにかそこにコーヒーカップが現れている。
ああそうだった……この人手品師だったんだ。
って、んなわけあるかー!
エマさんも、口をポカンと開けてその手に持たれたコーヒーカップに視線が釘付けだ。
そして、その横のマルタさんも。
「えっ? 飲みかけ? いや、カナタさんが飲んでたのは、そこにありますよね? はっ? どこから取り出されたんです?」
エマさんが、凄いアタフタしてて面白い……
僕は流石にちょっと慣れて来てたけど、初対面だとやっぱりこうなりますよね?
「ああ、カナタさんってたぶん冒険者やる前は、手品師だったんだと思いますよ。本人は語ってくれませんが……」
うん、この説明かなり無理があるけど、手品の一言で大体の世の中の謎は解決出来るからね。
これでいいのだ!
という訳にはいかないようで、エマさんはコーヒーカップを受け取ってマジマジと見つめている。
「手品でこんな事が出来る訳ないでしょ! なんで、同じパーティなのに知らないのよ!」
何故か僕が怒られた。
解せぬ。
「女性は紅茶の方が良かったかな?」
カナタさんがそう言って指を鳴らすと、エマさんのコーヒーカップに入ってた黒い液体がだんだんと薄い赤茶色に変わっていく。
紅茶って見た事無いんだよね?
あれって、貴族の人が飲むものでしょ?
すっごい良い匂いだけど、これが紅茶の匂いなのかな?
「えっ? 紅茶? はっ、変わった?」
もうエマさんの頭の中は色々なもんが、グルグルしてるんだろうね。
ついでとばかりにマルタさんにはマグカップを差し出すカナタさん。
確かにカナタさんが手を差し出す時には何も持ってないんだよね。
でも、相手の前にその手が差し出された時には手にマグカップが現れてる。
やばい、そりゃ金持ちだわ。
こんな手品が仕えたら、国王陛下に来賓で城に呼ばれて、舞踏会で余興の1つとして……いや、もうメインショーとして十分披露出来るレベルだわ。
でもって、国王に「見事であった。褒美を取らす」てな感じで、凄い物とかもらってそうだもんね。
「あっ、ああ、有難う……」
マルタさんも戸惑いながらマグカップを受け取ったようだが、流石直進のマルタと呼ばれるだけはある。
早々に考える事を止めて、普通に飲み始めてる。
「すっげーうめー! 魔法瓶ってのは温度は熱々に保てるけど、時間が経つと珈琲なんかは酸味が出てくるって聞いてたのに、まるで入れたてのほろ苦さだ」
「こ……確かに紅茶です……」
一方魔法職というのは、色々と不思議な事を不思議なままにしておけない性質の人が多いらしく、エマさんも例に漏らさず一生懸命味を確認したり、コーヒーカップの素材を確認したりしている。
というか、これまた高級そうな食器だなおい!
カナタさんとエマさんのコーヒーカップは同じものらしく、透き通るような白い磁器に色鮮やかな花柄が描かれている。
一方マルタさんの手にあるマグカップは、なんか見たことも無い文字が描かれている。
というか流石C級で、しかも話題の人。
紅茶飲んだことがある方にびっくりした。
「あのカナタさん……これ……魔法ですよね?」
エマさんがおずおずと聞いてくる。
先ほどまでは、先輩っぽい立ち振る舞いだったのに急に遠慮がちになったというか、目上の人に話しかけるような態度に変わっている。
「おいエン、カナタさんて手品師じゃなかったのか? 魔法使えるのか?」
「えっ? いや、それが本人からは冗談で魔王って言われただけで、何者か教えてくれないんですよね」
マルタさんが、エマさんの急な変わり様に驚いたのか、僕に話を振って来る。
といっても僕が知ってるのは、自称元魔王ってのと、ステータスが変動するってことくらいだ。
しかも、レベルは今の僕よりずっと低いんだけどね。
でも、絶対に勝てる気はしないけど。
「どうですかね? 魔法かもしれないですね……」
その後もエマさんがあれこれと質問をしているが、のらりくらりと躱し続けるカナタさん。
しまいにはとうとう……
「俺は異世界から召喚された勇者なんだが、これはナイショにしてくださいね」
何てことを言ってるし、エマさんはエマさんで
「なるほど……確かに……」
なんて呟いているし……
何がなるほどなんですか?
何が確かになんですか?
そんなのそこのおっさんの嘘に決まってるでしょ!
「エマさん騙されちゃ駄目です。彼、僕には俺は魔王だなんて言ってましたよ?」
と伝えると、エマさんが大きく頷く。
ほっ、どうやら冗談と分かって乗ってあげてただけか。
ちょっとエマさんを馬鹿にし過ぎてた……反省。
「魔王の方が、勇者よりしっくりきましたわ!」
きちゃ駄目だろ!
やっぱりバカだった!
「それじゃあ、俺達はそろそろ……」
そう言いかけたマルタさんが途中で言葉を止める。
その視線の先では……
「……という効果があってですね。面白い事にこのハルケア草というのは、乾燥させて粉にするとオネショに効くとされてて年配の方や女性の方もこっそり利用されてるのですよ。でも面白い事に、そのままの状態で汁を抽出するとしばらく尿が出なくなるらしくて、冒険者の方……特に女性の方に密かに売れてたりするんですよ。しかも一定時間を経過すると自然に尿が出るようになるらしくて、かといって止まらなくなるといった副作用も無いみたいで……」
「ハイ……ハイ……薬草ッテ凄イ……ハルケア草凄イ……」
レイドが頭から湯気を出しながら、焦点の合ってない目で一生懸命カルロスさんの話に頷いていた。
ちょっ! うちの子を洗脳しないで。
「あ……ああ、すまんな」
マルタさんがすぐにそこに行くと、カルロスさんの頭に拳骨を落とす。
それから、レイドの両肩を後ろからガッシリ掴むと……
「喝っ!」
気合を入れて、一瞬だけ全力で肩を押したようだ。
レイドがビクッとなる。
それから、目の焦点がやがて戻って来る。
「凄いな……気付けも出来るのか」
カナタさんが感心したように呟いているけど、そういう状況でしょうか?
呑気ですね。
「はっ! 私ったら、一体何を!」
レイドが当たりをキョロキョロしながら、不思議そうに首を傾げている。
「良いんだよ……何も、気にしなくて良いんだよ……何も無かったからね……」
今度はエマさんがレイドの肩を優しく抱き寄せて、柔らかい声で語り掛けている。
なんていうか、心が洗われるような不思議な声色だ。
「ほう、エマさんは言霊を使えるのか……本当に優秀なんだな」
うん、カナタさんには何かを期待しちゃ駄目だって事がよーく分かった。
「それに、あのカルロスって奴の話術も、結構興味深い……こんどじっくりと話をしてみるか」
はい、新たな被害者がターゲットロックオンされた模様。
繰り返す、新たな被害者にカナタ、ターゲットロックオン完了!
「それじゃお先に。コーヒーごっそさん」
「私も、美味しい紅茶と興味深い話が出来て嬉しかったです師匠!」
マルタさんが、カルロスさんを引きずりながら、そしてエマさんがレイドに飴ちゃんをあげて部屋から出て行った。
てか、エマさん師匠って誰?
ふう……今からマルタさん達がボスに挑むってことは、もう1時間くらいゆっくり出来そうだな。
そう思って、このダンジョンに入って初めての休憩に目を閉じって体を労わる。
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