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第1章:仮冒険者と魔王様、冒険者になる!~エンの場合~

第7話:エンついに念願のF級冒険者になる(笑)

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「どうやって、捕まえたんですか?」

 机の上に置かれた角ウサギの角を見て、ユリアさんが身を乗り出して聞いてくる。
 そんなに意外ですか? 僕がこれを持ってきたのが……
 物凄く、物凄く失礼な質問にちょっと悲しくなる。
 でも良く考えるんだエン! 僕は角ウサギを狩っていないじゃないか! 
 だから、ユリアさんのこの態度は当たり前のものじゃないのか? 

 確かに、角ウサギのあのスピードを見たら、僕が狩れるようなレベルじゃない事は一目瞭然だったな。
 それに、ユリアさんはじめギルド職員の方々は冒険者のステータスをある程度把握しているから、今の僕のレベルじゃ到底狩ることは出来ないと思っていんだろうな……そうだよ! 
 僕の力じゃないよ! 
 カナタさんのお陰だよ! 
 でも、もう少しくらい信じてくれてもいいじゃん。
 なんて事を考えていたら、ちょっと時間が経ち過ぎてしまったようだ。
 横で暇を持て余したカナタさんがとんでも無い事を言い出す。

「いや、目の前に角ウサギが現れた瞬間に、彼は手に持っていたナイフを投げたんだよ。確かに人間が走るよりは早いし、事実ウサギの後ろ脚に命中してね……そこからは早かった。マントをウサギに投げつけて身動きを封じて、そのままマントごと腰に差したショートソードで止めを刺して終わり! いやぁ、冒険者ってのは凄いもんだね」

 あんたは何を言ってんだ? 
 そんな事が出来るなら、だてに9ヶ月も仮冒険者なんてやってないですよ。

「きっと常に想定していたんだろうね……角ウサギを見つけてから狩るまでの流れは、相当のイメージトレーニングを行って来たに違いない、見事な動きだったよ」

 うん……いつか狩れたらいいなーって妄想はしてましたが、捕まえる段取りなんて考えちゃいませんでしたよ。
 というか、想定外の速さに森に迷わされて殺されかけましたけど何か? 
 そんな事を考えながら白い目をカナタさんに向けているとクスリと笑われた。

「懐かしいなその目……よく配下の者や、敵から向けられてたっけ……」

 何やら過去を懐かしむような表情をされた……解せぬ。

 というか、配下とか敵とかやっぱり大物だったんじゃないですか! 
 なんとも言えない表情でカナタさんを見つめていると、ユリアさんに肩をチョンチョンとされる。
 そっちに視線を送ると、何かを要求するかのように手を出して来る。
 うん、何かなー? 
 何が欲しいのかなー? 
 なんとなく分かるけど、分かりたくない……

「嘘ですよね? ちょっとエン君、ギルドカードを提出してくれるかな?」

 案の定、ユリアさんにジト目で見られながら冒険者証の提出を要求される。
 はい、早速ピンチ来ました! 
 冒険者証には討伐した魔物の情報が何故か記載されるんだよね。
 どういう仕組みなんだろう? 
 っていうか、冒険者証見られたら一発でバレるんですけど? 
 打って変わって恨みがましい目をカナタさんに向けると、顔を背けられた。
 聞こえましたよ? ブフッっていう声? 
 いま、貴方そっちを向いて必死で笑うの堪えてるんでしょ? 
 やっぱり、カナタさんってやっぱりな人だった……

「えっと、そのですね……その角ウサギの角なんですけど……」
「いいから、ギルドカード早く見せてくれるかなー? お姉さん、エン君が立派に角ウサギを倒した証明が見たいなー」

 うん、貴女も全然カナタさんの言う事信用してないでしょ? 
 てか、僕が狩ってないってすでにユリアさんの中で確定してるっぽい。
 失礼な人だ! ……その通りですけどね。
 僕は冒険者証を提出すると同時にジャンピング土下座の準備に入る。
 イースタンの人が流行らせた、謝罪の最上級の形の1つだ。
 その上には土下寝というものがあるらしいが、それはもう命を取られてもおかしくない時に使うものらしい。

「嘘つき!」

 はっ? はあああ? えっ? なんで僕が? 
 嘘吐いたのカナタさんですよね? 
 なんで、その視線をこっちに向けるんですか? 
 ちょっ! カナタさん! 助けてくださいよ! 
 と言えたらどんなに楽だろうか……
 ユリアさんのセリフを聞いた瞬間、僕はカウンターから後ろにジャンプしてそのまま土下座の姿勢に入る。

「でも、これで彼はF級冒険者だろ?」

 が……意外な事に助け舟を出してくれたのもカナタさんだった。
 僕は正座して、今にも頭を地面に擦りつけんとする中途半端な姿勢で固まってしまった。
 そしてそんなカナタさんの言葉に、ユリアさんが目を見開いている。
 ああ、あれですね……
 こんなズルして、F級になんかなれるわけないでしょ? っていう、呆れの表情って奴ですね? 

「いや、まあそうなんですけどね……」

 だが、ユリアさんの口から出たのは僕の予想に反して肯定の言葉だった。
 ナンダッテー! 
 いや、えっ? どういうこと? 

「フフッ……キミも中々意地が悪いね。気が合いそうだ」
「仮冒険者とは思えない不遜な物言いですね……でも奇遇です。私も嫌いじゃないですよ」

 なんで通じ合ってるのこの二人。
 というか、お願い説明プリーズ! 

「えっと、僕がF級昇格って本当ですか?」

 僕の言葉に、ユリアさんが静かに頷くと説明を始めてくれる。

「ええ、本当ですよ。冒険者に求められる事は確実な任務遂行の能力ですから。手段は問いませんよ? 角ウサギの角をかって来ることが条件です。要は目的は角の提供です。手段は、買おうが狩ろうが関係ありませんから……むしろ柔軟な発想で確実に依頼を達成できる方が、角ウサギを狩る能力しか無い人より優秀です」

 うん、本当にカナタさんの言った通りだった。
 というか、トンチか! 
 いくらなんでも、これは酷い! 
 流石に文句を言おうかとも思ったが、ここでへそを曲げられて昇進がおじゃんになるのも嫌だから黙っていた。

「ていうか、逆に角ウサギ狩れないのに、角持ってくる人の方が優秀ですしね。ちなみに犯罪は駄目ですよ? 強奪や窃盗では無い事の確認の為にギルドカードを出してくださいって意味ですから」
「ああ、ならこれで宜しいでしょうか?」

 ああ、そういう事か……
 見事に引っ掛けられたというか、騙されたというか……
 もうやだ……カナタさんも、ユリアさんも苦手だ。

「おめでとうございます! これで、エンさんもF級冒険者ですよ!」

 そう言って、冒険者証を更新してくれる。
 ああ……夢にまで見た冒険者の証! 
 紙だった冒険者証から、金属製のプレートにランクアップだ! 
 全てが金属というわけではなく裏側には魔法の板が張り付けられていて、そこにステータス等の情報が記載されている。
 プレートを手に取って、感動に浸っていると周囲から拍手が送られてくる。

「おめでとう!」
「おめでとうエンさん!」
「ついに、冒険者の仲間入りだな!」
「エン坊も、これで一人前か!」
「うわー、俺あと半年は掛かる方にかけてたのに」
「私も……エン君って真面目だから、愚直にステータスアップ図って角ウサギ狩って来ると思ったのに、ちょっとガッカリ……」
「いや、良いんだよ。冒険者としてはこっちの方がな」

 職員の方々や、冒険者の先輩方、僕より後から入って来た子達が賛辞の言葉を送ってくれる。
 余りの嬉しさに感動して泣きそうになっていると、カナタさんがユリアさんに話しかけるのが見えた。

「えっと……俺も角ウサギの角を提出したらいいのか?」
「いえ、カナタさんは別の課題です。そうですね、アスラの森に生息する尾長鳥の風切り羽を狩ってきてください」

 なんだろう……ユリアさんに嘘吐いたからか僕の課題より、遥かに難易度の高い要求されてる。
 ププッ! ざまーみろ! 
 普段の行いが、見事に返って来てら。なんて事を考えていたら、ニコニコと笑いながら睨まれた。
 背筋が凍るような感覚に陥るが、ニコニコ笑いながら睨むとか器用すぎるだろおい! 

「それは、これかな?」

 そう言ってカナタさんが、これまたどこからか黄色い羽を取り出してユリアさんに提出している。
 ブッ! ちょっ、なんで持ってるんですか! 

「えっ? あっ……はい、それです……」

 ユリアさんが物凄い面食らった顔をしている。
 ユリアさんのあんな表情、初めて見たな。

「お……おめでとうございます。カナタさんもこれでF級冒険者です……」

 ユリアさんが面白く無さそうにカナタさんから、冒険者証を受け取っている。
 そうですか……僕が9ヶ月かかったのに、一日というかその場でF級ですか……
 というか、このタイミングの必要あったのですか? 
 わざとですか? わざとですね……だって、目がちゃんと笑ってますもんね……
 チキショー! 

 そして、僕の時とは違って周囲の人達が生気の無い目でカナタさんを見つめている。
 まるで死んだ魚のような目をしている。

「あれ? 俺の時はそんなに祝福されないのかな?」

 そんな周囲の様子を知ってか知らずか、無神経にもカナタさんがボソッと呟く。
 少し間を置いてから、遠慮がちにその場に居た全員から拍手が送られる。

「おい……やっぱりアイツ、ヤバいって」
「なんで、エンの奴あんなやつと居るんだ?」
「ああ、もしかして角ウサギの角もあの人が用意したんじゃない?」
「ありえる……というか、尾長鳥とかまず見つけるのが大変なのに」
「狩人じゃなさそうだし、もしかして魔法使い?」

 ああ、そうですよ? 僕の角ウサギもカナタさんが取ってくれましたよ? 

「これ無駄になっちゃったな……ああ、そういえば素材の買い取りとかもしてくれるんだよね?」

 ゴトンという音が、目の前のカウンターから聞こえてくる。
 そう! カナタさんはさらに僕に追い打ちをかけるかのように、袋から角ウサギの角を机に出していた。
 僕の出したそれより、かなり長く立派な角だ……おいフザケンナ! そっちを僕にくれよ! 
 というか、なんで今出すの? 
 鬼なの? 悪魔なの? 
 空気読めないとかってレベルじゃないよ? 
 一周回って空気読んで、空気壊しましたってレベルだよ? 
 もうやだ……帰りたい。

「えっ? あっ、はい。素材の買い取りはあちらになります」

 知ってたよね? 
 だって、あそこにめっちゃデカく素材買い取り受付って書いてあるもんね? 
 知っててここに出したよね? 

 周囲の人達は、僕がF級に昇格したのなんかとっくに記憶の彼方に置き去りにして、カナタさんの事を話している。
 うん、儚く消えた僕のスポットライト……どこに行ったの? 次はいつ浴びられるの? 
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