魔王となった俺を殺した元親友の王子と初恋の相手と女神がクズすぎるので復讐しようと思ったけど人生やり直したら普通に楽しかった件

へたまろ

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最終章:勇者と魔王

第19話:そして神に至る

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「高祖父様!」
「大おじいさま!」
「会長!」
「じいじ!」

 なんだかんだと199歳の大往生だった。
 玄孫や来孫どころか、仍孫や雲孫に囲まれて逝けることををアマラに感謝して、ゆっくりと生涯に幕を下ろす。

「まだ死なないで!」
「無茶を言うな……これ以上長生きしたら、姉神様に殺されるわ」

 中でも特に懐いてくれていた仍孫のジェニファが縋り付いてくる。
 20歳にもなって、まだまだ甘えん坊だな。
 妻のジェニファによく似た、美人に育ってくれた。
 願わくば、彼女の花嫁姿を見たかったのだが。
 晩年のわしの介護に、身を尽くしてくれていた。
 といっても、一人でなんでもできたのだが。
 それでも、ついつい甘えてしまった。
 
 わしの財産は、全てビレッジ商会を介して権利として子孫たちに分け与えた。
 合同出資会社を経て、株式会社になったからな。
 株式会社ビレッジだ。
 わしはそこの筆頭株主でもあり、会長でもあった。
 現、代表取締役はバンガード会長の子孫だ。
 副社長に、玄孫のアロンソが就いている。
 ドンキ・ホーテという別の商店も展開しており、そちらでは代表取締役社長だ。

 夢見がちな子で、騎士を目指していたが。
 如何いうわけか、急に商人への道に方向転換した。
 まあ、金は腐るほどあるし、寝ててもどんどん増えていく。
 正直、資産運用どころか、資産管理すらままならないレベルだ。
 ヒュマノ王国の国家予算の財源の半分は、うちからの税収だ。
 あー……ジャストール領というわけではなく、ミラーニャの町だけでという意味だ。
 ミラーニャの町……もう、王都じゃないかなと思えるほどに大きく発展した町だ。

 だめだな、考えに耽っていては死ぬに死ねん。
 三途の川の彼岸で、アマラとアリスが手ぐすねを引いて待っているのが見える。
 仕方ない。

「まああれだ……もう十分生きたし、いつでも死ねるのを散々先延ばしにしたのだ。これ以上はキリが無いからのう。それに、死んだところで神としてお前たちを見守っておるから、安心するがよい。信心深く生きれば、わしの声を聞くことも姿を見ることもできるかもしれぬが……怪しい宗教には、騙されるなよ? 真聖教会の教皇を頼るように」

 開祖であるモルダーはとっくに死んだ。
 100年くらい前かな?
 それでも、こちらも123歳の大往生であった。
 いまでは神界で、ギース叔父の従者となっているらしい。
 神に至ったわけではないが、神徒として召し上げられたらしい。
 ということは、向こうでまた会えるのか。
 これもこれで、死後の楽しみのひとつだな。

 ちなみにその後の代々教皇にはフォルスをはじめ、多くの神が神託を与えている。
 ルーク・フォン・ジャストールの親族には、最大限礼を尽くし助力するようにとの。
 余計なことをとも思ったが、
 
 ヒュマノ王国における、ルーク・ジャストール家の立場も色々と大変なことになっていたが。
 王都とミラーニャ、アイゼン辺境領を結んだ魔鉄道の影響も大きいな。
 鉄道輸送の元締めでもあるからな。
 うちの機嫌ひとつで、王都の物流が止まるとなると……
 とはいえ、リック公爵が色々と便宜を図ってくれたという恩もあるから、滅私奉公の精神で忠誠を誓い続けていたが。
 リカルドの一族には一切の配慮をしないことで、王族に対する多少のフラストレーションは軽減できたわけだし。
 といっても迷惑というか王族の立場を笠に着た行動といえば、幼い王子、王女の最新のエアボードが欲しいとかというおねだりレベルの我がままくらいだな。
 微笑ましいものだ。
 どうしても幼子に見上げられてキラキラした瞳で強請られると、断れなかった。

 そのエアボードも、今じゃヒュマノ王国を代表するスポーツとして世界中に広まっている。
 世界大会が行われるレベルで。
 そして数ある世界大会の中で、最も権威ある大会がジャストール世界大会だ。
 優勝者にはルークエディションと呼ばれる、最高に使い勝手の悪いボードが送られる。
 息をするように魔力操作が出来れば、確かに最高のボードなのだが。
 使いこなせたのは、一族を除いたら3名だけだったな。
 そのうちの一人は、ジェファードだ。

 ちなみにジェファードは先週、逝った。
 わしもそろそろ神界に行かないとアリスが不穏な動きを始めたと伝えたら、慌てて老衰で先に神界に向かって行った。
 いや、明らかに睡眠時間がちょっとずつ、伸びていってたからな。
 寝てても、アリスがいる気配くらいは分かる。
 あれは、どう考えても脅しに来てたとしか思えん。

 というわけで、天に召されることにしたわけだ。

「今度こそ、さらばだ。なーに、死ねばあの世で会いにいくから、寂しがる必要はない」
「高祖父様……」

 情けない声をあげるなアロンソ。
 一族を代表して、あとのことは任せた……ぞ……

***
「相変わらずの、長生きじゃな」
「まあ、今世では時空魔法も使えたからな」

 魂だけの状態になったが、すぐにアマラが迎えに来た。
 若い男性の姿ではなく、竜形態だ。
 背中にアリスが乗っている。

「あなたが死期を決めたのに、私のせいにしないでくれるかな?」
「えっ? でも、イライラしてたよね?」

 アリスが何やらぼやいているが、突っ込んだらばつが悪そうに顔を背けた。
 やっぱりあまり粘ったら、昏睡からの老衰コースだったんだろうな。

「あと150年くらいは待てたわよ」

 怪しい。
 まあ、良いか。

「久しぶりだな、お前たちも」
「ガウ!」

 アリスが連れて行って神獣に昇華された、カーラ、キール、クーラ、ケールの頭を優しくなでる。
 かなり凶悪な見た目になっていたが、それでも頭を手に押し付けて甘えてくる姿にほっこりする。

 神界に向かう前に、自分のいた世界をもう一度じっくりと見る。
 夜なのに大陸の中でも、やけに明るい場所がある。
 そう、ヒュマノ王国だ。
 そして、その中でも特に明るい場所がジャストール領。
 ミラーニャとリーチェの町は、不夜城とも呼べるレベルで夜も灯りが多くともっている。

 高層ビルがようやく数棟、出来上がった。
 飛竜や、怪鳥が飛び回る世界で、あまり高い建物というのは現実的ではなかったが。
 風の魔石や鳥よけの道具のでかいバージョン等を駆使して、ようやく経てることができた。
 それでも工事中に、ガラス部分に巨大な鳥の魔物が突っ込んできたこともあった。
 完成間近に、屋上にズーが巣を作ったりしたことも。
 強力な魔物の気配を模した魔力を放つ魔石や、周囲に強風を生み出して飛ぶ魔物が近づけないようにしたり。
 大きな目玉のような模様の看板を載せて見たり。
 本当に長い道のりだった。

 海上鉄道や、王都とアイゼン辺境伯領を結ぶ鉄道を、魔石燃料の列車が走っているのも見える。
 これも、色々と問題があったが。
 構想から30年で、まずはミラーニャとリーチェの町を結ぶことができた。
 そこからは、早かったな。
 5年でミラーニャとアイゼン辺境伯領。
 その2年後に、王都への路線が開通した。

 目覚しい発展度合だ。
 眼下に自分の生きた軌跡が広がるのを、感慨深く眺めながらそのまま意識がどこかに引き寄せられるのを感じる。 
 どうやら幽世かくりよへと、導かれたらしい。

 懐かしい顔が、出迎えてくれた。

「随分と兄を待たせるのだな」
「兄上が、死ぬのが早すぎたのですよ」
「99で早死にと言われては、世の殆どの者が早世になってしまうよ?」

 まあ、なんだかんだでアルトも大往生だな。

「お兄様!」
「兄上!」

 ヘンリーとサリアもいた。
 20歳前後の姿で。
 この2人は120歳まで生きた。
 何が原因か分からないが、俺たち兄弟は皆けた外れに長生きだったな。
 一部の貴族からは化物一族と呼ばれていたが。
 地位も名誉も資産もあるのだ。
 そのうえ長生きともなれば、コネも相当な物だ。
 敵対すれば、このうえない厄介な一族だったろうな。

 まあ、大体が尊敬され頼られることが多かった。
 良い事だろう。

 俺と叔父が神となったことで、うちの家族は特別扱いらしい。
 残念ながら子供達や、孫たちは顔を合わせることは出来ても神界に行き来はできないとのこと。
 だから俺から、天界の方に会いにいかないといけない。
 こちらでの生活が落ち着いたらだな。
 
 まずは、先輩神様方へのあいさつ回りか。

「その前に、地球の神方へのお礼参りが先だな」
 
 家族との再会を懐かしんだあとで、アマラに顔を向けるとキリっとした表情で足元をさしていた。
 見ると、ぽっかりと地面に穴が空いていて、見慣れた縦長の列島が目に入ってくる。
 その横には大きな大陸も。

 遠い過去の故郷ではあるが、思わず鼻がツンとする。
 地球も夜のようだが、どこかで見たような光景だな。
 日本が、ものすごく明るく光を放っているのが見えた。
 それすらも懐かしい。

「今回は私も付いていくわよ」

 アリスも付いてくる気らしい。

「甥が世話になったのだ。私も参ろう」

 いつの間にか、現れたギース叔父も。

「ご無沙汰しております。ご健勝なようで、何よりです」

 モルダーが変な挨拶をしてきた。
 死んだからここにいるんだけどね。
 言葉の選択は、それであってるのかな?

「神父さんも、相変わらずみたいでなによりだよ」

 とりあえず、どう相変わらずか分からないが、無難に返答を返す。

「私たちは神ではないからいけないね。残念だけど」

 アルトたちはお留守番らしい。
 ちょっと、拗ねた様子だ。

「私は、着いていきますけどね」

 そして、俺の神徒となったつもりの、ジェファードは嬉しそうに横に立っている。
 フォルスやジェノファはあの世界の神様や精霊王だから、ここには来ていない。
 凄く残念がっていたけど、会いに行くといったら喜んでいたな。

「覚悟しろ魔王!」

 日本に着いた瞬間に、懐かしい男に剣を向けられた。
 何をしているんだ、リカルド?

「この世界に魔王が現れるから、それを討伐するために召喚されたんだよ。光の勇者としてね」

 まさかの日本を舞台にした、異世界転移物語?
 それは、ちょっと予想してなかったな。
 困ってしまって、思わずアマラの方を見てしまった。
 悪い顔をしている。

「ルークは魔王兼神だぞ? 勝てるのか?」
「絶対無理だけど、一応形だけ」
「随分と、性格が変わったみたいだけど?」
「ああ、この世界で17年生きてるからね。魔王が来るのを待ちながら……まさか、顔見知りが来るとは思わなかったけど」

 なんらかしらの、意思が働いたとしか思えない。
 思わずアリスの方を見たら、目をそらされた。
 同時に日本の神様方の数柱も。

 何がしたかったんだ?

「ルークに許してもらえるまで、俺はずっと人生をループさせられるんだよ……実は、今回で8回目なんだ」

 なるほどアリスがリカルドの魂だけ、ひたすら俺と会うこの時点から17年前の誰かに転生させ続けてるのか。

「もう、同じような人生を何回も繰り返すのとか、苦痛でしかないんだ。しかも、道を間違えるとここに来るまでもなく、死ぬこともある……そしたら、またやり直しなんだ」
「ふーん……」

 本人は8回目と言ってるが、俺からしたら初めてだし。
 正直いったら、もう人生全て合わせたら300年前の話だしな。
 怒りはかなり風化してるのは事実だ。
 ただ、この妙に馴れ馴れしい態度はどうも……

「謝る側の態度ではないね。私は、今回初めて謝罪を受けるようなものなのに。そう、馴れ馴れしいと、怒ってなくても意地悪したくなる」
「いや、誠心誠意謝ったり、逆切れしてぶっきらぼうに謝ったり、いろんなパターンを試してるんだけど? どのスタンスでも、不正解みたいで」
「分かってるじゃないか。残念だが、今回も不正解だな」
「そんな!」
「まあ、馴れ馴れしいのはダメだと言うのを教訓に、次を頑張ってくれ」

 俺の言葉に、リカルドが絶望したような表情を浮かべている。
 うん、少しスッキリしたな。
 もう2回くらいこのやり取りをしたら、許してやってもいいが。
 こいつが次謝るときの俺は、初めての俺だからまた許してもらえないんだろうな。
 不毛な復讐だと思えるけど、いつかは許してくれる俺がいるかもな。


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