上 下
58 / 124
第3章:覚醒編(開き直り)

第5話:真実

しおりを挟む
「アマラ……」

 俺が部屋で一人ごちると、すぐに若い男性が姿を現す。
 本当に便利だよな、この神様は。
 フォルスが即座に跪いているが、アマラは気にした様子もなく部屋にある椅子に腰を下ろす。

「どうした、弟よ? 悩みか?」
「いや……最初の人生で世界が滅びたのは直接的な原因は女神の暴挙だが、俺にも大きな落ち度があったかもしれない」
「ほう?」

 俺が立てた仮説をアマラに話すにあたって、少しだけ気がかりな部分も。

「アマラは……俺の同調のスキルの影響は受けないのか?」
「受けまくりだ。お陰で、我は世界を滅ぼすことになったのだぞ?」

 アマラの答えに、思わず頭を抱えてしまった。
 ある意味で、自業自得だな。
 たった一つのボタンの掛け違いでと思わなくはない。
 光の女神が余計なことをしなければ、世界は滅びなかった可能性は大きい。
 
「俺の同調のスキルって、俺の考えに同調させる精神支配系のスキルってことだよな?」
「まあ、実際には現象を直接発動させているから、神力の域に達してはいるな。変化の事象と合わせてルークは最高神の一柱足る資質を秘めているとも」
「それって……」

 俺がそこで区切ってためると、アマラがゴクリと唾を飲みこんだのが分かった。

「俺が抱いている印象が、相手の人格に影響したりはしないか?」
「ん?」
「いや、俺が好意を寄せた相手が俺に好意を抱き、嫌いな相手が俺を嫌うと最初は思ったのだが……俺が嫌われていると思ったから、馬鹿にされていると思ったから……周囲にいじめられていたのではないかと思い始めてな」
「ふむ……」

 俺の言葉に、アマラが顎に指を当てて考えるそぶりを見せる。
 しばらくして、眉間に眉を寄せ始めた。

「確かに、ない話ではないな」

 やはりか。
 確かに優秀な能力かもしれないが、これは……
 自分で制御できないと、かなり厄介な力であることは間違いない。
 俺の思った通りの人格になるということならば。

「光の女神も」
「そうだな、あやつこそお主の能力に対してレジストなど到底無理だろう」

 今世でもやけに光の女神が、邪魔をしてくると思ったが。
 俺が邪魔をするように仕向けていたともとれる。
 あいつの印象は最悪だからな。
 そしてあいつが俺に対して抱いているであろう印象を考えても、最悪だと想定していた。
 俺の中の光の女神の印象は、俺を魔王に仕立て上げてマッチポンプで自分の信仰をあげようとしたやつ。
 そう、俺を魔王にした神だという印象が、非情に強い。
 そのせいか……
 それで、今世でもあいつは俺を魔王にしたのか。

「どうした、深いため息なぞ吐いて」
「ああ、光の女神の暴挙は俺のせいだな。俺が奴に持つ印象は、ルークを魔王にした駄女神って印象だからな」
「ダメ神って、酷いなお主」
「そこ、カタカナしちゃダメだろう」
「ダメ神だけにか?」

 お互いに顔を見合わせて笑ったあと、同時に溜息を吐いた。

「色々と納得できてしまうな」
「ああ、リカルドが光の勇者なのも納得ができる」
「うむ、となれば我が眷族に懸想するあの変な女が聖女になる日も近いかもしれないな」
「リーナか」

 無い話じゃない。
 フォルスにべたぼれだから、可能性は低くなってるかもしれないが。
 聖教会が、あそこまで女神に妄信的なのも俺のせいか。
 そして、個人的に知り合いでもあるモルダーが妄信的じゃなかったのは、俺が彼の為人を見て信用できると思ったから。
 また彼自身、俺を領主の息子としてだけでなく、色々な慈善事業を手掛けた人間としてよく思っていると感じていた。
 そう思い込んでいたから……

「今更だな、手遅れかもしれないが気付けたことはよかった」
「まだ、対策が打てる段階ともいえるしのう」

 今からリカルドに対する評価を、変えるしかないのかもしれないが。
 光の女神も、聖教会もか。
 しかし、生半可なことじゃない。
 俺の中に、深く根付いてしまっている。
 これは、この世界に時がたつほどに凝り固まっていったようにも思える。

「アルトが良い兄だったのは、俺が彼から受ける印象を全く変えてしまったからか」
「いや、お主が手を刺し伸べ奴がその手を取ったのがきっかけで、彼が最初の人生の兄とは違うと信じることができたのが大きいじゃろう」
「あれもアルトの本質じゃないかもしれないのか。俺が持つ印象で性格を変えてしまった可能性もあるな」
「最初の人生の兄よりは、よほどましじゃろう」

 そこは同意するしかない。
 産まれて間もないころに出会った人たちの印象は、概ね最初の人生よりは高評価だ。
 となると……

「ああ、歳を重ねるごとに身体に引っ張られていると思ったが、精神年齢の退行だけでなく出会った人間の人物像に対する印象までも引っ張られているのかもしれない」
「時間逆行の結果、最初のルークは消滅したかと思ったが」
「魂の記憶じゃな。最初のルークから魂だけは変わっておらぬからのう……魂が本来あるべき肉体に宿った結果、記憶が呼び覚まされているのかもしれぬ」

 この能力はまさに、毒だな。
 せっかくのやり直しを、自分の能力に邪魔されることになるとは。

「アマラ、お前を先輩として聞くが、事象を司る能力はどう制御したらいいんだ?」
「ふむ、我も生きておったころは破壊衝動に常に駆られておったからのう。無意識に何かを破壊することも多かったが」
「ある意味では俺よりも厄介な能力だよな」
「まあ、巨大な邪竜じゃったから、生き方としては問題なかったぞ?」

 そりゃ、そうかもしれないけどさ。
 無意識で何もかもを壊す存在じゃなかったことに、少しでも感謝すべきか?

「我が義父が言われておったのは、神が望むことで事象は行使されるとのことじゃ」
「デウス・ウルト……とは違うか。あれは聖地復活のための戦争時に、民衆が掲げた言葉だったはず……むしろ『光あれ』か」
「そうじゃな、ただお主は同調を望んでおらぬのに、事象が発動しておる。そこにお主の意思が噛んでいることは間違いない」
「無意識に思うことは、望むことと一緒か……」
「まあ、すでにある程度の影響は収まっておるのじゃがな」

 アマラの言葉に、思わず変な声をあげてしまった。

「お主が自覚し、望まなくなったことでその影響は止まったようじゃな」
「そうか……自覚することが大事なのか」
「うむ、その事象の主であることを認識するのが、必要なことらしい」

 なればこそだな。
 変化を司っているということは、俺は最初から知っていたからな。
 同調というのは後出しで教えてもらったことではあるし、そもそも最初はアマラ達も知らなかったことだ。
 その話を聞かされた時もあまりピンとこなかったし、意識したこともなかった。
 ジャスパーたちと話をするまでは。

 ということは、とりあえずこれ以上悪化することはないと。
 叔父が俺に献身的な理由も納得できたし、最初の人生と照らし合わせて大きく変わった部分の根本が理解できた以上、手の打ち方は色々とあるな。
 まずは、俺が俺であることをはっきりと意識しなければならないだろう。
 せっかく前世で、人生経験をたくさん積んだというのに。
 今世の身体と魂の結びつきによって、最初に人生の頃のルークにだいぶ引っ張られてしまったようだ。
 それでも俺の性格が歪まなかったのはアルト達のお陰でもあるし、俺が俺であることをはっきりと自覚していたからだろう。
 このままさらに時間を掛けていれば、どうなったかは分からないが。
 
 ふっ……そうじゃな、わしは伊勢海でもあるのじゃ。
 100年の人生の前に、たかだか十数年で性格をこじらせて世界を敵に回した小僧の意地など、大したものでもなし。
 頭の中が一気にスッキリしていくのを感じる。
 かような状況でも世界を恨まずに済んだのは、アマラとアリスのお陰じゃな。
 感謝せねばなるまいて。

「すまんの、どうやらわしは自分のなすべきことを、忘れかけておったようじゃわい」
「しゃべり方まで戻らんでも……だが、最初のルークの亡霊は、もはやお主の中にはおらぬようじゃの?」
「うむ、ようやく自分を取り戻せたようじゃ。多少なりとも受けておった影響は、いまは鳴りを潜めておる」

 さてと、人生経験豊かな先輩として、わしもなすべきことをなさんとな。
 まずはリカルドを救ってやらねばなるまい。
 最初の人生でも、今世でも彼の者の人生を大きく歪ませてしまったな。
 はて、本来の彼はどのような人物なのであろうな?
 楽しみが、出来たわい。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

生活力向上の加護しか貰えなかったおっさんは、勇者パーティから逃走し魔王を追い詰める

へたまろ
ファンタジー
おっさんが勇者の代わりに、魔王に迫る物語です。 泥臭いおっさんの、奮闘記。 一話完結、読み切り作品です。

脳筋一家の転生冒険者はテンプレを楽しむ!!

森村壱之輔
ファンタジー
神様の手違いで死んでしまった坂本浩之は『脳筋伯爵』とも『蛮族伯爵』とも呼ばれる『戦闘バカ貴族』の三男スレイドマン=フォン=スプリングフィールドして転生した。転生特典として【鑑定】【アイテムボックス】【多言語理解・翻訳】の固有スキルを与えられ、5歳の『祝福の儀式』では【無属性魔法】と【聖属性魔法】の属性魔法を授かった。6歳で8大禁忌区域に指定されている森に入り浸り、Aランク指定魔獣やSランク指定魔獣を相手に魔法に武術にと鍛えに鍛えまくり、学園入学年齢の8歳になる頃には、Lv:1200にまで達していた。貴族平民を問わず、普通の8歳児のLvは10〜20程。それなのに…スレイドマンのスレインは、7歳で冒険者ギルドに登録しており、今のランクはCランクだ。どこまで強くなるのかな? そして、王都の冒険者本部ギルドでは所謂『テンプレ』はあるのかと楽しみで仕方ないスレインだった。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

女神に嫌われた俺に与えられたスキルは《逃げる》だった。

もる
ファンタジー
目覚めるとそこは地球とは違う世界だった。 怒る女神にブサイク認定され地上に落とされる俺はこの先生きのこることができるのか? 初投稿でのんびり書きます。 ※23年6月20日追記 本作品、及び当作者の作品の名称(モンスター及び生き物名、都市名、異世界人名など作者が作った名称)を盗用したり真似たりするのはやめてください。

最恐魔女の姉に溺愛されている追放令嬢はどん底から成り上がる

盛平
ファンタジー
幼い頃に、貴族である両親から、魔力が少ないとう理由で捨てられたプリシラ。召喚士養成学校を卒業し、霊獣と契約して晴れて召喚士になった。学業を終えたプリシラにはやらなければいけない事があった。それはひとり立ちだ。自分の手で仕事をし、働かなければいけない。さもないと、プリシラの事を溺愛してやまない姉のエスメラルダが現れてしまうからだ。エスメラルダは優秀な魔女だが、重度のシスコンで、プリシラの周りの人々に多大なる迷惑をかけてしまうのだ。姉のエスメラルダは美しい笑顔でプリシラに言うのだ。「プリシラ、誰かにいじめられたら、お姉ちゃんに言いなさい?そいつを攻撃魔法でギッタギッタにしてあげるから」プリシラは冷や汗をかきながら、決して危険な目にあってはいけないと心に誓うのだ。だがなぜかプリシラの行く先々で厄介ごとがふりかかる。プリシラは平穏な生活を送るため、唯一使える風魔法を駆使して、就職活動に奮闘する。ざまぁもあります。

処理中です...