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第1章:ジャストール編
第0話:魔王討伐と世界の崩壊
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「ルークゥゥゥゥ!」
勇者リカルドの放った剣が、目の前の異形の存在の身体に食い込む。
リカルドが切り裂いた相手は、かっての友であり……魔王に至ったルーク・フォン・ジャストール。
ルークが魔王に至った最たる原因が、彼を滅するべく光の女神に選ばれた勇者とは皮肉なことではあるが。
邪神に操られ負の感情を抑えきれず、彼を裏切ったのはリカルドであった。
いやリカルドだけではない。
この世界の、すべての人間がルークを虐げてきたのだ。
ただ、それでも耐えてきたルークが魔王に至るトリガーを引いたのは、光の勇者たるリカルドと彼の父であった。
リカルドとその父の罪は重い。
彼の父である国王は、ルークの家族を皆殺しにし。
リカルド自身、ルークの最後の拠り所であった、愛すべき女性を奪い……彼に絶望という名の止めを刺した。
「おのれ、リカルド! 俺が何をした! 邪魔をするな! お前らが……お前らが、してきたことに比べたら、俺のしたことなど大したことではないだろう!」
魔王ルークの叫びが、周囲に木霊する。
一瞬で斬られた傷跡を治し、即座に複数の属性の魔法を同時に放つルーク。
どうにか直撃を免れたものの、それた魔法が町に降り注ぎ建物が次々と倒壊する様子をみてリカルドが戦慄を覚える。
「お前は、何も悪くない……悪いのは俺たちだ」
「分かってるんだったら、俺の邪魔をするなぁ!」
どうにか躱してやり過ごすもつかの間のこと。
即座にリカルドの周囲360度全方位に、闇の槍が生成される。
「くっ、詠唱もなしで魔法を次から次へと……これが、魔王に至るということか」
「違う!」
リカルドに対し、吐き捨てるように言い放つ魔王ルーク。
「俺の父が……俺が生まれた時に大きすぎて暴走を始めたから封じた魔力だ。そして、それに乗じて貴様の父親が……くだらぬものを埋め込んで、貴様らが永遠に封じた俺の本来の力だ! 魔王に至ったから? もともと、持っていた力だ! 貴様の父親が魔王の核なんか埋め込むから、成長しても魔力の封印が解けなかった……そのせいで、家族にも虐げられ、友もできず……」
吐き捨てるように、今までの自身が受けた仕打ちを垂れ流す魔王ルーク。
そして、友の話の段で固まる。
何かを思い出したのか、少し寂しそうな笑みを浮かべる。
「いや、いたな僅かだが」
呟くように漏らしてうつむく、魔王ルーク。
リカルドの顔が苦しそうに歪む。
「だが、もっとも親しいと俺が思ってたやつに、最悪な裏切りを受けたんだ! 貴様に彼女を奪われ、貴様の父に友人を奪われ……全てを失った。あの日、俺が生まれた僅か数日後に貴様の父親が魔王の核などとう俺に埋め込まなければ……もっと、早くに魔力の封印が解けてたんだ!」
「すまなかった……本当に、申し訳なかった……」
「申し訳なかった? それがどうした! それで、俺の失われた人生は帰ってくるのか?」
リカルドが、目に涙を浮かべて謝るが、その言葉は魔王ルークには響かない。
嘲笑すら浮かべ、リカルドを見下す。
「涙なんてなんの役にも立たない。俺が、今までの人生で何度泣きながら懇願してきたと思っている? やめてくれ、いじめないでくれ、殴らないでくれ、奪わないでくれと! 貴様らは……貴様らは、一度として俺の願いを叶えたことなど無かっただろうが! 今更、白々しんだよ!」
「くっ、本当に申し訳ないと思っているんだ……俺の命だけで、他の皆を許して「許せるものかぁぁぁぁぁ! お前ひとりの命じゃ、お前が俺にしでかした仕打ちの代償にすらならないんだよ! 俺はこの世界が憎いんだ!」
そして、リカルドの周囲を囲んでいた槍が一斉に、彼を目掛けて突き進む。
「……ああ」
リカルドは敗北を、そして死を覚悟する。
光の勇者である自身が、魔王に敗北する。
それが意味するところは、世界の崩壊。
だが、自身の贖罪という意味では、自分が死ぬことだけは受け入れることもやぶさかではない。
世界を救えなかったことが……友を救えなかったことが……そして、彼女を救えなかったことが……無念で……やるせない。
「ふっ」
そして、目をそっと閉じる。
だが、いつまで経ってもその槍がリカルドに届くことはなかった。
「リィィィィィナァァァァァァァッ! お前まで……お前まで邪魔をするのかぁっ!」
ルークの咆哮が聞こえ、リカルドが慌てた様子で目を開ける。
自身の周りに、球状の光の結界が張られ槍を全て防いでいた。
すぐに、目の前に視線を向けると、ルークがどこかを鬼の形相で睨みつけている。
「リーナ! 隠れていろといっただろう!」
「お前が、その名を呼ぶなああああああ!」
「くぅっ……! 魔法が」
リカルドが、ルークの視線の先に見つけた女性の名を呼び出した瞬間に、闇の筋が彼の身体を貫いた。
だが、結界には傷一つついていない。
「光の女神の神託を受けました……わが身を依り代に、加護ではなく代行者として、魔王を倒す間だけ力を貸していただけるそうです」
見れば、リーナの背中には光の翼が生えている。
頭には光輪があり、手には光そのものといえる杖が握られている。
「魔王……魔王か……」
リーナの言葉に、ルークが狼狽え……天を仰ぎ……その目から僅かばかりに残った光を消す。
いや、表情から全てが抜け落ちたというべきか。
怒りすらなく、完全なる無表情になる。
「リーナ、お前まで俺のことを魔王と呼ぶか……」
寂し気にそうつぶやいた後、周囲が荒れ狂うほどの魔力の奔流が巻き起こる。
中心にいるルーク自身は、表情一つ変えることなくこの暴風のごとき魔力の渦のなかに浮かんでいる。
「ルーク、もうやめよう……」
リーナの支援の効果か、リカルドの持つ剣が金色に……いや、白色に光輝く。
その剣の周りだけ、ルークの魔力が避けている。
光の女神の力を存分に受けた剣。
まさに、勇者の持つ神器なのだろう。
「滅びよ……」
ルークがその魔力のすべてを解放しようとした瞬間に、リカルドが一筋の光となってルークの胸に剣を突き立てる。
光の女神の力で、光の速さとなって。
ただ、その代償は大きく、全身の皮膚がめくれ内臓も潰れたのか呼吸すらできずに、口から大量の血を吐き出す。
だが、その傷すらも女神の光に触れ、すぐに再生していく。
「……リカルド」
「ルーク……すまない」
「くっ……力が、魔力が……」
忌々し気にリカルドを睨みつけるルークだが、胸に刺さった剣の周りに渦ができるほどの速さで魔力が吸収されていく。
そして、回復すらできずに苦しそうな表情を浮かべる。
リカルドを睨みつけて、右手を彼の顔の前まで持ち上げる。
腹から魔力が吸収されているが、全身と周囲にはまだわずかばかりの魔力が残っている。
吸われる速度以上の速さで、手に集めようとするが……それでも思ったほどは集まらなかったようだ。
魔王ルークは舌打ちをすると、リカルドの喉に指を突き付ける。
「腹を刺したくらいで、俺が「すまん」
ルークは僅かばかりに指先に残った魔力で、リカルドの喉を貫こうとしたが、それよりも一瞬早く彼の持つ剣が斜めに振りぬかれる。
鮮血が吹き出し、ルークの目が大きく見開かれる。
腹から心臓を通って肩まで、身体が半分ほど切り裂かれたルークが口をパクパクとさせる。
「なんだ? なんて言った?」
「お……おれの……おれの……じんせいを……か……え……」
そこまで口にしたところで、ルークの息は絶え地面に向かって落ちていく。
リカルドが慌てた様子で、ルークの身体を掴み抱き寄せる。
「ルーク! ルークゥゥゥゥゥゥゥ!」
そして、大きな声でルークの名前を呼ぶ。
まるで、懺悔するかのように。
「女神様! ルークを! ルークを救うことは……」
すぐに、リーナの方に目を向けて、彼女と共にあるだろう光の女神に声をかける。
だが、返ってきたのは無情な答えだっただ。
「いま、彼を救っても……また、魔王として復活するだけです。仮に、そうでなくとも……世界を恨んだままの彼なのです」
「で……でも」
「魔法が使える状態で……魔王でなくとも、彼は魔法が使えます。魔王の頃と同様に」
女神の言葉に、リカルドが悔しそうに眼をつぶる。
そして、彼が言っていたことが事実だったと、罪悪感に押しつぶされそうになる。
魔王の核がなくとも、無詠唱で魔法を使えるほどの才能。
それを潰した、自分の父の行為。
いや、それゆえに凄惨な人生を歩んできた彼のことを思い。
「それでも世界を救えたことを、よしとしましょう。あなたには、辛い役回りをさせてしまいましたね」
「リカルド様……あなたは魔王を倒したんです! 魔王を倒し、ルークを救ったんです! 昔の彼なら、人類を滅ぼすなんて、きっと望まなかったはずです」
光の女神と、光の巫女の2人に慰められ、リカルドが顔を上げる。
「あなたは?」
「私が光の女神です……あなた方に、祝福を授けるために彼の身体に残った魔王の核を使って顕現しました」
目の前には純白のドレスに身を包んだ、リーナ以外の女性がいたためリカルドが首をかしげる。
「ま……魔王の核でですか?」
「私にすれば、体外に取り出すことさえできれば、浄化反転など他愛もないことですから」
そういって、いまだリカルドが抱きかかえているルークの胸を指さす。
そこには、ぽっかりと穴があいていることから、そこから核を抜き取ったのだろう。
「なんだか、複雑な気分ですね……友を魔王にした原因が……いまは、光の女神であるというのは」
なんともいえない表情を浮かべるリカルドに、女神が首を横に振る。
「彼が魔王に至ったのは、核だけが理由ではありませんよ」
光の女神の言葉に、リカルドがうなずく。
「そうだな……魔王を生んだのはルークじゃない。俺たちだ。これから、俺たちはその罪を償っていかないといけない……世界を平和に、そして争いのないものにしよう」
「はい!」
「決して、不当に虐げられるものが出ないように、理不尽に不幸な目に合うものがでないように……ルークのようなものを増やさないためにも、俺が世界を統一する」
そう強く決意したリカルドのもとに、リーナが駆け寄る。
「俺がではありません……俺たちがですよ! 私も手伝います」
「ふむ、それまで私も力を貸そう」
「ああ、よろしくお願いする」
そして、2人と1柱が笑顔でうなずいた瞬間に、世界が黒く染まる。
「なっ?」
「ルークの身体から……」
「何が……」
リカルドの抱きかかえたルークの傷口から、闇が溢れる勢いで流れ出る。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」
次の瞬間、その闇は明確な意思を持って一筋の閃光のごとくリカルドの身体の上半身を消し飛ばす。
「リカルドッ! あっ……」
信じられないものを見たかのような表情を浮かべたリーナだったが、闇の中であってなお頭の上に影が差すのを感じる。
そして、間を置かずして巨大な竜の手で叩き潰される。
「くっ、まさか上級神たるあなたが、このようなことに手を「黙れ、小娘がっ!」」
魔王ルークの身体から巨大な竜の首が現れ、光の女神を噛み砕く。
光の粒子となったそれは、かろうじて意識体は逃すことができたが、顕現するための依り代としていた魔王の核は砕け散った。
「現れよ眷族ども! 世界を滅ぼせ!」
無数の竜、魔人、吸血鬼、巨魔獣、そして七柱の神が顕現し……7日間かけて世界は完全に崩壊した
勇者リカルドの放った剣が、目の前の異形の存在の身体に食い込む。
リカルドが切り裂いた相手は、かっての友であり……魔王に至ったルーク・フォン・ジャストール。
ルークが魔王に至った最たる原因が、彼を滅するべく光の女神に選ばれた勇者とは皮肉なことではあるが。
邪神に操られ負の感情を抑えきれず、彼を裏切ったのはリカルドであった。
いやリカルドだけではない。
この世界の、すべての人間がルークを虐げてきたのだ。
ただ、それでも耐えてきたルークが魔王に至るトリガーを引いたのは、光の勇者たるリカルドと彼の父であった。
リカルドとその父の罪は重い。
彼の父である国王は、ルークの家族を皆殺しにし。
リカルド自身、ルークの最後の拠り所であった、愛すべき女性を奪い……彼に絶望という名の止めを刺した。
「おのれ、リカルド! 俺が何をした! 邪魔をするな! お前らが……お前らが、してきたことに比べたら、俺のしたことなど大したことではないだろう!」
魔王ルークの叫びが、周囲に木霊する。
一瞬で斬られた傷跡を治し、即座に複数の属性の魔法を同時に放つルーク。
どうにか直撃を免れたものの、それた魔法が町に降り注ぎ建物が次々と倒壊する様子をみてリカルドが戦慄を覚える。
「お前は、何も悪くない……悪いのは俺たちだ」
「分かってるんだったら、俺の邪魔をするなぁ!」
どうにか躱してやり過ごすもつかの間のこと。
即座にリカルドの周囲360度全方位に、闇の槍が生成される。
「くっ、詠唱もなしで魔法を次から次へと……これが、魔王に至るということか」
「違う!」
リカルドに対し、吐き捨てるように言い放つ魔王ルーク。
「俺の父が……俺が生まれた時に大きすぎて暴走を始めたから封じた魔力だ。そして、それに乗じて貴様の父親が……くだらぬものを埋め込んで、貴様らが永遠に封じた俺の本来の力だ! 魔王に至ったから? もともと、持っていた力だ! 貴様の父親が魔王の核なんか埋め込むから、成長しても魔力の封印が解けなかった……そのせいで、家族にも虐げられ、友もできず……」
吐き捨てるように、今までの自身が受けた仕打ちを垂れ流す魔王ルーク。
そして、友の話の段で固まる。
何かを思い出したのか、少し寂しそうな笑みを浮かべる。
「いや、いたな僅かだが」
呟くように漏らしてうつむく、魔王ルーク。
リカルドの顔が苦しそうに歪む。
「だが、もっとも親しいと俺が思ってたやつに、最悪な裏切りを受けたんだ! 貴様に彼女を奪われ、貴様の父に友人を奪われ……全てを失った。あの日、俺が生まれた僅か数日後に貴様の父親が魔王の核などとう俺に埋め込まなければ……もっと、早くに魔力の封印が解けてたんだ!」
「すまなかった……本当に、申し訳なかった……」
「申し訳なかった? それがどうした! それで、俺の失われた人生は帰ってくるのか?」
リカルドが、目に涙を浮かべて謝るが、その言葉は魔王ルークには響かない。
嘲笑すら浮かべ、リカルドを見下す。
「涙なんてなんの役にも立たない。俺が、今までの人生で何度泣きながら懇願してきたと思っている? やめてくれ、いじめないでくれ、殴らないでくれ、奪わないでくれと! 貴様らは……貴様らは、一度として俺の願いを叶えたことなど無かっただろうが! 今更、白々しんだよ!」
「くっ、本当に申し訳ないと思っているんだ……俺の命だけで、他の皆を許して「許せるものかぁぁぁぁぁ! お前ひとりの命じゃ、お前が俺にしでかした仕打ちの代償にすらならないんだよ! 俺はこの世界が憎いんだ!」
そして、リカルドの周囲を囲んでいた槍が一斉に、彼を目掛けて突き進む。
「……ああ」
リカルドは敗北を、そして死を覚悟する。
光の勇者である自身が、魔王に敗北する。
それが意味するところは、世界の崩壊。
だが、自身の贖罪という意味では、自分が死ぬことだけは受け入れることもやぶさかではない。
世界を救えなかったことが……友を救えなかったことが……そして、彼女を救えなかったことが……無念で……やるせない。
「ふっ」
そして、目をそっと閉じる。
だが、いつまで経ってもその槍がリカルドに届くことはなかった。
「リィィィィィナァァァァァァァッ! お前まで……お前まで邪魔をするのかぁっ!」
ルークの咆哮が聞こえ、リカルドが慌てた様子で目を開ける。
自身の周りに、球状の光の結界が張られ槍を全て防いでいた。
すぐに、目の前に視線を向けると、ルークがどこかを鬼の形相で睨みつけている。
「リーナ! 隠れていろといっただろう!」
「お前が、その名を呼ぶなああああああ!」
「くぅっ……! 魔法が」
リカルドが、ルークの視線の先に見つけた女性の名を呼び出した瞬間に、闇の筋が彼の身体を貫いた。
だが、結界には傷一つついていない。
「光の女神の神託を受けました……わが身を依り代に、加護ではなく代行者として、魔王を倒す間だけ力を貸していただけるそうです」
見れば、リーナの背中には光の翼が生えている。
頭には光輪があり、手には光そのものといえる杖が握られている。
「魔王……魔王か……」
リーナの言葉に、ルークが狼狽え……天を仰ぎ……その目から僅かばかりに残った光を消す。
いや、表情から全てが抜け落ちたというべきか。
怒りすらなく、完全なる無表情になる。
「リーナ、お前まで俺のことを魔王と呼ぶか……」
寂し気にそうつぶやいた後、周囲が荒れ狂うほどの魔力の奔流が巻き起こる。
中心にいるルーク自身は、表情一つ変えることなくこの暴風のごとき魔力の渦のなかに浮かんでいる。
「ルーク、もうやめよう……」
リーナの支援の効果か、リカルドの持つ剣が金色に……いや、白色に光輝く。
その剣の周りだけ、ルークの魔力が避けている。
光の女神の力を存分に受けた剣。
まさに、勇者の持つ神器なのだろう。
「滅びよ……」
ルークがその魔力のすべてを解放しようとした瞬間に、リカルドが一筋の光となってルークの胸に剣を突き立てる。
光の女神の力で、光の速さとなって。
ただ、その代償は大きく、全身の皮膚がめくれ内臓も潰れたのか呼吸すらできずに、口から大量の血を吐き出す。
だが、その傷すらも女神の光に触れ、すぐに再生していく。
「……リカルド」
「ルーク……すまない」
「くっ……力が、魔力が……」
忌々し気にリカルドを睨みつけるルークだが、胸に刺さった剣の周りに渦ができるほどの速さで魔力が吸収されていく。
そして、回復すらできずに苦しそうな表情を浮かべる。
リカルドを睨みつけて、右手を彼の顔の前まで持ち上げる。
腹から魔力が吸収されているが、全身と周囲にはまだわずかばかりの魔力が残っている。
吸われる速度以上の速さで、手に集めようとするが……それでも思ったほどは集まらなかったようだ。
魔王ルークは舌打ちをすると、リカルドの喉に指を突き付ける。
「腹を刺したくらいで、俺が「すまん」
ルークは僅かばかりに指先に残った魔力で、リカルドの喉を貫こうとしたが、それよりも一瞬早く彼の持つ剣が斜めに振りぬかれる。
鮮血が吹き出し、ルークの目が大きく見開かれる。
腹から心臓を通って肩まで、身体が半分ほど切り裂かれたルークが口をパクパクとさせる。
「なんだ? なんて言った?」
「お……おれの……おれの……じんせいを……か……え……」
そこまで口にしたところで、ルークの息は絶え地面に向かって落ちていく。
リカルドが慌てた様子で、ルークの身体を掴み抱き寄せる。
「ルーク! ルークゥゥゥゥゥゥゥ!」
そして、大きな声でルークの名前を呼ぶ。
まるで、懺悔するかのように。
「女神様! ルークを! ルークを救うことは……」
すぐに、リーナの方に目を向けて、彼女と共にあるだろう光の女神に声をかける。
だが、返ってきたのは無情な答えだっただ。
「いま、彼を救っても……また、魔王として復活するだけです。仮に、そうでなくとも……世界を恨んだままの彼なのです」
「で……でも」
「魔法が使える状態で……魔王でなくとも、彼は魔法が使えます。魔王の頃と同様に」
女神の言葉に、リカルドが悔しそうに眼をつぶる。
そして、彼が言っていたことが事実だったと、罪悪感に押しつぶされそうになる。
魔王の核がなくとも、無詠唱で魔法を使えるほどの才能。
それを潰した、自分の父の行為。
いや、それゆえに凄惨な人生を歩んできた彼のことを思い。
「それでも世界を救えたことを、よしとしましょう。あなたには、辛い役回りをさせてしまいましたね」
「リカルド様……あなたは魔王を倒したんです! 魔王を倒し、ルークを救ったんです! 昔の彼なら、人類を滅ぼすなんて、きっと望まなかったはずです」
光の女神と、光の巫女の2人に慰められ、リカルドが顔を上げる。
「あなたは?」
「私が光の女神です……あなた方に、祝福を授けるために彼の身体に残った魔王の核を使って顕現しました」
目の前には純白のドレスに身を包んだ、リーナ以外の女性がいたためリカルドが首をかしげる。
「ま……魔王の核でですか?」
「私にすれば、体外に取り出すことさえできれば、浄化反転など他愛もないことですから」
そういって、いまだリカルドが抱きかかえているルークの胸を指さす。
そこには、ぽっかりと穴があいていることから、そこから核を抜き取ったのだろう。
「なんだか、複雑な気分ですね……友を魔王にした原因が……いまは、光の女神であるというのは」
なんともいえない表情を浮かべるリカルドに、女神が首を横に振る。
「彼が魔王に至ったのは、核だけが理由ではありませんよ」
光の女神の言葉に、リカルドがうなずく。
「そうだな……魔王を生んだのはルークじゃない。俺たちだ。これから、俺たちはその罪を償っていかないといけない……世界を平和に、そして争いのないものにしよう」
「はい!」
「決して、不当に虐げられるものが出ないように、理不尽に不幸な目に合うものがでないように……ルークのようなものを増やさないためにも、俺が世界を統一する」
そう強く決意したリカルドのもとに、リーナが駆け寄る。
「俺がではありません……俺たちがですよ! 私も手伝います」
「ふむ、それまで私も力を貸そう」
「ああ、よろしくお願いする」
そして、2人と1柱が笑顔でうなずいた瞬間に、世界が黒く染まる。
「なっ?」
「ルークの身体から……」
「何が……」
リカルドの抱きかかえたルークの傷口から、闇が溢れる勢いで流れ出る。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」
次の瞬間、その闇は明確な意思を持って一筋の閃光のごとくリカルドの身体の上半身を消し飛ばす。
「リカルドッ! あっ……」
信じられないものを見たかのような表情を浮かべたリーナだったが、闇の中であってなお頭の上に影が差すのを感じる。
そして、間を置かずして巨大な竜の手で叩き潰される。
「くっ、まさか上級神たるあなたが、このようなことに手を「黙れ、小娘がっ!」」
魔王ルークの身体から巨大な竜の首が現れ、光の女神を噛み砕く。
光の粒子となったそれは、かろうじて意識体は逃すことができたが、顕現するための依り代としていた魔王の核は砕け散った。
「現れよ眷族ども! 世界を滅ぼせ!」
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