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魔王編
魔王様のほんわかな一日……だったはず辛い(前編)
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「決めた! 俺は今日は仕事をしない!」
俺はそう言ってベッドに身体を投げ出す。
「あらあら、どうされたのですか?」
エリーが呆れた様子で聞いてくる。
「最近魔王、働き過ぎだと思う……今日はのんびりと城下町を散歩でもしながらゆっくりするわ! 一人で行くから付いてくんなよ」
「どうぞご随意に」
あれっ?
いつもなら、「仕事が終わっているならどうぞ」とか、「これとこれとこれが急ぎなのですが、やって頂けないのですか?」とか「住民の方々はいまだに襲撃の傷跡で不自由をしているのに、魔王様は遊ばれるのですね」などと、人心に訴えかけてくるエリーがえらく簡単に許してくれる。
何やら気味の悪いものを感じる。
「ほ……本当に良いのか?」
「ええ、出来るなら」
ほら来た! 今回は挑戦的に止めに来るパターンだな。
だが、流石の俺もこないだからマジ働きすぎ。
普通、王様ってもっとゆっくり出来るもんじゃねーの?
前世だったら魔王なんて、部下に仕事全部任せて城で勇者待ってるだけが仕事みたいなもんだと思ってたのに。
まあ、リアル魔王について考察したことなんか無いけどさ。
「ああ、やってやろうじゃねーか! 付いてくんなよ?」
「しつこいですね? 付いて来て欲しいのですか?」
そんなにしつこかったか?
どこか腑に落ちないものを感じつつも俺は転移で城下町に移動する。
「あら、魔王様じゃないか! いつも大変だね。これ食べてってよ」
出たな草食系鰐おばちゃん!
とりあえず、露店街に向かうと早速八百屋のおばちゃんが、スターフルーツの青い部分を削り切り分けてくれる。
相変わらず多彩な果物や野菜を取り扱ってるな。
「うむ、悪いな」
俺はそう言って果物を受け取り、口に含む。
少し味は薄いが瑞々しくてとても美味しい。
「いつも悪いな。悪くない味だ」
「いや、こないだは御馳走になったからねー」
いやあ、休日って感じだな。
それからおばちゃんにリンゴも貰って、齧りながら町を散策する。
しばらく進むと、何やら大きな声が聞こえる。
「ちょっと高いって! もうちょっと安くならないの?」
「嬢ちゃんにはかなわねーな! これでももう利益は殆どねーんだぜ」
顔見知りが武器屋で何やら喚いている。
俺は見てないふりをして、隠れるように後ろを通り過ぎる。
「あっ! タナカ!」
バレた。
「おう、マイか騒がしいな。何を買おうとしてたんだ?」
目ざとく俺に気付いたマイが声を掛けてくる。
「魔王様! ちょっとこの嬢ちゃんなんとかしてくだせえよ! このミスリルの腕輪を半額以下にしてくれってしつこいんですよ」
見ると、中々に質の良さそうな腕輪が置かれている。
値段は金貨で20枚(20万)か……半額で10枚、意外と金持ってんだな。
「はあ、幾らなら買うんだお前は」
「いま、金貨2枚しかないから、どうにかこれで買えないかなと」
……10分の1って絶対無理だろ!
所持金を聞いた武器屋のおやっさんもビックリしてる。
「そりゃ無理だわねーちゃん! 赤字どころか、原材料の値段にもなってないぞ」
「むー……でもどうしても欲しいんだもん」
欲しいんだもんってお前なー……
大体金も無いくせに、分不相応なものに目をつける辺りがこいつが万年金欠の原因か?
てか、金貨2枚しか無いくせに、金貨2枚の物を買って生活はどうするつもりなんだ?
「ねえ、タナカさんお金貸して」
「やだよ! お前絶対返してくれないし」
相変わらず厚かましい奴だ。
そう言えばこいつって何歳なんだ?
「お前、少しは計画して金使えよ? そもそもお前の今の収入って俺の小遣いくらいしかねーだろ? 働け働け」
「うっさいなー、じゃあバイト紹介して?」
勇者が魔国でバイトなんかすんな。
本当にこの世界どうなってんだよ。
「あっ、マイさんまだ粘ってたんですか? こっちはもう買い物終わりましたよ。って田中さんじゃないんですか! おはようございます」
「ああ、おはようタカシ君」
ちょっと離れた所からタカシが駆け寄ってくる。
もしかして……デートですか?
「あっ! 居た居た、まだ居た」
「マイさん諦めましょうよ! お金が溜まったらまた来ませんか?」
そこにショウととユウも近づいてくる。
なんだ、いつもの4人か。
「二人ともおはよう」
『おはようございます、田中さん』
この3人は相変わらず日本語で俺を呼んでくれるんだな。
微妙にこっちの連中の呼び方はメリケンな感じで面白いのだが。
タナーカみたいな感じだもんな。
何故かマイもそう呼ぶが。
「だっていま欲しいんだもん。絶対に売ってくれるまでここを動かないもん」
「……魔王様、なんとかしてくだせえよ」
くっ、困ってる住民を見捨てるわけにもいかないしな。
「絶対今買わないと、売れちゃうって」
「おい親父! これちょっと置いといてくれ。で幾らなら売るんだ?」
「金貨で12枚、これ以上はまけられないっすよ」
親父の言葉にマイが絶望を露わにする。
「そんなー、絶対に無理じゃん! タナカケチだから毎回金貨5枚しかくれないし! たまに乳ムガッ」
「乳?」
「気にするな、ちょっとこいつにバイトさせるから、取り置きしといてくれ」
俺はそう言ってマイを引きずって行く。
「ユウちゃん達、ちょっとマイ借りてくね」
「はあ……」
俺が3人にそう告げると、気の抜けた返事が聞こえる。
まあ同郷だけどさ、俺年上!
そして魔王!
もう少し敬意を払おうか君たち。
「ちょっと、バイトって金貨10枚も稼げるバイトなんかあるの?」
露店街から離れたところでマイがぶーぶー言う。
うっせえ貧乏人が!
なんなら身体でも売って来いや!
「はっ! まさかタナカさん?」
そう言ってマイが身体を腕で隠して、こっちを見てくる。
「馬鹿かお前は!」
「私初めてなの……」
「聞け! 俺の話を聞け! てか、なんでまんざらでも無い雰囲気なんだよ!」
マイが微妙に艶っぽい目でこっちを見てくる。
つっても中身が残念なのは知ってるからな。
てか、そんな事するかボケ!
「お前にピッタリの仕事がある」
俺はそう言ってまだ復興が全然進んでいない街の一角に連れてくる。
ここは町の憩いの場とも言える噴水公園がある区画だ。
流石に、公園等の復興は後回しになってたからな。
俺は大量の煉瓦を作り出し、さらに図面を作ってマイに手渡す。
そして地面を魔法で綺麗に均すと、手ごろな岩と鑿も手渡す。
「今日中にここに煉瓦を敷き詰めて、それからこの岩で好きなモニュメントを作っとけ! そしたら金貨12枚やろう」
「えー、私そんなに力無いんですけど」
知っとるわ! 俺は強化魔法を強めに掛ける。
「これなら、大丈夫だろ! ほれとっととやれ! 日が暮れるぞ」
「力が沸いて出てくる……今ならタナカを倒せるかも」
「アホか! 馬鹿な事言って無いでとっとと作業しろ!」
俺がマイの頭に拳骨を落とす。
今襲い掛かってきたら、即行で魔法解除するわ。
そして、今のお前でも俺に指一本触れる事は出来んわ。
「いたーい! 何するんですか! もう!」
思わずマイが素に戻る。
いっつも、こんな感じならもう少し可愛げがあるってもんなのにな。
「いま、抱きたいって思ったでしょ?」
「馬鹿たれ!」
もう一度、頭に拳骨を叩き落とす。
さっきより、ちょっと強めだ。
マイが涙目で頭を押さえている。
「二度もぶった! 親父にもぶたれたことないのに!」
「それが甘ったれなんだ! ってやかましいわ!」
取り合えずマイと一緒に煉瓦を敷き詰め始める。
こういうタイプには実際に一緒に作業をして手本を見せないと、勝手な事をしだすからな。
それに、やり方もわからないだろうし。
「ははっ、煉瓦が羽みたいに軽いよ! これならすぐ終わりそう」
「そうか? ここに3万個の煉瓦があるんだが、すぐに終わるか?」
「えっ? 二人だったらすぐでしょ!」
「んっ? 俺はもう戻るが」
俺の言葉にマイがビックリしている。
当たり前だ! 俺は今日は休暇だって決めたんだから、少しはゆっくりさせろよ。
「ちょっと一人でとか聞いてないんですけど」
「魔王がなんでこんな事をしないといけないんだよ!」
「私だって勇者だし」
「だまれ文無し!」
お前が金が無いって言うから、仕事を作ってやったのに調子に乗りやがって。
「取りあえず、今日中に終わらせろよ! 監視にこいつを置いてくから」
俺はそう言って、インプを1体召喚する。
それからマイを放置して、転移で3人の所に戻る。
あれ? なんか地味にいま仕事してたような……
「あれ? 田中さん一人ですか?」
「ああ、マイには仕事を言いつけて来た」
「そうですか、それなら良いんですけど。あっ、そうだ! 田中さんこの街で美味しいお店知りませんか?そろそろ昼食にしようかと思って」
もうそんな時間? 意外とマイに仕事を教えるのに手間取ったみたいだ。
「ああ、それだったら美味しいステーキハウスがあるから連れてってやろう」
「本当ですか! 田中さんが美味しいって言うなら期待できそうですね」
「やった! 肉かー!」
「タカシ、お前肉ばっかじゃなくて野菜も食えよ」
「お前はお袋か!」
3人のテンションが一気に上がる。
ユウちゃん達を連れて、この間行ったお店を訪れると相変わらず行列が出来ていた。
そして、俺が現れた事で行列の人達がザワザワしている。
ていうか、こないだより遥かに長い行列が出来ている。
ふと店の看板を見上げてみる。
【魔王様が訪れたステーキハウス! おどろきドンキー】
……それハンバーグのお店や!
今まであった看板の横にデカデカと新しい看板が掲げられていた。
「おー、田中さんの行きつけのお店ですか?」
「凄い行列ですね」
「これ、待つんですか?」
ユウちゃんがちょっとしんどそうだ。
「ああ、流石にこんなに多いとは思わなかったからな、他の店に……
俺がそう言いかけた時に、お店から店員さんが慌てて飛び出してくる。
「魔王様、今日もうちでお食事を?」
「いや、まだ決めてないから、気にするな」
なんか嫌な予感がしたので、俺は3人を連れて立ち去ろうとしたが肩をガシッと掴まれる。
それから、店員さんがクラッカーを鳴らす。
「おお、幸運なお人! 魔王様達はちょうど10万人目のお客様なので優先的に特別席へ案内させていただきます」
店員さんがそう告げると、行列の人達が盛大な拍手を送ってくれる。
というか、嘘を吐くな!
絶対に俺が来たら、あの手この手を使って優先的に入れようとしてただろ!
「凄いですね田中さん!」
「聞きました? 10万人目だって」
「ラッキー!」
3人が無邪気に喜んでる姿を見ると、何も言えなかった。
行列の人達もこれが出来レースだと分かっているはずなのに、にこやかに譲ってくれる。
まあ、中には俺達が本当に10万人目だと思って悔しがってる人や、感心してる人も居たが。
***
「あー美味しかった」
「流石田中さんお勧めのお店ですね」
「今後はマイさんも連れて来たいですね」
3人が喜んでくれたみたいだし、よしとしよう。
俺はそう言ってベッドに身体を投げ出す。
「あらあら、どうされたのですか?」
エリーが呆れた様子で聞いてくる。
「最近魔王、働き過ぎだと思う……今日はのんびりと城下町を散歩でもしながらゆっくりするわ! 一人で行くから付いてくんなよ」
「どうぞご随意に」
あれっ?
いつもなら、「仕事が終わっているならどうぞ」とか、「これとこれとこれが急ぎなのですが、やって頂けないのですか?」とか「住民の方々はいまだに襲撃の傷跡で不自由をしているのに、魔王様は遊ばれるのですね」などと、人心に訴えかけてくるエリーがえらく簡単に許してくれる。
何やら気味の悪いものを感じる。
「ほ……本当に良いのか?」
「ええ、出来るなら」
ほら来た! 今回は挑戦的に止めに来るパターンだな。
だが、流石の俺もこないだからマジ働きすぎ。
普通、王様ってもっとゆっくり出来るもんじゃねーの?
前世だったら魔王なんて、部下に仕事全部任せて城で勇者待ってるだけが仕事みたいなもんだと思ってたのに。
まあ、リアル魔王について考察したことなんか無いけどさ。
「ああ、やってやろうじゃねーか! 付いてくんなよ?」
「しつこいですね? 付いて来て欲しいのですか?」
そんなにしつこかったか?
どこか腑に落ちないものを感じつつも俺は転移で城下町に移動する。
「あら、魔王様じゃないか! いつも大変だね。これ食べてってよ」
出たな草食系鰐おばちゃん!
とりあえず、露店街に向かうと早速八百屋のおばちゃんが、スターフルーツの青い部分を削り切り分けてくれる。
相変わらず多彩な果物や野菜を取り扱ってるな。
「うむ、悪いな」
俺はそう言って果物を受け取り、口に含む。
少し味は薄いが瑞々しくてとても美味しい。
「いつも悪いな。悪くない味だ」
「いや、こないだは御馳走になったからねー」
いやあ、休日って感じだな。
それからおばちゃんにリンゴも貰って、齧りながら町を散策する。
しばらく進むと、何やら大きな声が聞こえる。
「ちょっと高いって! もうちょっと安くならないの?」
「嬢ちゃんにはかなわねーな! これでももう利益は殆どねーんだぜ」
顔見知りが武器屋で何やら喚いている。
俺は見てないふりをして、隠れるように後ろを通り過ぎる。
「あっ! タナカ!」
バレた。
「おう、マイか騒がしいな。何を買おうとしてたんだ?」
目ざとく俺に気付いたマイが声を掛けてくる。
「魔王様! ちょっとこの嬢ちゃんなんとかしてくだせえよ! このミスリルの腕輪を半額以下にしてくれってしつこいんですよ」
見ると、中々に質の良さそうな腕輪が置かれている。
値段は金貨で20枚(20万)か……半額で10枚、意外と金持ってんだな。
「はあ、幾らなら買うんだお前は」
「いま、金貨2枚しかないから、どうにかこれで買えないかなと」
……10分の1って絶対無理だろ!
所持金を聞いた武器屋のおやっさんもビックリしてる。
「そりゃ無理だわねーちゃん! 赤字どころか、原材料の値段にもなってないぞ」
「むー……でもどうしても欲しいんだもん」
欲しいんだもんってお前なー……
大体金も無いくせに、分不相応なものに目をつける辺りがこいつが万年金欠の原因か?
てか、金貨2枚しか無いくせに、金貨2枚の物を買って生活はどうするつもりなんだ?
「ねえ、タナカさんお金貸して」
「やだよ! お前絶対返してくれないし」
相変わらず厚かましい奴だ。
そう言えばこいつって何歳なんだ?
「お前、少しは計画して金使えよ? そもそもお前の今の収入って俺の小遣いくらいしかねーだろ? 働け働け」
「うっさいなー、じゃあバイト紹介して?」
勇者が魔国でバイトなんかすんな。
本当にこの世界どうなってんだよ。
「あっ、マイさんまだ粘ってたんですか? こっちはもう買い物終わりましたよ。って田中さんじゃないんですか! おはようございます」
「ああ、おはようタカシ君」
ちょっと離れた所からタカシが駆け寄ってくる。
もしかして……デートですか?
「あっ! 居た居た、まだ居た」
「マイさん諦めましょうよ! お金が溜まったらまた来ませんか?」
そこにショウととユウも近づいてくる。
なんだ、いつもの4人か。
「二人ともおはよう」
『おはようございます、田中さん』
この3人は相変わらず日本語で俺を呼んでくれるんだな。
微妙にこっちの連中の呼び方はメリケンな感じで面白いのだが。
タナーカみたいな感じだもんな。
何故かマイもそう呼ぶが。
「だっていま欲しいんだもん。絶対に売ってくれるまでここを動かないもん」
「……魔王様、なんとかしてくだせえよ」
くっ、困ってる住民を見捨てるわけにもいかないしな。
「絶対今買わないと、売れちゃうって」
「おい親父! これちょっと置いといてくれ。で幾らなら売るんだ?」
「金貨で12枚、これ以上はまけられないっすよ」
親父の言葉にマイが絶望を露わにする。
「そんなー、絶対に無理じゃん! タナカケチだから毎回金貨5枚しかくれないし! たまに乳ムガッ」
「乳?」
「気にするな、ちょっとこいつにバイトさせるから、取り置きしといてくれ」
俺はそう言ってマイを引きずって行く。
「ユウちゃん達、ちょっとマイ借りてくね」
「はあ……」
俺が3人にそう告げると、気の抜けた返事が聞こえる。
まあ同郷だけどさ、俺年上!
そして魔王!
もう少し敬意を払おうか君たち。
「ちょっと、バイトって金貨10枚も稼げるバイトなんかあるの?」
露店街から離れたところでマイがぶーぶー言う。
うっせえ貧乏人が!
なんなら身体でも売って来いや!
「はっ! まさかタナカさん?」
そう言ってマイが身体を腕で隠して、こっちを見てくる。
「馬鹿かお前は!」
「私初めてなの……」
「聞け! 俺の話を聞け! てか、なんでまんざらでも無い雰囲気なんだよ!」
マイが微妙に艶っぽい目でこっちを見てくる。
つっても中身が残念なのは知ってるからな。
てか、そんな事するかボケ!
「お前にピッタリの仕事がある」
俺はそう言ってまだ復興が全然進んでいない街の一角に連れてくる。
ここは町の憩いの場とも言える噴水公園がある区画だ。
流石に、公園等の復興は後回しになってたからな。
俺は大量の煉瓦を作り出し、さらに図面を作ってマイに手渡す。
そして地面を魔法で綺麗に均すと、手ごろな岩と鑿も手渡す。
「今日中にここに煉瓦を敷き詰めて、それからこの岩で好きなモニュメントを作っとけ! そしたら金貨12枚やろう」
「えー、私そんなに力無いんですけど」
知っとるわ! 俺は強化魔法を強めに掛ける。
「これなら、大丈夫だろ! ほれとっととやれ! 日が暮れるぞ」
「力が沸いて出てくる……今ならタナカを倒せるかも」
「アホか! 馬鹿な事言って無いでとっとと作業しろ!」
俺がマイの頭に拳骨を落とす。
今襲い掛かってきたら、即行で魔法解除するわ。
そして、今のお前でも俺に指一本触れる事は出来んわ。
「いたーい! 何するんですか! もう!」
思わずマイが素に戻る。
いっつも、こんな感じならもう少し可愛げがあるってもんなのにな。
「いま、抱きたいって思ったでしょ?」
「馬鹿たれ!」
もう一度、頭に拳骨を叩き落とす。
さっきより、ちょっと強めだ。
マイが涙目で頭を押さえている。
「二度もぶった! 親父にもぶたれたことないのに!」
「それが甘ったれなんだ! ってやかましいわ!」
取り合えずマイと一緒に煉瓦を敷き詰め始める。
こういうタイプには実際に一緒に作業をして手本を見せないと、勝手な事をしだすからな。
それに、やり方もわからないだろうし。
「ははっ、煉瓦が羽みたいに軽いよ! これならすぐ終わりそう」
「そうか? ここに3万個の煉瓦があるんだが、すぐに終わるか?」
「えっ? 二人だったらすぐでしょ!」
「んっ? 俺はもう戻るが」
俺の言葉にマイがビックリしている。
当たり前だ! 俺は今日は休暇だって決めたんだから、少しはゆっくりさせろよ。
「ちょっと一人でとか聞いてないんですけど」
「魔王がなんでこんな事をしないといけないんだよ!」
「私だって勇者だし」
「だまれ文無し!」
お前が金が無いって言うから、仕事を作ってやったのに調子に乗りやがって。
「取りあえず、今日中に終わらせろよ! 監視にこいつを置いてくから」
俺はそう言って、インプを1体召喚する。
それからマイを放置して、転移で3人の所に戻る。
あれ? なんか地味にいま仕事してたような……
「あれ? 田中さん一人ですか?」
「ああ、マイには仕事を言いつけて来た」
「そうですか、それなら良いんですけど。あっ、そうだ! 田中さんこの街で美味しいお店知りませんか?そろそろ昼食にしようかと思って」
もうそんな時間? 意外とマイに仕事を教えるのに手間取ったみたいだ。
「ああ、それだったら美味しいステーキハウスがあるから連れてってやろう」
「本当ですか! 田中さんが美味しいって言うなら期待できそうですね」
「やった! 肉かー!」
「タカシ、お前肉ばっかじゃなくて野菜も食えよ」
「お前はお袋か!」
3人のテンションが一気に上がる。
ユウちゃん達を連れて、この間行ったお店を訪れると相変わらず行列が出来ていた。
そして、俺が現れた事で行列の人達がザワザワしている。
ていうか、こないだより遥かに長い行列が出来ている。
ふと店の看板を見上げてみる。
【魔王様が訪れたステーキハウス! おどろきドンキー】
……それハンバーグのお店や!
今まであった看板の横にデカデカと新しい看板が掲げられていた。
「おー、田中さんの行きつけのお店ですか?」
「凄い行列ですね」
「これ、待つんですか?」
ユウちゃんがちょっとしんどそうだ。
「ああ、流石にこんなに多いとは思わなかったからな、他の店に……
俺がそう言いかけた時に、お店から店員さんが慌てて飛び出してくる。
「魔王様、今日もうちでお食事を?」
「いや、まだ決めてないから、気にするな」
なんか嫌な予感がしたので、俺は3人を連れて立ち去ろうとしたが肩をガシッと掴まれる。
それから、店員さんがクラッカーを鳴らす。
「おお、幸運なお人! 魔王様達はちょうど10万人目のお客様なので優先的に特別席へ案内させていただきます」
店員さんがそう告げると、行列の人達が盛大な拍手を送ってくれる。
というか、嘘を吐くな!
絶対に俺が来たら、あの手この手を使って優先的に入れようとしてただろ!
「凄いですね田中さん!」
「聞きました? 10万人目だって」
「ラッキー!」
3人が無邪気に喜んでる姿を見ると、何も言えなかった。
行列の人達もこれが出来レースだと分かっているはずなのに、にこやかに譲ってくれる。
まあ、中には俺達が本当に10万人目だと思って悔しがってる人や、感心してる人も居たが。
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「流石田中さんお勧めのお店ですね」
「今後はマイさんも連れて来たいですね」
3人が喜んでくれたみたいだし、よしとしよう。
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