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魔王編

人間が哀れで辛い(シリアス)

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「魔王様! 勇者達とその仲間たちです!」
「どうせカインファンと、アンチだろ?」

 魔王城は今日も平常運転です。

 と思ったがいつもより騒がしいな。
 何やら、様子がおかしい。
 そもそも、人の気配の進行がゆっくりだ。

「今回はいつもと様子が違います! まず勇者の数約300人、仲間たちは騎士と魔導士に神官ばかりです! 城下町を破壊しながら進んでまいります!」

 はあ?
 町を破壊しながら?
 なんて迷惑な。

 人間側に大きな動きがあったようだ。

 これだけ勇者達を無傷で送り返してきたんだ。
 それも心はキッチリ折ってから。
 教会としても、魔王討伐を掲げて勇者を派遣し続け、勇者は元気に戻ってくるのに誰一人魔王を倒せていないというのは沽券に関わるはずだ。
 そのうえ、戻ってきた勇者は腑抜けになっている。

 形振なりふりかまっていられないんだろうな。
 しっかしまあ、とうとう一般人にまで手を出すまで落ちぶれたか。
 まあ、戦時国際法なんてないだろうし、あっても魔族に適用されるとは思わない。

 それでも前は通りの魔物や魔族と争う事はあっても、わざわざ建物の中まで手を出すことは無かった。
 ちょっと、腹が立つな。

「城下町の被害は?」
「戦えるものが対応しているため、人的被害はけが人が出ている程度ですが、建物の破壊までは防げていません。このままだと、まだまだ被害は増えるかと……」

 まあ、うちの魔族達は優秀だからな。
 とはいえ、遊べとか言ってる場合じゃなくなってきたな。

「分かった……取りあえず勇者の相手には城内の者を当てさせろ!」
「えっ? 魔王様は動かれないのですか?」

 エリーが若干呆れ気味だ。
 言葉の中に、こんな時までサボるのかといった思いが読み取れる。

「ああ、ちょっと後ろの連中に用があるからな! 今回は手加減無用だ! だが、なるべく止む負えない場合以外では殺すなよ!」
「えっと、後ろですか?」

 さてと勇者達の数を見る限り、どこかの国が手を貸しているのは明らかだが……
 いや、森の奥にいる軍隊も、多国籍軍っぽいな。
 そして今回も号令を取っているのはセントレアだ。
 城下町から離れた森にいる軍隊の中に、お馴染みタイショーの気配を感じ取る。
 俺の言葉に、エリーが聞き返す。

「あいつも懲りねーな……最後通告は終わってんだけどな……エリー! 説明の時間が勿体ない、すぐに戻る」
「あっ! 魔王様!」

 俺はそう言って城下町の外に転移する。
 城下町へと続く道がある丘の上に移動すると、眼下には凡そ10万の兵が見える。
 そして、その後ろにはおそらく本陣と思われる陣幕が張られている。

「恐ろしく妄信的だよな……彼我の力量の差も分からぬ程に惑わされるとは」

 俺は丘の上で魔力の一部を開放する。
 目の前の軍団に動揺の色が走るのが分かる。
 ざわめきが徐々に大きくなり、あちらこちらから俺を指さす姿が見える。
 徐々に、全員の視線がこちらへ集まってくる。

「な……なんだ! あれは!」
「まっ、魔族?」
「あ……まさか……魔王……? 間違いない! 前に見た事あるがあれが魔王だ!」

 俺のことを知っている奴もいるのか。
 しかし、本当にこいつら分かってるのかな? 
 俺の強さを。
 散々見せつけたはずなんだが。

 仕方ない、誰を敵に回しているか分からせてやるために真っすぐ歩いて行ってやろう……
 俺は軍団より少し前に敢えて飛行して移動すると、目の前に降り立つ。

「ひっ!」

 目の前の兵たちがざわめきたつ。
 まだ老化も解除していないのだが、この姿で上等だろう。
 城下町の方は、取り急ぎ絶倫が転移で抑えに入ったか……
 蛇吉も近くまで移動しているな。
 これなら問題無いだろう。

「さて皆さん……初めての方もそうでない方もいらっしゃるようじゃが、わしが北の2代目魔王……タナカじゃ!」

 そう言って老化状態での魔力全開放を行う。
 魔力の奔流が風となって、軍勢を撫でるように駆け抜ける。

「うわぁぁぁ! 本物だ!」
「何故だ! 奴はいま勇者が相手しているはずだろう!」
「馬鹿な……なんて魔力だ!」

 俺の魔力に中てられた軍団のうち、直接対峙している約3000人が半恐慌状態に陥る。
 周りにも多少の混乱はあるようだが、まあ俺一人だとこんなもんだろう。
 後ろの方から、姿が見えるとも思えんし。

 しかしまあ、この程度で規律が乱れるような奴が、よくも逃げずにいられるな……
 恐慌状態に陥ってなお、こちらに剣を向ける姿勢は立派なものではない。
 洗脳状態がいかにいかれたものか、それを証明しているに過ぎない。

「静まれ! 今日こそ魔王を討つのだ! こんな短時間で勇者がやられるわけはない! どうせたまたま逃げ出したところが我らの前だったというだけだ!」

 少し奥の方から大きな声が聞こえる。
 おそらく軍を指揮する隊長格の一人だろう。

「そ……そうだよな……」
「いくらなんでも、勇者様300人と国の精鋭パーティーがこんなに早くやられるわけないもんな……」
「そ……そうだよ! どうせ逃げて来た魔王だ! 万全じゃないはずだ……よな」

 軍が少しずつ落ち着きを取り戻し始める。

「そうだ! すぐに勇者達が戻ってくるであろう! せめてそれまで時間を稼ぐのだ!」

 違う方向からも声が聞こえる。
 前方に居るのは歩兵部隊か……
 人数的にも相当数の小隊が組まれているはずだ。
 それぞれに、それなりの武人を隊長に据えているのだろう。

「フッフッフ……わしも嘗められたものじゃな! まあ良い、少しは抵抗してみせるがいい」

 俺はそう言うとゆっくりと歩を進める。

「何を馬鹿な! お前ひとりなど勇者の力など借りずとも、俺たちだけで十分だ!」

 そう言って一人の重装備の兵が飛び出してくる。
 なかなか、いい装備だが。
 周りとは明らかに違う品質の鎧ということは、隊長クラスかもしれない。
 最初に死にに来る意気やよし! と言いたいところだが。
 隊長が最初に死んだら、誰が部下をとりまとめるんだ?
 馬鹿じゃないのか?

「ふむ……記念すべき最初の贄よ……褒美に名をきいてやろう。どれ名乗るがよい?」
「今から死ぬ奴に聞かせる名前なんてねーよ!」

 そう言って斬りかかって来た兵を左手を振るうだけで両断する。

「そうじゃな……すぐに死ぬような奴の名など、覚える価値もなかったわ」
 
 自嘲するように鼻で笑うと、後ろの連中に視線を向ける。
 俺が手を振るった余波で、その男の周囲の人間も切り刻まれる。
 凡そ130名程の魂が入って来た。

 フッフッフ、手を振るっただけで130人か……
 余りの脆さに思わず笑いがこみ上げてくる。
 あまりに異様な光景に、巻き添えを避けることのできた者達も黙り込んでいる。
 いや、恐怖で固まっていると言った方がいいか?

 俺はすぐに今の攻撃で死んだ者たちの死体を修復すると、魂を戻す。

「えっ? いま……何が……ひっ! なんだこの魔力……」
「うわぁぁぁぁ! 俺いま死んだ? 死んでない?」
「な……何が起こった?」

 蘇った人間共が喚いている。
 そして周囲に動揺が走る。

「馬鹿な……いま確かに隊長の身体が真っ二つに」
「俺の横のやつ頭が半分になってたはずなのに……」
「な……」

 聖教会、本当に凄いな。
 それでも実際に死んだ奴等以外は逃げようとしてない。
 駄目だろこれ?
 無駄死にだと分かっていても、誰も逃げないとか。

「くっ! ただの幻術に違いない! 弓兵! 一斉に矢を掛けろ!」

 身なりの良い歩兵が数十名下がると、後方から一気に矢が放たれる。
 まあ目の前には歩兵部隊……そして的は俺一人。
 当然、届かない矢は仲間の兵にも向かっていく。
 本当にクズだな……
 装備もまともに整えてないし、寄せ集めの農民兵を盾にしているのだろう……
 農民が死んだら、誰が作物を育てるというんだ?
 宗教の名の下に、自らの意思で参加してるように思っているのかもしれないが。
 それにしたって、酷すぎるだろう。
 聖教会も、国の上層部も国民を道具として見ていないんだな。
 農民なんか、いくらでも補充が利くとでも勘違いしているのだろう。
 
 魔族がいなくなったら国同士が争って、すぐに滅びそうな世界だ。

「フッ……お主らの隊長は酷いのう! お主らが死んでもなんとも思わないらしい。魔族より酷いな……クフッ、ハッハッハッハッハ!」

 前世で見知ったファンタジーとあまりにかけ離れた現実に、心の底から笑いがこみ上げてくる。
 俺が右手を振るうと、放たれた矢は全て弓兵の元に戻って行きその腕を貫く。
 なんだろうな、この全能感は。
 手を振るうだけで思い描いた事象が発生する。
 矢を放った者に送り返すことをイメージして、手に魔力を込めて振るうだけで。
 俺にとって、魔法は本当に便利で……残酷だ。
 本来なら味方の歩兵に当たる予定だった矢も含めて、全てを射手に送り返す。
 右手の、一振りで。

「うぎゃーーーー!」
「う……腕が……」
「なんだ! なんで俺の腕に矢が……」

 後方から悲鳴が聞こえてくる。
 愉快だ……

「いま……俺たちに当たりそうじゃなかったか……」
「あれ? 隊長達が居ない……」
「まさか……俺たちを犠牲に?」

 前方の兵からはどよめきが聞こえる。
 憐れだ……

「どけ……どかぬなら……殺すぞ!」

 俺が威圧を込めて叫ぶと、目の前の歩兵が二つに割れる。
 だがこれだけの兵だ、すぐに陣形の変更など出来るわけもなく、あちらこちらでドミノ倒しのように歩兵が倒れたり、押し返されたりしている。
 わずかに開いた隙間の後方では腕を押さえた弓兵たちが、驚愕の目でこっちを見ている。

「ふむ……面白い事を考えた……おい! 目の前の農民どもよ! お主らを殺そうとした奴等が憎くないか?」

 両横に割れた歩兵が困惑する。

「鈍い奴等じゃな……あいつらの命を俺に捧げたら、お主らは救ってやろうと言っておるのじゃ!」

 その言葉に農民達が迷い始める。
 元々、そんなに信仰が深い者達ばかりでは無いだろう。
 中には、ミサを面倒くさがっていかない奴もいるはずだ。

「そ……そんな事」
「無理だべ! 逆に殺されちまう」
「でも、いまわしらは殺されかけた……」

 良い感じだな……
 先の人間共の行動は完全に悪手だろ。
 どう見ても農民兵の被害などなんとも思って無い事が伝わっている。
 そのことが、目の前のこの結果だ。
 目の前の彼らから、上層部に対しての不満の芽が生まれているのが手に取るように分かる。
 洗脳の効果だけでは、払拭しきれないほどの思い。


「お前ら! 魔王の言葉に耳を貸すな! たまたま狙いがそれた数本が向かっただけだ!」

 隊長と思われる男が声を上げるが、何割かは疑惑の目を向けている。
 そりゃそうだろ!
 真っ先に後ろに下がった奴が何を言っても説得力は無いよなぁ。

「うわぁぁぁぁ!」
「お前ら! 何してる!」
「馬鹿な! 魔族に従うなんて何を考えているんだ!」

 少しして目の前から悲鳴が聞こえる。
 どうやら最初に殺した奴等が、弓兵に斬りかかっていったらしい。
 聖教会の呪縛から解き放たれた瞬間に、我が身可愛さから魔王に寝返るとか……
 この世界の人間の心は本当に脆いな……
 まあ、でも実際に目の前に俺という死の恐怖があるんだ。
 ある意味これが正しい反応か。

 取りあえず俺は人間を裏切った奴等に強化の魔法を掛ける。
 世界最初の人間による魔王の軍だ。
 弱くては示しがつかないだろ?

「ばっ! 馬鹿な! なんだその力は!」
「なんでたかが農民風情の剣で鎧が……」
「くっ……来るな……来るなー!」
「はっ、早い!」
「弾かれただと!」

 すぐにあちらこちらから魂が集まってくる。
 俺は殺された連中を復活させて、魂を戻す。

「あれっ? 俺死んで……あら? なんで目の前に俺が?」
「うわぁ! お前……俺か?」

 あっ……魂の器間違えた……
 まあ、こんだけ居るんだ、間違える事もあるさ!
 俺はすぐにそいつらを殺して、生き返らせなおして魂を戻す。
 よしっ、混乱の最中だしきっと誰も気付いてないはず。

「おい! 弓兵どもよ! お主らに命令した奴が憎くないか? そのせいで、お主らは仲間に殺されたのじゃからな?」

 俺がそう言うと、弓兵の目に怒りの火が灯る。
 若干魔力で思考誘導も込めた言葉だが、まったくレジストする気も無いな。
 元々不満があったのだろう。
 それを聖教会の信仰で誤魔化して来たんだろうな。
 彼等の怒りは、俺じゃなく指揮を出した小隊長に向けられる。

「殺せ! 捧げよ! さすれば救おう!」

 俺が叫ぶと同時に復活した弓兵から、一斉に矢が放たれる。

「お前のせいで!」
「くそ、魔王の最後を見に来るだけだと言ってたじゃないか!」
「ふざけるな!」

 次々と味方に向けられ矢が放たれたお陰で、広範囲に渡って動揺が広がっている。
 これだけ混乱したら立て直すのは無理だろう。

 その時、周辺から魔力が向けられるのを感じる。

 馬鹿どもが……

 自分を中心に、周りの兵を囲むように広範囲に魔法障壁を張る。
 間を置かずしてそこに向けられて一斉に魔法が放たれる。
 だが、俺の魔法障壁に触れた瞬間に音も無く消え去る。

「お……おい、今の完全に……」
「あ……ああ、俺たちを狙って……」
「な……なんで……」

 これで大半の者達の目が覚めただろう。

「な……何故魔王が人を助ける」
「馬鹿な! 1000人掛かりでの魔法だぞ! 一人で防げるものか!」
「……や……奴は化け物か!」

 へえ……国の魔術師団でもあの程度か。
 まるでマッチの火や水鉄砲じゃないか。

「クックック……今のが魔法? 魔法というのはこういうものを言うのだ!」

 俺が1000個の火球を呼び出して、一斉に魔法を放った者達に撃ちだす。
 流石、国の魔術師団……全員が咄嗟に魔力障壁を作り出して防ごうとする。
 が、所詮は人間の……程度。
 俺からしたら、紙みたいなもんだ。
 ほら、ものともせずに良く燃えている。

「な……なんだ今の魔法は?」
「極大火炎魔法を1000発同時にだと?だがあんな魔法は見た事ないぞ?」

 攻撃に参加しなかった者達が何か喚いている。
 恐らくこいつらが魔術師に指示を出した奴等だろう。

「極大火炎魔法? ハッハッハッハッハ! 何を言っておる? 今のはただのファイアーボールだぞ? 初級の初歩ではないのか? お主らが最初に覚える最も馴染み深いものだろう」

 もはや言葉すら返って来ない。
 そこまで絶望的な情報だったのだろう。
 魔術師団の隊長達が口をパクパクさせている。

 まあ、実際はブラフなんだが。
 魔法自体は確かにファイアーボールだ。
 ただし、威力極大化、爆裂効果付与、効果範囲極大化、持続燃焼効果延長、延焼効果増大、周辺温度上昇値極大化、炎熱耐性無効、魔法防御貫通、魔法障壁無効の特殊効果を付与した特別性。
 着弾すれば、見た目にも派手な一撃。
 魔法部隊も、今の一撃でほぼ全滅か……
 脆すぎる。

 さて……お前らも部下に殺されてみると良いさ!

 俺はすぐに殺した連中を生き返らせる。
 蘇った魔法使いたちは、怯えた表情のままその場に立ち尽くしている。
 呆けている暇はないぞ?
 俺は、彼らの思考が停止しているうちに切欠を与えてやる。

「分かっただろう? 余が魔王じゃ! 勝てぬと分かったなら従え! さすれば命は助けよう……奴等を、殺せ!」

 俺がそう言うと全員が一瞬戸惑ったが、一人が魔法を放つと関を切ったかのように他の魔術師も、人間の兵士たちに魔法を放ち始める。
 いくら俺には魔法が効かないと言っても、それが人間に向けられたなら恐怖するだろうな。
 

 大分前方は開けてきたが、それでも周りの兵たちには何が起こっているか分からないだろうな。
 10万人が仇になったな。
 もし、これが1万にも満たなければ、即座に情報が伝わり撤退も可能だったろうに。

 とはいえここまでに既に二次災害、三次災害と拡大していき人間の軍がすでに5000を越えた。
 流石に本陣も異常を察知しただろう。
 何やら、慌ただしく動いている気配も感じられる。
 胴体を切り離して、頭だけでも逃げるつもりかな?
 少し急ぐか。

「さてと、それでは行かせてもらうかのう」

 俺はそう言って歩き始めると、数百人が付き従って梅雨払いを始める。
 勿論強化済みだ、普通の人間の兵が相手になる訳がない。
 そして、殺された奴らを生き返らせて強化させつつ騎馬隊にまで歩を進める。
 すでにそこは阿鼻叫喚と化していた。

 先行した他の人間が、騎馬隊を襲い始めている。
 そもそもただの馬が、魔王の恐怖に勝てるわけも無く混乱しているところに強化された兵が襲い掛かっているのだ。
 強化された農民兵の剣は容易く騎士の剣を弾き、弓兵の矢は鉄の鎧を貫通し、魔法使いの魔法は鎧ごと中身を焦がし、死屍累々を築き上げて陣幕まで一本の道が出来始めている。
 だが屍を踏み越える事などしない。
 こいつら全てが加害者で、被害者だ。
 俺は慈悲の心を持ってして聖教会から解放し、彼らの意思で俺の兵になってもらっているのだ。

 すでに陣幕の中が空になっているのは知っている。
 魔術師団が裏切った時点で、タイショー含め重臣たちは逃げる準備を始めていた。
 俺がここに来るまでに、十分に逃げる時間はあっただろうしな。
 俺は転移を使って、逃げ出した奴らの前に立つ。
 突然目の前に現れた巨大な魔力の暴力に、馬が嘶き、棹立ちになる。
 上の乗っていた男が、慌てて手綱を引き馬を抑え込もうとする。

 流石腐っても国王か……馬から落ちてくれた滑稽だったのだが。
 日頃から乗馬もしているんだ、そんな事で落ちる訳がないか。

「やあ、ご無沙汰しておるな」
「ひっ……ま! 魔王!」
「そうだ、魔王だ」

 俺が老化を解いてタイショーの前に立つ。

「陛下お下がり下さい!」

 騎士団長が前に立ちはだかるが、すぐに斬り飛ばす。
 そして蘇らせる。

「はっ、私は何を!」
「邪魔をするな!」
「ま……魔王! ……バカな! 前会った時とは桁違いでは無いか……こんな、陛下! 降伏しましょう!」
「団長狂ったか!」

 突如態度を変えた騎士団長に対し、後ろの大臣が声を荒げる。
 団長は狂ってないぞ?
 正常に戻っただけだ。
 しかし、このクズは……
 タイショーを睨みつける。

「なあタイショー? 俺言わなかったか? いつでも殺せるって」
「く、たかが魔族の分際で生意気な! 貴様らなど滅ぼされるのを待って居ればよいのだ!」

 凄いよほんと。
 聖教会何をやったら、ここまで出来るんだ?
 普通、小便漏らしながら土下座するシーンだろ?
 おっと、そうこうしている間にも魂がドンドン集まってくる。
 現時点で3万人分くらいは溜まったか。
 10万の兵が3割死んだ訳だ……たった一人相手に……
 この規模だ、輜重兵や連絡兵、斥候、輸送他の兵力からみてももはや継戦能力は5割切ってるだろう。

「さてと、まずはセントレアには人間国家初の俺の属国になってもらうか」

 俺はそう言うと、魔法の刺突剣を作り出しタイショーの頭と心臓目がけて飛ばす。
 今日のビックリドッキリチートマジック!

心魂解放オシヘン

 タイショーの身体に剣が入っていくが、突き抜けることなく体内で消失する。
 内部で剣に纏わせた魔力が小規模の爆発を起こし、脳と心臓を完全に破壊すると同時に魂を体から切り離し、破壊した脳と心臓を修復し魂をまた戻す。
 その間僅か0.1秒。
 痛みなど感じないはずだし、死んだことも分からなかっただろう。

「はっ、わしは何を……」
「久しぶりだな……気分はどうだ?」

 俺の問いかけにタイショーが頭を振る。

「な……何をした? お……お前に対する嫌悪感や恨みが全く湧き上がってこない」
「それが正常な感覚だ……人の領域にようやく戻って来たか……」

 俺の言葉にタイショーがキョトンとしている。

「さて、それでは交渉に入ろうか?」
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