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魔王編

何故かヒガに懐かれた……辛い

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「魔王様、東の魔王様がお見えです」
「よしっ、今日も良い花火が見れそうだ!」

 エリーが俺を呼びに来る。
 てか、こないだあんだけボコボコにしたのに一人で来るとか良い度胸だわ。
 あれから大魔王も、他の魔王も何にも言ってこないし完全に油断してたわ……
 取りあえず応接室に転移する。

「北の魔王タナカヒトシ様です」

 扉をノックした後、エリーがそう言って扉を開ける。

「よお! 兄弟! 元気か?」

 ……俺はお前と兄弟になった記憶は無い。
 はっ! まさかウロ子と? って俺は相変わらずチェリーだし、こいつにそんな度胸は無い……

「何の用だ?」

 俺がそれだけ言うとヒガがたじろぐ……

「いや、こないだのお詫びと、俺の仲間を紹介したくてさ」

 中に入るとヒガの他に3人の魔族が居た。
 うち二人は黒髪に黒い瞳をしている。
 こいつらの方がヒガより強いんじゃないのか?

「どうも初めまして、ヒガシノ・トウゴです! トウゴって呼んでください」
「あっ、オレはケビン・イーストウッドだよー! ケビンって呼べ!」
「この間はタケシが失礼をしました、私はアズマ・ミキヒサって言います……お好きなように呼んでください」

 なん……だと?
 ケビンは別として、他の二人は完全に日本人の名前じゃないか……

「ビックリした? ちなみに俺はヒガ・タケシって言うから、宜しくな兄弟!」

 ここに二人も日本人が居たとは……いや、まだそうと決った訳では無い。
 もしかしたら、東の世界という事だから日本と似たような環境なのかもしれない。

「もしかして、お二方は?」
「えぇ、貴方と同郷です。私は埼玉からこちらに召喚されました。」
「自分は北海道からです!」
「あー……自分は三重からやでー……俺にも聞いてくれんか?」

 ってことは、東野と東か……

「ちょっとエリー外してくれないか?」

 俺はエリーに席を外すように告げる。

「ですが……」
「大丈夫だから……彼らは俺には危害を加えない」

 俺がそう言うと渋々とエリーが部屋から出ていく。

「ちなみにケビンも日本だよー! 山口の岩国から来たよー」

 岩国っつーと米軍基地あるな……
 てか比嘉もケビンも沖縄っぽいのに全然関係ないんだな……

「それでトウゴさんとアズマさんは、今日はどうしてこちらに?」
「えっと、タケシから貴方が日本人だという事と、日本の料理を魔法で作り出せると聞いたので」
「それに転生した時から魔族だったという事で、興味がありましてね」
「俺にも聞いてくれんかー? ぶぶ漬けってあれお茶漬けやろ?」
「ケビンは日本の食べ物好きだぞー! カツカレーが特に好きだぞー!」

 なるほど、日本人同士交友をはかるという事か……
 しかし居たんだな……他にも日本人……

「うん、分かったよ。ケビンはカツカレーが好きなんだね。それっ! 【三分調理キューピー】」

 俺はSOCO1番屋のカツカレーを作り出すとケビンの前に置く。

「おー! これソコ1のカレー! ケビンこれも大好きよー!」

 そう言ってケビンがカレーをパクつく。

「本当に魔法で作れるものなのですね」
「これは召喚の類ですか?」
「スゲーな……こないだのお茶漬けもビビったが、兄弟はこんなんまで出せんのか……」

 二人が心底驚いた表情をしている。

「えっと、イメージを具現化する魔法ですよ? 必要な材料は全て魔力で作り出してますが、魔力栄養素が0とはこれいかに!」
「確かに、地球には魔法は存在しませんでしたからね。魔力という概念自体が無かったのでしょう」

 アズマさん真面目やなー……

「召喚では無いのか……もしこれが召喚なら、逆もまた出来るかと思ったのですが」

 トウゴさんがガッカリしてる。
 もしかしたら、日本に帰る手がかりを探しに来たのかな?

「これ美味しいよー! トウゴとアズマと……あとタケシも食べる? でもこれボクのだからあげないよー! 残念でしたー!」

 ケビンはマイペースだな……
 良くも悪くもおおらかなアメリカ人って感じだな……

「宜しければお二方にもご希望の品を出しましょうか?」
「良いのですか? でしたら私は鮭定食のようなものを頂ければと思いますが、難しければ簡単なもので結構ですので」
「自分は……メスのキンピラのライスバーガーとオニポテセットが食べたいかな……あっ! すいません……地球の食べ物に飢えてまして……」
「俺はお茶漬けが食べたい! こないだは違う意味で食わせられたけど……本当に食べたかったんやで……てかお二方って一人は俺やろ?」

 比嘉がなんか言ってるけど、お前こないだうちで何したか忘れたのか?
 もしかして馬鹿なのか?

「【三分調理キューピー】」

 俺は魔法で大吉野家の鮭定食と牛皿をオマケで作り出すと、メスのキンピラライスバーガーとオニポテを続けて作り出す。

「凄いですね……頂いても?」
「これこれ! これが食べたかった……」

 アズマさんはちゃんとこっちに確認を取ってくれたが、トウゴさんはすでに包み紙を開いている。

「……あの……お茶漬け食わしてんか?」

 はぁ……ちょっと比嘉が可哀想になってきたので、お茶漬けを作り出す。

「これやー! 念願の米やー! やっと食える!」

 ヒガのテンションが一気にあがる。
 それ食ったらとっとと帰れよ!

「あー、取りあえずヒガはそれ黙って食っとけ! 食ったら帰れよ!」
「なんでや!」

 三重に住んでてぶぶ漬け出される意味も分かんねーのか?
 取りあえず比嘉にお茶漬けを渡すと、自分の為にケンチッキーの和風カツサンドを作り出す。
 メスのバーガーと聞いて俺も食いたくなった。

「Oh! ケンチキ! ケビンはケンチキのチキン食べたい!」

 こいつもうカレー食ったのかよ!
 てかまだ入るのかよ?
 体形見て800グラムにカツ3枚乗せなのに、スゲーな。
 メリケン嘗めてたわ。

「分かったよケビン。【三分調理キューピー】」

 今度はチキンの10ピースを作り出してケビンの前に置く。

「やったよ! こんなに沢山、夢みたいよ! お前タケシと変わってくれよ!」

 ケビン可愛いな……
 比嘉はお茶漬けを匙で掬うと、口に入れて味わうように咀嚼している。
 ていうかコイツ泣いてないか?

「うぅ……おふくろ……」

 えっ? おふくろの味がお茶漬け? どんだけ可哀想な奴なのお前?
 しかもそれ、永崖園のやつなんだけど?
 おふくろの味っていうか、工場の味だぜ?

「貴方は転生者ですか?」

 食事を終えケビンにコーラ、後の3人に日本のお茶を出して一息ついていると、アズマさんが唐突に切り出した。
 その質問に対して俺は一瞬表情を曇らせる。
 すぐに取り繕ったつもりだったが、アズマさんには通じなかった。

「申し訳ありません……踏み入った事を聞いて」

 申し訳無さそうに謝られた。

 いや、確かに俺は転生者だ……
 前世ではフリーターをしていたが、30の時にようやく正社員での仕事が決まった。
 浮かれていた。
 家の隣の神社に初詣の時に願掛けをしていたから、感謝を込めて初任給から1諭吉を持ってお礼を言いにいき、賽銭箱にお金を入れた後帰りに階段から突き落とされた。
 1万円も入れるような若者だ……金持ちと思われ辺りをねぐらにする浮浪者に襲われた……

 階段を転がり落ちるというよりは、吹き飛ばされて一気に下まで落ちていく。
 これはもう駄目だろうなと思った時にフワリと柔らかい毛皮のようなものに包まれたかと思うと、次の瞬間意識だけが光に包まれて魔法陣の上に立っていた。
 必死で誰かが俺を掴もうとしていた気がするが、それが誰かは分からなかった。
 でも死んだんだろうなという事は分かった。
 これ……マジで辛いやつや!

 ただ、ここが死後の世界ではなく異世界だと分かったときは、救われたのかどうかも定かでは無いがまだ生きていける事を感謝した。

「いえ、確かに俺は転生者です。死んだんでしょうね……神社の階段から突き落とされたので」

 俺がそう答えると辺りがシーンとする。

「おまっ……転生していきなり魔人になって……それだけでも不幸なのに……殺されたとか……ひでー……」

 ヒガがめっちゃ泣いてる……
 割と良い奴なんだなお前……

「それはなんと言っていいか……」
「不幸としか言いようが無いですね……」

 アズマさんと、トウゴさんもメッチャ微妙な顔してる。
 しんみりさせてしまったな……

「ヒトシ可哀想ね! チキンやるから元気出せ! ダンチョーの思いだけど! ヒトシならいいよ!」

 ケビン……難しい言葉知ってるな!
 てか、そのチキン俺が出したやつだから!
 ケビンの差し出すチキンを丁重に断ると、ホッとした表情をしてた……おいっ! ケビンこの野郎!
 てか、もう一本しか残ってないし。

「俺決めたで! タナカの弟分になるわ!」
「だが、断る!」
「なんでやっ!」

 比嘉がなんか変な事言い出した。
 こいつ鼻っからそのつもりだったろ?
 妙に馴れ馴れしかったし、そわそわしてたし。
 ただでさえ濃ゆい部下を持ってるのに、こんなに濃ゆい日本人なんていらねーよ!
 てか、弟分ってなんだよ! 見た目お前のがオッサンだろ!

 それからお互いの事について、しばらく話をした。

 トウゴさんは証券会社勤務らしく、車で取引先に向かう途中でトンネルから出たら魔法陣の上に座っていたらしい。
 無人の車がどうなったか凄く気になる。
 確か俺が死ぬ3年前くらいに車が民家に突っ込んだけど、無人だったみたいなニュースを聞いた事がある。
 現代ミステリーとして特集もあったな。
 運転手は行方不明ということだったが、この人か……

 アズマさんは農家らしく、夕飯を食べて布団で寝ていたら召還されたらしい。
 北海道の行方不明のニュースまでは入ってこなかったから、それがいつの事かは分からなかった。
 ケビンの言ってる事は良くわからなかった。

「えっとね、なんか夜間外出キンシって言われたから、部屋の真ん中に座ってオゾンで買って来たタタミのザブトンに草なん本使ってるのかなーって数えてたらここに居たよー。日本人凄いねー! 草いっぱいだったよー!」

 ケビン……何してたんだ……

「俺は「あっ、ヒガはどうでもいいです」」

 って言ったら凄いショボンとされた。
 ちなみにヒガは23歳だった……俺より若い……
 なんかこっち来て東の魔王倒すのに6年掛かったらしいけど、どうみても40代だわ……

 それから三日間、三顧の礼ならぬ三度の押しかけを経て比嘉はこっちに住むことになった。
 魔王の権利は、頭もよくて冷静沈着なトウゴさんに引き継ぐらしい……
 その報告の為に魔王会議なるものに行ったらしいけど、次の日顔をボッコボコに腫らして報告に来た。
 まあトウゴさんに魔王を引き継ぐということを伝えたら手放しで喜ばれたとか。
 おいっ! 魔王s! それでいいのか?
 まあ、ヒガも可哀想な奴だな。

 ちなみにケビンもしょっちゅうこっちに来る。
 けど、トウゴさんとアズマさんが好きらしいのでこっちに移る気は無いらしい。

「兄貴! 俺何したら良いっすか?」

 比嘉は終始こんな感じだ……
 自分で考えて動くって事が出来ない……
 やっぱり馬鹿だった……

「兄貴! 何しましょうか?」

 あー……めんどくせー……
 まずは言葉の使い方から教えるか……

「アニキー!」

 うっせー!

 すげー面倒くさい奴を押し付けられた……辛い……

「アーニーキー!」

 本当に辛い……
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